「比企谷君はウチのことどう思ってるにゃ?」
「別にどうも思ってませんよ。そんなに何回もあってないし、会話もほとんどしてないでしょ」
「それでも第一印象とかあるにゃ?ちょっとの会話でも何か思うところはないのかにゃって聞いてるにゃ」
「正直に言ったら怒りません?」
「大丈夫大丈夫、お姉ちゃんはそんな第一印象がちょっと悪かったくらいで怒ったりしないにゃ。大人の余裕ってやつにゃ」
「じゃあ遠慮なく。あざとくて裏があって笑顔が怖くて自分の立場を理解してるのにあたかもそれを気にしてませんという振る舞いをして俺の警戒心を解こうとする強化外骨格みたいな仮面をつけてる人」
「比企谷君、ちょっとこっちでお話しするにゃ」
「えっ。今怒らないって」
「ちょっとどころじゃなくとんでもなく悪かったから怒ってるにゃ。嘘はついてないにゃ」
「すんませんした」
あれからなんやかんやあったが、簡単にまとめるとこうだ。
ゲームから意識が戻り、現実世界へと意識が覚醒する。
とんでもない歓喜と雄たけびに包まれ、人間って異世界でも現金なんだなぁと思案にふける。
控室に戻され、詳しいことはまた後日話し合おうということでまとまる。
結果、東部連合とのゲームが一段落し、俺達はそれぞれの住む場所へと帰る。
とまぁ、こんな感じになる。
そして、そのゲームが終わってから約一週間が経過した。
惰眠をむさぼる生活に戻りつつある中、ついさっき空と白から連絡を受けた。東部連合とこれからの国外政策の話し合いがあるそうだ。
そんでもって、俺にもついてきて欲しいとのこと。あまりにも急に話がきたもんだから、今すぐは無理と言って断ってやろうと考えていたのだが、「そういうと思って三日後にした。用意しとけ」と先に逃げ道をふさがれてしまっていた。
だが、これが終われば、本当に俺のやることはなくなる。ついにお役御免ってわけだ。
思い返してみると、長いことあの二人に付き合わされていた気がするが、悪くないなと思ってしまう自分がいるのがなんとなく腹立たしい。
最後の仕上げを行うため、俺はジブリールに頼んで、再びアヴァントヘイムへと向かった。
「にゃ~ん♡久しぶりだにゃ~比企谷君、ゲームお疲れにゃ」
「どうも」
アヴァントヘイムについて早々、アズリールが「お姉ちゃんにゃ!!」‥‥‥おねぇちゃんが俺たち二人を出迎えてくれた。
前に来た時とは違って、本はある程度綺麗に整えられていた。ジブリールのご機嫌取りのためなのか、それとも何か心境の変化があったのかは知らないが、いい変化だと思う。
ただ、そうはいっても相変わらずジブリールは冷めた目でアズリールを「だからお姉ちゃんにゃ!!」…なんで心の中で呼び捨てにしてるのわかるの?エスパーなの?それとも俺が顔に出すぎなの?
「お姉ちゃんなら
「怖いって。あと、俺はあなたの弟ではないですよ」
「似たようなもんにゃ。既成事実作っといてるだけだから気にしたらまけにゃ」
「絶対にこれから弟と呼ばないでください。なんですか既成事実って。あんまりいい響きないんで止めてもらっていいですかね」
「にゃ~。しょうがないにゃぁ。わかったにゃ」
やっぱりこの人と話すと疲れる。それに話したいメインの内容も話せない。面倒だ。
「アズリールさん。マスターからのご命令で、あなたと東部連合の事後処理について話し合いたいのですが」
待たされるのを面倒と思ったのか、ジブリールが前に出て俺の代わりにアズリール‥‥お姉ちゃんと会談の開始を試みる。
だが、そんな風にありもしない俺からの命令といって、代わりに済ませといてくれるなら、俺来る必要ないから今日こいつに任せておけばよかったと思ってしまう。
「ジブちゃんもお姉ちゃんって呼んでくれるなら、比企谷君の代わりに会談やってもいいにゃ?」
「それは‥‥」
「やめとけジブリール。せっかくこのあいだ俺が代わりに姉呼びすることにしたんだ。普通に俺がやるよ」
くそ。ちょっとでもさぼらせてくれねぇのかよ。この堕天使め。
「はぁ~面白かったにゃ。じゃ、そろそろ会議始めるにゃ~」
「‥‥‥そうっすね。とっとと終わらせて帰ります。ジブリール。転移魔法の準備よろしく」
アヴァントヘイムについてからかれこれ三時間たった。そのあいだ、何も進まなかった。
会議を始めようと声をかけても、「椅子とかいろいろ準備あるから待つにゃ」と言われて雑談を続行させられた。
というか、面接に近かった。
こっちに来てから誰にも聞かれたことのない、趣味とか、特技とか、俺の黒歴史やらなんやらの個人情報を根掘り葉掘り聞かれた。
答えなくてもよかったのだが、なんとなく逆らうとろくなことにならなさそうな嫌な雰囲気を感じたので、仕方なく聞かれたことにはすべて答えた。
おかげでかなりのメンタル的耐性をもつ俺でも、俺の心は崩壊寸前の空前の灯となっている。
「じゃあ、始めるにゃ?比企谷君が今日ウチに話したかったことって何にゃ?」
「以前話した、東部連合の牽制についてですよ。俺らが東部連合に行く日にちが決まったんで、その一日前から東部連合の上空に転移してもらっていいですかね」
東部連合とのゲームの前、布石として残しておいた東部連合を詰めるための一手。
「了解にゃ。約束は守るにゃ。で、いつになるにゃ?」
「俺らが行くのが三日後なんで、明後日の昼くらいには東部連合上空にいておいて欲しいです」
「今から行っておいてもらえばよろしいのでは?どうせ何もせず無駄に時間を浪費しているだけでございます」
ジブリールが辛辣な言葉で、アズリールに働け、と威圧する。仲間だよね?
