「俺、元の世界だったら高校生だったわけなんだけど」
「はぁ、なんでございましょう。唐突に」
「流石に死ぬなら高校生らしいことしてから死にたかったなぁと思って」
「…具体的には?」
「‥‥‥可愛い同級生の女子と放課後デートしたり」
「マスターには無理でしょう。他には?」
「青春らしく男の友情を確かめてみたり」
「友人ができてからその発言をしていただきたいですね。他には?」
「‥‥後輩と生徒会の運営を手伝ったり」
「他の生徒に支持されない以上不可能でございます。他には?」
「‥‥‥とか?」
「生きていても不可能なことを、死んだせいにして現実逃避をするのはおやめになったほうがよろしいかと」
「なんか今日辛辣過ぎない?」
「なぁジブリール。確か今日だよな?東部連合にもう一回行って、話し合いを行う日って」
「そうであったと記憶してございます」
「じゃあなんで風呂入ってんだよ」
アヴァントヘイムから帰ってきた後、二日が経過。要は話し合い当日なのだが。
俺達は今、なぜか空と白がいる王城の風呂場にいる。
「敵地に行く前に体を清めておくことが悪いと申すのかね?八幡くん」
「ああ、悪いな。何が悪いって、絶対にそんな理由じゃないってことと、俺の居心地だな」
まぁ、その理由が本当に敵陣に乗り込む前に身だしなみを整えておくべきである、といった常識的モラルからくる考えなら文句を言おうはずもない。
しかしながら俺の隣にいる最強ゲーマー「 」の片割れが提案したとなれば、理由がそのような一般的マナーや善行からくるものではないと考えるのはごく自然のこと。なんなら絶対に違うと断言したっていい。
当然、俺と空は風呂には入っていない。湿度と温度が非常に高い風呂場という空間の中で、隣に
男子がいるということに気を回すことなく、白やジブリールといった女性陣はさも当たり前かのごとく水浴びに徹している。もはや仕切り越しに聞こえる甲高い声を聴きながら現実逃避をするのも慣れたものである。
なお、これは以前聞いた話なのだが。空のこういった理不尽な招集、かつ強制風呂パーティーについて、女性陣はどう思っているのかというと。
空が直接肉眼で覗いたりするわけではないので、まぁいいか、と軽く諦めているところがあるとステファニーはため息交じりに答えてくれた。
ジブリールはそういった羞恥は皆無であるし、異世界人の裸を見ることができる機会と、邪な視線を浴びることを天秤にかけたとき、前者が圧倒的に勝っているから絶対に風呂には入る、と言ってたな。
白は「‥‥にぃ、なら‥‥だいじょうぶ、だから‥‥いい」とのこと。何が大丈夫なのはわからなかったが、本人がそういうのならばまぁ大丈夫なんだろう。
ただ、今回は白とジブリールだけが風呂に入っているわけではない。なんと東部連合在エルキア大使であるいづなまで風呂にいるのである。
何故いるのか、とか、いづなは風呂を見られても平気なのか、とか、なんでいづなはいるのに一番いるはずであろうステファニーがいないのか、とかいろいろ聞きたいことはあるが、風呂に入っているという事実があれば十分だろうと思い、何も聞かないことにした。
「‥ふろは
「…超、同意‥‥でもいまは、却下」
「白様は今日は乗り気でございますね」
「いづなたんのしっぽ‥‥洗うのワクワク」
「くすぐってぇ、ですぅ」
わしゃわしゃと、背後からシャンプーで洗っている音が聞こえる。ふと横を見ると空が涙ながらに合掌し、「てぇてぇ…まじてぇてぇ」と呟いていた。やっぱこいつやばいわ。
「しかし、ずいぶん仲良くなったものでございますね。あれほど勝負に負けて悲観していたというのに」
「にぃ‥‥あの後、いづなたんに…話した。東部連合‥‥エルキアに統合されても、誰も苦しまない‥‥理由」
「それはなんなのだぁ!?」
うぉっ。びっくりした。いつの間に俺の隣に居やがった
あと、女子の会話にしれっと混ざるのも止めよう。そんなことしようものなら、「は?なに急に。こいつ私たちの会話聞いてたの?キモ。つーか勝手に会話の中に入んないでくれる?ウザイから」と言われること間違いなし。ソースは俺。
「は?」
「何を吹き込んでいづなを誑かしたんだと聞いているこの禿猿が!」
「誑かした?事実を言ったまでだ」
「なんだと?」
「心配するな。詳細を話したところでお前には何もできない。それに…」
空がそういった瞬間、風呂の扉がバーン!と開かれる。「大変ですわぁ!!!???」と声を荒げる騒がしい女性。ステファニーである。っていうか、俺がここに来てからだいぶたってるけど、バスタオル一枚だけで風呂にも入らず今まで何してたの君?
