せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
今日の授業も充実したカリキュラムだったのは間違いない。
急降下からの地表スレスレで急停止を決めようとしていた山田先生を墜落と勘違いした織斑が受け止め、挙句にラッキースケベをかましたり(篠ノ之さんと鳳さんにシバかれるまでがセット)、織斑とデュノアさんがクラスの女子たちとキャッキャウフフして織斑先生にどやされたり(私は普通にやった。決して視界の隅にちらつく『青』が怖かったわけではない。ないったらない)とまぁあったが、授業そのものは順調だった。間違いない。
問題は。
「「一夏!!」」
篠ノ之さんと鳳さんに「あーん」を強要され両方のほっぺが圧迫されている織斑、ではもちろんなく。
「れ、レオさん。よろしければわたくしのサンドイッチもお一ついかがですか?」
はにかみながら私に劇物を差し出すセシリアさん。
そうか、今日が私の命日だったか。
(助けてくれ織斑、篠ノ之さん!)
目線で2人に助けを求めたが、視線が合う前に逸らされてしまった。この薄情者ぉ!
この際藁だろうがすがってやる、事情を知らない鳳さんとデュノアさんなら助けてくれる――
「レオさん、その、あーん……」
※※※※※
強烈な甘みで意識が戻った。
何だ、今のは。
おかしい、確かに私は迫りくるメシマズ兵器を回避しようと抵抗をしていた筈。
なのに何故、『私はセシリアさん謹製めちゃ甘サンドイッチを食べている』……!?
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『私はどうにかして食べるのを回避しようとしていたセシリアさんのサンドイッチをいつの間にか頬張っていた』
何を言っているのかわからないと思うが、私も何をされたのかわからなかった……
頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなものじゃあ断じてない
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……
記憶が飛んだ衝撃で忘れていたが、そもそも今私の口には劇物が入っている。今はまだアホみたいな甘さで済んでいるが、その内ディープなインパクトが……
来ない。
おかしい、前の経験を踏まえるとそろそろ意識がぶっ飛んで、その後2~3日はお腹のコンディションが微妙な事になる筈なのに。
「お、おいレオ」
「シキシマ、大丈夫なのか?」
「あぁ、大丈夫だ。ちゃんと食べられる」
「……ねぇ、いまいち話が見えてこないんだけど? あ、セシリア、アタシにも1個ちょうだい」
「それなら俺も」
「僕も1個もらおうかな」
「うむ。私も頂こう」
「大丈夫ですわ。いっぱい作ってきましたので」
とにかく甘いサンドイッチ(フレッシュトマトとレタス、チーズを挟んだオーソドックスなもの。どうやったらここまで甘くできるんだろうか?)の残りを食べていると、他のみんなもセシリアさんからサンドイッチを受け取っていた。
「あ、ふぁっふぇ(あ、待って)」
「飲みこんでから喋りなさいよ行儀悪い。じゃ、セシリア、いただくわね」
「はい!」
止める暇なんてなかった。
伸ばした手は何も掴めず、希望はいつだって指の隙間から零れ落ちる。
計ったようなタイミングで4人はサンドイッチを食べ、ほぼ同時に噴き出した。
「ぶっ……何よコレ!?」
「あっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっま!?」
