せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
今回書いてて思ったけど、この主人公闇堕ちワンチャンありそうだなぁ
「大丈夫ですか? 体調が悪いようでしたら保健室へ行った方が……」
セシリアさん。
私の推しで、
私の試合のパートナーで、
私のクラスメートで、
私をスパイしている人。
今一番会いたくない人が、すぐ近くにいた。
なんでここに、もう遅い時間なのに、頭の中が疑問でいっぱいになるが、それらは言葉にならずに消えていく。
「……実は夕食を食べ損ねてしまいまして」
結局、口から出てきたのはそんな言葉だけだった。
※※※※※
さて、状況を整理しよう。
私はセシリアさん、というより英国からの提案を蹴り、英国で保護(実態はどうか分からないが)される事を拒んだ。
↓
その直後から、どうもセシリアさんに避けられているような気がする(未確認)
↓
結構ショックだった私はついつい夕食を食べ損ねてしまい、遅くの時間に食堂に向かったらばったりセシリアさんに遭遇してしまった。
ここまでの流れに間違いはないはずだ。
「少し待っていてくださいね」
「アッハイ」
一体何がどういう訳で今私はセシリアさんの部屋にいるんです???
いや、これは夢なのかもしれない。だいぶ遅い時間だったから、「もういいや、今日はもう寝よう」って寝ちゃっててもおかしくはない。
だとしたら夢でもセシリアさんと仲良くしたいと思ってる私ってだいぶ頭いかれてる奴なのでは?(名推理)
水の流れる音、何かを包丁で切る音、様々な音が聞こえてきて、やがて静かになった。
「お待たせしました。これくらいしか用意できませんでしたが」
「いえ、こんな時間にかえって申し訳ないです」
流れるように出てくる言葉は社会人の常識のおかげだ。頭は空っぽでも身に着けた習慣は自然に出てくる。例えるならそう、ひっさびさに乗った自転車でも少し乗れば普通に乗り回せるようなものなのだ。
まぁ、それはそれとして。
セシリアさんが用意してくれたのは、オーソドックスなサンドイッチだった。ハムチーズと、トマトにレタス、チーズの2種類の組み合わせである。
「あんな顔になるくらい空腹でしたのなら早く食べられる物の方が良いかと思いまして」
今、思考読まれた? いや、まさか……
「ご存じないかもしれませんが、レオさんは余裕が無くなると結構顔に出るんですよ?」
声が出るかと思った。
「ふふ、冗談ですわ。――引き止めてしまいましたわ。どうぞ召し上がってくださいな」
「驚かさないでくださいよ……いただきます」
野菜とチーズの方からいただく。
……うん。レタスはシャキシャキでトマトもすごく瑞々しい。そんな野菜をチーズのまろやかさが包み、食パンの間に1つの世界が生まれている。美味しい以外の表現が浮かばない私をどうか許してほしい。
次はハムチーズだ。
いや待て、このサンドイッチ、ほのかに温かい。……まさか、具を挟んだ後に軽くトースターで温めたというのか!? 見るとパンの表面はうっすらと焼き色がついているし、チーズも少し融けている。
そしてこの香り! まさか、具を挟む前にパンの表面にバターが塗られている!? そんな、そんなことをされてしまったら、食欲が止まらなくなってしまう!
気づけばお皿にあったサンドイッチはその姿を消していた。
「……ごちそうさまでした」
「はい。味はいかがでしたか?」
「うん……最高だったよ。たぶんこれまで食べたサンドイッチの中で一番美味しかった」
「お口にあったようで何よりですわ。
食後に紅茶はいかがです?」
「お嬢様に淹れていただけるのならぜひいただきましょう」
「――お上手ですこと」
そしてまた少し時間が空き、今度は紅茶の芳醇な香りが立ち込める。
「紅茶には疎いので銘柄までは分かりませんが……これを飲んだら市販品には戻れなくなりそうですね」
「あら、それはわたくしに夢中という意味と受け取っても?」
「突然の曲解!?」
「冗談ですわ。
もっとも、レオさんの方には何かご懸念があるみたいですけれど?」
そこまで見抜かれるほど余裕がないとは思わなかった。いや、夕食も食べ損ねるほど長時間ボーっとしていたみたいだし、余裕なかったんだな。
「言えない事でしたら申し訳ないのですが、私が英国への移住を拒否したことについて、何か言われたりしましたか?」
「いいえ」
「え?」
「特に何も言われませんでしたわ。本命はレオさん自身やレオさんの機体情報ですもの」
「えっと……えぇ?
