せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
そして日々の誤字報告が私の生きる糧になりましてよ!
朝の教室。誰かが入ってくるたびに挨拶、昨夜のテレビドラマの展開、今度の週末の予定、今日の授業への軽い怠さといった会話が飛び交う。
そしてそれらは全て前段。「それで聞いた?」と本命の話題が来るのだ。
その『噂』は2~3日前から出回り始め、ティッシュペーパーに水がしみこむよりも早く広まった。
『タッグマッチトーナメントの優勝者は織斑一夏と交際できる』
その話を聞いて、衝撃を受けなかった者はほとんどいないだろう。私もビックリした。織斑がいつの間にか優勝賞品になっていることに。やっぱりIS学園はマッポーなんだなぁって(諦めの境地)
どういう訳か私は賞品にはなっていないようだ。クラスメートも含め数人に確認したけれど、全員がそんな話を聞いた覚えはないって言っていたし。
そんな会話をBGMにタブレット端末でニュースをザッピング。前世とはまるで違う所もあれば、さほど変わらないものもあったりと、結構見ていて面白いのだ。
(……欧州連合のイグニッション・プランねぇ。イギリス・ドイツ・イタリアが鎬を削る状況か。そういや前世でも日本はイギリス・イタリアと組んで次期主力戦闘機開発がどうとか言ってたな。あの計画、私が死んだ後はどうなったんだろ? んでもってそのコンペにフランスのデュノア社も何とか入ろうとしている、と。いやー厳しくない?)
そして思い出すのは、まさに昨日対峙したボーデヴィッヒさんの機体。まだ試作段階らしいが、アレがドイツのレーゲン型だとするならば。
(アレとタイマンは勘弁願いたいなぁ。肩の大砲とか絶対重火力の榴弾砲クラスの威力ありそうだし。タイタン? どころじゃないか、最悪ギガノトクラスもあり得るのか。まぁタイタンだろうがギガノトだろうが直撃を貰ったらワンパンだけど。ていうか直射できる重砲とか反則でしょうに。弾速と弾の種類によっては撃たれるイコール死になるな)
ある程度の高度から榴弾砲をひたすら撃ち下される。ダメだ、ミンチになる未来しか見えない。
(結局、相手を挑発してこっちのフィールドに引きずり下ろすしかないのよね……)
コマン〇ーのラストシーンではないが、相手が『野郎ぶっ殺してやらぁ!』となるようなドぎつい挑発をして、冷静な判断ができない状態にする。相手が私を雑魚だと見くびってくれればその必要も無かったりするが、IS学園に入学してからもう2か月。私の戦闘スタイルは知られていると想定するべきだろう。
その上で『コイツは直接この手でヤる』と思わせるほどの挑発って、何言えば良いのよ……ていうかそんな事言った日には私学園で居場所なくすんじゃないかな?
アカンこれじゃ試合に勝てても針の筵になるゥ!
しかも挑発というのは諸刃の剣でもあるのだ。激高して我を忘れてくれれば良いが、相手がベテランとかだとその怒りを自分の力に変えて向かってきたりする。そうなると、圧倒的格上にわざわざバフをかけてしまうようなもので、ただでさえ低い勝ちの目がほとんど0になってしまうのだ。
なんにせよ、今のままじゃ厳しい。武装の差もあるけれど、飛行の可否の差が本当に大きい。タッグマッチトーナメントでぶつかるかもしれないボーデヴィッヒさんもそうだが、特大の厄ネタがその後に控えている。
夏に予定されている臨海学校だ。確かアメリカとイスラエルが共同開発した軍用IS、『銀の福音』。そいつが篠ノ之束の手により暴走し、襲撃してくる、みたいな流れだったはず。当たり前だが本土到達前に福音を無力化しなければいけないため、迎撃ポイントは海上。
つまり、夏の臨海学校までに①飛行ユニットが完成する②飛行に慣れる と最低でも2つのタスクをクリアしなければいけないのだ。
難易度高くない?
