「ヒッキー、遊びに来てやったぞ、です」
「おう、遠いところからよく来たな。ゆっくりしてけ」
「何して遊ぶ?です」
「そうだなー。一緒に毛布にくるまって目をつぶって意識がなくなるのがどっちが速いかを競うっていうゲームはどう?」
「それ寝てるだけじゃねぇか、です」
「じゃあ、机に突っ伏して一定時間たった後に顔にどんな模様ができてるかを当てるっているゲームは?」
「それも結局寝てんじゃねぇか、です」
「じゃあ何したいんだよ」
「…もっと普通のゲームねぇのか、です」
「普通のゲームしたらみんな本気にしちゃうからやらないって決めたの。こないだ」
「終わり、でございますね」
ジブリールが俺に負けた、と告げる。
「空様をかばった白様の行動。私には理解できません。白様が敵についた以上、負けは必須です。マスターがいれば、その指示の内容によっては逆転勝利も可能性としてありましたが…いえ、もはや言うまでもないでしょう」
「大丈夫だ。俺は全部理解してるから」
白があの公園の地面に書いた答え。それは、空白。
「白は答えを出せなかったんじゃねぇ。あれ自体が答えだったんだ。あれは空白、つまりは俺達だ。白が敵になることまで含めて、空白の力。つまり、残った俺が、約束された勝利に導く魔法のような数式を完成させると、そういうことだ」
「マスターが敵に懐柔されることも含めて、でございますか?」
「…わからん。だが、その可能性は高い。白は八幡に既に指示を出していた。もしあの場面、八幡が敵になることが悪手となるなら、前もって八幡には自分の身を守ることを最優先させていたはずだ」
そうだ。これは間違いねぇ。ここまですべてが計算通り。
「ジブリール。いづなの相手をして時間を稼いでくれ」
「それはよろしいのですが…別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?でございますよね?」
ジブリールはいつもとは違う、狩人の目で、低い声でおちゃらけて見せた。
「一応ツッコミ入れとくぞ。それ、死亡フラグ扱いになってるから」
「では、普通に倒して来ようと思います。マスターの敵は、私の敵。一度ならず二度までも手ごまにしたこと、後悔させてご覧に入れましょう」
そういってジブリールは魔法を使わずに跳躍だけでビル街を登って行った。やっぱり、チートだわあいつ。欲しかったなー。
左からの発砲音。探す手間が省けましたね。
ちょうど視角になるタイミングで、私は方向転換し、一気にあの犬もどきと距離を詰め、背後を取りました。
しかし、それもこれもすべて把握済み。チートによって場所は全て知られてしまう。奇襲は不可能、ですか。
「ごきげんよう。犬っころ」
軽く挨拶を交わしました後、何やら妙な既視感に包まれました。以前の対戦相手はこの犬だったのでしょうか。
「空様には時間を稼げと言われましたが、今私は不快の絶頂です。本気で行かせてもらいます。チートの限りを尽くし、気のすむまで恥の上塗りを重ねてくださいませ」
さぁ、マスターの
くそっ。ダメだ。フィールドの違いでどうにかなる問題じゃない!
FPSというジャンルにおいて、不動の一位をたたき出したのは俺じゃなく白だ。
悪魔的な計算能力によって、敵の動きを把握。そこから導き出される行動パターンから、射撃可能時間まで織り込んだ、未来予知に迫る偏差射撃と回避行動。
いづなですら手に余った我が妹の技術には感服するばかりだが、今はそれで俺が追い詰められてやがる!
どうしろってんだよ!?白!?
俺は迫りくる白の攻撃から避けながら、ショッピングモールの最上階へとむかう。いや、逆に白に屋上へ追い詰められてるって言ったほうが正しい。
くそ、どうにかしねぇと…。けど、どのみちすぐに追いつかれ…
待て。おかしくないか?
白はどうして、走って追いかけてこないんだ?走ればやれるタイミングなんていくらでもあったんじゃ‥
《くれぐれも走るのは最低限にな》
そもそもそう言ったのは俺じゃねぇか。
「‥‥これを読み違えたらキッツイな。でも…まぁ」
やるしかねぇ。
逃げまどいながら最上階までたどり着く。
くっそ。階段駆け上がったせいで、はぁ、息が絶え絶えだ。引きこもりにはきつい。
…なんもないなここ。まわりがフェンスで囲まれてるだけで、隠れられるスペースなんて一個もねぇ。
こりゃ、ますます読み違えたら詰みだな。
そんなことを考えていたら、白も屋上までやってきた。もう逃げ場はない。じりじりとフェンスまで追いやられる。
「はぁ、はぁ、さて、白。にぃちゃんそろそろ限界だわ。引きこもりにこの仕打ちはないんじゃないですかね…?」
そう問いかけてはみたが、白の表情は変わらない。ただこちらを見つめている。
「‥‥」
「‥‥」
互いに警戒しながら対峙すること、約一分。
いまさらこんなとこでお兄ちゃんがミスるわけには…行かねぇだろ!!
