せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
ザーっと音を立てて、巻き上げられた砂や枝葉が重力に従い雨のように落ちてくる。
カーテンのように目の前の景色を覆い隠したそれが収まっても、私はバリアユニットを解除しなかった。まだSPの残量に余裕があったのもそうだが、一番は――
「なんですの一体!?」
「ペッペッ……口に砂が……」
「2人とも無事!?」
チラリと背後を見やる。セシリアさんも織斑も多少の土汚れが付いているくらいで負傷はしていないようだった。まずは一安心。でも。
「とりあえずISを展開して!」
「お、おぅ!」
ちなみにセシリアさんはもう機体を展開している。流石に判断が早い。
局所的に降った土の雨がやみ、視界が晴れるとそこには。
「に、にんじん……?」
イラストチックにデフォルメされたにんじんのような物体が地面に突き刺さっていた。コレはもうあの人で間違いないだろう。
「あーっはっはっは! 引っかかったねいっくん!」
にんじん(仮)が2つに割れ、中から『不思議の国のアリス』めいた服装の女性が出てくる。服装は可愛いと思うがそれを着ているヒトのスペックは凶暴だ。あと胸部装甲も。
あぁやっぱりか。出てこなければシュレディンガーのタッバだから存在が確定しなかったのに……シュレディンガーのタッバって何だよ。
「ねぇねぇいっくん、箒ちゃんはどこかな? さっきまで一緒にいたよね? トイレかな?」
「あー……あれどこ行っちゃったんだろうなぁ」
「アドリブ下手だね~。
まぁいいや、束さん特製の箒ちゃん探知機があるし! そういや1つ聞きたいんだけど、
いっくんって、いつから別世界の友達ができたのかな?」
目が、合った。その瞬間、私の心臓と呼吸は1回止まったと思う。
数メートルほど離れた篠ノ之束は一見するとただ織斑と喋っているだけのように見えるが、その視線はしっかりと私、いや私の機体に注がれている。
「え? いやレオは普通に友達ですよ?」
「本当かな~?
ていうか、んー? んんー?
へぇ、よく見たら束さんも知らないモノ乗っけてるね! 調べていたいんだけどバラしていい?」
「ッ!?」
目を離したわけじゃない。ずっと警戒していた。
なのに彼女は、気が付いた時には私の機体を撫でまわしていた。
「ねぇねぇ返事は?」
「そっ……れはちょっと困ります。またの機会に」
「えぇーつまんないなぁ。って、君よく見たら男の子じゃん。いっくん以外に男の子が乗れるようになってなかったはずなのになんでかなーって不思議だったんだよねー。
でも君のソレ、ISじゃないから男でも乗れちゃうんだね」
「えっ!?」
「っ!!」
冷や汗を流しながらも心のどこかで納得していた。流石に開発者が見れば一発で見抜かれる。
「それでもし私がそうだと言ったらどうします?」
「んー別に? 中まで見てないから微妙だけどISよりは明らかに弱いし、面白いオモチャだなーくらいにしか思わないよ」
「そう、ですか」
「そんなモノにどうしてISコアが使われていてしかも束さんの介入を完全にシャットアウトできるのかは気になるけどねー。
この子ったら反抗期なのかな? ふふふ愛い奴め~何が好きなのかな~?」
すりすりとコアのある部位に頬ずりする篠ノ之博士に思わず後ずさりしてしまう。……でいうかこの人博士号持ってるのだろうか?
「じゃ! 私は箒ちゃんを探さなきゃいけないからこの辺で! じゃーねー!!」
「え、足速くね?」
不思議の国のアリスよろしく青と白のワンピースで靴もそれっぽい物を履いているにも関わらず、彼女は砂交じりの地面を結構なスピードで走り去ってしまった。って、
「織斑先生に通報しとけば良かった……」
「「あ」」
今後もし彼女の姿を見たらためらわずに通報しよう。早くも疲れ切った心にそう誓い、私たちは今度こそ水着に着替えるべく別館へと歩き始めるのだった。
※※※※※
(え、何アレ何アレ。どう考えても今の地球にあんなモノ考え付く人間いないでしょ。歩行プラスタイヤ? 足場が悪い所での運用が前提だよね。
間接に負荷がかかる人型なのは何で? ――そうか、そもそも戦闘用じゃないと見た。そうなるとベースは採掘用辺りかな? 採掘用の機体であんなにパイロットを守る構造って事は掘る物は何かしらの危険があるって事だね!
んー今の地球でそんな危ない物ってそんなに無いからやっぱりアレは別世界の物で決定! いやぁこの短時間で正解にたどり着ける束さんはやっぱり天才だね!)
見る者が見れば言葉を失う程極まったフォームで、普通なら足を取られる砂地を整備されたトラックの如く走りながら少し見ただけの機体の正体を当てる。
彼女、篠ノ之束は、頭脳そして肉体も、人類の到達点に至った存在なのであった。
「――姉さん」
「ほ・う・き・ちゃ~~~~ん! ヘブッ!!」
妹に抱き着こうと飛びついて撃墜されていても、人類の到達点なのであった。
「んもう箒ちゃんのスキンシップは少し過激だなぁ。そのままだといつか暴力ゴリラとか言われちゃうゾ! まぁ箒ちゃんにそんな事言うヤツは束さんが存在ごと消しちゃうけどね!」
「いいから、早くしてくれ……」
会ってから僅か10秒で既に萎えている箒だが、それでも姉の元から去ろうとはいない。束に用件があったのは、箒の方だったのだから。
「はいはーい、時間は有限! 束さんも『まだ』タイムマシンは作れないからサクサク進めていくよ~。
それじゃあ、カモーン!」
次の瞬間、轟音と共に砂浜に落着する物体。コンテナのようなソレが自動で開き、中の物体が陽の光にさらされる。
「これ、は……」
「ふふーん驚いた? これが箒ちゃん専用のIS『紅椿』! 束さん特製のISだよ~!」
「紅椿……」
「現行のあらゆるISよりスペックは上だから凄いよ~
口でどうこう言っても伝わらないし、フィッティングも兼ねて実際に乗ってみよう!」
束に背を押されながら紅椿の元へ歩みを進める箒。
その口元は、確かに歓喜に歪んでいたのだった。
主人公「やべ、箒のメンタルケアしてる余裕なかったわ」