「なんか最近視線を感じるようになりまして」
「それは怖いにゃあ?ストーカーってやつかにゃ?そうだ!ウチが守ってあげるにゃ!」
「部屋の中にいるのに視線を感じるんですよね。もうちょっとした恐怖です」
「不思議なこともあるもんだにゃ~?気になるならアヴァントヘイムで過ごすかにゃ?ウチらは大歓迎にゃ?」
「特に怖かったのは部屋を掃除した次の日の朝、目が覚めたら布団の上にびっしり羽根がばらまかれていたことですね」
「ふ~ん。まぁそういうこともあるにゃ。気にしないでおくにゃ」
「‥‥暗に止めてって言ってるのわかりません?」
「何のことかにゃ~?」
空と白が再びオーシェンドなる場所に向かい、アヴァントヘイムにてお留守番を仰せつかった俺。アズリールのご機嫌取り以外に特にやることもなく、飯を食い、本を読み、寝るだけの数日を過ごした。
想定よりも快適―というよりかは、俺のためにわざわざ準備した、と言わんばかりの心地よさでついつい惰眠をむさぼってしまう。本来はアヴァントヘイムなんて人間が生活できうる場所ではない。
そしてなぜかここにある、人類に適したベッドの中、ぬくぬくと暖かい布団で朝目を覚ましたのだが。
「‥‥前にも似たような状況になったことがあるから、いまさら驚いたりはしない」
俺とともにベッドにはアズリール含む、数百人の
以前ジブリールにも同じようなことをされたが、
「アズリールはまぁともかくとして、なんで顔も知らん
「んにゃ?ジブちゃんから聞いてないのかにゃ?」
真横に陣取っているアズリールは、さも俺が起きる前から起きてましたというようなしゃきっとした目をして俺に問いかけた。なんなら昨日の夜からずっと起きてましたって言われてもおかしくない。だから怖えって。
「なにを?俺の
「違うにゃ。聖書の件にゃ」
「聖書?」
なんのことだろうか。俺はジブリールに聖書の話を振られたことはないし、こっちから振ったこともない。こっちの世界の神なんて、テトしか知らんわけだし。ああ。そういえば
何かの比喩としてでも、本物としてでもいいが、そもそもクリスチャンでもなければ「聖書」なんて単語を使うときは存在しないだろう。何の話だかちっとも見当がつかない。
「まぁ『聖書』なんて呼び方してるけど、中身は比企谷君の観察日記にゃ。今
「なんだよそれ聞いてねぇぞ。プライバシーの侵害すんな。あとなんでそんな人気なんだよ。売れ残りまっしぐらだろその商品」
どこに需要があるのだろう。俺が日々していることなんて飯食って、ゲームの練習して、風呂入って寝るくらいだぞ。ここにいるときとほぼ変わらんだろ。
アズリールはなぜか誇らしげにふふんと鼻を鳴らすと、こんなことを口にした。
「それはウチの手腕のおかげかにゃ?中身がどんなものかわからない…そんな子のために用意した試し読み専用『聖書』の導入!加えてサービスとして様々なセットやおまけ付き!そして先着30名には次回の『聖書』ver2.0の優先購入特典も付けちゃったにゃ!さらにさらに!ここまでしてもお値段据え置きでなんと!39800ペリカ!」
「ここの通貨単位ペリカって言うんだ」
カイジじゃん。地の獄じゃなくて天の獄ってか。確か価値は日本円の十分の一だから…聖書一冊3980円?参考書並みに高いじゃねぇか。ハンチョウとチンチロしなきゃ。いやあの人には勝てないから無理か。シゴロ賽最強。
「そのおかげで初版は完売御礼、再販はないからどんどん希少価値が上がっていって、今じゃ元の値段の三倍出しても手に入らない超激レア商品なのにゃ!」
「なんでそんなもの俺の許可なく勝手に売ってるの?いじめ?」
「布教のためらしいにゃ」
「らしいってなんだよ。お前が勝手に売ってるんだろうが」
「ウチが売りたくて売ってるわけじゃないにゃ?ジブちゃんが「手っ取り早くマスターのすばらしさを布教するには私の日記を多様な特典を付けて売りさばけばいい」って言って委託してきたのにゃ」
ああ。なるほど。アズリールが書いたやつじゃないのか。それならプライバシーの侵害じゃないな。ジブリールは俺の観察をすることを盟約で許可されてるし、問題はない。というより、中身は毎日書いてるアレか。見たことないけど、何書いてるんだろう。
まぁだとしてもそれを勝手に販売するのは良くないんじゃないの?せめて俺に確認するくらいしたらどう?
