せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
今後とも拙作をよろしくお願いします。
さて、これは個人的な意見になってしまうが、私は鈍感系主人公が嫌いだ。
女の子からの好意に気が付いているけれど今のぬるま湯のような関係を壊したくないからと気づかないフリをする主人公も大概だが、「アタシと付き合ってほしいの!」という告白に対して「お、買い物か? いいぜ」なんて素で返した日には本を閉じて絶叫したくなる。
もちろん鈍感野郎側にも言い分はあろう。だが知らん。
女の子が!
勇気を振り絞って!
好いた男に想いを伝えているというのに!
それを鈍感の一言で切り捨てるのはどうかと思うんだよなぁ!?
第一、相手は一世一代の大勝負に出ているんだぞ? ふつーーーーーに考えて表情から声のトーンから違うと思わないか? 買い物に付き合ってほしいなら気軽にそう言うわ!
次に都合よく現れる難聴! なんなのマジで。電車が通過中の踏切とか、周囲が轟音で満ちている状況なら聞こえないのは分かるぞ。それはどうしようもない。
だが、特に何もない状況で相手の声の大きさも問題ないのに何故好意を伝える声『だけ』聞き取れなくなる? しかもそういう都合の良い難聴を患ってる主人公って他の小さい音とかは無駄に聞こえてるんだよな。ふざけんな。
私が原作の『インフィニット・ストラトス』から離れた大きな理由の一つが、主人公・一夏のクソボケっぷりだった。
では、何の因果かISの世界に迷い込んでしまった私はどうすれば良いか。
教育だ。
織斑の鈍感さを見るのが楽しいんだという人とは分かり合えないと思う。けれど、こればかりは私の譲れない一線でもあるのだ。
宿題と最低限の予習復習をした私は、この世界でも発売されているライトノベルや漫画から、鈍感野郎や難聴患者の出てくる作品をリストアップし、織斑専用の教材を作るべく徹夜も辞さない覚悟を決めるのであった。
※※※※※
「あ゛ぁ゛……む゛り゛ぃぃ~ なんでこんなヤツがモテモテになるのか理解できないぃぃぃ」
数時間後、スマホの電子書籍アプリを閉じた私は机に突っ伏していた。
前世の自分が色々と並以下だったというのもあり、結局私は人生=彼女いない歴で終わってしまった。そんな私が結局のところたどり着いたのは、
『ラノベの主人公なんてハイスペック男子の集まり。鈍感や難聴が目立って見えるのはそれ以外が高いレベルでまとまっていて、しかも読者たる自分はそんな主人公を僻んでいるから』
……という、この世の終わりのような真理であった。
「は、はは……何やってんだろ私。そうだよな、こんなハイスペック男子がモテるのは自然の摂理だよな、あはははは
……死にてぇ」
私は、こんな絶望のために徹夜で作業してたのか……はは、ウケる。
アラームが鳴る。時計を見ると、そろそろ準備を始める時間だった。
(シャワーでも浴びよ)
酷い顔になっている自覚はある。織斑のような主人公にはなれなくともせめて身綺麗にするべく、私はいつもより少し身だしなみに時間をかけた。
※※※※※
「おはようございますレオさん。……大丈夫ですか? 少し顔色が悪いですが」
「おはようございますセシリアさん、少し夢見が悪かったもので」
「わたくしでよろしければいつでも相談に乗りますわ。気軽に声をかけてくださいね?」
「ありがとうございます」
セシリアさんの声がささくれた心に染みる。けどアレかな、この間の墜落を引きずっているように見えちゃったかもしれないな。
「いやぁ、織斑用にと色々用意していたら寝落ちしてしまって。変な姿勢で寝たからかもしれません」
「用意というのは?」
「主に篠ノ之さんと鳳さんの長年の努力に敬意を表して黙秘します」
「それは半分以上答えを言っているようなものですわ……」
苦笑いのセシリアさんを見ながらも、私は内心首をかしげていた。
そもそもセシリアさんはヒロインの1人だ。原作ではクラス代表決定戦で織斑に敗れ、女性にも屈しない男らしさを見せられてキュンと来てしまった。というのがだいたいのセシリアさんルート開始だった気がする。
この世界でもセシリアさんは織斑に敗れていた。原作通りなら翌日あたりにはもう名前呼びしていたはず。
「レオさん? 体調が優れないのならお休みになっては? わたくしから織斑先生にお伝えしますので」
「大丈夫です、考え事をしていただけですよ」
「本当かレオ、無理すんなよ?」
「織斑さんもレオさんの事気にかけてくださいね?」
「おう、任せろ」
いやいやいや待て待て待て。
織斑が苗字呼びで私が名前呼び? ナンデ? セシリアさんが私の事を気になっている? まさか。早とちりは悲惨な結果しか出さない、よく見極めるんだ。
これまではどうせ原作ヒロインは皆織斑の所に行くだろうと思っていたから気にして来なかったけど……
『オルコットさん、あの後何が――』
『セシリアと呼んでくださいな、レオさん。
あなたはわたくしを道連れに自爆したのですよ。完全にしてやれられましたわ』
『私としてはオルコットさんの「セシリア」――セシリアさんのミサイルをまともに受けた時点で負けだと思っていますよ』
ア゛ッ!?