「シキシマ……図ったな?」
「え? そんなことないよ。ちゃんと『食べられる』じゃないか」
「誰が『食品として』食べられるかなんて聞いたのよ!? こっちは『料理として』食べられるか聞いてんのよ!!」
「だってほら、食べても全員無事でしょう?」
「レオ、お前まさか前回の時に味覚が壊れて……」
「失礼だな。甘党だよ」
「あの、皆さん大丈夫ですか……?」
おずおずと。まさにおっかなびっくりといった様子でセシリアさんが声を発する。
その場の全員が一斉に彼女の方を向いた。その表情は、無。ホラー映画ばりの光景を見せつけられたセシリアさんが軽い悲鳴をあげる。
「ふふふ、面白い事言うわねセシリア」
「あぁ全くだ。これがブリティシュジョークというやつか」
一見するとにこやかに。しかし目だけは欠片も笑っていない笑顔で詰め寄る鳳さんと篠ノ之さんを、私は片手で制した。
「止めないでシキシマ、コイツに食材のありがたみを叩き込んでやるんだから!」
「そうだ、ここで甘やかしても彼女のためにならん!」
「だからこそですよ2人とも。まぁここは私に任せてください」
そして私はセシリアさんの前まで進み、腰を下ろす。目線を同じくするためだ。
にっこり微笑む。相手に安心感を与えるために。
「セシリアさん」
「は、ひゃい」
「あ。噛んだ」
「嚙んだわね」
「嚙んだな」
3人から口撃を受けて真っ赤になるセシリアさん。ふふ、かわいいね。
だが容赦はしない。
「ではこれらのサンドイッチを食べましょうか」
見た感じバケットに残っているサンドイッチ(激甘)は残り2~3個。大丈夫、十分食べきれる数だ。
「あ、あの、レオさん? 先ほどの皆さんの様子からして相当味が大変なことになっているようなのですが……」
「食べましょうか」
「あの」
「食 べ ま し ょ う か」
「え、何アイツこっわ」
「すっげーいい笑顔で圧力かけてるぜ……」
「待て、セシリアの様子がおかしいぞ」
「ま、待ってください、栄えあるオルコット家の当主たるわたくしがこのような……」
「貴族の当主たるもの自分の失敗は自分で雪がねばいけませんよねぇ? そうでしょう、『セシリアお嬢様』」
「はぅっ」
(アイツあの状況だってのにまんざらでもない顔してるわ……っ!?)
(それだけではない、おそらくは敢えて貴族の名を出すことによって自分の事をお嬢様と呼ばせている。……なんという策士ッ!)
「……オルコットさんって、結構凄いことやるんだねぇ」
「うわぁ、レオの奴おっかないわ~」
「「……はぁぁ」」
「どうしたんだよ2人とも、人の顔見てため息なんかついて」
「なんでもないわ」
「あぁ」
この状況を客観的に見ていた者がいるとしたら、レオとセシリアの様子をこう評しただろう。
『ドS執事に言葉責めされながらサンドイッチを食べさせてもらおうとしているお嬢様』
一部の者に大ウケしそうなシチュエーションではあった。
「自分では食べられませんか? それなら」
「ひゃうぅ!?」
(バカな、あーんだと!?)
(これはセシリアも予想外みたいね……アレ、その内沸騰するんじゃない?)
(いい薬だ。しばらくそのままにしておこう)
「レオの奴本当容赦ねぇな……アレを無理やり食べさせるなんて」
「当の本人はちょっと幸せそうだけどね」
「いやいや、まさか!」
盛り上がる外野。しかしレオはというと、
(あ、これヤバいクセになりそう。
いやいやいやダメだろういったん落ち着け
……んやっぱ無理ぃぃぃい!!!)