「東部連合が…東部連合が…あっ!?」
焦って空の元へ駆けるステファニー。しかしここは風呂場である。濡れていなくとも、つるつるとした材質の床と湿度があれば、いとも簡単に足を滑らせる。
それはそれは見事なヘッドスライディングを、俺にめがけてかましてくる。これが何かの主人公なら、華麗に避けたり、もしくは男らしく受け止めたり、はたまたラッキースケベに陥ったりするのだろうが、あいにくと俺はそんな星の元に生まれてはいなかった。
やばいと思って動き出したときにはすでに時遅く、ステファニーの頭が俺のみぞおちに直撃。ドシーンという効果音が似合うくらいのクリティカルヒット。まって。馬鹿いてぇ。
「も、申し訳ありませんの!!怪我はないですの!?」
「気にすんな…それよりこの状況を面白がって写真撮ってる隣の男を黙らせろ…」
写真撮ってねぇで見てたなら助けろや。まぁ俺も空の立場なら助けないけど。
「東部連合がゲーム前、大陸領土からめぼしい人材や技術を大陸外に移していた、だろ?」
「知ってたんですの!?」
「普通に考えたら俺だってそうする」
まぁ、不誠実かもしれんが不条理ではない。万が一の保険として必須の方法ともいえる。
「なら、どうして放っておいたんですの?せっかく大陸を取り戻したのにこれじゃあ…」
「それでいいんだよ。まだゲームは終わってないんだから」
「え?」
「なぁ?東部連合の全権代理者さん」
空がそういうと、場の空気が重くなる。いのさんとステファニーが同じ方向に視線を向けていたから、俺もついその方向に視線を移してしまった。
「ふふふふ。ようよう、楽しそうやねぇ。
その視線の先にいたのは、盃片手に風呂に入る、狐の獣人。いづなとは打って変わって、大人の女性特有の余裕を持った態度、妖艶な色気、にじみ出る策略家のオーラ。まさに、全権代理者たるにふさわしいその気風に俺は目を奪われた。
「 」もアズリールもどこか遊び人であった。国を治めることに対する気概というものがあまり感じられなかったせいで、全権代理者は全員彼らと似ているという固定観念がついてしまっていた。
しかし目の前のその女性はまさしく女王。国の代表として、国を守る気迫が感じ取れた。
じーっと見つめていた俺の視線に気づいたのか、彼女は少しだけ風呂に深く浸かって、ふりふりとこちらに手を振ってくる。
俺はこの時ようやく全裸の女性をガン見していたことに気づいて慌てて目をそらした。ただ言わせてもらうが、俺は悪くない。と思う。仕切りあるんだから、俺達から見えないところで風呂に浸かってて欲しかった。
「み、巫女様…」
いのさんがそうつぶやく。いやまて。そういえばずっとガン見してんのこの人も同じだろ。目をそらせジジイ。
「
「海よりも遠からに、
風呂場で軽い挨拶を交わし、全員が上がった後、わざわざ俺やいのさんが風呂に入る時間も作り。
全員が風呂から上がった後、俺達はようやく東部連合の元へと向かった。よって、現在時刻は月明かりが美しく輝く真夜中である。
東部連合の首都、
そして現在俺達はそんな美しい夜景を特等席で見ることができている。理由はこの場所、
「本当によろしいのですか?このような場所にこんな禿猿どもをいれて…」
「かまへんかまへん。もう勝負は終わっとるんやろ」
いのさんの忠言を軽くあしらい、大人の対応を見せる巫女さん。月明かりを背景に窓際でお酒を飲む姿は、別に目をそらす理由も何もないのだが、さっきの風呂の一件であまり見ることができずにいた。
「すまねぇ、です」
「うっひょ~めっちゃきれいだわ一枚いい?」
「ちょっと!?他国の要人ですわよ!?礼儀をわきまえなさいな!?」
いづなが巫女さんに頭を下げて謝罪している目の前で「 」のふたりは巫女さんを堂々と写真撮影。ステファニー。お前が正しい。
「…しっかし、ほんにやってくれよったな禿猿」
巫女さんは空に視線を向け、軽く怒りの表情を見せながら言葉を投げかける。
「ん?あ~。さっすが
けらけらと、全てを理解し笑っている「 」の隣で、まったくと言って事の顛末を理解できずに?マークを浮かべるステファニー。ちなみに、俺もよくはわかってない。
