せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
誰であっても休みは欲しい。夏休みはなおさら。
濃い毎日を送っているからか、今がまだ7月だというのが信じられない。
私がこの身体の主、もとい『レオ・シキシマ』になったのが1月だった。
2月に織斑にIS適正がある事が判明し、全国で他にも男性適正者がいるかの捜索が始まる。この頃が一番平和だったかもしれない。少なくとも適正試験を受けるまでは私はリハビリ等々の普通(?)の病人ライフを送れていたのだから。
3月、私にもIS適正がある事が判明し、民間病院からガチガチに守られた自衛隊病院に転院するハメになった。3月末にはIS学園でのIS起動試験があるってことでワクワクしながら原作の舞台に行き――『運命』に捕まった事を悟った。今考えてもISを起動しようとしてブラストランナーが展開するってワケワカンナイヨ。
でもってそこから入学式までは学生寮で軟禁生活。3年生が卒業して空き部屋が多かったからか私が入る部屋にも事欠かなかったらしい。
そして4月。ここからが一気に密度が増す。
まず入学早々セシリアさん、つまりはイギリスの代表候補生と決闘する事になった。ちょっと待て、おかしいだろ。まぁ確かにあの頃の彼女はプライドの塊っていうか、『英国代表候補生にしてオルコット家当主たるセシリア・オルコット』を守るために全方位攻撃していたようなものだったけれど。いや、よくそんな状態のティーンエイジャーに国の看板背負わせようと思えたな。
それで、飛行ユニットが完成したと連絡を受けて試してみれば、空中で爆発からの落下死寸前までいった。嘘みたいだろ? 4月だけでこれだぜ……?
怒涛の4月が終わり、GWが明けたと思ったら、クラス代表対抗戦ではゴーレムの襲撃だ。まぁ私は機体が修理中だったというのもあって大したことはできなかったのだけれども。
そして6月は陰謀の季節。転入してきたラウラさんとデュノアさんそれぞれが重めの事情を抱えてたとは思わないでしょ普通……。
結局のところラウラさんは遺伝子操作で世に生まれ、そして文字通り生まれた瞬間からドイツ軍上層部のイカレた野郎どもに利用されてきた面を考慮されて無罪放免。デュノアさんの方はまだ本国に帰れてはいないものの、少なくとも『家族』に対する恐怖心はもうないみたいだ。織斑を巡るレース(牝馬限定・ルール無用)の結果次第では彼を連れて両親に挨拶に行く、なんて事もありえるだろう。彼がいなかったとしても今のデュノアさんなら大丈夫かもしれないが。
事件が解決し、私は念願の飛行ユニットを手に入れて、そして7月。開幕早々に第3世代機の中でもバリバリの最新鋭機『銀の福音』を相手に戦う事になり、辛うじて、本当に辛うじて勝つことができた。土壇場で2次形態移行を果たすとかおのれは主人公かよってことやられた時はマジで負けたと思ったね。
そして――今。
※※※※※
「どうして……?」
凶暴なまでに照り付ける日光と、それに嫌という程焼かれた大地からの輻射熱。しかしそれらからは一切隔絶されたほどほどに冷房の効いた屋内で、今の状況を振り返れば振り返るほど、私の口から零れる言葉は一つに絞られるのだった。
「鈴さん……あなたには負けられませんわ!」
「それはこっちのセリフよ、セシリアァ!」
プールに浮かぶ足場の上では、水着姿のセシリアと鳳さんがガチバトルを繰り広げており、時たまプールサイドから盛大な歓声があがる。オイコラ野郎ども、何勝手に見ていやがる。
「うっ……うぅ……」
着いた時はプールへの期待に心躍らせていた織斑は、今や物言わぬ死体……もとい、ノックアウトされたボクサーよろしくダウンしている。
『おぉっとここで1番の回し蹴りを2番が華麗に躱すぅ!』
『凄まじい反射神経ですね。客席も大盛り上がりです』
いつの間にか用意された長テーブルとパイプ椅子にはスーツを着た男性が2人、それぞれにマイクを手に実況と解説を行っている。やたら上手いんだけどもしかしてプロなの?
