10時
「腹減ったな。飯でも作るか」
「お手伝いいたします」
「いやいいよ。簡単なもんだから」
13時
「お前、手札強くない?一回も勝てないんだが」
「マスターの引きが悪いだけでは?」
17時
「今日はちょっと早めに風呂入るか」
「背中をお流しいたします」
「やめて?風呂には入ってこないで?」
22時
「寝るか」
「そうですね」
「おやすみ」
「はい、また明日もよろしくお願いします。マスター」
「えっ。オチないの?ほんとにある日の二人なの?作者がさぼっただけじゃないの?」
「何のことでございましょう。マスターがご乱心でございます」
「不安だなぁ」
「おい空、白、起きろ。お前らの勝ちだよ」
いづなの頭にメロメロガンを撃ち込んだ俺は、倒れたいづなを少しだけ視界に入れた後、倒れている二人の元へと向かった。
「‥‥うまく、…いったみたい」
「だな。まーだいぶ不利な賭けだったが、そこは友情パワーで乗り切ったってことで」
「そうだな。今回だけはそういうことにしとく。マジで勝てたのが不思議なくらいだ」
倒れている空と白に手を差し伸べる。二人は同時に俺の手を取り、立ち上がる。こんな時まで息ぴったり。
『まさか…作戦だったのか!?いや、しかしどうやって…!?』
空中にモニターが表示され、いのがその画面内で驚きの声を上げた。
その問いに答えを返したのは俺ではなく空だった。
「たとえ第六感があっても気が付かなかっただろう?八幡が白と同様に、
『馬鹿な!?あの時…あの公園で間違いなくいづなに撃たれたはず…』
そう、確かに俺はあの時、いづなに公園で撃たれた。それは紛れもない事実。
「厳密には、いづなの仲間になった後、
『な…馬鹿な。そんな瞬間があればいづなが見逃すはずが…』
「仮に自傷行為であったとしても、メロメロガンの弾丸は服に当たれば消滅し、自分へ影響を及ぼすことはない。だから、プレイヤーに影響を与えるために肌が直接出ている頭を狙うのがこのゲームの定石だ。だから見落としてたな?
『な…』
まぁそれだけではない。ちょっとしたテクニックも使った。言うほどのもんでもないけど。
あの公園での逃げたり避けたりは、もう完全にいじめみたいな構図だったので割愛するが、最終的に言えば、いづなのメロメロガンが俺の額に直撃したのだ。
当然、俺の意識は薄れていく。だが、その状態で何もできないわけじゃない。時間にして一秒にもならない時間だが、それだけ動ければ十分だ。
まず、真正面から喰らっているので前に崩れ落ちるのは不自然。だから喰らった直後は後ろに飛ばされているわけだが、そのタイミングで体をひねる。ちょっと大げさにするくらいでいい。そうすれば、「自分が派手に相手をやった」と思い込んでくれる。
そうして体をひねり、いづなに背中を向けたタイミングで、空の言った通り、自らの左手にメロメロガンを発射。いづなへの好意が俺への好意へと上書きされる。もちろん、いづなには見えないように。
後はそのまま倒れるだけだ。ただ、メロメロガンは着弾すると着弾部からハート型のエフェクトが出るので、左手を頭にのせておくことを忘れない。
こうすればあら不思議。一秒で簡単着弾偽装。
『し、しかしだとするなら、あの時いづなではなく、自分を愛するナルシスト野郎に変化していなければおかしいではないか!?』
あー。まぁそうですね。ごもっとも。
これはですね。トリックも何もないんです。ただ、ひたすら練習したんだよね。
昼前に空からもらった白の伝言。「メロメロガンを喰らいまくって克服しろ」という無理難題。
ゲームの中なのに、仕様の克服なんかできるのか?と思いつつ、やれるだけやることにした俺は、空と白が
意識が消え、羞恥し、また意識が消え、羞恥し、を繰り返し、4時間を経つ頃にはなんと結構克服していた。
そんな馬鹿な。と思うかもしれないが結構マジだ。あれだ。麻薬とかと一緒だ。
一回目は少量でもとんでもない快感に襲われるが、何度も何度も服用し続ければ大量に消費しても快感を得られなくなる。
‥‥やってないよ?ただ中学の保健の授業で見ただけだからね?そういう動画を。
