せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!?   作:とある物書きMr.R

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短めですわ!


口の利き方には気をつけろーーどこに耳があるかも分からん

 ショッピングモールにてレオが織斑先生にからかわれている頃。

 山田先生に連れられたセシリアとラウラは何故かバックヤードにある会議室らしき部屋へとやっていていた。

 

 

「あの、山田先生? どうしてこちらへ?」

「すみません、ここの施設で『掃除』がしやすいのがこの部屋くらいでしたので」

「――非常事態でしょうか」

 

 

 この場合における『掃除』とは、隠しカメラや収音マイクといった機械類や従業員の身辺調査等、諜報活動に用いられる手段の排除である。

 そんな不穏な単語が副担任の口から出てきた事で、代表候補生2人の表情に緊張が走った。

 

 

「? あぁいえいえ、緊急事態ではありませんよ。ですが口頭で伝えなければいけない伝達事項がありまして……」

 

 

 と、唐突に携帯端末を取り出した山田が何やら操作をすると、聞き覚えのある声が会議室に響いた。

 

 

『それで、どっちが本命だ?」

『ぶっ』

 

 

 レオが噴き出し、セシリアはクワッと目を見開いた。ちなみにラウラはこんらんしている!

 

 

「山田先生!? これは一体!?」

「わ、私も織斑先生から会話内容をお2人に聞かせろとしか言われてないんですよぅ……」

 

 

 哀れなり山田先生。彼女が先輩から言われた事は、「セシリアとラウラを連れて別室に行き、自分とレオの会話を聞かせろ」だけである。

 機密性の高い内容であった場合に備えて大至急『掃除』を行う等できる限りの準備をしたが、代表候補生と世界に2人しかいない男性操縦者のスキャンダルが漏れるのを防いだという意味では有効に機能しているあたりがさらに哀愁を誘う。

 

だがそんな事()はお構いなしにスピーカーからは2人の会話が聞こえてくるのであった。

 

 

『どうした、健全な男子高校生的には彼女の1人2人欲しいと思っても当然だろう? ……む、どっちも本命という線もあるのか。

 良い事を教えておこう。内縁の妻は違法でも何でもないぞ』

 

 

 大きな音がしたのはラウラが椅子を蹴倒して立ち上がったからだ。

 

 

「ラウラさん落ち着いてください。会話が聞き取れませんわ」

「だがこれは私にとって極めて重要な事項であってな」

「落ち着いてください」

 

 

 セシリア、現役の軍人を圧だけで座らせる。

 

 

『私としてはシキシマが誰と結ばれようがあるいは嫉妬に狂った何者かに刺されようが究極的には他人事だが』

『それが教師の言う事かよ!?』

『あぁそうとも。IS学園の生徒である間はいざ知らず、卒業後はお前もどうにかしてこの世界で生きていくしかない事に変わりあるまい?』

 

 

「……つまり卒業後にレオさんにどのようなアプローチをかけようとも織斑先生は関知しない、と?」

「今の話をそう解釈するんですかっ!?」

 

 

 頑張れ山田先生、負けるな山田先生。

 胃の辺りからしてきたキリキリという音を幻聴だと自分に言い聞かせながら、それでも彼女は2人が暴走しすぎないように注意している。――はた目にはワタワタしているようにしか見えないのはご愛嬌といった所だが。

 

 

『一応参考までに聞いておこう。

 まず見た目だ。オルコットとボーデヴィッヒ、どう思う?』

 

 

 会議室に、静寂が降りた。

 2人の少女は己が呼吸すら忘れて少し離れた場所にいる少年がこれから発する言葉に全神経を集中させている。山田先生は他人事と言えば他人事なのだが妙に緊張してきたため黙りこくっている。

 

 

『2人ともとんでもない美少女、って事は間違いないですよ。

 セシリアさんは気高い美しさの中にも年相応の可愛さがあります。前に料理を振舞ってくれた事があったんですが、会心の出来栄えですわ! ってドヤ顔してた時なんて本ッ当に可愛かったんですよ?』

「――っ!? ~~~~ッ!!」

 

 

 火が付いたような、という表現がある。本来は慌ただしいさまや大声で泣きわめく様子を例えるのに使われる言い回しだ。

 しかし教員でもある山田の目には、瞬間的に耳まで真っ赤に染まったセシリアの様子はまさしく火が付いたように見えたのである。

 大声は出さない。のたうち回るようなこともしない。それでも彼女は、全身全霊で羞恥と、そして歓喜を表現していた。

 

 そんなセシリアをどこか羨ましそうな瞳で見つめるラウラ、そんな彼女の心情を知っているはずもないのだが、離れた場所にいる彼の口からは続いて彼女についての話が飛び出したのだった。

 

 

『ラウラさんは一見氷のような美貌、って言えるかもしれませんが、新発見があった時のキラキラした顔つきなんて小柄なのも相まって小動物みたいな可愛さがあります』

 

 

 その瞬間、山田真耶は見た。

 現役軍人にして実力のみでドイツ最精鋭IS部隊の頂点に立った少女が、真っ赤になった頬に両手を当て身体をくねらせる所を。

 撃破。レオのキルスコアが2になった。

 