やっちまったもんは仕方ないと、ため息をついて体を起こす。右にはアズリールがいるから、ちょっと左に体をずらして起き上がると、左にいた知らん
‥‥お前も顔綺麗だな。モブですら可愛いってこの世界の顔面偏差値どうなってんの?
「‥‥で、それとこのハーレム状態と何の関係があんだよ」
「多種多様な特典を付けたって言ったにゃ?比企谷君との握手券、ハグ券、サイン券、デート券、そして添い寝券。今ここにいる子たちは購入者特典の恩恵を受けてるってことにゃ」
「何してくれてんだお前」
あまりにも勝手すぎる。もはや人権がない。せめてさぁ…知らせとこうぜ。報連相は社会人の基本だよ?
それとなんでそんなものに需要があるんだ。むしろその特典要らなくない?だって相手ただの人間だよ?俺からしてみればウサギとの添い寝券付きでウサギの観察日記売りますって言われてるみたいなもんだぞ?‥‥ちょっと需要ありそうだなオイ。
「というわけで、今日からはその特典の有効期日だから、ちゃんとファンの子たちにサービスしてあげるにゃ?」
「マジで言ってんの?」
「大マジにゃ。嫌なら王城へ帰ってもらうにゃ?」
くそが。足元みやがって。いまさら王城帰っても誰もいねぇよ。一週間近く、金なし食事なしでどう生きろってんだ。
「引換券持った子にはちゃんと対応するにゃ?そうじゃないと買ってくれた意味なくなっちゃうからにゃ~」
「ええ‥‥超理不尽‥‥人生ストライキしようかしら」
それからは、なんというかアイドルみたいな生活を送った。なお、それらはすべてアズリールの指示に従わされてやったものだ。生活を盾にして人を脅すのやめよう?
名前を呼ばれればひきつった笑顔で笑いかけ、キャーッという黄色い歓声が周りを包む。握手を求められれば両手でしっかり握って「ありがとう」と微笑みかける。ハグを求められればあすなろ抱き。デートの際は恋人繋ぎで、頭をなでたり耳元で囁いたりする。どっちかっていうとホストじゃないこれ?
ちょっと自分がスターになった感覚を味わったが、羞恥心が半端じゃないので金輪際止めていただきたい。もうほんと、切にお願い申し上げまする。
ちなみにアズリールはずっと一緒。デート券持ってるやつとのデート中にもずっと横にいる。「いつでも愛せます」券もってるみたいなもんだからしょうがないんだけど…気まずくないのかしら。
そんな生活を何日か繰り返していると、流石に精神が疲弊してくる。特に傍にずっといるアズリールのせいで、四六時中、寝てるときでさえも心が休まらない。
一週間ほどが経過して、とうとうはりぼてのスターの顔が剥がれかけたとき、ようやく彼らは現れた。
空間転移によって気圧差が生じ爆風が起こる。
そんな様子を爆風の中心地から見ていた空は、ただ呆れた顔をしてとりあえず確認とばかりに質問をしてきた。
「お前が俺らと同じ日本人であることは百も承知だが‥‥一応確認しとくぞ?お前って
「一応否定しておくが、実質そうなんじゃない?ここにいるやつら俺の言うことなら何でも聞きそうだし‥‥でも止めろって言ってもやめてくんないから違うわやっぱ」
様々な容姿の
ジブリールは珍しく我関せず、といった顔であるがこっちはそうもいっていられない。このままいったら本当に
「ジブリール。
「いえ。残念ながら。詳しい内容は省きますが、まだゲーム中と考えていただければ」
「そうか‥‥なら、お前はここでリタイアだ。図書館に戻ろう」
俺がそういうと、ジブリールはピクリと眉をひくつかせる。
「マスター。私の聞き間違いでなければ‥‥
ジブリールは怒っているようだ。