「どういうことですの?」
「技術者や物資を大陸外に移動すれば、あんたらは領土を活用できない。再び
「そこで潰せばいい。そう考えていた」
「ほんに。その隙に、間者を通じて
なるほど。クラミーを味方につけ、フィールの記憶改ざんの権利を得たのはこういうことだったのか。ある程度理解した。
「せやけど、
巫女さんは不敵な笑みを浮かべ、こっちの狙いを看破していた、と告げる。二回戦目を始める前に別勢力を向かわせる、という空の考えを読んでいたという。
流石女王。いのさんやステファニー、当事者であるクラミーですらも、空の考えを先読みできたことはなかった。半世紀で国を治めた頭脳は伊達ではないようだ。
しかし。
「けど、まさか…アヴァントヘイムまで巻き込んどったとは」
巫女さんは天空に浮かぶ異形、位階序列第二位
東部連合に向かわせる別勢力が一つではなく。アヴァントヘイムとそれに連なる
まぁ、実際に敵になるわけではない。あくまで脅しだけど。
「なぁんだか面白そうなことやってるにゃあ?」
‥‥‥。
おい。予定にないぞ。
アズリールが窓際まで来て巫女さんと会話できるくらいまで近くに来たことを確認すると、俺はジブリールの後ろに隠れた。
なぜか?見つかったら面倒だからである。
「
「ほんまに申し訳あらへんのやけど、
巫女さんの返答はとげとげしいものだった。当然、それを受けたアズリールは笑顔ではいるが
「ふーん。まぁもう今となってはどうでもいいにゃ。
「‥‥?どういう意味や?」
この場にいる俺とジブリール以外の全員が、アズリールの発言に疑問符を浮かべている。まぁそりゃそうだ。
いやそんなこと言ってる場合じゃないな。早く対処しないと手遅れになる。
俺はジブリールに隠れながら、小さな声でアズリールから姿を隠すことを要求する。
「ジブリール。姿隠す魔法で俺の存在消してくれ。不味いことになる」
「承知しております。しかしながらマスターのその思考はすでに読まれているようで。先ほどから一切魔法が編めません」
「は?なんでだよ」
「おそらくですがそれは…」
「それは他の
‥‥その回答はできればジブリールからして欲しかった。
俺はジブリールに隠れているから見えないが、声の大きさや気配から察するに、もうジブリールの目の前まで接近しているのだろう。
「ジブちゃんや比企谷君が考えてることなんてお見通しにゃ。分かったなら観念してジブちゃんの後ろから出てくるにゃ。素直に出てくれば手荒にはしないにゃ」
終わった。
ああ。あの時ゲームなんて吹っ掛けるんじゃなかった。あんなことしなきゃ、こうはならなかったのに。
俺は内心怯えながらもアズリールの前に立つ。
もう巫女さんやいづなを置いてけぼりにしている。申し訳ないと思いつつ、どうか助けてほしいと切にお願いする視線を送ってみたが、いづなも巫女さんも反応は鈍かった。ちくしょう。
「いい度胸にゃ。覚悟はいいにゃ?」
「できてないんでまた今度でいいすか?」
「ダメにゃ」
ダメか―。
「…あー。ジブリール君?俺達はそっちのほうは全くと言って報告を受けていないのだがね?なぜ君の同胞たる彼女が八幡くんに多大なる怒りを覚えているのか説明を頼む。あとあいつ誰だ」
「
「ふむ。で、そのアズリールとやらと何があった?つーか、よくあそこまで怒らせておいて協力をこぎつけたもんだ」
「空様。その認識は間違っておいででございます。アズリール先輩のマスターへの感情は、怒りなどという生半可な表現が許されるほどのぬるい感情ではございません」
マジで?こいつ本当に何やらかしたんだ。
このゲームの最終目標から言って、
いや、厳密に言えば仲良くはならなくてもいい。ただ、体裁上でもいいから協力関係を築くことのできるほどには親しみを持ってもらわねばならない。
もとよりこの世界のそれぞれの種族は戦争で命を落としあった。ゆえに全員が敵。そういう状態であることを鑑みれば、表面上は大して変わっていないと見えるだろう。そう。表面上は。
では表面でない中身の部分。これは違うといえるのか?