しかし何もしない訳にもいかないのが悲しい所。とりあえずは織斑先生に相談しようと私は決めた。
※※※※※
お昼休み。織斑先生も相当忙しい様子ではあったが、何とか時間を取ってもらうことができた。折角の休憩時間に申し訳ないのだがこっちも急ぎなので押し通させてください。
「すみません、お昼休み中に」
「構わん。気にするな。
それで、シキシマの飛行ユニットの件について、だったな?」
「はい。今のままでは私は非常にマズい事になると思っています」
「言ってみろ」
「はい。まずは純粋に居場所がなくなる事です。
今でこそ男性操縦者として各企業が指名をくれていますが、私の機体スペックは空中戦ができないという点で練習機にも劣ります。近い将来、まず間違いなくどの企業も私に見向きもしなくなるでしょう」
「道理だな。他には?」
「各国からの余計な詮索を避けるためです。
私の機体の情報は既にかなりの部分が各国に報告されているものと推測されます。その上で、『IS未満の欠陥機』と判断されるならまだマシですが、『IS技術を応用して作られた男にも乗れるISに対抗可能な機体』なんて思われたらかなり不愉快な事になるおそれがあります」
「心配性だな、と言いたい所だが、ありえないとも言えないな」
「大きな理由としては以上です」
福音の事はこの人には言えない。篠ノ之束と繋がりのあるこの人に下手な事を言えば、その情報がそのまま全て流される可能性すらありえるのだ。
(寄る辺のない身としては勘弁してほしいね、まったく)
「大きな理由以外には何かあるのか?」
「単純な話ですが、負けたくないので」
そう言い放つと、織斑先生は一瞬あっけにとられた顔をして、しかしすぐに大笑いし始めた。
「何か変な事いいましたかね?」
「ふふふ……いや、すまん。しかしお前も男だな。『負けたくない』から、か。
それはそれで立派な理由だと思うぞ」
「だいぶ私情が含まれますがね」
「私情抜きに戦える奴を私は知らないな。それともお前はあれか? 『お国のために』とか言う輩なのか?」
「そんなの今時はやりませんよ……でもそうですね。もう少しワガママに行ってもいいのかもしれませんね」
「あぁ。お前には前世の記憶とやらがあるかもしれんが、お前はお前だ。高校1年生の、ただのガキだ。それに、周りを見てみろ、ワガママ娘ばかりだろうが。
今さら1人増えた所で誤差に過ぎんよ」
「わ、ワガママ娘って……っふふ」
「ようやく笑ったな。それでいい。
さて、本題のお前の飛行能力についてだが、タッグマッチトーナメント本番までに完成するかさえ微妙だが、実はすでに試作段階に入っている」
突然の言葉の爆弾。一瞬何を言われたのか理解が追いつかなかった。
「えっ……っ本当ですか!?」
「あぁ。とは言ってもパイロットであるお前にも知らせていないような初期段階だ。仮に完成したとしても慣熟訓練も考えるとタッグマッチトーナメントにはまず間に合わないだろうな」
「それでも、希望はある」
そうか、――また、飛べるのか。
あぁ、ダメだ。口角が上がるのを抑えきれない。
「まぁなんにせよ、限られてはいるが今のお前にもできることはある。励めよ」
「分かりました」
一礼して、私は職員室を後にした。
※※※※※
――正直に言おう。午後の授業で私はそれはもうウッキウキで、上の空とまでは言わないけれどかなり浮ついていた。
放課後、訓練のためにアリーナへ向かう時もテンションは変わらず、織斑に「ちょっとキモいぞ」とからかわれてしまう程で。
だから、アリーナで起きている事に直面しても、最初はただの模擬戦としか思わなかったのだ。
爆発で生じた煙を切り裂くように鳳さんとセシリアさんが飛び出してきた。
2人とも結構なダメージを負っている。一方で対峙するボーデヴィッヒさんの損傷度合いは軽微だ。
(凄いな、代表候補生2人がかりで押されてるなんて……この前は彼女が引いてくれて助かったかもしれないな)
鳳さんが衝撃砲を放つ。不可視の砲撃はボーデヴィッヒさんを捉えたかのように思えたが、彼女は手をかざした姿勢のまま微動だにもしなかった。
(あれがボーデヴィッヒさんの機体の最大の特徴『停止結界』か……アレを攻略するなら気取られずに後ろを取るしかない。――臨戦態勢のボーデヴィッヒさんの後ろを取る? んな無茶な)
加えて彼女の機体から放たれるワイヤーブレード。あれもかなり厄介だ。ていうか何あの軌道、サイコミュでも搭載してるのかな?