「うおおおおおおおおっ!!!!」
俺は叫びながら白に突進する。白は驚くこともなく、俺にメロメロガンを発射し、仕留めようとしてきた。
「でもな白!お前が思いつきもしないことがあるとしたら!それは!」
白が発射したメロメロガンの弾丸は、すべて俺から逸れていく。
「‥‥!!」
白が驚きの表情を上げる。やっぱな。
そうだ。お前は俺が避けると踏んで、コースをふさぎに来た!
だったら、俺はその逆をいけばいい!!
「俺が
白に飛びつき、フェンスをぶち破って屋上からダイブする。
こっちの世界には、痛覚はない。なら、本当なら死ぬはずの屋上ダイブだって可能だ!
俺は抱き着いたまま白に直接メロメロガンを撃ちこむ。
「…にぃ!…大好き!!」
「ああ、にぃちゃんも大好きだぞ」
しかし、俺達が抱擁を交わし、愛を確かめ合っているそのタイミング。そして空中。
もはや最悪といっていいタイミングでいづなが隣のビルから飛びだし、俺達の前に現れた。
白は俺が撃ったメロメロガンの影響でいづなとは応戦できない。
身動きの取れないこの状況なら、確実に仕留められる。
と、
俺は隠し持っていたメロメロボム(命名俺)をいづなに向けて投げ、視界を封じる。
そんでもって、開けた視界の中で、
驚いてる驚いてる。動けねぇと思ってただろ?
「このために走らず体力温存してたんだよな!?白!?」
「…にぃ、…大好き」
「…!?パンツがない、です!?」
『まさか…パンツだけ狙い撃ちしたというのか!?』
久しぶりにじいさんの声が聞こえる。
今まではそっちが優勢だったからあんまり声を出さなかったみたいだが、どうもそういうわけにはいかなくなってきたみたいだよな?
「やっと気づいたか?白は最初から一度もお前の味方になってねぇんだよ!」
「服に当てて、着弾を偽装しやがった、です!?」
いづなは悔しそうな表情を浮かべたが、すぐに表情を元に戻した。
いづなの背後から、ジブリールが飛び降りてくる。そうだ。いづながここにいるってことは、ジブリールも負けたってことだ。
んなもん最初っからわかってんだよ!これくらいで虚を突いたことになるか!!
白がいづなに向かってメロメロガンを発射。いづなは空中で回転しそれを避けた。
身動きの取れない空中で、そこまで動くことのできる身体技術は見事だ。だが、忘れてるだろ?
白の撃った弾丸は、ジブリールの援護射撃の弾とぶつかり合い、跳ね返る。
そして、超至近距離で方向転換したその球を、避けるだけの時間はない。撃ち落とそうにも、メロメロガンはさっき白が撃ち落とした。
詰みだ。
「‥‥
いづなのその一言のあと、空気が震える音がした。
なんだこれ…いや、なるほどな…これが噂に聞く血壊ってやつか!?
いづなの体には謎の文様が浮かび上がり、体も一回り大きくなっている。その上、体中からあふれんばかりの熱量が発生し、そのせいでこっちまで熱く感じる。
これは…初めてジブリールに出会ったときとも違う、異質な威圧感!!
こっからが本番とでも言いてぇのか…!?
いや、落ち着け。
どんな力を持っていようが、もはやいづなは白の弾丸を避けることはできな…
「…っっ!!!!なんだ!?」
血壊中は、物理法則を無視した超技を一定時間使えるようになる。
まさか…こいつ!!!
気付いたときには遅かった。
いづなは
その物理法則を無視した超スピードにより、あたりが爆風に包まれ、周りの建物のガラスが次々と割れていく。
「
「‥‥チート、乙…!!!」
負けじと白もメロメロガンを発射し、仕留めようとするも、今のいづなには当たらない。
そりゃそうだ。二段ジャンプどころじゃねぇ。何段ジャンプだって可能なはずだ。
動き出す前に撃つ、よりも早く、
いづなも回収したメロメロガンで俺達を狙う。くそっ!!こっちはそっちと違って空中ジャンプなんかできねぇんだよ!!
俺は靴を脱いでメロメロガンに当て、直撃を回避する。
ちょうどそのタイミングで地面に着地する。
ゲームだから、痛くはねぇが衝撃が半端ねぇ。しかも今俺達は狙われている状況。一刻も早く体勢を立て直さねぇと!!
足元がふらつく中、俺は白の手を取って走り出す。
「逃げるぞ白!!二段ジャンプなんてレベルじゃねぇぞあいつ!!もうメロメロガンの弾速より早えんじゃねぇか!?」
「‥‥完全に…バグ‥‥っ!!!にぃ!!」
白が呼びかけてくれたおかげで、空を飛んで追いついてきたいづなの、完全に死角だった
なるほど!?物理限界超えて空も飛べるようになったから、そういうことも可能になったってわけか!?
