せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
古来より人間は戦争を繰り返してきた。
最初は拳や転がっている石、あるいは木の枝で殴り合っていたのかもしれないそれは次第に洗練され、より効率よく、より多くの敵を殺すために進化を続けてきた。
そして今、戦争の道具はISになった。危険な猛獣を遠距離から狩るための弓矢が、敵を遠くから射貫くために使われたように、鉱山での採掘作業が安全になるようにと開発されたダイナマイトが、戦争で多くの人命を奪ったように、どこまでも続いていく宇宙で活躍することを夢見て作られたISは、世界各国が血眼で開発を進める戦略兵器となった。
まぁ個人的に言わせてもらえば、ISのお披露目になった『白騎士事件』で件の機体がやらかした事を考えれば、戦略兵器なのも無理はないと思うけれど。
――『白騎士事件』、今から10年くらい前、世界中の軍事基地がハッキングされ、核を含む各種ミサイル2000発が一斉に発射された。ミサイルの行先は、日本。
オーバーキルにも程がある攻撃だ、自衛隊に在日米軍の総力を結集しても防ぎきれない。そして防ぎきれなかったミサイルに『当たり』が搭載されていたら。着弾点に人工の太陽が出現し、地獄が生まれていただろう。
しかしそうはならなかった。
どこからともなく現れた第1世代のIS『白騎士』によって、飛行中のミサイル全てが撃墜されたから。
2000発のミサイルだ。アメリカやロシア、中国にEU、軍事力に優れた国や集団は存在するが、それだけのミサイルを全て撃墜するなんてまず不可能だろう。
しかし『白騎士』は、それをたった1機で成し遂げてしまった。
軍事評論家は腰を抜かしたし、軍人は顔を青くしたし、各国の株価はジェットコースターの如く上下を繰り返した。
ISの開発者である篠ノ之束博士はその後姿をくらませたらしいが、これだけの事をしでかしておいてISが兵器として見られないと本気で思っていたのだろうか。もし本気でそう思っていたのだとしたら、バカと天才は紙一重を地で行っている人なのかもしれない。
そんなにISを宇宙に行かせたかったのなら、どっかの大企業みたいに自社でロケットの打ち上げとかやったら良かったと思うし、どうしてもミサイルを使うんなら、弾頭部分にISを格納して打ち上げ、より宇宙に近い所から発進する、なんてやり方も『白騎士事件』の後各国の追跡を振り切って消えた白騎士のステルス性能ならできたような気がする。
とはいってもこれは結果論だし、私程度の凡人が考え付くようなことを、稀代の天才様が気が付かなかったとも思えない。きっと何かしらの事情があったのだろう。頼むから事情があったんだと言ってくれ。
話が逸れたが、結局のところISは今の所戦うための物というのが一般的な見方なのだ。
「で、だ織斑。確かに織斑は腕を上げた。でも今のままではセシリアさんにも鳳さんにも勝てないままだ」
放課後、限られた条件で戦う方法について織斑に泣きつかれた私は、せっかくだからとデュノアさんも誘ってアリーナへとやってきていた。よく見ると少し離れた所でセシリアさんと鳳さんが篠ノ之さんに何やら教えている。
「うーん……分かっちゃいるがはっきり言われると悔しいな」
「一夏の場合、真っ直ぐに動き過ぎなんだよ。『白式』は確かに凄く速いけど、直線的な動きはそれだけ予測もしやすいんだ」
「あれだ、野球と似てるかもしれないな。ピッチャーがどれだけ速い球を投げても、ストライクゾーンど真ん中だったら打たれるだろ?」
「そう言われると分かりやすいな。そうなると大事なのは動きの緩急か」
「むむむ、だから私もそう言っていただろうに」
「人の話を聞かないからよ」
「アレで分かれって方が無茶だろ……ってか聞いてたのかよ」
その点については織斑に同意だ。
篠ノ之さんと鳳さんは、絵に描いたような天才タイプで、残念ながら教師にはなれそうもなかった。
『そこをドーンで、ズバッと行くんだ!』
『え、今ので分かんないの? なんとなく分かるでしょ』
正直に言ってこの2人が訓練を買って出てくれても意味がないと思う。
私の射撃の師匠であるセシリアさんは理屈の塊のような指導方法だが、それはつまり『最適解を言葉にして伝えられる』という事でもある。実際彼女の言う通りにできるだけ近づけて行動してみると、自分でも驚くほど成果が出る事もあるのだ。
もちろんセシリアさんのオーダー通りにやるのはかなり難しい。そもそも狙撃という方法そのものが高度な技術と計算が必要なのだ。