「おっかないなぁ」
「何がだよ?」
「レーゲン型の『停止結界』、射程がどれくらいあるかは分からないけれど、アレで動きを止めて肩の大砲でドカン、大砲が使えなければワイヤーで拘束するなりして近接技でトドメ、パッと考え付いたのはこれくらいだけれど、停止させられたら詰みなんだよね」
「うわぁ……そうなると1対1はやりたくないなぁ」
「私も。どうしてもやらなきゃいけないなら、狙撃でチマチマ削るか、メチャクチャに目くらまししてこっちの動きを掴ませなくしてからの近接戦闘かな」
「俺、どっちもできないんだけど……?」
ご愁傷様です。
と、言っている間にも戦況は動き続けている。
鳳さんがワイヤーブレードにより拘束された。
セシリアさんによるビットと狙撃銃による精密射撃。しかしビットは停止結界により止められ、いかに精密な射撃も、銃口が1つしかなければ避けるのは容易い。
そしてセシリアさんが次弾を放つより先に、拘束されたままフルスイングされた鳳さんがハンマーよろしくセシリアさんに直撃する。
(なんて動きだ。それに、戦術の選択に無駄がなさすぎる)
これが、プロの軍人の動きなのだろう。ボーデヴィッヒさんは確かIS学園生徒の浮ついた感じを心底嫌っていたと記憶しているが、なるほど、これだけの動きができるようになるまでに積んできた訓練を思えば、ファッション感覚でISを駆る彼女たちを嫌うのも理解はできた。
(兵器として扱い、人を傷つける事よりかは、ファッション感覚の方がまだ開発者の意向に沿っているようにも思うけれどね)
彼女なりに許せない部分はあるのだろう。軍人として考えれば、容易く人を殺せる兵器でもある今のISをアクセサリー感覚で操縦するのは許せないっていう理屈もわかる。でもそれで周りの人間を敵として見ていたら、どうやったって分かり合える訳なんて無い。戦争がなくならない訳だ。
ともかく、この模擬戦はもう終わりだろう。とどめを刺そうとしたボーデヴィッヒさんにセシリアさんがミサイルを至近距離から放ち、爆発。ダメージと引き換えに距離を取った。
「嘘だろ!?」
「アレで無傷……!?」
爆炎が収まった時に現れたボーデヴィッヒさんは、無傷。これはもう詰みだ。
これで試合終了。心の底から、そう思っていた。
遠目にも相当の重さが込められたと分かる蹴りが、鳳さんに叩き込まれた。
「!?」
ボールを蹴り飛ばすのとは違う、衝撃が相手の内部に伝わるような蹴り方。まともに受けた鳳さんの身体がくの字に折れる。
そして次の目標をセシリアさんに定めた。固められた拳のラッシュが彼女を襲う。
「ぉい……何やってんだよ……」
空中ディスプレイに表示されている2人の機体のシールドエネルギー残量がみるみる減っていく。危険な状態であるレッドゾーン、これ以上の被弾は搭乗者の命にかかわるデッドゾーン。
「ぃや、やめろおおおおおおおおおおおっっっ!!」
咆哮と共に織斑が機体を展開し、『零落白夜』をもってアリーナのシールドを切り裂く。
その光景を他人事のように認識しながら、私は『既に展開していた』機体に持ったヴォルペ突撃銃を構えた。
「――死ね」
避けられるかもしれない、防がれるかもしれない。そんな考えは無かった。
2人を嬲りながら笑みを浮かべていた、あいつを殺す。その1点に私の思考は集中していた。
銃声、3点バーストで放たれた3発の銃弾は、狙い通りに敵の胴体部分に命中する。無論その程度で倒せる相手とは思っていない。
相手の注意をこちらに引きつけるための銃撃。敵がこちらに向き直った事から、その判断が正しかったとわかる。
織斑が突っ込んでいくのを見ながら私も移動する。敵の『停止結界』は手を向けた方向に作動するらしい。ならば可能な限り敵の背後を取るような動きをしつつ、織斑の動きを援護する必要がある。
連続して射撃を浴びせる。が、敵のそばにセシリアさんたちが倒れているため、下手な弾幕は禁物だ。だからこそ精度に劣るサブマシンガンやネイルガンは今は使えないし、連射の効かない狙撃銃は論外だ。
移動しながらの射撃。当然精度は下がる。間違ってもセシリアさんたちに当てないようにするため、胸よりも上を狙う。