 

『まぁ今のお前の気持ちはよーーーくわかった。来週には合宿もある。教員の目もあるが水着姿に興奮しすぎるなよ?』

『……善処しますが確約はできかねます』

『安心しろ、もし暴走しようものなら私が直々に止めてやる』

 

 

 

 山田は考える。どこからどう見ても恋する乙女でしかないこの2人、乙女パワーが暴走した日には下手をすればR18タグが必要な事態になりかねない。

 

 

(掛かっているようですね。一息つけると良いのですが)

 

 

 まぁ無理そうである。

 

 

『――さて、聞こえていたか色ボケ娘ども』

 

 

 会話が終わり、レオが立ち去ったのだろう、織斑先生がここにいる2人に対して語り掛ける。

 

 

『明言こそしなかったがシキシマは随分とお前たちに好意を抱いている。今はギリギリ友情で留まっているそれをその先に進めるかどうかは個人の自由だから関知しないが、せめて在学中の妊娠は勘弁してくれ』

「質問があります」

『許可する』

 

 

 ナニを考えているのかモジモジヤンヤンしているセシリアに比べてラウラは一見冷静そのものだ。なので織斑先生に対する質問とやらもきっとまともなものに違いない、そう山田は判断した。

 一体いつからラウラが冷静だと錯覚していたのか。

 

 話は逸れるが、通常軍隊や法執行機関では『ネガティブリスト』方式を採っている。ごく簡単に言ってしまえば、「このリストに書かれている事はやっちゃダメだけど、それ以外は何やってもいいよ」というものだ。

 当然ながらラウラにも、そして多くの生徒や教職員にもその考え方は浸透している。

 

 だからこそ、ラウラは織斑先生にこう尋ねたのだった。

 

 

「ありがとうございます。

 在学中の妊娠が問題あるという事は、妊娠しない範囲なら行動を起こしても問題ないという認識でよろしいでしょうか」

『……』

 

 

 その時山田は見た。

 画面越しの織斑先生が、頭痛を堪えるように眉間を揉んだのを。

 

 

『……お前もかボーデヴィッヒ』

「?」

『いや、こちらの話だ。

 結論から言うと、不純異性交遊にあたる行為が見られた場合は問題になる。

 それだけだ』

「む、それは――むぐむぐ」

「わかりましたわ織斑先生、それでは失礼したします」

 

 

 ラウラが引き続き何か尋ねようとしたのをセシリアが抑え込む。不満そうな彼女に対し、セシリアはこう告げたのだった。

 

 

「行為が『見られた』場合は問題なのです、これは『上手くヤれ』という織斑先生からの激励と取るべきでしょう」

「なるほど!」

 

 

 絶対に違う。

 

 

「やはり決戦は合宿での海か」

「それも間違いありませんが勝負は既に始まっています。今からレオさんの気を引いて――」

「なるほど、であれば――のような方法はどうだろうか」

「採用ですわ!」

 

 

 山田は早急にレオの部屋のセキュリティを確認すべきではないかと思い始めていた。

 

 一方その頃、獲物()は身体の芯から来る震えに冷房の効きすぎを疑っていた。

 

 

 ※※※※※

 

 

「お待たせしました」

 

 

 織斑先生にめちゃくちゃからかわれた約10分後、動揺を落ち着かせるためという目的も込みでトイレから戻ると、既に先生2人の姿はなく、セシリアさんとラウラさんしかいなかった。

 

 

「大丈夫ですわ――レオさんの方こそ少し顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」

「む、そうだな。ここは少し冷房が効きすぎているし、用を済ませたのなら早めに戻る事も検討すべきだぞ」

「うーん……そうですね。ここで風邪でもひいたら合宿に行けなくなっちゃいますし。織斑や一緒に来てくれたお2人には悪いですがそうします」

 

 

 実際問題、ここ数日の睡眠時間の減少が少し笑えないレベルでコンディションを下げている。加えて猛暑の外からの冷房ガンガンの屋内だ。気温の差でグッピーくらいなら死にそう。

 

 

「織斑さんにはわたくしから伝えておきますわ。レオさんは無事に部屋に戻る事を考えてくださいまし」

 

 

 言うが早いかセシリアさんはポポポポッと端末を操作すると、あっという間に連絡を終えてしまった。

 

 

「何かあったら私もいる。これでも軍で一通りの救護の知識は得ている。流石に本職の衛生兵や軍医程ではないが……」

「わたくしではいざという時に不安があるので助かりますわ」

「あの、2人とも? 私そこまで体調悪い訳じゃないですよ?」

「万が一の備え、ですわ。それに」

「私たちも、レオとの合宿を楽しみたい、からな……」

「……」

 

 

 もうこの2人がいるだけで体調不良くらい吹き飛ぶような気がしてきた。

 

 

 その日は珍しく、悪い夢を見ずに済んだ。




真夏のショッピングモールってなんであんなに冷房ガンガンなんだろうね
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