知らないうちにすごく長くなってしまいました。
ジブリールにゲームを吹っ掛けた俺、比企谷八幡はというと。
絶賛チェスで対局中である。もちろん相手はジブリール。まぁまぁ時間がかかったが、そろそろ決着のときが近づいている。
「これでゲーム終了でございますね」
悔しそうに、ジブリールはゲームの終了を告げる。
黒のキングに、白のクイーンがとどめを刺す。取ることもかなわず、逃げ道はない。すなわち、
「ああ、チェックメイト、だな。いい打ち筋だった」
「それは、嫌みのつもりでしょうか」
ジブリールが俺をジトっとにらむ。最初のときよりかは緩くはなっているものの、怖さと緊張感は健在だった。逃げてぇ。
俺はゲームが終わったことで、安心の一息をつく。ふぅっという軽いため息とともに、俺は盤上に残ったチェスの駒を見つめる。
持ち駒だった16の駒のうち、三分の一にもならない4つの駒たちを見つめる。よくもまぁ、こんなになるまで粘ったものだ。
「んなわけあるか。むしろ、嫌みにすらなってないだろこんなもん。俺が勝ったならまだしも、
そう、俺の黒の駒の軍勢は、ジブリール率いる白の駒軍勢に圧倒的大敗を喫した。
俺の残りの兵力は4つしかなかったが、ジブリールの兵力は13。駒の残数がそのまま実力につながるわけではないとはいえ、この結果はだれがどう見ても俺の惨敗である。
「というわけで、ゲームに負けた俺は、さっさと素直にこの図書館から出ていく」
『十の盟約』第六項。"盟約に誓って"行われた賭けは絶対順守。
俺が勝てば図書館のすべての本の閲覧許可を得ることができ、逆に負ければ図書館から出ていかなければならないという賭けの元俺たちのゲームは行われた。
したがって、俺は図書館から出ていかなければならない。
「ええ、正直もう二度とその腐った顔は見たくありませんので、早く退室していただけませんでしょうか」
「おい、聞き捨てならんな。俺の顔は腐ってない。腐ってるのは目だけだ。そして、俺は数学ができないこととボッチであることと目が腐っていること以外は基本的に高スペックなんだよ」
去り際の罵倒にかみつきながら、俺は図書館の扉に手をかける。
「じゃあな。こんなゲームは二度とやりたくはないが、楽しかったわ。
「ええ、
俺は、ジブリールとのあいさつもそこそこに、この世界に来てからの最大の収穫を得られたことを喜びながら、帰路に着いた。
<side ジブリール>
「まったく、面倒なことになりましたね」
彼が図書館から出て行ったあと、私はこれから起こる面倒ごとに頭を抱えていました。
あんな目の腐った
「ですが、今回に関しては百歩、いえ、一万歩譲ってよしとしましょう」
ゲームが始まる前、彼に
すなわち!未知!の金属でございます!