「どうして……どうしてこうなったぁぁ……!?」
私の心からの叫びは、しかし観衆のどよめきに紛れて消えた。
※※※※※
――7日前。
「あ、いたいた。レオ、ちょっといいか?」
「? どうした?」
それは、夏休みに入ってすぐの事だった。
夏休みとはいえここはIS学園。実家に帰省する人もいるけれど、同じくらいか少し多い割合の人が学校に残って操縦の訓練や装備の試験などを行っていた。
私は私で、証人保護プログラムの都合上簡単に今世の家族と会う事も叶わず、かといってこの暑さの中遊びに繰り出そうとも思えず、ならばという訳でいつもより予約が入れやすかったり少しだけ長い時間確保できるようになったアリーナで装備の試し撃ちや機動のチェックだったり、ISメーカーからのアルバイトをこなしたりとしていたのだったが。
「実はさ、鈴のヤツからこんなもんを貰ったんだけど……」
と織斑がポケットから取り出したのは、2枚の紙切れ。だが一部の者が見れば「殺してでも奪い取る」となりかねない危険物だ。
「あぁ、そこのプール名前聞いた事あるわ。チケット当たったの?」
「そうそう、しかもペアのヤツをな。俺は俺であたったんだけどさ、鈴もゲットできたらしくてな」
この時点でなんとなく今後の流れの察しがつくようになってしまったのは、順当にこの世界に馴染んでいると喜べばよいのだろうか。
「折角だしこのチケットレオにやるからさ、オルコットさんかボーデヴィッヒさんとでも出かけてこいよ」
「!?」
続けて織斑から発せられた言葉に思わずフリーズしてしまったくらいには、やはり私はこの世界に馴染んでいるのだろう。
「ま、待て織斑。一緒に、とかじゃなくて別に行こう……ってコト……!?」
「ん? あぁ、そうだぞ。いくらなんでもレオ達についていこうって考えるほど空気読めない訳じゃないしな」
「大丈夫か織斑、具合が悪いなら素直に言えよ? 熱中症とか場合によっては後遺症も残るって話だし」
「元気だわ!」
ツッコミを入れる彼の様子におかしい点は見えない。体調不良でも、別人の変装という線もなさそうだ。つまりは……
「成長、したな……!」
思わず視界が潤む。『あの』織斑が、前世のネットで散々ワンサマ―とか朴念神(誤字にあらず)とか言われていた織斑が!
恋愛事情に配慮しているのだ!
「今夜は赤飯だな……!」
「なぁ、さっきからだいぶ失礼じゃね?」
「私の行動が失礼かどうか、胸に手を当てて考えてみるんだな」
「……いや、やっぱり失礼だろ」
マジで胸に手を当てたよコイツ。ピュアか。
ていうか、
「そういや織斑は鳳さんとプールに行くのか」
「おう。っていうか鈴が当てたペアチケットで行くからなぁ」
「なるほどね。でもそれだとデュノアさんに篠ノ之さんの機嫌が荒れそうだな」
「うっ……それは未来の俺に何とかしてもらうってことで……」
「ただの先送りじゃねーか」
とはいえ運も実力の内。デュノアさんや篠ノ之さんの今後の健闘を祈ろう。
「レオの方こそ、ボーデヴィッヒさんは良いのかよ?」
「ラウラさんは今ドイツだからなぁ」
「あ、そうだっけな。ならしょうがないか」
「こっちに戻ってきたら彼女とも出かけたいよ」
「それとは別にみんなでどっか行くってのも楽しそうだよな」
「面白そうとは思うけど冷静に考えるとちょっとした国なら攻め落とせそうな戦力だよね」
「……言われてみれば確かに。まぁもういい加減襲撃とかはないだろ!」
「そう何度も何度も国内で好き勝手やられるほどこの国も間抜けじゃないだろ!」
「だよなぁ!」
「「あっはっはっは!」」
正直に言おう。心配しかねぇ。
「まぁ今そんな事考えててもしょうがないし、これからの事を考えようぜ?」