命中する弾は少ない。1マガジン分の殺意をあっという間に撃ち切ると、即座にリロード。
すると敵機も私に鬱陶しさを感じたのだろう。ワイヤーブレードを飛ばしてきた。
――コール、ワイドスマック。
これはかわせない。織斑への援護が途切れてしまう。
あの速度で向かってくる物体を正確に撃ち抜ける自信は私にはない。だから、点ではなく面で止める。
そして銃声が都合6度響き、撃墜したワイヤーブレードはスルスルと敵機の元に戻っていった。
1つくらいは破壊できると思っていたが、思っていたより硬かった。そのことに舌打ちが漏れるが、身体は次の動きを選択していた。
敵機の斜め後方にたどり着いた私は、打って変わって高速での突撃を敢行する。織斑もまた、突貫を始めていた。
「――なっ、機体が!?」
「ふん、雑魚が」
敵は私の脅威度が低いと認識したのだろう。織斑を『停止結界』で停止させた。私の方には見向きもしない。
――舐めやがって。
一瞬激情に支配されかけるが、舐めてくれるなら好都合だ。
そのまま私は突撃を続け、
敵機に到達する直前に急旋回。倒れていたセシリアさんたちの回収に成功した。
「ほぅ? わざわざ足手まといを抱えるとは。愚かだな。
――消えろ」
今の私は敵機に背を向けている。追撃するにはもってこいだろう。
だがそれはできんよ。
「ボクの事、忘れてもらっちゃ困るな!?」
敵機の頭上から降り注ぐ銃弾。デュノアさんが両手に持った突撃銃で制圧射撃を食らわせていた。これには流石にマズいと思ったのか、敵機が回避に専念する。
それはつまり、最大火力を持つ織斑が自由に動けるようになったことを意味していた。
「お、おおおおおぉぉぉぉぉ!!」
『瞬時加速』。圧倒的スピードで全てを置き去りにするその機動で、敵機との間合いをぐんぐん詰める。
一方で私は救出に成功した2人の様子を確認していた。
――各種パーツの脱落、破損。
――シールドエネルギーの残量、約7%
どう見たってボロボロだ。メーカー修理は避けられず、数週間単位で時間がかかるだろう。
ふざけやがって。
「2人とも、身体におかしな点はありませんか? しゃべることが難しい場合手をあげてください」
「いえ、大丈夫、ですわ……」
「助かったわ……ありがと」
2人とも意識はある、だが目に見えない所が傷ついているかもしれない。一刻も早く、医療施設で診てもらう必要がある。
「2人とも、まずは最低限機体を回復させます。いいですね」
「お願い、しますわ」
「アタシも、いけるの?」
「2人ならなんとか」
――コール、リペアショット。
手に持ったのは支援兵装にのみ許された回復装備。散弾状の特殊合金を発射し、味方機の損傷を回復させる。散弾という特性上回復させたい対象と距離があると回復量が減ってしまうが、今回のように倒れた味方にゼロ距離から撃ち込むとなると、その威力を最大限に発揮する。
3回ずつ。引き金を引いただけで、2人の機体はほぼ新品同然にまで回復していた。
「ウソ、でしょ……?」
「あれだけ、の、ダメージでした、のに」
とはいっても私が回復できるのはあくまでも機体のみだ。肉体にまでダメージが及んでいる場合、それは医療の領分になる。
「2人とも、撤退しましょう。私が支援します」
チラリと、戦場の方を見やる。敵機はデュノアさんと織斑が何とか抑え込んでいるようだ。
その2人に秘匿回線を繋ぐ。
「2人も、セシリアさんたちの撤退を援護する。2分稼げるか?」
『2分と言わずいくらでもやってやるさ』
『ボクも大丈夫!』
「助かる」
そしてまさに這う這うの体、といった2人がなんとか出口付近までたどり着いた時。
凄まじい金属音に思わず振り返った私の眼に飛び込んできたのは、生身でありながらIS用の近接武器で敵機、ラウラ・ボーデヴィッヒの操る機体を止める織斑先生の姿だった。
これだけの事しでかしたラウラにこれといった処罰がないの本当IS学園さぁ……
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