せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!?   作:とある物書きMr.R

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実機訓練に行けると思った?

もうちょっとだけ続くんじゃ……


トラウマは簡単に治らないからトラウマ

『君がシキシマ君ね!? 私は整備科3年の――』

『あーずるい! シキシマ君――』

「待って待って、待ってください! 一度に話しかけられても訳が分かりませんって!」

『そうだぞー、ていうかこれからのスケジュール結構詰まってるからヤるなら試験後にしろー』

「あ、私がヤられるのは決定事項なんだ?」

 

 

 駐機場に着くなり整備科の女子たちに取り囲まれた私を助けてくれたのは整備科の先生だった。……いやこれ助けてくれたって言えなくないか?

 

 

『レオレオー、この台座に機体出して?』

「分かりました」

 

 

 のほほんさんの指示に従い、整備用と思われる台座に機体を展開させる。

 今回の試験で使用する機体はクーガーⅠ型だ。最初の試験という事でノーマルな機体の方が標準的なデータが取れるだろうという考えも込みのチョイスである。

 

 

『はいはーい、クーガーⅠ型の接続を確認したよー』

 

 

 のほほんさんの声がして、そこからは『プロの時間』だった。

 まず、何をしているのかが分からない。一応座学の一環で最低限整備の知識を教えてもらったりはしているが、そもそも整備科の面々はそれを専門に学んでいる人たちだ。見たこともない工具をてきぱきと使いこなし、機体のパーツを外したり取り付けたりと目まぐるしい。

 そして目まぐるしく動いていた人の流れがだんだんと落ち着いて、機体から最後の1人が離れた時――

 

 クーガーは、宙に浮いていた。

 

 

「お、おおお……!」

 

 

 浮いている、そう、浮いているのだ。

 ISっぽくなった影響からか私が呼び出すブラストは170~180センチくらいしかない。そんな私の機体が地表から50センチ程度の高度で浮かんでいる光景は、それはもうテンションの上がるものだった。

 

 

『見たか整備科魂~』

「すごいすごい!! こんなあっという間に……ていうか機体が浮いてる!」

『そりゃあそのための装置を取り付けたんだもの~

 あ、でももっと褒めてくれてもいいんだよ~?』

 

 

 えへんと胸を張るのほほんさん。かわいい。

 でも張った事で強調された胸部装甲はかわいいとはいえない威力だぜ……というか高1でこんなサイズになるものなの……? これが人体の神秘って奴か。

 ふと、脳裏に目元を黒い棒で隠した中国代表候補生の姿が浮かびそうになり慌てて頭を振って虚像を打ち消した。万が一にでも本人に知られた日には青龍刀でみじん切りにされかねん。

 

 

『物は大丈夫だとは思うけれど、早速乗ってみようか~』

「え、もう大丈夫なの?」

『バッチリオッケーだよ~。あ、飛行ユニットを装着して待機状態にする試験も兼ねているからデータは取らせてね~』

「分かりました」

 

 

 そして機体を待機状態に戻す。特に以前と変わった様子はない。

 

 

『うーん、大丈夫そうだね~

 じゃあ次はレオレオが機体を纏ってみよう~』

「う、うん……!」

 

 

 いよいよ、その時が来た。

 手が震える。息が荒くなる。

 

 

(大丈夫だ、前だって機体の展開は普通にできていたし、今回はセシリアさんにラウラさんも手伝ってくれる。何も起きないに決まってる……!)

 

 

 けれどもどれだけ心の中で念じても、身体の震えは収まってくれない。

 

 

(クソッ! なんでだよ! 入学してからずっと飛ぶのに憧れてて、ようやく夢がかなうってのに!

 

 ……なんてこんなにも、怖いんだよ!?)

 

 脳裏に浮かぶのは、あの日の光景。

 

 あの日、腰部の飛行ユニットが爆発した瞬間は、今でもたまに夢に見る。あれほどまでに『死』を意識した瞬間というのは、既に一度死んでいる身の自分であっても初めてだったからか、どうしても離れてくれないのだ。

 

 黒煙に覆われる視界が。

 足元に揺らめく炎が。

 そして、その炎をいくら振り払おうとしても離れないという恐怖が。

 

 時間が経っても機体を展開しない私に整備科の人たちのざわめく声が聞こえる。けれど私には人のざわめきは聞き取れてもその意味までは聞き取れない。どこか遠くから聞こえているかのような、そんな感覚。

 

 

『怖いですか、レオさん』

 

 

 心の奥の奥まで届きそうな声がしたのは、そんな時だった。

 

 

 ※※※※※

 

 

