せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
AM11:30
砂浜に佇む2機のISは、状況も相まって出陣を待つ武将のようにも見えた。
「周辺住民の避難完了しました! 不発弾の処理という名目で陸自部隊の展開も行っています」
「バックアップ部隊の出撃準備もできています。攻撃部隊の出撃後直ちに発進シークエンスに取り掛かれます」
「衛星データリンクの臨時接続完了しました!」
命令と復唱が各所で上がるが、それらが錯綜する事は一切ない。その事からもIS学園の教師陣や機密作戦に選抜されるような生徒のレベルの高さが伺える。教師陣はまだしも、まだ学生の身分である彼女たちの姿を見る者が見れば、感嘆のため息を吐くか、あるいは目の色を変えてスカウトに走ったであろう。
『織斑、篠ノ之、オルコット、シキシマ。最終確認だ』
学年主任であり、故に今作戦の責任者に任命されている千冬から、出撃メンバーの4人に通信が入った。
『今作戦の要は一撃必殺だ。可能な限り短時間での決着を心掛けろ。織斑・篠ノ之が仕損じた場合はオルコット・シキシマと合流し遅滞戦闘を行え。その間に残りの専用機持ちを全員向かわせる。
そして……誰かが撃墜された場合は、1機が被撃墜機を確保し、残る2機で敵機を警戒しつつ撤退しろ。
具体的には織斑・オルコット・シキシマが撃墜された場合は篠ノ之が救助。篠ノ之が撃墜された場合はオルコットが救助に回れ』
「「「「了解」」」」
そして少し時間が経ち、
『作戦開始! 織斑、篠ノ之、行ってこい!』
『はい!』
『分かりました!』
紅と白、2色のISが真夏の空へと飛び立ち、瞬く間に見えなくなった。
※※※※※
「次だ! オルコット機とシキシマ機の出撃準備急げ!」
「他の代表候補生は即応待機! ISは1分以内に出撃できるようにしろ!」
織斑と篠ノ之さんが出撃し、私たちも時間差で出るのだけれど、どうも不安感というか、胸騒ぎが収まらない。
いや、それも当然か。これから実戦に行くというのに余裕こいていられる程経験豊富でも肝が据わっている訳じゃないんだ。まして私が乗っているのは飛べたり拡張領域が使えるとはいえブラストランナー、過信なんて贅沢できやしない。
(……待て、過信?)
何かが引っかかる。だがその『何か』が全く見当つかない。とてもとてももどかしいこの感じ。
『オルコット、シキシマ。念のため言っておくが、どうも篠ノ之は浮かれている。織斑にもカバーするよう伝えたが、お前たちも何かあったらサポートを頼む』
『分かりましたわ』
「――っ、了、解」
思い出したぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
そうだよ、初見の時の篠ノ之さんといえば超高性能機を貰えて舞い上がった挙句その能力を満足に引き出せず、織斑が撃墜されたらされたで「私なんか……」ってウジウジしちゃったんだった。いや、慣熟訓練も無しに初見の機体を乗りこなして実戦に行けって方が無茶なのは分かるんだけどさぁ……
そう考えると「紅椿はスペック上最強だから大丈夫!」みたいなこと言って推薦した束さんもそれを了承した織斑先生も全員無能って事になる……? そういやこの世界って色々無理が道理を押し込んでいるから所々歪なんだったわ。イスラム諸国とかISは欲しいけど女性優位なんて死んでも認められなさそうだし(偏見)
というか織斑ってなんで撃墜されたんだっけ? 流石に篠ノ之さんの誤射とかじゃなかったとは思うんだけど……
『よし、作戦第2段階開始だ。オルコット、シキシマ、出撃しろ』
『「了解!」』
チクショウ、もう作戦は始まっているんだ。今更どうこう言っても引き返せない所まで来ている。こうなったら一刻も早く織斑たちに合流してできる限りの援護をしてみんなで無事に帰れるようにするしかない!