模擬戦の後から変わり始めた態度と呼び方、セシリアさんに勝ったのは私も同じ、そして原作主人公かつハイスペック彼氏な織斑の事は未だに苗字呼び。
「そ、そうだセシリアさん」
「なんでしょう?」
「今度高機動時の精密射撃について教えてほしいことがあるんだけど」
「えぇ、喜んで!」
にっこりと、花が咲くというたとえがピッタリの笑みを浮かべたセシリアさんを見ながらも、私は背中に汗が浮かぶのを感じていた。
私はオタクである。原作を堪能し、好みの二次創作を求めてネットの海に潜り、時と場合によっては自分で二次創作してしまう。そんなありふれたオタクである。
私はハッピーエンド厨である。多少の鬱展開も大団円に向かうなら許容できるが、曇ったまま終わるというのは苦手である。だがNTR、テメーはダメだ。
そんな私が、どういった訳か推しの原作ヒロインに好感を持たれているかもしれないと考えてしまった時に取った行動は――
(まだだ、まだ決めつけるのは早い。もう少し様子を見よう)
現実逃避であった。
笑いたければ笑え、臆病だと言いたければ言えばいい。でもその前に少し考えてみてほしい。
今さらの話だが、IS学園はほぼ100%女子高である。当然だ、私と織斑を除いてISを動かせる男性は今の所見つかっていないのだから。
そして、普段はIS操縦者などそれぞれの思い描く未来のために努力し切磋琢磨し合う彼女たちも、やはり年頃の女の子な訳で。
下手に私がセシリアさんを意識するような行動を取ってみろ、その噂は光よりも早く学園中を駆け巡り、まして単なる私の早とちりで『わたくしはお友達と思っていたのですが』なんて事になった日には私は軽く死ねるし、その事も猛スピードで学園に広がる。この世の地獄かな?
故の逃避! 故の棚上げ! 私の棚はあと108段あるぞ。
勘違いしてほしくないのは、私は決してセシリアさんが嫌いな訳ではないという事だ。だって推しだぞ? 原作の挿絵やアニメでもとんでもなく魅力的だった彼女が目の前にいて、その上毎日おしゃべりしたり射撃訓練したりと、ちょっと特殊だけど青春してるんだぞ? これで何も思わない方がどうかしてると思う。
じゃあ、もし彼女の好意が本物だったらどうするのか。――その答えは私の中でまだ出ていない。
何せ推しなのだ。途中で冷めてしまった私が言うのも身勝手ではあるが、少なくとも私は、一夏の鈍感っぷりに辟易としながらも彼女たちヒロインの幸せを願っていた。
原作小説を全く追っていなかったから完結したのかもそもそも今何巻まで出ているのかすら分からないけれど、その気持ちに嘘はない。
分からないんだ。
例えば今、織斑に好意を寄せている篠ノ之さんや鳳さんを洗脳して自分に好意を向けさせればそれは私的にNTRだ。地獄に送ってやる。
じゃあセシリアさんは? 原作ヒロインながら特に織斑に好意を寄せている風もなく、むしろ私に矢印が向いているかもしれない。
私みたいな人間が、誰かに好かれる?