これも一緒だった。最初の1時間はもう頭の中に別の人格が入ってくるみたいな感覚だったのだが、だんだんと慣れていって、3時間経過したころには意識は保ったまま、すごい自己肯定感に襲われて周りに言いふらしたいなーくらいにまで落ち着いた。
そんなこんなで練習を積み重ね、自己肯定感との戦いをし続けた結果、7時間後に連絡が来て合流するころには、喰らっても「まぁ、俺って他の人よりはかっけぇよな」って思うくらいの領域にまで到達したのだ。
あえて言うが、本当に頑張ったと思う。頑張ったと思う。マジで。
ここ一年間くらいの羞恥と戦ったといっても過言ではない。
「意識が保てているなら、話は早い。トランシーバーを使わず、いづなとの交戦がわかり、かつ俺らがやられる前に八幡が駆け付けられる場所。そこまでいづなをおびき寄せたらあとは八幡がいづなを篭絡して終わり。仲間だと勘違いしてくれているなら近づくことは容易だし、殺気を感じたとしても、交戦中なら俺らへ向けたものであると誤解する。気づくのは不可能だ」
『最初から…狙っていたというのか!?』
「…じいさんさ、ずっと俺らの心音をモニタリングしていづなに報告してただろ?そっちに意識割かなきゃ、八幡のトラップに気づけたかもしんないのになぁ?」
確かにそうだ。いづなからの弾丸と俺の弾丸を喰らうまでの差は本当にわずかな時間の差だけだ。心音の拍動に影響が出なかったのは、そのせいだろう。
いや待てよ。そんなことしてたのかよ。気づかなかったわ。というかどうやって分かったの君?
『それすらも…利用したというのか』
「いや俺はしてないよ?偶然だよ?」
「ゲームってのは、究極的には二つしか取れる行動がない」
「‥‥戦術的行動か、対処的行動‥‥主導権、‥‥どっちが握るか」
「今回は俺らがずっと主導権を握っていた。それだけのことだ。アンタらは動いているつもりで、ただ単に動かされていた。その結果は必然であって、偶然じゃない」
あ、はい。君たちはずっと利用してたってことですね知ってます。めっちゃやりそうだし。
「弱者には弱者のやり方がある。獅子に素手で挑むのは、獅子に任せるよ」
「‥‥ぐすっ。ぅぅ」
後ろから、むせび泣くような声が聞こえる。どうやら、いづなへのメロメロガンの影響が切れ、正気に戻ったようだ。
だが、正気に戻って突き付けられたのは敗北の現実。とてもじゃないが立ち上がることなんてできないだろう。
手を差し伸べようかとも思ったが、やめた。
俺は、最後の最後で直接手を下した。つまり、俺のせいでいづなは負けた。幸福の絶頂から、不幸のどん底へ叩き落されたときの絶望は、どれほどだったのか。想像もできない。
そんな相手から同情され、手を差し伸べられるなど、屈辱でしかないだろう。
「さて!?勝者のコールはまだかな!?じいさん!?」
「なぁ、お前って人の心無いの?負けた相手煽るなよ。死体蹴りすんな」
『‥‥‥勝者。エルキア。盟約にしたがい、東部連合はルーシア大陸の全ての権利を‥‥エルキア王国に移譲する』
モニター越しではあるが、エルキア国民の盛大な雄たけびが聞こえてくる。
まぁ当然か。負けたら死ぬゲームに勝ったんだから。叫びたくもなるだろう。
「で、このゲームってエンディングでもあるの?いつこのゲームから解放されるの?」
モニターに向かってそう告げる俺を、空と白はしらけた目で見つめていた。
「おまえさぁ、もうちょっと強敵に勝った達成感ってものを感じたらどうだ?お前にとっちゃちゃんとしたゲームで初めて勝ったわけだしさ」
「いや、俺今回お前らの指示に従っただけだから。ゲーム開始前には「とりあえず情報集めるまで時間稼いで」といわれ、白からの伝言では「己の湧き上がる感情を克服しろ」といわれ、白が地面に書いた「練習の成果を見せるとき」っていう命令に従ってただけだ」
いや待って。よくよく考えたら俺何気にすごくない?命令が命令として不十分なほど情報不足なのに、完ぺきに仕事こなしてるって。
実は俺強キャラ?HACHIMANなっちゃった?
