せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!?   作:とある物書きMr.R

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なおタッバの場合「話す」までのハードルがクソ高い模様


やべー人ほど案外話してみると普通だったりする

 しかし、どうして楽しい時間というのはこうも速く過ぎていくのだろう。

 かつてアインシュタインは子どもに相対性理論とは何かと尋ねられた際に「同じ1時間でも楽しい時間ほど速く過ぎてつまらない時間は長く感じるアレみたいなものさ」と答えたとかなんとか言われているが、つまり昼食後の時間もそれはあっという間に過ぎていったのだった。

 

 日が傾いている。もう夕方だ、あともう少しすればあの太陽は水平線の先に沈むだろう。いくら私たちが無限の体力を誇る10代とはいえ、流石に1日ビーチで遊んだともなれば疲労は感じる。明日の試験、いや、対福音戦を考えればもうお開きにするべきだ。

 

 それは分かっている。分かってはいるのだが、どうしても私は旅館に戻る気になれず、私服に着替えた上でサンダルをつっかけ、砂浜を一人歩いていたのだった。

 

 

(原作ではどうだったか。確か戦闘は織斑と箒で行って失敗した第1段階、代表候補生のみで当たった第2段階、1年組全員で福音を倒した第3段階に分かれていたはず)

 

 

 怪我の程度は覚えていないが、確か織斑は福音に撃墜され意識不明の重体になったと記憶している。

 

 

(ていうかおかしいだろ、教師陣が周辺を封鎖して代表候補生といえど15歳のガキに軍用ISをぶち当てるとか普通に考えてありえない。いくら各国が軍事転用も余裕でできるISを開発しているとはいえ、アメリカとイスラエルが共同開発した軍用ISにルーキーを当てて本気で勝てると思ってるのか?

 

 ……いや待て、そもそもパイロットの生還は考慮されているのか?

 

 戦闘データは常時モニタリングしているはずだし、貴重な第3世代機とはいえ予備機がないなんてこともありえないだろう。

 

 イギリス・フランス・ドイツ・中国……いずれも大国だ。代表候補生の層もさぞ厚いだろう。

 例えパイロットが戦死しても、パイロットの命よりも実戦データを重要視する可能性は結構あるんじゃないか?)

 

 

 あぁチクショウ。全部思いつきでしかないのに嫌な状況証拠がポンポン出てきやがる。

 天を仰いだ。意識しなくても大きなため息が零れる。

 

 

「おやおや少年、ため息なんかついちゃってどうしたのかな?」

 

 

 不意に松林から聞こえてきた声に思わず飛び上がった。

 

 

「あはは、びっくりさせちゃったかな?」

「篠ノ之博士……」

「束さんでいいよ~その方が手っ取り早いし。

 それで? どうしたのかな、大きなため息ついちゃって」

 

 

 後から考えれば、やっぱり私は疲れていたんだと思う。

 茹るような夏の暑さは何もしていなくても体力を削り、迫りくる実戦は掃いて捨てるほどある不安要素を嫌になるほど突きつけてくる、けれど解決の糸口なんて見えなくて、相談しようにも「この世界は創作の中なんだけど、今後軍用ISが襲い掛かってきて、それを1年生だけで撃破しないといけないんだ。どうすればいい?」なんて言えるはずもなくて。

 

 頼りたかったのかもしれない。縋りたかったのかもしれない。

 ISをたった一人で開発した目の前の天才なら、何とかしてくれるかもと、甘えたかったのかもしれない。

 

 

「……束さんは、自分の考えが世界の誰からも受け入れられないって考える事はありますか?」

「……お悩み相談なら座って話そうか」

 

 

 束さんがつぶやくとどこからか茶会に使うような机と椅子が現れた。まさか拡張領域にしまっているのだろうか? ありえそうなのがこの人なんだよなぁ。

 

 

「それで、さっきの答えだけれどね。

 

 ないよ。

 

 何せ束さんは天才だからね。最終的に世界の方が束さんに追いつくのさ」

 

 

 即答。欠片程の迷いもないその答えに、むしろ私の方が驚いてしまった。

 

 

「記録を見たよ。君の機体は確かに戦闘用だけれど、ハナからISに勝てるようなスペックは無い。それでも君が戦ってきたのはどうしてだい?

 何か譲れないモノがあったからじゃないかな」

「それは……そうです。自分のためとか誰かのためとか多少は違いはありますが、結局は、譲れなかったから私は戦った」

「でしょう? 私もね、ISを発表した時なんて酷かったんだよ?

 小娘の言う事なんざ信じられるかーとかSF小説の発表は他所でやれーとか。酷い時なんて認めてやるからって身体の関係迫られた事あったし。まぁ全部ぶっ潰したけどね!」

「それは、なんとも……」

「ドン引きだよねー」

 

 

 ケラケラと笑う束さんだが、聞かされるこちらとしては笑えないんだよなぁ。

 

 

「結局の所、人類ってのはまだまだ未成熟な生き物なんだよ。性別、国籍、信条、肌の色、その程度の事でいくらでも同じ人間を殺せるのさ」

 

 

 だから私はほとんどの人間に興味が持てないんだよねーと軽い調子で発した言葉は、少なくとも私にはその調子ほど軽い言葉には聞こえなかった。

 

 

「地球はもう人には狭くなっちゃったのかもね。海底とか脳みそとか、全然分かっていないところもまだまだあるっていうのにね」

「だから、束さんは宇宙を目指した……?」

「まぁそれもあるねー。そういう意味では君の機体は本当に面白い。表向きに発表している『小惑星等での資源採掘』だっけ? そりゃあみんな信じるよ。だって本当の事でもあるもんね?」

 

 

 図星を刺されると人って何も言えなくなるよね。今の私がまさにそれだ。

 

 

「よくそんな機体で束さんのISと戦おうって思えるね。君ってもしかしてマゾ入ってたりする?」

「そんな訳ないじゃないですか……

 束さんはもう分かっているとは思いますが、確かに私の機体はISではありません」

 

 

 私は機体を展開した。

 

 

「この機体、正式な呼称は『ブラストランナー』です。

 資源採掘用のロボットをベースにした機動兵器で、とある物質に汚染された地域での運用を想定されています」

「――! そっかそっか! そういう事か!