「いや、できればそれは止めておいてもらいたい」
「なぜでございましょうか?」
「ゲームが終わってから一週間がたった。その間、
「まぁ、ウチもそれはそうだと思うにゃ」
「んで、それを覆すためにアズリールたちを向かわせるわけだが、早く到着すると、余計なことを思案させてしまう恐れがある。三日もありゃ、十分に考えられちまう。だから、思案する猶予は短い時間にしたい。だがかといってノータイムで行ったら、何も考えることなくそのままの案で強行突破する可能性も出てくる。だから、早くても一日前、遅くても半日前くらいにしといて欲しいんだよ」
「なるほど。配慮が足りず、マスターの意図をくみ取れなかったことをお許しください」
「いや謝らなくていいよ」
責めてるわけじゃないし。
「わかったにゃ。じゃあ、時間には気を付けておくにゃ。他には何かあるかにゃ?」
「東部連合の件についてはこれで終わりです。それ以外で、伝えときたいことが一点」
そろそろ、来そうな気がするんだよな。なんとなく、そんな気がした。
「多分、近いうちに空と白がゲーム挑みにやってくると思うんですけど、俺関係ないんで。負けても怒らないでくださいね。八つ当たりは勘弁です」
「にゃはは~♡比企谷君、それはウチが負けるって言いたいのかにゃ?」
「まぁ、そうですね。今のところあいつら全戦全勝ですし。負けるビジョンが見えないというか」
「‥‥ふ~ん」
そういうと、アズリールは席から立ち上がり、俺の顔を両手で包み込み、動かせないようにがっちりとつかんできた。
まずい。あまりにも正直に言いすぎた。怒らせたか?
「そぉんな礼儀知らずのわるぅいことを言う口はこの口かにゃぁ?」
チュッ。
‥‥‥‥。
‥‥‥‥?
‥‥‥チュッ?
「んー‥‥‥レロッ‥ちゅ」
え?え?え?
‥‥。
え?なんで?どんな脈絡?
怒ってなんでキスするの?痴女なの?キス魔?
やばいやばいやばい顔近いいい匂い髪さらさらなんでくちびるやわらかいどうしよう。
「‥‥んちゅっ。うん、美味しかったにゃ♡」
ぺろっと軽く唇をなめるそのしぐさは、姿かたちのイメージとは異なりあまりにも妖艶で。
まさしくその立ち振る舞いは、天使というよりは小悪魔のようだった。
しかも、されたのはアメリカとか海外のドラマで友達同士にするような、ライトなキスではなく。
フレンチ・キス。つまりはディープなやつ。
インパクトが強すぎてあんまり覚えてないが、なんというかこう、内側から塗り替えられるような…
「マスター♡この脳内花畑の無能堕天使殺していいでしょうか?殺していいですよね?殺しましょう♡」
ジブリールが鮮やかな殺害予告三段活用をしながら、笑顔で天井に手を振りかざすも、今の俺にツッコんでいる余裕はない。
初めて深いやつをやったもんだから、どうしてもその感触を反芻してしまう。上手いのか下手なのかわからんが、間違いなく俺の記憶には根強く刻まれてしまったことだろう。
「ま、ままま待つにゃ!?ジブちゃん、落ち着くにゃ!?こんなとこで「天撃」なんて打とうもんなら比企谷君もろとも爆散にゃ!?それに、今のはどう考えてもキスする流れだったにゃ!?」
「どう考えてもそのような流れではございませんでしたが?」
必死になってアズリールは、今にも爆発しそうなジブリールをなだめるが、焼け石に水だ。
「う、ウチもふざけてやったわけじゃないにゃ!?真剣に考えてこれはベストな選択肢だったにゃ!!」
「へぇ、さようでございますか。では特別に、遺言としてそのベストだという理由を聞いて差し上げます。これで私が納得したら、この振りかざしている右手を穏便に収めることを考慮いたします」
「それ考慮するだけでやらないやつにゃ!?」
「信じるも信じないもあなた次第ではございますが、あまりにも長いと温厚な私でも怒りに任せて手を振り下ろしてしまいそうでございます」
「わ、わかった言うにゃ!?こ、これはジブちゃんのせいなのにゃ!!」
「この期に及んで責任転嫁とは、呆れて笑いが止まりませんね」