今敵を作ることと、昔から敵であったこと。実はこれには小さいようで大きな違いがあるのだ。何か?経過した時間である。
当たり前といえば当たり前のことである。時間というのは偉大であり、時間には感情というものを希薄にする効果があるのだ。
どんなに面白いマンガを読んでも、時間がたてば面白みは薄まるし、可愛がっていたペットが死んでも、数年がたてば立ち直れるものである。
今もなお戦争当時の恨みが残っているのなら、盟約に止められるまで、無駄だと知りつつも攻撃手段を取る輩がいてもおかしくはない。戦争時代の遺恨は今となっても残ってはいるが、それでもだいぶ薄まったといえるだろう。
今敵を作れば記憶に新しく、アズリールから「八幡と同じ種族の人類は信用ならない」という考えを植え付けられてしまうとかなりの痛手だ。
さって。どうすっか。とりあえずお仕置きは確定か。一、二発殴るくらいのことはしてもいいだろう。
そんなことを考えている間に、八幡とアズリールの押し引き問答は終わったようだった。
結果としては八幡の敗北。まぁ、当たり前だな。勝つ気がない。ただ引き延ばしてるだけだったからな。アレがアレでアレなんでまた次回ということで。とか、無理だろ。
「おい八幡。こっちはわざわざ東部連合まで出向いてきてるんだ。そっちのいざこざをとっとと終わらせろ。相手方に申し訳ないって思わないのか?」
そうやってヤジを飛ばすと、苦々しい表情を浮かべながらも観念したようで、やりすぎないでくださいね、と一言言って、八幡は目をつむった。
ようやく終結に向かいそうだ。アズリールは八幡の顔に右手を伸ばし。
グイっと自身の胸の方に抱き寄せる。‥‥抱き寄せる?
‥‥‥明らかにその豊満な胸に八幡の顔を押し付け、左手で八幡の腰をぐっと支えたかと思うと…
「ふぁああああああん♡♡♡比企谷君ヒキガヤクンひきがやくぅ~ん♡♡♡可愛いにゃ愛おしいにゃ愛くるしいにゃ~ん♡♡♡か、かまわないかにゃ????も、もう好きにしちゃってもいいんだにゃ!????」
と、アズリールは体を密着させ、こすりつけるように体を揺さぶりながら八幡を押し倒し、はぁはぁと息を荒げながら自身の服に手をかけ‥‥。
「てめぇぇええええええ!!!!!!何俺の知らねぇところでイチャコラしてんだぁあああああああ!!!!!!!俺はお前にセ〇レや性〇隷作って来いなんつった覚えねぇぞゴルゥァアアアアアア!!!!!」
「知るか!俺も知らないうちになんでかこうなってたんだよ!疑問や文句はジブリールに言え!」
「ジブリールゥゥウウウウウウウ!!!!!!これ一体どうなってんだことと次第によっちゃてめぇのご主人様ぎったぎたに叩きのめすことになんぞおおん!!!??????」
「…アズリール…怒ってたんじゃ、ない、の?」
「はて?アズリール先輩が怒っているなどと発言をした記憶はございませんで。怒りなどといった生半可な感情ではないと。そう、いうなれば
俺が東部連合との会談のために準備している間にこいつらラブコメ展開してやがったのかうらやまけしからん。ギルティオブギルティ。判決無期懲役。人類のために死ね。
「‥‥‥なんで、こうなった、の?」
「‥‥‥話すと長くなるのでございますが」
「構わん。全部言え。というか吐け」
「はぁ。これは空様に言われてマスターがアズリール先輩に協力をこぎつけた後、なんやかんやあってマスターとアズリール先輩が行ったゲームの後の話になるのでございますが‥‥」
「まてまて飛ばすな。なんやかんやも全部説明しろ」
後半へ続く。