己が理性と激闘を繰り広げており、外野の声は全くと言っていいほど耳に入っていなかったのである。
ちなみに両者の現状だが、セシリアは当初普通に座っていたのだがレオの圧に押される形で後退。フェンスに背中を押し付けるような形になっている。
一方のレオは、そんなセシリアにサンドイッチを食べさせるべくかなり接近しており、ふと我に返ると涙目の推しが上目遣いで己を見ている。そんな状況に軽く卒倒しかけた。
敢えて言おう。バカであると。
※※※※※
やはり私は何らかのスタンド攻撃を受けているのかもしれない。
さっきは一瞬意識が飛び、どうにかして食べないで済むように画策していたセシリアさんのサンドイッチを食べていたし、今は気が付いたらセシリアさんに迫ってサンドイッチを口元に近づけている。
ふと視線が彼女に唇に吸い寄せられ――全神経を総動員してそこから視線を引きはがした。
このままでは危険だ、私の理性が保たない。
「さぁセシリアさん、口を開けてください」
そう、セシリアさんにこのサンドイッチを食べさせてしまえば私の勝ちなんだ。食べさせてしまえばここから距離を取れる。後は水でも被って心頭滅却するとしよう。
そしてセシリアさんがその口を開けて――
「――ッ!? 甘っ!? なんですのこれ!?」
「セシリアさんが自分で作ったサンドイッチですよ」
「まさか! トマトとレタスとチーズのサンドイッチがこんな味になるはずありませんわ!」
「それこっちのセリフなんだけど!?」
「鈴、落ち着けって」
「セシリアさん、一つお聞きしたいのですが」
「な、なんですの?」
「味見、しましたか?」
「味見……?」
あっ(察し)
「ちなみに、このサンドイッチに砂糖を使った理由をお聞きしても……?」
「トマトには砂糖をかけて食べると美味しいと聞いた覚えがありまして……」
「それはおそらく塩ですねぇ」
ここまで言って聞かせて、自分の生みだしたブツを味わって、セシリアさんも自分の料理がかなり不味い状況にある事を悟ったのだろう。先ほどまでとは違た意味で顔は赤く染まり、手は固く握り締められている。
「その、皆さん、申しわけ」
「ちょっと失礼」
残っていた2つのサンドイッチをいただく。うむ、甘い。だけどフルーツサンドみたいな物だと思えば物理的に食べられない程ではない。
「私もそこまで料理をする方ではありませんが、だからこそレシピ通りに作ることを心掛けています。オリジナリティーを出すのはもっと上達してからでもできますからね」
「レシピ通り……」
「あぁ、初心者がやりがちなミスかもね。『こうすればもっと良くなるんじゃないか』って思って失敗しちゃう奴」
「鈴さん……」
「私も身に覚えがある。レシピには先人の知恵が籠っているのだ」
「箒さん……」
「ま、そう落ち込むなよ。誰かぶっ倒れたわけでもないんだしさ!」
「織斑さん……
そうですわね。失敗は成功の母、ここで立ち止まるわけにはいきませんわ!
皆さん。このような失敗作を食べさせてしまったこと、お詫びしますわ。
厚かましいかもしれませんが、わたくしに料理を教えてください。
今度こそ、みなさんに『美味しい』といっていただけるような料理を作ってみせますわ!」
そうやって立ち上がるセシリアさんは、こう言っては失礼かもしれないけれどとてもかっこよくて、
「ちょっとセシリアァ! 何をどうやったらサラダがこんな色になるのよ!?」
「彩りが足りないかなと思いましてマニキュアを……」
「食材に化学薬品をかけるなぁ!!」
「セシリア、この香りはなんだ……?」
「香りづけに香水を……」
「香水はやめよう。死人が出る」
「セシリアさん。レシピ通りにやって、一回食べてみよう。ね?」
死因が『毒殺』になるかもしれないと、震えが止まらない私であった。
※※※※※
「できましたわ! ついに完成したわたくしの初めての成功作! これであの日のリベンジを果たせますわ!」
数日後のお昼休み、その時はやってきた。
セシリアさんの背後に立つ面々――鳳さん、織斑、篠ノ之さん――はいずれもやりきった表情をしていて、激闘が繰り広げられたのだと無言で語っている。
そして、バスケットを持つセシリアさんの手を見れば、数枚の絆創膏が。
「セシリアさん、一つ聞かせて下さい。
どうしてセシリアさんは、ここまで完成にこだわったんですか?」
IS学園の学食は控えめに言っても最高だ。世界中の料理を割安で食べられるし、食材も良い物を使っているんだとその味で主張している。
料理が趣味な人以外で、わざわざ自作にこだわる必要なんて無いのだ。
「ご存じかもしれませんが、わたくし、負けず嫌いですの。
それに――
レオさんに、美味しいって言ってもらいたかったから」
その言葉に、その表情に、
どうしようもない程の衝動が胸の奥から湧き上がるのを全身で抑えて、私は彼女から完成したサンドイッチを受け取った。
「いただきます」
その味については、わざわざ言うまでもないだろう。
メシマズ回が過去最高に長いってマ?
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