逸る気持ちが機体を加速させるなんて事は当然なく、私たちは巡航速度より少し早いくらいの速度で作戦空域へと向かうしかなかった。
そして。
『一夏、一夏ぁ!』
『作戦中止! 篠ノ之、織斑を救出して離脱しろ! オルコット、シキシマは篠ノ之のカバーに入れ!』
『レオさん! わたくしが時間を稼ぎます、箒さんと後退して増援の手配を!』
「冗談でも笑えませんね! ここで退いたら私は二度と貴女の隣に立てなくなる!」
私たちは、
『くっ、なんて回避性能……これが軍用ということでしょうか』
「狙いはそこまで正確じゃないけれど、弾幕張られてて避け切れない!」
『させませんわ! ――キャアッ!』
「ッ! セシリア!」
『だい、丈夫ですわ……』
「こちらシキシマ、本部! 応援はまだか!?」
『向かっている! あと5秒で合流する予定だ』
『レオ! セシリア! 援護する。早く後退しろ!』
「セシリア、捕まって!」
『急いで! ヤツの動きを止めるわ!』
『ボクもセシリアを支えるよ』
『よし、誰も残っていないな!? 撤退する!』
言い訳のしようもないくらいに完敗した。
※※※※※
題名:『銀の福音』迎撃作戦第1段階の失敗について
日時:7月〇日午前11時30分ごろ。
参加人員:別添名簿を参照
損害状況:被撃墜1、中破1、小破3
経過①:太平洋上で行われた『銀の福音』(以下『対象』と表記)迎撃作戦第一段階において、当初の予定通り攻撃役1および2が対象への攻撃を開始。が、提供された対象のデータに記載されていなかった特殊兵装の攻撃に翻弄され、また封鎖線を潜り抜けて領海に侵入した密漁船を攻撃役1がかばう等、開始早々から作戦は破綻していた。
経過②:密漁船への対処を巡り攻撃役1および2が口論となった隙を突かれ、攻撃役1が撃墜される。この時点で作戦指揮官は作戦中止を決定。バックアップチーム2名(生徒AおよびB)および予備の戦力(生徒C~E)の投入を決断した。
経過③:攻撃役1および2の撤退を支援するためバックアップチームが遅滞戦闘を実施。生徒Aが中破、生徒Bおよび生徒Cならびに生徒Dが小破の損害を負った。なお、中破以下の損害については生徒Bの特殊兵装で修復が可能であった。
経過④:午後12時までには全ての生徒が撤退を完了した。
本作戦失敗の要因として、①参加要員の練度不足、②機密作戦であったがための人員の少なさ、③事前情報に無かった対象の兵装 が挙げられる。
① 参加要員の練度不足:撃墜された攻撃役の生徒は火力に優れていたがISへの搭乗時間は他の生徒と比較して少なく、またもう1名の攻撃役の生徒は最新鋭の機体に搭乗していたが、搭乗時間は10時間未満であった。
② 機密作戦であったがための人員の少なさ:攻撃役の生徒が口論するきっかけとなった密漁船だが、本来作戦海域は海上保安庁による巡視が行われているため密漁船の侵入は困難だった。だが、対象の特殊性が鑑みられた結果、海上保安庁の巡視が中止になり、また自衛隊によるスクランブルも行われなかった結果、ごく少数のIS学園教員による封鎖となり、警戒の穴を抜けられたものと推測される。
③ 事前情報に無かった対象の兵装:作戦準備の段階で対象の開発国から提示された機体のスペックデータについて、特殊兵装等のデータが開示されていなかった。機体の特殊性によるものと思われる。これにより出撃部隊はスペックで上回る未知の相手に挑む事となり損害を出した。
結論:今作戦の第1段階については、参加要員の練度不足や対象の情報不足等、1つでも重大な結果に繋がりかねない要因が複数存在した。よって、第1段階については成功の可能性の方が低かったと思われる。状況によっては防衛線が突破され、後方の一般生徒や周辺住民にも被害が出ていた可能性もある事を考慮すると、被撃墜1機で済んだとも言える結果である。
※※※※※
臨時の作戦司令部になっている大広間は、お通夜とまでは言わなくてもかなり沈んだ空気が漂っていた。
一撃必殺の火力を持った織斑。そして束さん謹製、現時点で世界最強の第4世代機を操縦する篠ノ之さん。私たちがバックアップに入っていたとはいえ、この2人だけでも対象の撃破まで行けると思っていた人は多いと思う。
けれど、蓋を開けてみれば織斑は撃墜され今も意識不明。私を庇ったセシリアさんは中破、PICを全力で稼働させたラウラさんを除いたほぼ全員が小破の損傷を負った。幸いな事に私のリペアユニットで全員修復できたが、結果的に専用機持ちがほぼ全員で戦ってこの結果は負けと言っても過言じゃないだろう。
篠ノ之さんは――織斑の部屋から出てこない。戦闘結果の分析のために記録映像を見たけれど、正直に言ってしまうと酷いとしか言えなかった。新しい機体――それもとんでもない高性能の!――に浮かれるのはよくわかる、けれど乗り慣れていない機体で実戦に挑み、挙句視野狭窄に陥っていてはどうしようもない。もっともそれはいきなり身勝手な行動に出て篠ノ之さんを危険に晒した織斑にも言えるし、出撃を許可した織斑先生にも、そしてこうなる事を原作知識で知っていながらも直前まで忘れていた私にも責任はある。
ならどうする? 火力要員の織斑は戦線離脱、辛うじて福音の場所は分かっているけれどこのメンバーはさっき撃退されたばかりで増援も無し。
(いや待て、このメンバー?)