私は織斑のような出来た人間ではない。
嫉妬もするし見苦しい所もたくさんある。時と場合によっては卑怯な事も平気な顔でできると思っている。そんな私が? 冗談だろう。
スンッと、浮ついていた気持ちが醒めた所で、改めて今の状況を把握する。
今の私のミッションは何だ? 昨日必死になって作った対鈍感野郎用教育プログラムを織斑に学ばせることだ。ならフワフワした気分じゃいられない。相手は『あの』ワンサマーだ、長らくネット界隈で鈍感主人公の代表のようにネタにされてきた相手だ。生半可な姿勢で挑めばこっちがやられかねない。
「織斑、コレを渡しておく。時間のある時で構わないから読んでほしいんだ」
「なんだこれ?」
「国語の過去問みたいなものだよ。問題の数はそこまで多くないし、回答も4択から選ぶスタイルだから、たいして時間は取らせない。頭の体操くらいに思ってやってみて」
「おう! できたら渡すよ」
さて、賽は投げられたぞ――!
※※※※※
織斑に渡した試験問題の中身は、古今東西の鈍感系主人公たちのやらかしをまとめた物だ。篠ノ之さんと鳳さんにも見てもらい、太鼓判を貰っている。
これが解けるなら彼女たちの努力も報われる可能性が――!
『夕暮れに染まる教室には、俺と彼女の2人しかいなかった。
しかし、どうして彼女はわざわざ放課後の教室に俺を呼び出したんだろう?(問1)
〈あ、あのっ! 来てくれてありがとね〉
〈特に予定も無かったし大丈夫だぞ。ところで、用事って何?〉
〈う、うん。あのね……
私と、つきあってほしいの!〉(問2)
どこか思いつめたような彼女の顔は、夕陽のせい以上に赤く染まっているようにも見える。幼馴染の彼女とは長い付き合いだが、いつも見ているのにどこか大人びて見えて少しドキッとした。
だから、俺は――
〈おう、いいぜ〉
〈……ほぇ?〉
〈この間リニューアルしたあのショッピングセンターだろう? あそこ俺も気になってたんだよな〉
〈……は?〉
昼間、彼女が友達とその話で盛り上がっていたのが聞こえていた俺としては、手伝いの1つや2つ喜んでやるつもりだったのだ。
〈ば……〉
〈ば?〉
〈バカぁぁぁあああ!!!〉
〈ぶっ!?〉
だというのに彼女は俺に強烈なビンタを食らわせると、そのまま走り去ってしまった。なんなんだよ……
※※※※※
思わずぶっ叩いてしまった勢いのまま教室を飛び出してしまった私は、しばらくして適当な柱にもたれかかった。
はぁ……
〈なんであんなヤツ、好きになっちゃったんだろ〉』
問1 『彼女』が『俺』を呼び出した理由として当てはまるのは次のA~Dの内どれか。
A 他の人に聞かれたくない大事な話をしたかったから。
B 『俺』を憎んでいて闇討ちしたかったから。
C 特に大事な話ではないが、他に時間がなかったから。
D ドッキリを仕掛けるのに都合が良いから。
織斑一夏の回答『 A 』←正解
問2 『彼女』の〈付き合ってほしい〉の言葉の意味を次のA~Dの内から選べ。
A 次の休日に買い物に付き合ってほしい。
B 男女のお付き合いをしてほしい。
C 己が誇りを懸け、拳と拳の突き合いをしてほしい。
D これから仕掛ける茶番劇に乗ってほしい。
織斑一夏の回答『 B 』←正解
「こ、これは……!」
正解している。正解している!?
「お、おぉ……!」
「成長したのね一夏……!」
問題の作成に協力してくれた篠ノ之さんと鳳さんも嬉しそうだ。
「さて、お膳立てはここまでです。2人の健闘を祈りますよ」
「助かった、シキシマ」
「礼を言うわ。正直どうにもならなかったもの」
「さて、鳳」
「鈴でいいわ」
「そうか、私も箒で構わない。
シキシマがここまで骨を折ってくれたんだ」
「そうね。後は真剣勝負。誰がアイツの隣になっても恨みっこなしよ」
おぉ、この2人にもこう、健全なライバル関係みたいなのが生まれてる!
と、改めて問題文を読んでいた織斑が近づいてきた。
「しかしレオさ、この問題の主人公だいぶひどい奴だよな。
鈍感なのも大概にしろっていうか、そうはならないだろって何度も思ったぜ。
特に『付き合ってほしい』ってアレどう考えての告白なのに買い物に付き合ってって解釈するのは俺もどうかと思ったわぁ」
「落ち着いて2人とも、ISはやめるんだ」
掃除が面倒でしょう。
何で小説の中で小説書いてるんだ私は……?
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