だが俺にとってみればどうでもいいことだし、何より前提が間違っている。
「いや。負ける必要なんてない。
リタイアといったのは、事実上参戦しないから。別にもうやらないからと言って律儀に「負けました」なんて言う必要がない。参加者全員がクリアしなきゃ終わらないゲームならまだしも、誰かがクリアすればいいなら空達に任せておけばいい。俺らはおまけ。
「見事だ。伊達や酔狂で
「だから従えてねぇって言ってんだろ。むしろ従わされてる。そういう意味でも早く帰りたい」
「マスターのお考えは理解しました。しかし、その命令は了承いたしかねます」
ジブリールが恭しく頭を下げる。とりあえず頭をあげるのを待ってから、話を聞こう。
「先ほどはあえて敗北に関して反応して見せましたが、実は敗北することはさほど問題ではないのでございます。重要なのはそのゲームに参加することにより、私の望むものが手に入るかもしれないということにあるのです」
なるほど。勝利報酬に「人魚の涙」的なレアアイテムでもあるのだろう。途中抜けしたままだと、もしかしたら空達が譲ってくれない可能性もあるし、心配なんだろう。
「‥‥そうか。なら仕方ないな。じゃあまぁ頑張れ。応援はしてる」
「何か勘違いなさっているようですが‥‥まぁ今は触れないでおきましょう」
ジブリールのぼそぼそと呟いた言葉を耳に入れつつ、帰れなくなったことに悲しみを覚える。触れないほうがいいのならあえて口を出さないほうがいいだろう。お互いのために。
そんなことを考えていると、袖をクイクイと引っ張られる。なんだろうと目をやると、白が俺の袖を握っていた。
「どうした?白」
「‥‥八幡に、お願い‥‥ある」
白からお願いとは珍しい。言っちゃあれだが、俺も白もコミュニケーション得意じゃないからな。ほとんど喋らんから、新鮮に感じる。
「なんだ?」
「‥‥ゲームの、勝利条件‥‥嘘だった。‥‥だから‥‥‥
「なんかまためんどくさそうなことになってんなぁ‥‥。でもなるほどな。だからお前らここ来たのか」
「そういうこった。だが時間がない。お前はさっき復帰するまでの時間を決めてないって言ったが、それは逆に
「人質ってお前‥‥まぁいい。けど手伝って欲しいっつったってできることには限度がある。俺
白の様に複数言語読めるならまだしも、一言語しか読めない俺には情報収集だって高難易度だ。手伝って役に立つかどうか…。
「大丈夫‥‥。助っ人、たくさん‥‥八幡なら‥‥できる」
「ん?どういうことだ?」
「‥‥‥」
白が無言で俺の後ろを指さす。そこにはおとなしく俺のことを見つめて座っている大量の
「
なるほどなぁ‥‥まぁ確かに理にはかなっている。百を超えるジブリールもどきの協力をこぎつけられれば、一週間どころか三日くらいで終わるだろう。ただ、どうやって協力を得るか。
手っ取り早いのはアレだが‥‥まぁ、やるしかないんだろうなぁ‥‥きっと。
腹をくくってモブリールたちの前に立ち、できる限り気持ち悪くならないように、笑顔を努めて、お願いすることにした。
「自分で言うのもあれだが‥‥俺の風呂写真とツーショット券で二人のこと手伝ってくれないかなぁ‥‥なんて言ってみたり‥‥」
「「「「「「「やるっっっ!!!!!!!!」」」」」」」
即答かよ。こんなんで大丈夫か?
原作を大分端折った気がする‥‥
アズリールもあれだし、別になくてもいいかなぁって‥‥
原作知ってる方はまぁ天使とのゲームは一時的にスキップって感じで。
やるならラスト一歩か二歩手前くらいにしれっと入れます。