 午前にチラ見しただけじゃよくわかんなかったけど、汚染物質っていう存在があるならその機体は納得だ!

 でさ、私の予想が正しければ、だけど、その機体の動力って君の言う『汚染物質』でしょ?」

「お見通し、ですか……

 えぇその通りです。無害化こそされていますが、有機物無機物問わず侵食し増殖するエネルギー物質『ニュード』が、この機体の動力や一部武装に使用されています」

「うっわなにそれヤバいでしょ、そんな物体地球上には存在しないし、君宇宙人か異世界人だね! どうやって地球来たの? それともネット小説じゃお馴染みの転生ってヤツ?」

「後者ですよ。束さんはまだまだ縁が無さそうですが、ある程度歳食うと油モノがしんどくなるので、そこはありがたい限りですね」

「さすがの束さんも転生は初めて見るね! ねぇねぇ、詳しく知りたいし君の事」

「解剖および分解はお断りします」

「ちぇ~。ま、いっか。でもそのニュードって物体は気になるね。ISと混ぜ混ぜしたらどうなるか気になるよ」

「お勧めはしませんよ。確かにエネルギー効率は抜群ですが、有機物無機物問わず侵食して増殖するんで」

「バイ〇インじゃん、トラウマ案件だね!」

「あぁ、それに近いかもしれません。迂闊に漏洩させたら地球が壊れる可能性すらあります」

「当ててあげようか? 君の世界、それで大変なことになったでしょ」

「えぇその通りです。

 しかも私の世界ではニュードには人体に対する高い毒性もセットであったんですよ。

 だから地表じゃなくて宇宙で組み立てた研究衛星で貯蔵していたんです」

「その言い方だとその衛星、地球に落ちたね」

「はい。流星群プラス自己増殖する毒。最悪だと思いません?」

「どうせなら月面でやればよかったとか思っちゃうかな。まぁどうせエネルギー不足に陥った人類が問題を解決するために軌道エレベーターとかでやりとりしやすいように衛星なんてやったんだろうけどさ」

「どうして断片的な情報からそこまで洞察できるんですかねぇ……」

「天才だからさ!」

 

 

 どや顔で胸を張る束さん。目算で山田先生に匹敵する凶悪な胸部装甲が揺れた。

 しかしその瞬間、束さんはずびし、と私に指を突きつけた。

 

 

「貴様ッ! 見ているな!?」

「うえっ」

「転生したとはいえやはりオトコノコだねぇ~

そんなに気になるかい?」

「一部を除いて気にならない男は存在しないですよ」

「お、正直者だね! まぁ君の秘密を教えてくれた事に免じて許してあげよう!」

 

 

 なんてアホなやり取りをしていたからか、気が付けば私はすっかりリラックスできていた。

 

 

「……結局、一人で悩んでいても解決なんてしないですよね」

「うん。そうだよ。

 君が束さん並みの天才なら、一人で世界を変えることだってできたかもしれない。

 でも君は凡人だ。一人でできる事なんてたかが知れているのさ」

「あなたが言うと説得力が違いますね」

「事実だしね!

 

 ……でもね、私みたいな天才が一番恐れているのはね、死に物狂いになった凡人なんだよ。『そうなった』凡人はなんだってやるし、どんな手も使う。時に天才の予想すら超えてくるのさ」

「……」

「君はそこまでできる人間だ。でも、周りの凡人も巻き込んだら、どうなるかなんてそれこそカミサマでも分からないよ」

 

 

 そこまで言うと束さんは立ち上がり、机と椅子を光の粒子にして収納した。突然始まったこのお悩み相談室も、もうお開きらしい。

 

 

「お茶の一つも出さないで悪かったね。今度会ったらもう少し君の世界の事を聞いてみたいよ」

「今度会ったらっていうか、こちらの方こそ色々相談したいくらいですよ」

「お、ナンパかな? いいぞ、男の子なんだからそれくらい積極的にいかなくちゃね!」

「え、ちが」

「けどざんね~ん! 私って今の所生殖とかに興味が持てないのだ~

 悔しかったら私がメロメロになるくらい魅力的な男になって出直してきな!!」

「しかも振られた!?」

 

 

 ショックを受ける私を他所に、束さんは「ばいば~い」と手を振りながら松林の奥へと消えていった。

 数秒後、私の端末が通知音を奏でる。

 

 

『篠ノ之 束 とフレンドになりました』

「えぇ……

 まぁいっか」

 

 

 まぁ機体の技術面において彼女ほど頼りになる人はいないのも確かで。

 明日やってくる対福音戦に向けて、すくなくともマイナスにはならないだろうと気持ちを切り替えるのだった。

 

 

 

 そもそも福音をハッキングした張本人こそ、この稀代の天才様だったと思い出して悶絶したのは、また別の話である。




白いタッバかと思った?

普通に試練課してくるんだよなぁ……
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