せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
「さて……色々と聞きたいことはあるが、アレは何だ?」
皆さんごきげんよう、ここしばらくで何度目かの軟禁状態にあるレオ・シキシマでございましてよ。
今ワテクシの目の前にいらっしゃるのはIS学園教諭の織斑先生。世界最強のブリュンヒルデに問い詰められるとかマジで怖いんだが、ワロス。
何笑とんねん張り倒すぞ。
「その、分かりません」
私は即答した。嘘はついてない。世界最強相手に嘘ついた所で普通に見抜かれそうだし、なんなら心とか読んできそう。思考が、読まれ……? マズい!?
閑話休題
あのシュライクっぽい機体が本当にシュライクなら私の言葉は嘘になるだろう。しかし、そもそもブラスト・ランナーは高さ5メートルくらいあるようなそこそこ大きめのロボット兵器だ。私の身体にフィットするようなサイズではない。
つまりあのIS(?)はいわゆるシュライク『もどき』! なら分からなくて当然ですよね! 勝ったな風呂入ってくる。
「シキシマ、私はこれでも宮仕えの身でな。もしもお前が嘘をついていた場合、私はお前を拘束しなければならなくなる。
お前はISの開発者でもないのにISコアを弄り、未確認の機体に変化させたと見る者も出てくるだろうな」
……怖い。
自分の置かれた立場。状況。それが理解できてしまう。
「ちなみにそうなった場合、私はどうなるでしょうか」
「知らんな。だがまずロクな目には遭わないぞ」
「弁護士を」
「呼ぶ前に消されるかもな」
そうだ、いくらISを起動させられるとはいえ私はただの一般人とそう変わらない身なんだ。『1人目』かつ『世界最強の身内』の織斑一夏とは、そもそもの背景が違う。
『2人目がいるんだから3人目以降が出てきてもおかしくない。だったら1人目を本命に残しておいて、2人目で色々調べてみよう』なんて考えに誰かが至ってもおかしくないんだ。
「……この会話は記録に残りますか」
「建前としてカメラはある。だが記録の差し替えは可能だ」
「自分と家族の身の安全を保障してください。それと家族は何も知りません」
「いいだろう。早急に手配する」
「あと、先に言っておきますが、これからする話は大分ぶっ飛んだ内容になります。信じるか信じないかは織斑先生次第です」
「それは話を聞いてから判断しよう」
ええい、こうなったらヤケだ、世界最強のSAN値を削ってやるぜ!
そして私は、自分の前世の事や、ボーダーブレイクというゲームの事を語りだした。
ただし、この世界が『インフィニット・ストラトス』という物語の世界かもしれない事は話さなかった。そもそも自分や、あのシュライクもどきというイレギュラーが既に存在する以上、ここは『インフィニット・ストラトス』によく似た世界で、原作の知識は参考程度に考えておいた方が安全な気がするのだ。
※※※※※
(『深淵を覗く時、深淵もまたお前を覗いているのだ』。確かニーチェだったか)
レオへの尋問を終え夜の職員室で端末に向かう織斑千冬は、ため息が零れるのを止められずにいた。
(シュライク、だったか? シキシマが自らの意思でISコアに干渉した訳ではないのは間違いなさそうだが、それにしてもあの機体は……)
IS関連の新技術については日本は各国に開示する義務を負っている。しかし不確定な要素や未確認情報を公式発表する訳にもいかないため、レオの身に起こった事は『打鉄を起動しようとしたが、何らかのバグで全身対応の装甲も展開された。通常の打鉄と比較して○○%の重量増や~(中略)~のため、全体的にみると性能ダウンである。なお操縦者は今後の観察のためにIS学園にて通常のカリキュラムを行いつつ様子を見る(意訳)』という体裁で発表される。
では実際に彼の身に起こった事はどうなるのか?