つまりは全方位が射撃可能角度、安全地帯はゼロに近く、常に追いかけてくるから迎撃も出来ねぇ!!
反撃とばかりに白も何発かいづなに撃ち込んではみるが、やはり当たらない。
「…予測‥‥できない…!!!」
「物理限界を超える、か…!!!これが本命のチートってわけかよ!?」
逃げまどいつつ、なんとかスタート地点まで戻ってくることができた。
ここはこのステージで一番開けた場所。視界が広く、メロメロガンの反射ギミックをもっとも使いづらい場所。
いくらすばしっこくても、メロメロガンが直線でしか移動してこないならやりようはある。
つっても、厳しいことに変わりはねぇ。何とか近づけさせねぇようにはしているが、このままじゃじり貧だ。
「ある程度は予想していたが、まさかここまでとはな…」
「‥‥計算、できない…!!!」
「おいおい白、物理限界超えてるって言ったろ…?いくら物理の式立てても通用しないってこった…」
どうする!?こっちはもうどうしようも出来ねぇ。逃げて、ラブパワー切れを狙うしかねぇか…?いや、それは無理だ。こっちが先にスタミナ切れを起こす。それまで持つ確証もねぇ!!
息も絶え絶えに、逆転の一手を待つなか、あの男が現れた。
普段と何も変わらない、しかし絶対的に何かが違う状態で、姿を現した。
「…八、幡」
「…おせぇぞ、です」
「違うな。俺が遅いんじゃない。お前が速すぎるんだ。マジで。どうやって追いつけってんだ」
遠くから八幡がいづなの元へ駆け寄っていく。俺達へメロメロガンの銃口を向けたまま。
「っていうかこれ俺いらなくない?いづな一人で事足りるだろ。邪魔になる気しかしないけど」
「うるせー、です。とっととあいつら仕留めて終わりにする、です。ちからぁ貸せ、です」
「はぁ、わかったよ」
そういって八幡は俺達にメロメロガンを発射してきた。
っちっ!あいつの命中率は大したことねぇが、単純に逃げ場をふさがれる。いづなに仕留められる可能性が格段に上がっちまった。
「なぁわが友よ!!?ここはひとつ俺に免じていづなを撃ってはくれないかね!!??」
「お前とは友達じゃないだろ。でもまぁ、だったらいづながお前ら倒してから撃ってやるよ。それでいいだろ」
「そしたら負けちゃうんですよねぇ!!!???」
ダメだ。あの様子じゃ俺らがぶっ倒れるまで銃口を向け続けるだろう。
「にぃ‥‥」
白が心配そうに俺の顔を見る。
八幡も敵に回り、絶体絶命と考えているのだろうか。
だが、俺が推測するにあいつは‥‥いや、それはやってみりゃわかることだ。
「…こんな時は、任せろ。にぃちゃんの…ブラフとはったりにな!!!」
そういって、俺はいづなに向かって駆け出した。
それを見たいづなは俺に向かってメロメロガンを発射。しかし、おそらく全て俺には当たらない。
いづなほどのスピードがあれば、俺が避けるのを予測して、先にそっちを封鎖してくるはず。
案の定、いづなが撃った球は全部俺には当たらなかった。そして、俺が避けないと判断した瞬間に…
来た!!直接俺を狙ったヘッドショット。そして、こいつを俺のメロメロガンで撃ち落として…。
そう考えていると、いづなの弾丸を撃ち落としたその時、撃ち落としたその弾丸の真後ろに弾が差し迫っていた。
しまった!同じ射角から二発同時に撃ったのか!二段構えになって…。
しかも、俺が撃ち落としたいづなの弾は、地面に跳ね返り白の元へと向かう。
そんな!白みたいに跳ね返りを予想した!?
まさか、いづなはこれを狙って‥‥!!!!
パァン。
空も、白も、同時に頭に弾当たりやがった、です。
じーじからも連絡きて、偽装不可能の確実なヘッドショットだって言ってた、です。
いづなの勝ち、です。
血壊で熱くなった体、元に戻すために深呼吸して、うるせぇ胸の音鎮めるのに、少しかかっちまった、です。
でも、その間も二人はピクリともしてねぇ、です。やっぱり、間違いなく、いづなが仕留めた、です。
「お疲れさん」
「…ヒッキー」
ヒッキーが近づいて頭撫でてきやがった、です。まぁまぁうめぇ、です。もっとやれ、です。
「どうだ?今の気分は」
「うれしい、です。やってやったって気持ちでいっぱいになってる、です」
「そうか。お前は頑張ったよ。その気分のまま、あとはゆっくり休め」
パァン。
いづなは俺に頭をなでられたまま、ゆっくりと力なく倒れていく。
ぱたん、と倒れるいづなを見て、少し罪悪感にさいなまれたが、致し方ない。
「このゲーム、俺の…いや、
今回は八幡視点はほぼありません。
なるべくこの後は空視点が少ないようにしたいと思います。