 レオさんは、飛びぬけて体格に恵まれた方ではありません。

 身長は織斑さんの方が若干ながら高いですし、筋肉も、同世代の殿方のデータで考えるなら、失礼ですが上の下といったところでしょう。

 ですが、当然の話ではありますがわたくしよりも背は高いですし、肩や腕もガッシリとしていてとてもカッコ良い……もとい、殿方らしいです。

 

 それでも、格納庫にいたレオさんを見つけた時、わたくしにはレオさんが10歳にも満たない子どものように小さく、弱く見えてしまいました。

 

 だからでしょうか。

 つい、声をかけてしまったのです。

 

 

「怖いですか、レオさん」

 

 

 ※※※※※

 

 

 怖いかって? 怖い。怖いに決まってる。

 もしもこの飛行ユニットも失敗作だったら? また空中で爆発が起こるような事が起きたら? 不測の事態で救援が間に合わなかったら?

 私は、今度こそ死ぬだろう。

 

 

「怖い……

怖いですよ! 前私に何が起きたのかはセシリアさんは知っているでしょう!? あんな事があったっていうのに、怖くない訳がない!

『怖いと思うのは当然ですわ。わたくしも、ISに慣れない内は怖くて仕方ありませんでしたもの』

「――え?」

 

 

 虚を突かれるとはこの事だろう。

 どんな時も優雅で、貴族の当主としての誇りを胸に気高く在ろうとしている彼女が、こんな形で弱音を漏らすなんて、予想もしなかった。

 

 

『意外ですか?

 わたくしが初めてISに乗ったのは日本で考えると小学生や中学生の年齢ですもの。高い所を怖がるのも無理もありませんわ』

 

 

 幼いと言っても良い年齢から、彼女はISに乗っていた。しかし、その理由はあまりにも悲しいものだというのは、私でも分かる。

 

 

『お母様もお父様も亡くしたわたくしがオルコット家の名誉や財を守るには、ISしかありませんでしたから。

 その意味ではISには感謝していますわ。ISが無ければ、それこそわたくしは何もかもを奪われていたかもしれません。

 

 レオさん。

 怖いのは、恐ろしいのは、当たり前なんです」

 

 

 いつのまにか、

 通信越しの声がすぐ傍から聞こえていて、

 声の方に向くと、やっぱりセシリアさんが、そこにいた。

 

 

「国の期待を背負ってIS学園に来て、いっぱいいっぱいになっていたわたくしを一番支えて、一番助けてくれたのはレオさんでしたわ。

 次は、わたくしの番です。

 

 レオさんが苦しいのなら、わたくしがレオさんを支えたい。力になりたいのです」

「セシリアさん……」

「もっとも、そう思っているのはわたくしだけではないようですが」

「え?」

 

 

 彼女の言葉に気を取られた瞬間、左腕に何かが絡みついた。

 

 

「うわっ!?」

「こういう時日本ではこのように表現するのだったな。

 

 水臭いぞ、嫁よ。

 

 助けられたのは私も同じだ。何を成すのかも分からないまま力に呑まれた私を助けてくれたのは、レオだったではないか。

 全てが終わった後もそうだ。あのHRの時、レオが隣にいてくれた事がどれだけ私の力になったのか、レオには分かるまい」

 

 

 するり、とセシリアさんが私の右腕に自分の腕を絡ませる。

 

 

「レオさんに何があっても、わたくしが必ず助けますわ」

 

 

 負けじと、ラウラさんが私の手を強く握る。

 

 

「嫁を支えるのは私の役目だ。ちょうど良いAIC≪モノ≫もあるしな」

 

 

 両腕をしっかりと抱えられる形になった私は――ふと笑いが込み上げてきたのだった。

 

 

「っふふ、あははははっ!

 あーー……

 

 こんな事レディに言われて、怖いだの何だの言ってられないじゃないですか」

「無理はしないでくださいね?」

「そうだぞ。高所に恐怖心を覚えるのは生物としての本能だからな」

「いえ」

 

 

 2人の手を握り返す。

「もう大丈夫だよ、ありがとう」って、言葉では伝えきれなかったから。

 

 

「「あっ……」」

「怖いのなんて、どこかに飛んで行っちゃいました。

 お2人とも、これからの試験、よろしくお願いしますね?」

「……っはい! お任せください!」

「あぁ、安心してくれ!」

「それじゃあ」

 

 

 行きましょうか、そう呟いて私は機体を展開した。




ガチで死にかけた人間が同じようなシチュエーションで普通の精神じゃいられないよねって話。

実体験だけれど、車で走行中に追突された事があって、2年くらい経つけれど今でも似たようなシチュエーションだと心臓を掴まれるような、背筋が冷たくなるような感覚に襲われますね。

セシリアとラウラを補助に選んだのはヒロインだから、以外にも代表候補生としての経験を加味しました。

次回こそ飛ぶぞ
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