(世界広しといえどISコアをごく短時間でどうこうできるのはアイツくらいしかいない。シキシマの各種データを見るに人類としては中の上といった所か。
そんな彼が、打鉄を『この世界に存在しない概念・テクノロジーで作られたロボットをベースにした機体』に作り変えてしまった。コアの方もシキシマ専用機であるかのように変容している。……この情報が洩れたら多くの人間が目の色を変えそうだ)
ただし、と彼女は心の中で付け加える。
(極めて限られた環境における採掘用ロボットがベースのためそもそも陸戦しかできない。重量の問題で大型ミサイル等長射程の兵器も搭載不可……果たしてこれをISと呼べるのか?)
そう、ブラスト・ランナーとインフィニット・ストラトスの間には、比べるのもバカバカしい程の性能差が存在している。それどころか、既存兵器と戦った場合でもブラスト・ランナーが敗北する事も普通にあるのだ。空を飛べない時点で航空戦力のカモにされ、戦車と撃ち合えば射程で負け、一部のホバー機体を除いて水にも入れない。
ではなぜそんな欠陥兵器とすら呼べる存在がボーダーブレイクの世界では主力になっていたのか?
その答えもレオとの対話で判明していた。
(ニュード、か)
ニュード。宇宙探査機が持ち帰った特殊な鉱物である。エネルギー資源として極めて有効で、自己増殖するため枯渇の心配もまずない。一見するとエネルギー資源の枯渇に怯える現代社会の救世主にも見える物体だ。だが世の中そう甘くはなかった。ニュードは人体に対して高い毒性があり、生身で扱うことは不可能。そのためボーダーブレイクの世界では衛星軌道上に巨大な研究施設を建設し、そこでニュードの研究を行っていたのだ。
しかしニュード発見から数年後、軌道上の研究施設で事故が起き、施設は爆発四散。大量のニュードが瓦礫と共に地球に降り注いだ。直接的な被害だけでも目を覆いたくなるが、それを生き延びた人々にニュード汚染が襲い掛かったのである。
人工的な流星群とニュード汚染。2つの大災害からなんとか生き残った人の中には、ニュードの毒に耐性を持った者もいた。彼ら彼女らは『ブラスト・ウォーカー』と呼ばれる採掘用機体のパイロットとして世界各地のニュード鉱山で重宝される。
やがてニュード利権を巡る対立が起き、国連に流れを持つ政府系組織『GRF』と、環境系NGOを母体とする『EUST』による『ブラスト・ウォーカー』を兵器として転用した『ブラスト・ランナー』での戦闘が各地で勃発する……
(よくできた話だ。人類滅亡の危機を脱した直後だというのに利権で戦争が起こるあたりは特にそう思える。
そして、次は輪廻転生か? 神か仏か誰の管轄かは知らないが、仕事はキッチリやってもらいたいものだ)
レオから得た情報を千冬なりにまとめた結果はこうである。
①田村何某のいた世界では『ボーダーブレイク』というゲームがあった。
②その世界で(おそらく)死亡した田村何某の魂が、何らかの原因でこの世界のレオ・シキシマの身体にインストールされた。(いつの時点でインストールされたかは不明)
③レオが遭遇した事故で彼の脳に強いショックが加わった結果、田村何某の記憶が蘇った。
④これも原因不明だが、ISコアがレオ(というより田村の)記憶を読み取りブラスト・ランナーの情報を得た結果、本来打鉄を構成する筈のコアがシュライクを展開し、挙句レオ専用として固定されてしまった。
流石のブリュンヒルデも頭を抱える訳である。普通の人間が聞いても「小説のネタかな?」となる事間違いなしである。
しかしレオにとっては運よく、千冬は『この世界には常識なんかでは到底測れない存在がある』事を知っていた。そして何より、千冬や彼女の周辺には『大人が少年少女からロクでもない事情で自由を奪うべきではない』と考えるまともな大人が多かった事が、レオの最大の幸運でもあった。