体の角度や腕を伸ばす長さをセンチ単位や1度単位で修正するよう要求されるため、1発撃ってから次を放つまでに今の自分ではそれなりの時間がかかる。精密な狙撃を連続して行えるセシリアさんとの差を考えると遥か高みすぎてめまいがする。
けれどそれと同時に、同い年の彼女がそこまでの技量を修得するまでにどれだけのものを払ってきたのかという事が嫌でも見えてきてしまい、どうにも切ない気持ちになってしまう。
セシリアさんに限った話ではないが、私は、人に教えを乞う時はその教えをできるだけ忠実に守るようにしている。教えてくれる人がその技術を身に着けるまでに払った犠牲に、報いるために。
さて、織斑の『白式』だが、残念ながら彼の機体は純度100%の近接特化機体で、驚くことに射撃用のセンサーの類すら搭載されていないらしい。そうなると彼が射撃武器を使おうと思ったら、誰かが持っている武器を借りるしかなく、それで借りたとしてもIS用の大口径銃の反動を受けながら使うしかないという、かなりの高難易度なのだそうだ。もう当たれば儲けものくらいに割り切った方が良いかもしれない。
「デュノアさんの機体は『ラファール・リヴァイブ』だっけか」
「正確に言うとそのカスタムモデルだね。2回目の改装だからカスタムⅡ」
「おぉ、よく分からないけどなんかかっこいいな!」
織斑の気持ちはよく分かる。ラファールが『疾風』とか『突風』という意味があり、リヴァイブは『復活』とかそういう意味。それにカスタムⅡの2はギリシャ数字と、心の中の永遠の中学2年生が大騒ぎだ。
「とは言っても俺の『瞬時加速』は直線の動きしかできないんだよな。レオだったらどうする?」
「私だったら? うーん……」
少し考える。高機動の近接オンリーな機体でどう立ち回るか。
いくらISのセンサーが高性能とはいえ、人の常識はそう簡単には消せない。相手が視界から消えたら、そっちの方を向かざるを得ない。『例え、ISのセンサーで相手の場所が分かったとしても』。
そこを、突く。
可能な限り低空を、地面と平行になるように飛びながら、滑るように近づく。相手に頭をさらすのは被弾を考えると怖いかもしれないけれど、たぶんその姿勢が一番相手に向ける面積が少なく被弾の可能性を抑えられる。
そして、剣の間合いに入る2秒前、相手はもう近づけさせないと全力で弾幕を張るし、発砲から弾着までがほぼ同時になるため被弾の可能性が極めて高くなる。そうなった時に上へ飛ぶ。
相手からしたら目の前の敵機が消えたように見えるだろう。一瞬動揺し、次に機体が発する接近警報で我に返る。上手くすれば武器をまだ正面に向けているかもしれない。そうなればたぶん詰みだ。銃をこちらに向けるまでのコンマ数秒で剣が届く。
「もちろん相手が剣に詳しかったり、めちゃくちゃ勘が鋭かったりすると敵機を見失った瞬間に距離を取ったりするから、この戦法も完璧じゃない」
「でもかなり使えそうなやり方だよな! 今度試してみるよ」
「それもいいけれど、何か戦法を考えたら、『自分がそれを受ける相手だったらどう対処するか』も考えるといいぞ。戦法の穴を見つけられるし、相手の心理が分かれば次にどう動けばやりやすいかも分かってくる」
「……シキシマ君って、本当にこれまで民間人だったの?」
「えぇ。IS適正が判明するまでは、ゲームが好きな普通の男子でしたよ」
「凄いね、代表候補生の訓練みたいだったよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいですが、策とも言えない浅知恵ですよ」
「これが日本人の謙遜ってやつなんだ……」
「いや、空も飛べない奴が飛行前提の作戦練ってる時点で穴だらけでしょうに」
前の爆発事故があってから、機体関係で私に依頼をしてくる企業はめっきり減ってしまった。私としては早くまた空を飛びたいのだが、来るのは飛行とは関係のない補助部品やら武器やらとそんな依頼ばかり。いや、お給料が嬉しいから受けるけれども。
と、考え事をしていると、織斑の顔が目に見えて強張った。
「織斑? どうし――」
「おい」
冷たさすら感じるような声がその場に降り注いだ。
振り返ると、『黒』がいた。
「織斑一夏、私と戦え」
織斑しか見えていないその瞳に憎悪を宿し、
ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒが、第3世代IS『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ってそこにいた。
※※※※※
