せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
何が起こったのか分からなかった。
衝撃と共に視界があっという間に煙で覆われたから。
――警告! 右側飛行ユニット大破。修理不能。
――注意! 左側飛行ユニット内部圧力上昇中。出力を下げてください。
視界に投影された機体のコンディションを示す図で、片方の飛行ユニットが黒く染まり、もう片方は黄色く染まった。また至近距離で爆発があったせいか、シールドエネルギーがごっそり減っている。
嘘だろうと思いながらも、頭に浮かんだのは前世で見たとある映画だった。
そうだ、離陸直後の旅客機を襲ったバードストライク、全エンジンの推力を喪失した時、あの機長は確か、
「メーデーメーデーメーデー! レオ・シキシマよりIS学園管制室!」
『こちら管制室、レオ君。今の状態を教えてください』
「右側の飛行ユニットが爆発、大破しました。修理は不可能。
今の所左側は動いていますが、内部圧力が上昇し続けています。どうなるか分かりません」
『管制室了解。2番発着場を空けました。大至急そちらに向かってください』
山田先生の言葉と同時に最短での飛行ルートが表示される。13秒で到着する距離――だが、
「ダメです、2番発着場まで機体が持たない!」
シュライクは左の飛行ユニットがあと9秒程で限界出力を超え、11秒後に爆発すると告げていた。最悪な事にそうなった場合IS学園の真上で爆発が起こり、下に誰かがいた場合破片が頭上から降り注ぐ事になる。
(冗談じゃない!)
思い出せ、あの機長はどうした。滑走路への緊急着陸も不可能な状況で彼は――
「海に降ります」
『何ですって?』
「できるだけ学園に近い海上に不時着水します」
『無茶ですよ!? 海上じゃ波にのまれます!』
「仮にダメでも、学園の真上で爆発するよりはまだマシです。ISは宇宙開発用に造られた機体。ならこの速度での不時着水にも耐えてくれますよ、たぶん」
私の言葉に山田先生は沈黙し――
『シキシマ、織斑だ。そうまで言うのならそうしろ。近くにいる織斑機とオルコット機もカバーに向かわせるし、先生方の緊急対応部隊も急行する。それまで何としても生き抜け。いいな?』
「わかりました。一応、付近の船舶に警報も」
『済んでいる。今は操縦に集中しろ』
了解の声は返せなかった。左側の飛行ユニットが予想よりも早く限界を迎えたから。
「あぁクソッ、左側ユニット爆発! まずい落ち――!」
――管制室に記録されている音声データは、以上である。
そしてレオの救援に向かっていた織斑一夏とセシリア・オルコットは目撃してしまった。
頭から海面に向かって落ちていくシュライクが爆発四散する光景を。
『シュライクのレーダーロストを確認した。織斑、オルコット、至急学園に帰投しろ』
『そんなっ! レオさんの救助をしないと!』
『……残骸の回収は教職員が行う。お前たちも分かると思うが、その残骸からシキシマのバイタル信号は途切れている。いいから戻ってこい』
「でも千冬姉!」
『織斑先生と呼べ。織斑、オルコット。今すぐに帰投しろ。……次は無い』
信じられなかった。ほんの数分前まで空を飛べる喜びを爆発させていた友人が、もういないだなんて。
ISには絶対防御があるはず。そう思いたくても、高性能なカメラが捉えた着水の瞬間、レオの機体は腕も脚も千切れたまさに残骸になっていた。
――あれでは生きていられない。いや、生きていた方が、レオにとって地獄の苦しみだろう。
そこまで理解が現実に追いついて、
「……ぃ、いやああああああああぁぁぁぁああ!!!!!」
セシリア・オルコットは、絶叫を上げるしかできなかった。
※※※※※
時は少し巻き戻る。
瞬間移動のマジックを見た時、多くの人は驚愕するだろう。タネや仕掛けがあると分かっていても、大小様々な物体や、場合によっては人ですらも元あった場所から違う場所に移動している光景はインパクトが強い。
そしてそれは、
「んな……」
「いやー、死ぬかと思いました」
世界最強と呼ばれ、冷静沈着の見本のような織斑千冬ですら、例外ではなかった。
※※※※※
マジで死ぬかと思ったぞコンチクショウ!!
