「Gエリアの本、精査完了です!もうあの二人に渡してあります!」
「HからJは別の子がやってるから、次Kエリアのやつやって!」
「Eエリアの本、いくつかありません!ファンクラブ以外の別の子たちが持っていったようです!」
「用があるのは本の中身だけ!中身を検めて、それっぽかったら奪ってでも持ってこさせなさい!」
「ちょっと!本出しっぱにしないでよ!調べ終わったやつと区別つかなくなるじゃん!」
「はぁ!?アンタのほうが普段片づけないでそこらへんに置いてあるくせに!調子のいいこと言わないでよね!」
「喋ってないで手動かしてよ!!サボってたからご褒美取り消しなんて言われたら責任とれるわけ!?」
「てめぇら言葉に気をつけろ!!!比企谷様が見てんだぞ!!?ファンクラブの評価落とすような真似すんじゃねぇ!!」
「「「ご、ごめんなさい!!」」」
「愛されてるにゃあ?比企谷君」
「怖い。本当にただただ怖い。助けてくれ小町」
空も白もものすごいスピードで本を読み漁り、ジブリールたちは本の用意と内容の精査を行っている。
何もせずぼーっとしていると、隣に座っているやつから声がかかった。
「あ、あのぅ‥‥‥ところで、その、どちら様ですかぁ‥‥‥?」
空と白についてきた、
「比企谷八幡だ」
「変わった名前ですねぇ‥‥‥あ、いや、別に侮辱するつもりはなくて、ちょっと驚いたといいますかぁ‥‥‥」
ほっとけ。つーか、俺からしてみればお前らのほうが変わってるわ。異世界だから仕方ないんだけどさ。
「それでそのぉ、お二人とはどういった関係で‥‥‥?」
「あいつらとの関係?」
関係、か。なんだろう。友達、ではないが、知り合い、というにはいささか関わりすぎている。ちょうどいい関係値が見当たらない。
「まぁよくわからんけど、強いて言えば協力者じゃねーの?
そもそも俺のものじゃないんですけどね。ただ、協力の代償が重すぎるけど。王城の仕事の件にしても、労働基準法に則り、空たちには給与手当を支給してほしいくらいだ。
「‥‥‥一応ですよぉ‥‥?一応ですけどぉ、どこかの種族の全権代理者だったり‥‥‥」
「しないな。もしそうなったらその種族は滅ぶ。間違いなく」
そんな他愛もない話をプラムとしていると、唐突に空が机をたたいて激昂した。
「何故だっ!?」
驚いてそちらへ視線を向けると、本の山に埋もれながら空は怒りを露わにしていた。
それに加え、不機嫌そうに呻いている白を見て、何か話相手にでもなってやるかと思い、二人の元へプラムを連れて向かう。
「どうした?なんかあったか」
「なにもねぇ‥‥いや、ありはした。ゲームの勝利条件が記述されている本はいくつか見つかった‥‥だが、それらに書かれていた十九もの『文言』―
「もしかしてですけどぉ‥‥無駄骨、だったんですかぁ‥‥?」
散々色々な所へ連れまわされた挙句、勝利一歩手前のところで計画がとん挫しかかっているかもしれないという状況に、プラムは悲しげな声をあげる。
空は首をふるふると振って、それを否定すると―
「いいや。状況はそれより深刻だ‥‥。いったん整理するぞ?」
と、空はため息交じりに俺達のほうへと顔を向けて、語る。
「話の発端はプラムが俺達
「ああ、あんまり覚えてないけど、そんな感じだった気がする」
「俺達はそのゲームに参加し、二つの情報を得た。一つは『確実に惚れる』魔法を使っても女王がオチなかったことから、勝利条件が改竄されているということ。もう一つは、盟約に誓って眠った女王を起こした時にもらえる報酬が
はぁ、とため息をついて、空は続ける。
「
「は、はいぃ‥‥‥そうですぅ‥‥」
「究極の隠蔽法は、
だが、と空はさらに続ける。
「現女王が眠りについたのは、女王になる前。先代が命の危機に瀕するまでは、誰か別種族が目を覚まさせる前に、
そう。だからこそ空達はわざわざアヴァントヘイムまできて、改竄されていない元の『文言』を探すために、わざわざ大量の
「たった一勝すればすべてが手に入るこんな美味しいゲーム、過去参加した種族が存在しないわけがない。現にアヴァントヘイム内で集まった情報だけで、過去十九回にわたる、五種族とのゲームを行った記録と、その時の『文言』が出てきた。それらを比較検討すりゃ何が本当の条件かわかる‥‥そう思ってたんだが」
そこで一度言葉を区切り、ため息をついて机に再び向かいなおす空。机の上の紙に、過去のゲームでの『文言』が日本語で訳されて記述されていた。それを見てみると、
「結果わかったのは、『
空はバン!と大きく机をたたく。
「
先代の女王が亡くなる直前までであれば、仮に全権利を取られたとしても、種の駒はとられない。次世代の女王が使い物にならなくなるだけの事。