おおっと、あまりに興奮しすぎて心の中だというのに大声を出してしまいました。しかもあまつさえよだれまで垂らしてしまうとは。
彼が言うには白銅というそうです。成分的には銅とニッケルとかいう金属の合金とのこと。
合金。このワードも未知でございました。金属同士を一定の割合で溶かし、均一に混ぜ合わせた後に冷やし固めたものという意味合いであるそうです。
今の
白銅。そして合金。ああ、未知とはかくてなんと素晴らしい。そして、これが異世界では普通に貨幣として使われているそうな。その名前は――
「――百円玉」
なんてよい響きでしょう。簡潔でいて至高ともいえるワードチョイスでございます。
「しかし、あの人間も少しは見所があるように思えました」
少し、ほんの少しだけですが、と心の中で付け足しておきます。
ゲームを持ち掛けられ、意味深に何を言うかと思えば、まさかあんなことを言うとは。
「これはなんでございましょう」
お前が喉から手が出るような
その中から本当に私の知らない未知の硬貨を一枚取り出し、私に放り投げてきたのです。
「百円玉。俺達異世界人が元の世界で売買をするときに使っていた貨幣の種類の一つだ」
こともあろうに彼は自分を異世界人と発言しました。これは私にとって聞き捨てならない言葉でした。
「あなたは、この世界の住人ではない、と?」
「ああ、遠くから来たって言ったろ?本当に、異世界っていう遠いとこから来たんだよ」
「それはあり得ません。異世界から生物を召喚するとなると、この世界につなぎ留めておくために膨大な力が必要。仮に
そう、あり得るはずがない。異世界人などという存在がいるはずがないのです。しかし。
「だったら、こいつを見ろよ」
そういってあの男は財布から異なる貨幣を次々と私に放り投げていきました。
「すべてお前が知らない貨幣のはずだ。書いてある文字も、描かれている模様も、しかもそれがこの世界でどれくらいの価値と等価で交換できるかどうかすらわからんだろ」
「…確かに、700以上のありとあらゆる言語とその知識に通じる私の知らない物体であり、興味の対象であることは認めます。しかし、これだけではあなたが異世界人であるという確固たる証拠にはなりません。あなたが適当に作り上げたガラクタという可能性もあります」
「お前なら、もう気づいているだろう。それが本当に異世界の貨幣で。俺が作り上げたガラクタなんかじゃないってことをな。文字や模様はわからなくても、同じ円形であるという統一性。書かれている文字の共通性。貨幣としての役割をはたすための品質や偽造対処性能。どれをとっても、素人がブラフのために作り上げられるような一品じゃない」
ぐぅの音もでないとは、このことでした。私は渡されたコレが異世界の貨幣であることに確信をもっていました。しかしながら、頭の中で発生した「ありえない」に支配され、反論を試み、心を透かされたように的確な指摘を受け、何も言い返すことができませんでした。
「まぁ、信じられんっていうのはよくわかる。俺もいきなり現れたやつが、『わたし、異世界人ですっ!』て言ってきたら、そういうこと言いたい年ごろなのかなって思うからな」
「申し訳ありません。何を言ってるのかさっぱりわかりませんが、とりあえずあなたを『仮』異世界人として認めます」
「『仮』ってなんだよ。ちゃんと認めろよ。あと、さっき罵倒は素って言ってたけど、今の悪意あったよね?」
わたしの心を突いたことを悟らせぬよう、必死で罵倒しながら話をそらす。
「真の異世界人として認めてほしければ、私の要求を一つ飲んでもらいます」
「スルーするなよ…」
彼はけだるげにため息をついて、
「まぁいい。内容にもよるからな。言ってみろ」
「ボディーチェックをさせていただきます」
「ボディーチェックで何を確認すんだよ」
「性感帯でございます」
「それはナニの確認だろうが。つーか却下だ却下。何言いだしてんのお前。俺のこと好きなの?」
そういって両手で体を抱え身震いさせていました。気色悪いですね。
「なぜそのような結論に至ったか極めて疑問ではございますが、厳密には性感帯に流れている精霊を確認したいのです。
「だとしても場所が場所すぎるだろ。もっとないのかよ確認できるところ」
「そうはいわれましても…
「いやでもな…ん?ちょっとまて、今、心臓付近って言った?」
「さようですが」
「もしかしてだけどさ、人間の性感帯って、その、オブラートに包んで言うけど、胸部のアレだと思ってる?」
「乳首は人間の性感帯ではないのですか?」