というか私の機体がブラスト・ランナーでなかったら、加えてシュライクでなかったら本当に死んでいたと思う。
タネを明かすと、私が助かったのはブラスト・ランナーに標準装備されている、『エリア移動』のおかげだ。
『エリア移動』。ゲームでのそれは筐体の画面に表示されている『エリア移動』ボタンをタップすることで自機が数秒間動きを止め、マップ内の自軍が占拠しているプラントまたは自軍のベース(いずれもリスポーン地点)から再出撃するといった機能だ。
ボタンを押してから再出撃地点を選ぶまでの数秒間は完全に無防備になるが、上手くいけば絶体絶命の状況から脱出できたり、いち早く敵の奇襲に対応できたりする。
その数秒間の時間については機体によって差があり、私のシュライクは、ゲーム内に実装されていた各機体の中でも最速クラス。3秒もあればドロンできてしまうのである。
つまり私は機体に救われたという訳だ。シュライクで良かった。
という事を織斑先生と山田先生に伝え(織斑先生は安堵のため息を吐き、山田先生には泣かれてしまった。心配をかけてしまって申し訳ない)、とりあえず私は管制室で待機となった。
そして、
「シュライクのレーダーロストを確認した。織斑、オルコット、至急学園に帰投しろ」
『そんなっ! レオさんの救助をしないと!』
「……残骸の回収は教職員が行う。お前たちも分かると思うが、その残骸からシキシマのバイタル信号は途切れている。いいから戻ってこい」
『でも千冬姉!』
「織斑先生と呼べ。織斑、オルコット。今すぐに帰投しろ。……次は無い」
待って織斑先生、その言い方ってド偉い誤解を招くのでは?
そんな私の危惧は、10数分後に的中することになる。
※※※※※
「うううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
戻ってきて私の顔を見た数秒後、目からボロボロ涙を零して座り込んでしまったセシリアさん。凄く、申し訳ないです……
ちなみに織斑は織斑先生に『紛らわしいわ千冬姉!(意訳)』と半ギレで言いより、『織斑先生と呼べ』と出席簿アタックを食らっていた。食らった織斑が沈んでない所を見るに織斑先生も伝え方を間違えた自覚はあるのかもしれない。
【急募】自分を心配して泣いてくれている(と思う)美少女への対応方法
なお彼女は私機体の残骸が落下していく様子を見て本気で私が死んだと思った模様。
トラウマものだぞこれ……
とりあえず背中をさするくらいしかできない私は、織斑先生に視線でヘルプを出したのであった。
※※※※※
「しかし無事でよかったぜ、レオの機体が爆発したのが見えた時はもう……」
「機体に救われたよ、本当に」
墜落に加え、短距離のワープというIS技術をもってしても実現できていない現象を体験した私は保健室で念入りな検査を受けさせられ、全てが終わったのは放課後になってからだった。
結果は異状なし。しかしセシリアさんとの模擬戦といい、爆発に縁ができてしまった気がする。嫌な縁もあったものだ。
そして荷物を取りに教室へ行くと織斑がいて、一緒に帰る流れになったのである。
「はぁぁ……ようやく飛べたってのにツイてないなぁ」
「そういやあの飛行ユニットってどうなったんだ?」
「あんまり大きな声じゃ言えないけれど、事故なのは間違いないみたい。それでも開発したメーカーには行政処分プラス、一定期間のIS学園出禁だってさ」
「うわぁ……」
そこまで大きくはないメーカーだったけれど、下手したら会社畳むまで行くんじゃないかな。被害者の私が言うのもアレだけど、少し可哀そうに思う。
「そういえばセシリアさんは?」
「寮に戻ったよ、山田先生も一緒だったし大丈夫だとは思うけど」
「そっ、か……」
彼女の事は大いに心配だけれど、原因の身としてはそうとしか言えなかった。
※※※※※
「つっかれた……」
部屋に入るなりベッドに倒れこむ。制服にシワが、と考えが浮かぶけれど疲労感の方が強かった。
『インフィニット・ストラトス』が学園を舞台にしたハイスピードアクション・ラブコメと言いながらも結構ドロドロした闇の部分を抱えているのは原作を読んでいたから分かっているつもりだった。今後転入してくるラウラ・ボーデヴィッヒさんとかドイツ軍どころか人類の暗部だし、『亡国企業』とかいうどう考えても有力な国家の支援を受けたテロリストとかも出てくる筈。
正直に言ってしまおう、この世界を舐めていた。
自分は原作知識を持つ転生者だぞと、どこかで思っていた。
だってそうだろう、二次創作にありふれているオリジナル主人公たちのように『2人目の男性ISパイロット』になり、ゲームで鍛えた腕を活かせる幸運もあってISが相手でもそこそこ立ち回れる技量もある。IS関連の知識の勉強さえしっかりしていれば、高1の春の勉強内容なんてあくびが出るレベルだ。
そして――二次創作のオリジナル主人公が死ぬことって無いだろう?