だからこそ、直前までは、相手に対してもその勝利条件は絶対に正しく伝えて率先してクリアを目指すはず。となれば―
「‥‥最悪の、可能性‥‥‥‥」
「え?ど、どういうことですかぁ?」
一人だけ状況を理解していないプラム。疲れている空の代わりに、かいつまんで説明しておく。
「過去に記述がないなら‥‥
「そ、そんなわけないじゃないですかぁ!それじゃあゲームにならないじゃ‥‥!」
「厳密にはあることはあるが、
「そんなぁ!ってことはつまり‥‥」
「そうだ。女王が何を求めて眠りについたかを探すことになり‥‥簡単に言えば、プラムの作戦含めた半世紀にわたる
そういうと、プラムは白目をむいて倒れた。空は絶望した顔で机に突っ伏し、白はショート寸前だ。
「‥‥なぁ。そのゲームって、具体的に何するんだ?勝利条件決まってなくても、やるゲームは決まってんだろ?」
一応何か手伝えるかもと思い、詳しいゲーム内容を聞いてみる。
「ああ‥‥そういやゲームについての詳しい話伝えてなかったな。ゲーム内容はねぇ」
「は?いや流石に何するかは決まってるだろ」
「現女王、ライラの夢の中に干渉し、自分が任意に作成した想像上のゲームにお互いが参加することになってる。だからなんでもいいんだよ。以前までは『惚れさせる』のが目的だったから恋愛ゲーだったが‥‥今となっては何のゲームを持ちかけるべきかすらわからねぇ」
なるほど‥‥これは厄介だ。既に設定されているゲームがあるなら、その中の様々な要素をカンストさせればいつかクリアできるかもと思ったが‥‥そういう簡単な話でもなさそうだ。
「いっそのこと、夢の中に入った後、普通にポーカーとかして勝てばいいんじゃねぇの?『負けたら目を覚ます』って盟約に誓わせて」
「無理だ。普段ならその手法はアリだが、今回は夢の中に干渉してゲームが行われる。夢で誓った盟約が遵守されるなら、お前は今頃
「怖いこと言うな。マジでされそうだから」
ダメか。結構いい案だと思ったが、確かに空の言うとおりだ。夢の中で行われたゲームに負けて、盟約で縛られるとかたまったもんじゃない。
「何を求めて眠りについたかわからないうえ‥‥仮にわかっても恋愛関係なら俺らにはお手上げだ。どうにもならん」
ここにいるすべての者が、絶望の二文字を頭の中に思い浮かべ、うつむいてしまう。
とはいえ、ここでうなだれていたところで無駄に時間を浪費するだけだ。すべてがわからないままであるというのなら、希望的観測に基づいて結論を出すしかない。
「仮に勝利条件が隠蔽されてなくて、本当にそのライラとかいう女王を惚れさせるのが勝利条件って可能性はないのか?」
聞くところによれば
恋愛関係ならお手上げというが、空なら適当に誑かして惚れさせるなんて容易にできそうだし。その可能性があるならやってみるのも一つの手だろう。
「なくはない。だが、正直言って『惚れ魔法』使って惚れないなら、惚れさせる方法が全く分からん」
なんだその魔法。さっきも話に出たが、超気になる。どういう原理?
「その『惚れ魔法』、本当に効果あるのか?」
「ああ。効果は立証済みだ。間違いねぇ」
「へぇ‥‥なら、ちょっと俺にかけてみてくれ」
そういって、床で倒れたままのプラムに声をかけてみる。こっちの世界に来てから色々な魔法とやらを見てきてはいるが、心まで魔法で操れるものなのか、気になるところだ。
「ええと、結構大掛かりな魔法なので、今の僕じゃ無理ですぅ‥‥でも、血をいただければ可能ですぅ」
「マジでか‥‥どんくらいいるの?あんまり多くは無理だぞ」
「魔法を使うだけならぁ‥‥軽く一口くらいでなんとか‥‥」
それくらいなら大丈夫か。問題ないと判断し、ジブリールに注射器を準備させる。なぜすぐに取り出せるような場所にそんなものがあるのかを考えないようにし、ジブリールに命令して採血してもらう。いくらなんでも直接噛みつかれるのは無理だからな。
注射器から手に入れた俺の血を飲み、恍惚とした表情を浮かべるプラムにドン引きしつつも、状況が整ったことに安堵する。よかったこんなもんで。これ以上抜かれると貧血気味になりそうだ。
「ええと、惚れたい相手はどうなさいますかぁ?」
「誰でもいい。強いて言えば空か。男同士でも惚れるならマジもんだろうし」
「すみません‥‥それは無理ですぅ‥‥流石に異性じゃないと‥‥」
「なら、白か?白ならまぁ、多分、大丈夫だろ」
「マスター。僭越ながら、その役目私が‥‥‥」
ジブリールがすかさずそこで声をあげるが、ダメだと一蹴する。お前ら異世界人組はきれいな顔してるからダメだ。気を抜くとうっかりマジで惚れる可能性がある。
