せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
アラームが聞こえる。
段々と意識が浮上し、今鳴っているのは携帯のアラームだという事。ここは学園の寮じゃない事。早く止めないと迷惑になる、と考えが及んだ段階で手が動いた。
アラームが止み、私は身体を起こす。
朝6時。勝負の1日が始まった。
※※※※※
「さて、今日からいよいよ各種試験を行う訳だが……」
8時。訓練区域になっている砂浜に集合した1年生たち。
砂浜には無人の揚陸艇が次々と乗り上げ、試験用の器材を吐き出しては海に戻っていく。
なんでもこの無人艇、沖合の揚陸艦と砂浜を行ったり来たりしているらしい。一瞬ISの拡張領域に詰め込んで往復すればいいのでは? とか思ったけれど、それこそISの無駄遣いかもと思い直した。
私の知っている世界ではLCACと呼ばれるホバークラフトに戦車からトラックから色々と詰んで揚陸するっていうのが普通で、歩兵の装備といったらトラックとは水陸両用車で運ぶのが常識だったんだけれど……これは技術の進歩だね。
IS相手じゃ従来からあるような地雷なんて『自爆まがいのやり方でもない限り』無価値だろうし。こんな所でもISの登場による影響が見られるとは。どうせなら地雷除去とは不発弾の処理にもISが活躍してほしい、欲しくない?
「ISは平和利用だっていくらでもできるだろうに、現状物騒な方面にしか使われてないの、本当人間の業だよなぁ……」
この後に起こるであろう福音の強襲とか、開発者がアレってのも終わってると思うの。もっとも本人は「使えそうな物を使っただけだし」とか平気な顔で言いそうだけどな!
「それでは、事前に設定した班に分かれて装備の性能試験を開始しろ。専用機持ちは集まれ」
「「「はいっ!」」」
「ちょおおおおおおっと待ったああああああああ!!」
あ、すんごい嫌な予感する。
声のした方を皆が見やる。織斑先生は頭痛を堪えるような顔をしてるし篠ノ之さんは両手で顔を覆っているけど。
「話は聞かせてもらったよ、とうっ!」
松の木の上の方の枝に立っていた束さんは、掛け声一発そこから飛び降りた。嘘でしょ、そこ高さ6~7メートルくらいあるんだけど……あとその高さから飛んでもスカートが翻らないのはどんな技術だ。
「あのねちーちゃん、箒ちゃんはどうやら一般生徒の中に入るみたいだけれど、その必要はないのだ!」
「待て、今度は何をした」
「箒ちゃんにはねー、束さんお手製のスペシャルIS,『紅椿』をプレゼントしましたー、ぱちぱちー」
軽く言う束さんだけど、ちょっと待とうか。
「篠ノ之博士の、お手製?」
「もしかしなくても世界最新鋭機って事だよね……?」
「それを身内だからって貰えるの? ズルくない……?」
ひそひそ声が漏れ聞こえる。でも正直に言うと彼女たちの気持ちも分からないではないんだ。
IS学園に入れる時点でエリートなのは間違いない。けれど、その中でも更にランクみたいなものがあるのだ。代表候補生の上位になってようやく国から専用機を与えらえる。そうじゃないIS乗りは基本的に量産機をカスタムするくらいだ。場合によっては正規のパイロットの「控え」に登録されて普通の暮らしをしながら年に何十時間か訓練するくらい、ってパターンもある。メディアに取り上げられて「これぞISパイロット!」って言われるのは各国でも上澄みのさらに上澄みなのだ。
そんな中で自分たちと同レベルだと思っていた同級生が「開発者の親族だから」と最新鋭機をポンと渡されて雲の上まで飛んで行っちゃったとなれば、多少の差はあれど嫉妬しない方が難しいだろう。
「君たち面白い事言うね~。
有史以来、人間が平等であった事なんて一度もないよ?