「マスター。おそらくではございますが、ナルシスト感情に耐性が付いた結果、自己肯定感が一時的に高まっているだけかと。はたから見ればただの痛々しい人間ですので自重することをお勧めいたします」
ジブリールが空から飛んできた。いや、跳んできた、が正しいか。何回も言うけど脚力どうなってんの?
「なんで心読めるの?魔法使えないのにどうやったの?」
「ご自身の顔を確認してみるのはいかがでしょう?」
あれか。めちゃくちゃ顔に出てたってことか。うーわはっず。
「おう、ジブリールお疲れ。すべて作戦通りよくやってくれた」
「今回ばかりは、素直に感謝いたします。マスターの顔に泥を塗らずに済みましたので」
空とジブリールは互いの労をねぎらう。
ジブリールは俺と違い、このゲームで悪影響は受けていなさそうだ。よかったよかった。
これで一件落着。さて帰ろ。
「これで…東部連合は…
‥‥とはならないんだよなぁ。
いくら面倒ごとが嫌いな俺でも、後ろで泣いている幼女を置き去りにして帰るなんてことはしない。
ただ、さっきも言った通り、俺が直接何かすることははばかられる。
俺だけではない。空や、白、ジブリールだってそう。敵からの慰めは悲しいだけだ。
気まずいなかただ遠目で見つめながら、泣き止むのを待つことしかできない。
「‥‥違うよな?いづな」
そんな俺とは対称的に、空がそんな俺の考えを意にも介さずいづなに話しかける。
その言葉を受け、いづなは空へと顔を向ける。
「楽しかったから、どうすればいいかわからなくなって戸惑っている、だろ?」
目尻に涙を浮かべながら、いづなはハッとした顔つきになる。
ああ、そうだ。俺に撃たれる前のいづなは、確かに楽しんでいた。
空と白という強敵と出会い、本気でやりあうことの楽しさを知っていた。
「そんなわけ、ねぇ、です。負けたせいで、たくさんの人が苦しみやがる、です」
しかし、いづなはそれを受け入れられないようだ。
結果的に見れば敗北。楽しんでいたせいで、とは違うかもしれないが、勝った時の余韻で警戒を怠ったせいで負けた、と解釈していても間違いはない。
それゆえに仲間が傷つき、悲しむことになった。その事実を受け入れられないのだろう。
「‥‥でも、あのとき、いづなたん‥‥笑ってた」
「‥‥なんで、‥‥なんで、この顔は笑いやがった、です!?そのせいで、東部連合は支配され…たくさんの人が…いづなが、楽しいなんて思ったせいで…」
いづなは顔を両手で覆い、ボロボロと涙をこぼす。
何にもできないのがもどかしい。何かいいことを言おうと考えてみるが、思いつかない。
「安心しろ。いづなが何を思おうが、どうせ俺らは勝ってたから」
「おいちょっとまて。それは流石に駄目だ。八幡ストップだ。言い方考えろ。いづな、大丈夫だからね?そんなことないからね?たまたまだから。偶然、ラッキーだっただけだから。次やったら俺ら負けちゃうから」
俺は焦って、慰めまいとした決意はどこかへ吹き飛び、いづながこれ以上深く傷つかないようフォローに入った。
こいつは、人としての何かが欠落している気がする。
絶対に今言っちゃダメな言葉だと思うんだが、そこんとこどうだろう。
空は俺のストップに止まることなく、いづなに声をかけ続ける。
「どうだ?全身全霊を、死力を賭しても勝てない相手がいる気分は。控えめに言って、サイコーじゃね?」
白と肩を組み、笑顔を浮かべる二人。いづなはその言葉に驚きの顔を見せた。
「初めて負けて悔しかった。だからこそ楽しかった。それがわかったら、俺らはもう友達だ」
空と白がいづなに手を差し伸べる。
「ようこそいづな。お前はもうゲーマーだ」
その手を見て、いづなは少し硬直した後、かすかな微笑みを浮かべ、二人の手を取った。
そして、
「‥‥こんどこそ、負けねーぞ、です」
固い握手を交わした。
これが、二人の、
ゲームではなく、ゲームを通じて得た絆。それを、確かなものにすることのできる力。
俺にはできない、このディスボードをクリアするための能力だと思う。
「‥‥やっぱ、すげぇわ。お前ら」
一週間も決着!