白は‥‥まぁ大丈夫だろ。いくらなんでも素面で小学生に惚れたりなんてしない。
プラムに魔法をかけてもらうと、なんとなく心がぽわぽわしたような感覚に陥る。だが惚れた、という感覚はない。
「失敗してね?」
「最後の仕上げがあるんですぅ!では白さま!比企谷さまの胸を揉んでください!」
「え?おい白。まてまてまて。聞いてねぇぞそんな話っ‥‥!」
「‥‥‥お、け」
俺が一度ストップをかけるも、白は止まらない。躊躇なく俺の存在しない胸を手でぎゅっと握る。変な感覚だ。
すると―
「‥‥あー。確かにな。惚れたわ。
何だろう。生まれてくる感情のことごとくが『惚れた』と再定義されるもんだから、感情の説明が上手くできない。だが、本当に惚れているわけではないことだけはわかる。
おそらくだが、胸を揉まれたときに感じるはずの「こそばゆい」とか、「もどかしい」とか、「はずかしい」だとかいったそういう感情が一緒くたに上から「惚れている」に塗りつぶされているのだろう。
「なんかずいぶん穏やかだったな。実験のときの巫女さんは結構激しく感情動いてたのに」
「まぁ、相手は白だしな。というか、巫女さん実験台に使ったのかよ。あんまり失礼なことすると嫌われるぞ」
「お互い納得してるから問題ないな」
いや待て。ということは空は巫女さんの胸を揉んだということか。しかも合法的に。よく巫女さん怒らなかったな。
‥‥いや余計なことは考えるな。巫女さんの胸なんて想像したら後ろにいる
「これ使っても、惚れなかったのか?」
「ああ。
そうか‥‥なら、どうしようもないか?
俺も話していて、無理だ、と諦めようとしたとき、ふとジブリールとした会話を思い出す。
『愛とは、何でございましょう』
あの日、俺は何と答えたのだったか。たしか、自分の感情の押し付けあいが愛だと、そんなようなことを言った気がする。
今思い返してみれば、中々に核心を突いた答えだったと思う。惚れるだの好いているだの言う感情は、ただの気持ちの押し付けなんだ。
だからこそ、好きでない相手にとってみれば鬱陶しいことこの上ないのだろう。現に、今いる
まぁ本当に彼女らが惚れているのかは疑問ではあるが‥‥‥ん?ちょっと待てよ?
愛とは気持ちの押し付け合いだ。より詳しく言えば、愛し合う、愛をはぐくむといった行為がそれにあたる。つまり双方向に愛のベクトルが向いていることを指す。
しかし、愛するという行為そのものは単一方向、誰かから誰かへの愛のベクトルである。惚れるという言葉はこの言葉の類義語に当たる。
もしかして‥‥‥
「ジブリール。確かお前、
「確かにその通りでございますが、よくそのような細かいところまで覚えていらっしゃいますね。マスターがこちらの世界に来てすぐ、授業の一環として一度話したキリだというのに」
確かに、各種族のことについてはジブリール先生の授業で聞いたっきりで、一度も話題に出してはいない。だが、覚えていなければ授業をしてもらった意味がないし、覚えていなければこっちの世界では生きていけないだろう。
「その童話、どんな内容だったかわかるか?」
「申し訳ありませんがわかりかねます。加えて、どの種族のどの作品であったかすらわかりません。
「そりゃそうだが、何かしらは信用しなきゃ全部嘘になる。今のところ、出てきた情報の中で食い違いは発生してないから全部本当のこととして考えんのが手っ取り早い」
「今そこらへんの周辺情報はステフに調べさせてる。エルキアは沿岸国。海に面し、隣国と言って差し支えないオーシェンドに対して先代の王が何も調べていなかったとは考えにくい。王城の書斎の中から、血眼になっていまそれを探してるはずだ」
であれば、ステファニーの方から、俺の予想する女王の望みと同じような内容が記された文言があれば決定的になる。いまは俺の考えがあっているものとして進めてみよう。
「じゃあ空。過去十九回のゲームにわたる内容については、いままでの本の中に記述があったか?」
「‥‥んあ?ああ、あるぞ。ただ、内容全部ってわけじゃねーが‥‥」
空にいくつか内容を日本語訳して紙に綴らせる。やはり、そうかもしれない。
「俺の勘なんだが、過去十九回のゲーム、
「は?そりゃそうだろ。フラグ立てなきゃ惚れるもんも惚れねぇだろうよ」
なるほど。だから今まで、全員クリアできなかったんだ。俺の予想が正しければ、クリアできる。
当然、勝利条件が惚れさせることを目的としているなら、だが。
「あくまで可能性の話だが、勝つ方法、分かったかもしれん」
そう言って、俺は空にその勝利方法と思わしき策を伝えるのだった。