あ、いっくん、IS見せて?」
「え? あっはい」
しかしそんな感情でどうこうなる天才≪カイブツ≫ではない。現に今だって、やっかみの言葉を発した彼女たちの方を見もせずに織斑のISを分析している。
まさに眼中になし。私も含めて、多くの人が自分の立ち位置と束さんの立ち位置の差を考えて絶望するだろう。
「うわなにこれ。束さんでもワケわかんない進化してる」
「そうなんですか?」
「まぁもともと『白式』って日本が開発したは良いけど失敗しちゃってポイされてたのを束さんが拾って手直ししたものだからね~
近接一本ってのも元々のコンセプトで変えられなかったし」
「そうなんですか!?」
明らかになる衝撃の事実。というか『白式』も束さんお手製だったのかよ。いや待て、近接オンリーのピーキー仕様って日本の開発チームが出したのかよ……あのさぁ……
と。
「お、織斑先生! 大変です!」
慌てふためいてやってくる山田先生が見えた瞬間、全身が総毛だった。
※※※※※
「あれ? 何ですかこの空気……」
「気にしないでください。それで、何が大変なんです?」
「それが……」
空気が悪くなってきた所で何やらえらい慌てて山田先生が来た。そんで千冬姉と話し合っているんだが、どうも断片的にしか聞こえてこない。あ、俺たちが聞き耳立ててたのバレた。何だアレ、手話か……?
「あれは……軍用手話のようだな。学園用か日本用かは分からないがカスタムされていて内容を把握されないようになっている」
「そうなのですか? つまり、何かしらの非常事態が起きたと考えるべきですわね」
「冗談じゃないわよ……せっかく甲龍の新機能を試そうって所だったのに」
「ボクたちも、もしかしたら手伝いに呼ばれるかもしれないね」
「まさか、代表候補生といえど緊急対応にまで駆り出すはずは……シキシマもそう思うだろう? シキシマ、大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「っ、え、えぇ。この暑さで少し。水分補給は大事ですね」
「大丈夫ですか? 少し休みましょう?」
「念のためだったが経口補水液を用意してある。軽度の熱中症なら対処可能だ」
「あはは、そこまでしていただかなくても大丈夫ですよ」
とはいうものの、レオの顔色はこの炎天下でもはっきりわかるくらいには悪い。絶対に休んだ方がいいだろう。
「そうは言ってもさ、この後どうなるか分かんないし、休めるだけ休んでおこうぜ?」
「大丈夫だってば!」
突然の大声に、俺だけじゃなくて周りのみんなも驚いていた。でも一番驚いた顔をしていたのは、当のレオ本人だった。
「……ごめん、ちょっと休むわ」
「お待ちを、わたくしも同行しますわ」
「ありがとうございます。でもごめんなさい、今は一人でいたいので」
「その状態で誰もいないところで倒れたらどうするつもりですか? ……せめて部屋まで送らせてください。
ラウラさん、お手数ですが織斑先生にこの事を」
「分かった」
自力で歩けてはいるレオだったが、その背中が酷く小さく見えた。
※※※※※
情けない。
山田先生がやって来た瞬間、「あ、来た」と思った。そうしたら途端に全身に鳥肌が立ち、顔からは血の気が引いて周りに心配をかけ、挙句の果てには心配してくれたみんなに大声をあげる始末。これを情けないと言わずしてなんというだろう。
今だって、数歩後ろを付き添ってくれているセシリアさんの方を見る事もできやしない。
一番情けないのは、反省すべき点が分かっているのに、今も心の中で「仕方ないだろう?」と言い訳を並べる自分がいる事だ。
これから始まるのは紛うことなき実戦。IS学園というホームで戦えたVTシステムの暴走とは訳が違う。いや敵基地への強襲とかガチガチのアウェーじゃないだけまだマシなのかもしれないけど。でもって軍用ISってなんだよ。ISの軍事利用は条約で禁止されたてよな? それを推進したのはお前たちだったよな北米の軍事大国さんよぉ!? ちょっとこれは言い訳できないんじゃないですかねぇ!?