英国的にそれで良いんですかね……」
「反感を買って非協力的にされても困るというのが本音でしょうか。
それとレオさん。わたくしも詳細は聞かされていませんが、一体あの時何をしたのですか? バイパスによってシールドエネルギーを回復させる方法は存じていますが、装甲も含めて回復させるなど、既存の技術ではありえません」
「すみませんが、いくらセシリアさんでも今は言えません」
「……わたくしはまだ、そこまで信じられませんか。
いえ、思えば出会ってからまだ2か月あまりしか経っていませんものね。信じろという方が無理な話でした」
「ごめんなさい。
私だって、セシリアさんを信じたい……! でも、もしそれで家族に何かあったら私は……っ!」
私が『レオ・シキシマ』になるきっかけとなった事故。それ以前のこの身体の持ち主がどんな人間だったのか知る術はない。けれど、ここに来るまでにこの世界での両親と話した時、時折どうしようもなく悲しい顔をするのを何度か見てきた。
おそらく、2人の知る『レオ・シキシマ』と今の私は全くの別人に見えるのだろう。
それでも、2人は私を自分たちの子どもとして扱ってくれた。どんなに感謝しても、しきることなんてない。
私は、元の世界の家族にさよならも言えなかった。単に覚えていないのか、あっという間に死んでしまったのかは分からないが、たぶん元の世界の家族は、私の死体と対面する事になったような感じがするのだ。
それがどれだけ心苦しいか。
代償行為と言われても構わない。私は、この世界の両親だけは、何があっても守らないといけないのだ。
「……家族思いなのですね」
そう言って微笑むセシリアさんの瞳は、しかし深い悲しみも湛えていた。
いや、そうか。セシリアさんの家族は。
「……すみません」
「謝ることなんて何もありませんわ。わたくしにもチェルシーがいますし」
そのチェルシーさんが何者なのかは分からないけれど、きっと彼女にとって家族のような人なのだろう。
「でも良かった。もしかしたらセシリアさんに避けられているのかと思っていましたから」
「へ?」
普段の彼女らしからぬ間の抜けた声だった。完全に意識の外から一撃をもらったような、そんな声。
「訓練の時はまだしも、それ以外の時はどこかぎこちなかったですし」
「そっ、それはお互い様ですわ! わたくしだって、あのような事を言っておきながらどんな顔でレオさんに会えば良いのか……」
「夕食だって断られてしまいましたし」
「日本と英国の時差は9時間もあるのです。報告を翌日にしていたら大変な事になってしまいますわ」
「あっ。時差か……」
「レオさんも抜けてる所があるのですね」
「うぅ……」
流石に恥ずかしい。たぶん顔真っ赤になっていると思う。
「折角の機会ですしこの際はっきり申し上げておきます。
レオ・シキシマさん。
わたくしは、クラスメイトとして、一人の人間として、もっとあなたと仲良くなりたいですわ」
あぁ、君は。
君はどこまでまっすぐなんだろう。
まぶしさすら感じるほど純粋な瞳から目が離せない。
「私は……」
「返事は今すぐでなくても構いませんわ。
あら、もうこんな時間。就寝時間までに戻らないと織斑先生に叱られてしまいますわよ」
「いえ。今ここで。
セシリア・オルコットさん。
私と、ともだちになってください」
正直に言ってしまうと怖い所もある。
それでも、一歩踏み出さなきゃいけないと思ったから。
私は、手を差し出した。
「はい。喜んで」
返事と同時に、差し出した手が温かい感触に包まれる。
私の手を、セシリアさんの手が握り返していた。
「なんだか、随分と回り道しちゃった気がします」
「とはいっても、まだたったの2か月ですわ。学園生活は3年もあるんですよ?」
「その2か月がもったいないと思ってしまうんですよ」
「ふふっ」
「ははっ」
同時に笑みが零れ、そしてどちらからともなく手が離れ、
「……あの~、お二人の仲が良いのは十分分かったから、できれば次からは私がいない時にしてくれるとうれしいかなぁって」
寝袋に入っていて完全に気づかなかったセシリアさんのルームメイトの声に、飛び上がるほど驚いたのだった。
今回の話を書くまでセシリアさんのルームメイトの名前が如月キサラさんって事を知らなかったマンである。