「違うにゃ!!ジブちゃん、こないだ東部連合とのゲームで、比企谷君からキスしてもらってたにゃ!?ゲーム中で半分意識が別人だったとはいえ、確かに比企谷君はジブちゃんにあっつあつのキスしてたにゃ!!!」
「ねぇ、もうちょっと言い方と声の音量考えて?あんまり人の黒歴史の墓掘り返さないでくれる?あと、なんでゲームの中の出来事知ってんの?」
「魔法でちょちょいのちょいにゃ」
「魔法すげぇ」
ようやく何かしら抗議の声を上げることができるくらいには回復した。
ただ、回復した傍からゴリゴリとSAN値を削られ、ヒッキーポイント略してHPが底をつきかけている。
「ともかく、忘れたとは言わせないにゃ!?ジブちゃんはゲームの仕様を利用して、比企谷君からいい感じに愛を受け取って、その唇をわざと奪わせたのにゃ!!!」
「ま、まぁとらえ方によってはそうとも受け取れるかもしれませんが‥‥」
「そして、ジブちゃんは比企谷君以外にはくちびるを奪わせるなんてこと、絶対にしないにゃ!?」
「そうですね。それは断言できます」
「ということは、ジブちゃんの唇を奪うには、比企谷君とキスするしかないにゃ!?」
‥‥‥うん?
「何言ってんだお前」
「つまり、ジブちゃんからくちびるを奪った比企谷君のくちびるをウチが奪えば、間接的にウチがジブちゃんのくちびるを奪ったことになるにゃあ!!!!」
「何言ってるんですかアズリール先輩。頭大丈夫ですか?」
「ウチはいたって正常にゃ!!」
なるほど。俺とキスしたのはあくまで結果論に過ぎないと。
本当にキスしたかったのはジブリールで、ジブリールがしてくれないから代わりにお前で我慢してやるよと。そういうことか。
あっぶねぇ。これ以上なんかアプローチ受けてたら、告っちゃってたわ。そして振られちゃうわ。いや振られちゃうのかよ。
「それに比企谷君もまんざらでも無かったにゃ?だったら別に問題ないにゃ」
「なわけないだろ。ありまくりだわ。まんざらも問題もありまくりだよ」
「でも、「十の盟約」で嫌がることは絶対できないにゃ。比企谷君は口ではいやだいやだ言ってても、ウチにキスされて内心喜んでたってことにゃ?にゃ~ん。比企谷君ってツンデレさんなのかにゃあ?」
その一言で、俺の心に、恥ずかしさと同時に、ふつふつと湧き上がる怒りが生じた。
この野郎。人の初ディープキス奪っといて偉そうな口ききやがって。なんとかしてぎゃふんと言わせたい。
何かないか…。
いや、あるな。こいつをぎゃふんと言わせる方法。
「アズリール。ゲームしようぜ」
「にゃ?なんで急にそんなこと言うにゃ?あと、お姉ちゃんって呼ぶの忘れて…」
「アズリールが勝てば、ジブリールを一日好きにしていい。俺も口約束じゃなく、盟約に誓ってお姉ちゃん呼びをすることを約束する。ただし、お前が負けたら俺の言うことをなんでも聞け」
「ひ、比企谷君?なんか雰囲気こわいにゃ?」
「ゲーム内容は俺が決め、アズリールはそれに従ってゲームを行ってもらう。いやならやらなくてもいいが、その場合はジブリールが振り上げた手をそのまま思いっきり振り下ろすように命じる」
「正気かにゃ!?比企谷君木っ端みじんになるにゃ!?」
「大丈夫だよ。「十の盟約」あるし。仮にそれが働かなくても、その場合はみんなまとめて仏さまってことで」
「い、いや~。な、なんとな~くだけど、止めといたほうがいいんじゃないかっておねぇちゃん思うんだけどにゃ~。あはは」
「よし、ジブリール。振り下ろせ」
「わかったやるにゃ!?その代わり、命令できるのはウチの行動一回分、それが条件にゃ!!」
よし。かかった。ざまぁみろ。
「じゃ、盟約に誓おうか」
「うう、ひどいにゃ比企谷君。こんなことする子だとは思わなかったにゃ」
「マスターを怒らせたアズリール先輩が悪いかと」
「あ、ジブリールも参加な」
「かしこまりました」
「「「
一難去ってまた一難。
ゲームが終わってまたゲーム。
オリジナル要素入れたくなったので入れただけです。
そんなに長いこと続きません。