さっきこの場にいる全員『が』さっき福音と交戦した。
けれど、この場にいる全員『で』福音にぶつかった訳じゃない。
「織斑と篠ノ之さん……セシリアさんと私……残りのみんな……ははっ、マジか」
突然だが、軍事行動において1番やってはいけない事とされているのは何だろうか。
準備を怠る? それはその通り。弾や燃料、食料も無しに敵にぶつかるなんてまともな軍隊ならまずやらない。某帝国軍? ロシア軍? 知らないなぁ……
捕虜の虐待? それもそう。国際法で決まっているし、無抵抗の相手を虐待するようになったらそれはもう軍じゃない。
ここで言いたいのは、自分たちの持っている戦力を小出しにする事だ。難しく言うと『逐次投入』って呼んだりする。
例えばこっちが3人、相手が2人いたとする。人間の能力や持っている武器が同じであれば、普通に3VS2で戦えば3が勝つ。でもこっちの3人を1人+1人+1人に分けて2人と戦えば? 相手は2VS1を3回やれば自分たちより多い相手に勝てるのだ。もちろん本来は他にも周囲の環境とか陣地はどうとか色々な要素が絡んでくるけれど、まともな指揮官であれば戦力を小出しにするデメリットを学ぶ。
けれど。
(いや待て。まさかそんな事ある訳ないだろう……
IS学園の教員がそもそも士官教育を受けていないなんて……ないよね?)
『原作者』がその辺テキトーっぽいのは一番怖い! 頼むよ! こちとらあなたの記述とか想像に命かかってんだから!(理不尽)
「あぁぁもうっ!」
ダンッと、そんな音がしそうな勢いで鳳さんが立ち上がった。
「アタシ箒の所行ってくる。一言言ってやんないと気が済まないわ!」
「い、いや、流石に今の篠ノ之さんにあんまり言い過ぎちゃうのは……」
「何想像したのか知んないけど違うわよ!
……一夏が箒を守るためにやられたのは確かよ。でもそれはアイツがやりたくてやった事でしょう! 助けられた本人がウジウジしてたら助けた一夏がバカみたいじゃない!
んでもってアタシたちがやるべきは、一夏たちが果たせなかった事をやり抜く事。違う?」
「なるほど、一理あるな」
「ラウラさん!?」
「ボクも鈴に賛成」
「デュノアさんまで!」
この流れはマズくないか? このままだと専用機持ちがみんな福音めがけて突撃しかねない。
「一旦落ち着こう? 私も福音をぶっ倒してやりたいけれど、今私たちに降りている指令は待機だ。仮にも専用機を任されている身なら、上官の命令に従わなきゃいけない意味は分かるでしょう?」
「そうですわ。わたくしたちが持つISは立派な兵器。それを操るわたくしたちには冷静さが求められますわ」
「セシリアさん……」
良かった。流石にセシリアさんは落ち着いていたか。
「なのでここは冷静になってあの鳥風情を叩き落す計画を練ってから行動に出ましょう」
「セシリアさぁぁん!?」
前言撤回、欠片も落ち着いてねぇじゃねぇか!!
よくよく考えたら一夏と箒に全部任せるんじゃなくて最初から全戦力をぶつけりゃ良いんだよなぁって話。