「だな」
と、そんな事を織斑と話し合ったのが7日前。
――3日前
「セシリアさん、少し良いですか?」
「なんでしょう?」
「3日後の日曜日、予定が空いているか確認したくて」
「3日後、ですか。少々お待ちを……特に大丈夫ですわ」
「あぁ良かった。実はこんな物を手に入れたんです」
「! それは!」
「あれ、セシリアさんもご存じでしたか」
「えぇ、クラスの皆さんの間でもここの話題でもちきりでしたから」
「そうだったんですね」
などと話し、当日はセシリアさんの方で所用があるため、現地集合にしようという事になったのが3日前。
――そして、今日。
セシリアさんの水着は臨海合宿でも拝見したが、今回も同じような水着なのだろうか。流石に他人の目もあるここで日焼け止めを塗らされる事はないと信じているけど、それに準じるようなアレなイベントが起こらないとも限らない。だってここラブコメの世界なんだもの。悲しいね。
「レオさん! お待たせしてしまいましたでしょうか……?」
「いえいえ、私も先ほど到着したばかりですし、まだ集合時間まで20分くらいありますよ」
ごめん嘘ついた。万が一にもセシリアさんを待たせたくないから1時間前には着いてたわ。
女尊男卑の世になったとはいえ、こんなご時世でもナンパをかます命知らずがいなくなった訳じゃない。むしろ通報や訴訟などの強硬手段をしてこなさそうな相手を見定めていくなど、リスクと快楽を天秤にかけられるバカが増えたそうな。ましてやセシリアさんはオタクの贔屓目を抜きにしても絶世の美少女。天秤を狂わせる男が出てきても何ら不思議ではない。
ここで問題。推しがナンパ師に絡まれて黙っていられるオタクがいるだろうか。
A.(NTR趣味のヤツ以外)いません。
「でもセシリアさんって確か今日本国絡みの案件でしたよね? 予定より早く終われたみたいで何よりです」
「え、えぇ。助かりましたわ」
――レオ本人は織斑一夏というラノベ主人公(かなりのイケメン)といつも過ごしている事、そして前世ではごく普通の見た目だったというのも相まって自分のルックスを並程度に考えているが、世間一般で考えて充分イケメンの部類に入っている。そしてIS適合者という点において知名度は下手をすればそこらのモデルより上だ。
では問題だ。女尊男卑の世の中、パリピも多く訪れる大人気のプール施設の入り口付近に(勘違いしている者にとっては)ちょっと強めに言えば言う事を聞くイケメンが一人で立って入ればどうなるか。
その答えが想像できたからこそセシリアは本来2時間かかると見込まれた会議を90分で切り上げ、可能な限りのスピードで目的地へと向かったのだった。現に周囲を見ればいかにもな遊び人らしき女性が複数名舌打ちをしそうな顔で離れていくのが確認できる。彼女の懸念は間違っていなかったようだ。
セシリアにも、NTR趣味は無かった。
「合宿ではあんな事が起こってしまいましたので。今日は一旦ISの事は忘れて楽しみたいのです」
「なるほど、では私もそうしましょう」
「はい!」
「……ッ」
「……っ」
片や手を差し出された事に驚きながらも喜んで『その腕を取り』、
片や恥ずかしさを隠して手を繋ごうと思いきや『腕を組まれて』、
共通しているのは双方共に『その頬を染めながら』、施設内部へと足を進めていったのであった。
この春からお金の取立て関連の仕事やってるけど、やっぱりお金が絡むと人って変わるよね。平気な顔で嘘つくし、法的にも正義はこっちにあるのに「そっちが悪い!」みたいな事言われるし。
日々の楽しみはアニメとこの二次の執筆、そして飼ってるネッコやで。