「ねぇセシリア、あれ……」
ただならぬ雰囲気をまず感じ取ったのは、近くで訓練を行っていた鈴であった。訓練を行いながらも一夏を気にかけていたためにいち早く気が付いたという側面もあるが。
「あれは……ボーデヴィッヒさんですわね」
「ちょっと、マズくない?」
鈴もラウラが転校初日に『やらかした』事は把握している。想い人とドイツの軍人との間に何があったのかは気になる所だが、とりあえず今は脇に追いやる。
「あれがドイツの第3世代機ですか……」
「それはアタシも気になるけれど、ちょっと雰囲気悪いし、止めた方が良くない? アイツ、今にもぶっ放ちそうよ」
「まさか……彼女は正規の軍人と聞いています。そのような事は……いえ、分かりませんね」
「何で今アタシの方見たのよ。
――まぁいいわ。それより、箒、悪いけれどアリーナの担当の先生がどっかにいるはずだから呼んできてくれる? あとこの辺りの生徒も距離を離して」
「それは――いや、分かった。すぐに呼んでこよう」
「では、わたくし達は時間を稼ぐ事にしましょうか」
「とは言っても連携も何もないし、足引っ張んないでよね」
「こちらのセリフですわ」
代表候補生2名は、静かに覚悟を決めていた。
※※※※※
「私と戦え」
「いや、断る」
即答。織斑としても初対面でビンタされたのもあってか言葉が固い。無理もないが。
「えぇと、ボーデヴィッヒさん的にはどうして織斑と戦いたいんです?」
「誰だお前は」
「えぇ……」
いや、確かに一言もしゃべった事はなかったけれど、クラスに、いや、世界に2人しかいない男のISパイロットを『誰だ』と来ましたか……正気かな?
「レオ・シキシマ、一応クラスメートですよ」
「そうか。お前に用はない。消えろ」
「まぁそう冷たくしないでくださいよ。こちらとしても織斑との訓練中だったもので驚いているんですから」
ボーデヴィッヒさんの後ろで篠ノ之さんが他の生徒を後退させている。さらにセシリアさんと鳳さんがこちらを険しい表情で見つめているのに気が付いた。
(あの様子だとおそらく先生にも通報済み。ならば私がすべきなのは時間稼ぎ!)
こちとらこれでも元社会人だ。面倒なお客さんとの会話方法だってある程度は心得ている。
「チッ。織斑一夏が織斑教官の弟なのは知っているな」
「えぇ。それはもちろん」
「そいつのせいで教官はモンド・グロッソ2連覇という偉業を成し遂げられなかったのだ。故に私はそいつを認めない。以上だ。
さぁ、織斑一夏。私と戦え」
うっそだろ、彼女、こっちにまるで関心を持っていない……?
織斑姉弟の過去といい色々と衝撃を受けていると、織斑はとうとう決定的な言葉を告げてしまう。
「だから断るって。そもそも戦う理由がない」
「そうか、なら嫌でも戦わせてやる!」
これはマズいと思うのと、ボーデヴィッヒさんのレールカノンが火を噴くのは同時だった。
「マジかよ、やりやがった、やりやがったぞあの野郎!」
織斑はISを展開していなかった。生身であの大砲を食らった日には死体も残らないぞ。
「こんな場所でいきなり戦闘を始めようだなんて、ドイツ人って随分と沸点が低いんだね。ビールだけじゃなくて頭もホットなのかな?」
私の心配は杞憂に終わった。機体を展開しシールドを構えたデュノアさんが織斑を完璧に守っていたから。
「貴様……フランスの骨董品ごときで私の前に立ちふさがるとは」
「量産の目途も立たないドイツのルーキーよりはやれると思うけど?」
「それなら、まずは貴様から……ッ」
「おぉ怖い怖い。ドイツ軍では非武装の民間人にいきなり大砲をぶっ放すように教育されてるんですねぇ」
「IS未満のゴミが、調子に乗るなよ?」
ジャコ、と敢えて大きな音をたてて私はワイドスマックのポンプを動かす。
「そのゴミにあっさり後ろ取られて何言ってるんですかね、ドイツの『軍人』さん?」
ぶっちゃけるとめちゃくちゃ怖い。でもセシリアさんからプライベートチャンネルで先生が到着したと教えてもらったから耐えられる。
『そこ! 何をしている! アリーナ内での無許可戦闘は厳罰だぞ! 学年とクラス、出席番号を述べよ!』
「……ふん、今日は引こう」
興が醒めたのか、ボーデヴィッヒさんはあっさりISを解除すると、すたすたと歩き去ってしまった。
「いや、主犯なんだから残れよ」
思わず呟いた私の言葉は、風に流されて消えた。
現実も大概引き金軽いか……(崩壊したウクライナのダムを見ながら)
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