原作の流れはどうだったか。確か最初は一撃必殺を狙える織斑とまさかの第4世代機をポンと渡された篠ノ之さんのペアで出撃し、原因は忘れてしまったが敗退。織斑が墜とされたのはここだったはず。
で、織斑と篠ノ之さんを除いた専用機持ちで挑んだ第2回戦も、福音が何かやった事により劣勢に陥る。そこに回復した織斑と篠ノ之さんが参加し、土壇場でセカンドシフトをキメた織斑がラストアタックに成功、福音を機能停止に追い込んだ、ような記憶がある。もうダメだね、全くと言っていい程原作の記憶が無くなっている。もっともVTシステムの時みたいに何故かボーダーブレイクの機体が出てきたりと原作については参考程度にしか思えないけれど。
「レオさん」
「……はい?」
考え事ばっかりしていたせいか一瞬返答が遅れてしまった。それに対しても申し訳なさが生まれるが、これはメンタル的に不味いだろう。しっかりしなければ。
「詳しくは聞きませんが、先ほどの先生方の会話から何かを掴んだのですか?」
……あぁ、やっぱりセシリアさんは周囲をよく観察している。
問題は馬鹿正直に「この後アメリカ・イスラエル共同制作の軍用ISが攻めてきてそれを競技用機体に乗った1年生ルーキーだけで迎撃させられます」と言えない事だ。いやどう考えてもクソだなその条件。
「……仮に何か知ったとしても簡単には言えませんよ」
「えぇそうでしょう。ですが、その『何か』をわたくしが知っていたとしたら? 情報共有は作戦立案の初歩ですよね?」
「……」
これは……どっちだ。イギリスと言えば天下のMI6がある。アメリカ・イスラエルの防諜を抜いて情報を得ていても不思議ではない。だが、これがセシリアさんのハッタリだったら?
チクショウ、どうすれば良い?
考えがグルグル回り、いつまで経っても結論なんて出やしない。
「おわっ!?」
「大丈夫です。この後何が起きようとも、わたくしはレオさんと共にあります」
いきなり傾いだ姿勢。
コツン、とおでこに軽い衝撃。
そして顔の両側に柔らかく、そして温かい感触。
気が付くと目の前まで来ていたセシリアさんは、私のおでこに自分のおでこを当てていた。
「セシリアさん……でも」
「ごめんなさい、さっきの『何か』を知っていたら、という発言はカマかけですわ。本当は何も知りません。
でもレオさんの様子を見れば何となくの予想は立ちますわ。……おそらく、戦いがあるのでしょう?
――何も言わなくていいですわ。でもこれだけは知っていてほしいのです。
ラウラさんも、織斑さんに鈴さん、シャルロットさん、箒さん、先生方も。きっと、レオさんの力になってくれます。
そしてわたくしは、わたくしにできる全力で、レオさんを支えますわ」
一振りの剣のようにまっすぐに。
星の光のように温かく。
セシリアさんはその碧く美しい瞳で私を見つめながら告げるのだった。
「っ、~~~~~っ!
分かりました。降参です。
……そんなこと言われたらもうどうしようもないじゃないですか」
反則だ。卑怯だ。今の私の心情でそんなことされたら、
心の奥の奥、そこにあったナニかが燃えるように熱くなっているのを自覚しながら、私は何とか言葉を紡いだ。
「先生方が使っていたあの軍用手話、断片的に読み取れたんですが……
『IS』『暴走』『専用機』『迎撃』。の単語があったんですよ」
「それは……」
「私の考えすぎだったら笑ってください。でも、最悪の場合」
「笑えない事態になりますわね……
そう考えてしまったら血の気が引くのも納得できますわ。今の体調は?」
「5分10分ほど休ませてほしいですが、動けますよ」
「ISの迎撃となれば極力洋上が望ましい。わたくしも出撃する事になるでしょう」
「私も衛生兵的な感じで声がかかると思っていますよ」
「それだったら良いのですが。今度こそレオさんを自爆させずに済みますし」
「好きでやってるわけじゃないんですよねぇ……」
「自爆している事が問題なのです! ……たまにはわたくしが活躍しても良いでしょう?」
「仰せのままに、お嬢様」
本館への道を歩きながら、それでもさっきとは別人のように全身に力が満ちているのを感じた。
強化人間の皆さんがコーラルをキメている中、私は凱旋門賞に挑んでいましたとさ。
スペシャルウィークでモンジューに挑みに行くの面白い。