分かっている。曇らせ展開でもない限り、わざわざ主人公を殺す意味なんてない。危険が危険にならないくらいのチートを持たせてやればいいと考える人もいるだろう。
フィクションだから、創作物だから。エンタメのフィルターで彼ら彼女らを見て――実際に自分の身が危うくなって、ようやく『死ぬかもしれない』と思った。
確かに私は転生してここにいる。でも、『自分がどうやって死んだのか』がどうしても思い出せない。気が付いたら創作の世界に、顔もスペックも良い肉体になって存在していた。だから、死ぬ事がどういう事か、よく分かっていない。
あと1秒、エリア移動が遅れていたら? ――私は海の底に沈んでいた。
もし飛行ユニットが同時に爆発していたら? ――パニックになってロクに動けないまま墜落していた。
――死んでいた。
「……怖い」
手が震える。冷や汗が止まらない。
目を閉じると事故の瞬間が浮かんでくる。
衝撃と同時に足元に火が見えて。消さなきゃって思っても中々消えなくて。
フリーフォール特有の内臓が持ち上がるあの感覚。
そして迫ってくる海面。
「う゛っ!?」
限界だった。トイレに駆け込むと同時に昼食が食道をジャンプしてくる。
胃の中を空にする勢いで吐いても、吐き気は消えてくれなかった。胃そのものが出てくるんじゃないかってくらい吐いて、ようやく気持ち楽になった。
洗面所の鏡にはいっそ笑えるくらいひどい顔が映っている。
この身体は本来『レオ・シキシマ』のものだ。彼が事故で亡くなったのなら火葬され、それで終わりなのが普通なのだ。
そこに『私』が入り込んでしまった。何の因果かは分からない。それでもこうして『私』はここにいる。ここで『生きている』
だからこそ怖いんだ。ようやくかもしれないけれど、死ぬのがどうしようもなく怖い。
不意にやってきた寒気から逃げるように、私は布団に潜った。
――着信、セシリアさん
不意に視界に投影されたメッセージの意味が、一瞬よく分からなかった。『電話だ、取らなきゃ』と半ば反射的に私は電話を取っていた。
「……もしもし?」
『レオさん、その、今はよろしいですか?』
「えぇ、大丈夫ですが」
むしろセシリアさんの方こそ大丈夫ですかの言葉が喉元まで出かかるくらい、普段の自信とプライドを併せ持つ彼女の姿からは考えられないくらい弱々しく、か細い声だった。
『わたくしの事よりも今はレオさんですわ。今回は本当に大変でしたね』
「はは、全くですよ」
『お身体は大丈夫ですか?』
「幸い、特に異常なしです」
どこか空虚な言葉のやりとり。本当は言いたい事があるのに、なぜか引っかかってしまって出てこない。でもそもそも何を言いたいのかが自分でも言葉にできない。
それを誤魔化すように、空っぽの言葉を紡ぐ。仮面を被って、平気なフリをしている。
けれど、そんな私の安っぽい擬態は
『わたくしはレオさんを失ったと思った時、とても怖かった。生きていてくれたと分かった時は周りを気にすることも忘れて泣いてしまいました。だから、レオさん
――あなたも本音を出して良いんですよ?』
本物のお嬢様にはすっかりお見通しで、
「……確かに、怖かったなぁ。
……ゥグッ、すっごく、怖かったなぁ……!」
一度零れた本音と涙は、簡単には止まってくれなかった。
評価、感想、お気に入り登録をよろしくお願いします。