「おい、せっかくオブラートに包んだんだから隠せちょっとは。あと、そこは性感帯ではない。そこを性感帯と認めるのは男の沽券にかかわる問題だ」
「そうでございましたか」
「だが、だったらいい。あとで確認してくれても構わん」
疲れた…と男が一人ため息をつく。あなたの相手をしている私もつかれているのですが。
「で、話を戻してゲームで賭けるものだが、俺が勝ったらここの本の閲覧許可。俺が負けたら今日一日の退出義務に加えて、俺の持っている異世界の書をくれてやろう」
「異世界の書ですか」
ここで私は心が躍りました。彼が異世界人であることはほぼ確定していたので、異世界の書という言葉が非常に魅力的に感じました。
彼は小さな声で、「なんでか知らんけど、
「何冊か持ってるが、選択権をお前にやる。一冊だけか、全てを賭けるか。ただし、それぞれで賭けるものがすこし追加される」
「一冊を要求した場合は?」
「俺が勝った時、一日に一回、一冊分の朗読をしてもらう権利を追加する。加えて、俺が負けた場合、一冊を除くすべての俺の本はこのゲーム終了以降、お前は読むことができなくなるように盟約に誓ってもらう」
なるほど。一冊だけを要求した場合は中途半端にうまみが消える。勝利しても一冊だけで我慢しなければならなくなり、欲求不満になるのは目に見えてわかります。
「すべてを要求した場合はどうなるのでしょうか」
「俺が負けた場合、お前には、明日から俺がこの世界の文字を覚えるまで教師役として俺に文字を教える義務と、それまでの間、俺を生かすために養う義務を追加する」
「それは、あなたが勝利した場合の報酬でございますね?」
「いいや、違う。俺が
私は、耳を疑いました。
この男は何を言っているのだろうか。私はそう思いました。そのような条件でのゲームなど、過去に前例がありませんでした。これはつまり――
「それでは、勝っても負けてもあなたにメリットがあるゲームになるではありませんか」
「ああ、そうだ。嫌なら受けなきゃいい。俺は別に構わん」
私はこのセリフを聞いてようやくこの男の真の狙いが分かりました。
この男は、ゲームという名の取引を持ち掛けていたのです。しかも、ほぼ拒否権のない。
異世界の書は我々
ただのゲームであれば、勝利して奪うだけ。しかし、このゲームでは勝利すればあの男を養うことになる。
つまり、異世界の書が欲しければ、俺を養えという分かりやすい要求でした。
この男は、最初からゲームで勝つ気はない。むしろ、率先して負けに来る。
「…やってくれましたね」
苦々しく顔をゆがめ、彼、比企谷八幡をにらみつける。
「悪いが、俺にプレイスタイルなんてもんはない。あるのはこういう悪知恵だけだ」
そうして、一度視線を外してから、彼はこう言いました。
「で、どうする。やるの?やらんの?」
わたしは、ゆっくりと、何とか心を落ち着かせ、
「あなたの持つ異界の書、全てを賭けて、私と勝負してください」
すると、比企谷八幡はニヤリと不気味に笑って。
「オーケー。じゃ、賭ける内容は決定だ。ゲーム内容はチェスでの勝負。どうせお前どっかに持ってんだろ。ルールは普通のチェスと同じ。ただし、引き分けた場合は再度最初からやり直し、決着がつくまで行うこととする。あ、ちなみにこれ以外のゲームじゃ賭けてやらないから」
「…わかりました。それでゲームを行いましょう」
「よっし。ああ、忘れてたけど、そのお前が持ってる硬貨。こんなゲームに乗ってくれたお礼というか、なに?参加賞として、全部お前にやるよ。どうせ使えんし」
そういって、財布ごと私に手渡してきました。その直後。
「マジで悪いな。俺別にゲーム得意じゃないから。こういうやり方しか思いつかないんだわ」
図書館には私と彼しかいないにも関わらず、私にしか聞こえないような小さな声で、謝罪をしてきました。
その時の彼の顔は、本当に申し訳なさそうで。
そのまま私の横を通り過ぎるときの横顔が、なんとなく儚げで。
私は、ほんの少しだけ、心臓がいつもよりも強く拍動するのを感じました。
その後は、何もしゃべることなく、チェス盤を用意し、『盟約に誓って』宣言をしてゲームをしました。
「あんな味のしない勝利は初めてでございます」
ですが、と一言。
「明日から、憂鬱ではございますが、少しは楽しめそうでございますね♡」
迫りくる明日に、今までとは違うような楽しみを見つけて心待ちにしている私がいるのでございます。
話の終わらせ方ってむずかしいですね。
あんまり納得いってないので書き直すかもしれません。
「それはあなたが今までの人生でいかに怠慢であったかの証明にございます」
……
すみませんでした。