せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
セシリア・オルコットは焦っていた。
クラスメートや友人知人は今日は来ていないだろうという前提で先ほどまでレオに対して本人も大胆だったかもしれないと思う程のアプローチを仕掛けていたのだが、その一部始終を見られていたのかもしれないともなれば、その焦りも当然だろう。
しかしその焦りは鳳 鈴音も同様だった。
彼女もまた一夏の事を一途に想い、また恋に恋する乙女である。想い人にみっともない身体は見せられないと、プールのペアチケットが当たったその日から入念なトレーニングを積み、『一部のままならない部分』以外は大丈夫だと自分に言い聞かせられるようになった。着替えを入れた鞄に厳重に保管してある『替えの下着』が必要になる可能性も考慮し、そういった面の知識も勉強してきた。
だからこそ分かるのだ。
目の前の相手が、自分と同じ事を考えている、というのは。
(セシリア(鈴さん)はここで勝負に出るつもり(ですわ)ね!?)
お互いの目的を正確に看破しあったとはいえだからどうというほどではない。
どこかの世界線ではそうなった場合このプールが吹き飛ぶことになったかもしれないが、少なくともこの世界では精々心の片隅で健闘を祈る事くらいしかしなかった。
――運命は収束する。
レオという『異物』によって避けられた筈の戦いは、だがしかし『原作イベント』によって巻き起こる。いや、そもそも避けられてすらいなかったのかもしれない。
※※※※※
ISのパイロットは基本的に軍人か、ほぼ軍人と言っていい人間の集まりだ。
当然だろう。各国の最重要戦略兵器がISなのだ。パイロットが知っている情報――武装や機体のスペックだけでなく、どこで整備をするのか、整備班にはどんな人間がいるか、IS部隊があるならばその拠点はどこかetc――の重要性はそこらの企業秘密とは比べ物にならない。
だからこそISパイロットにはサバイバル訓練も施される。
何かの事故で仮想敵国に不時着、ISの使用は不可能。身一つで友軍との合流地点までたどり着かなければならない。とか、敵ISとの戦闘で撃墜され、洋上に着水。幸いにも近くに陸地があるが、そこまで1キロほど距離がある。とか、想定される様々なアクシデントから生き残るために鍛えるのだ。ゆえにIS学園の体育の授業はほとんど軍事教練だぞ。
前世の私は自他ともに認めるひ弱マンだったから、例えばこの世界に来る要因が転移とかだったら普通に詰んでいたかもしれない。だが今の私は『レオ・シキシマ』だ。ボーダーブレイクの世界で『熱血』と呼ばれる傭兵だった男の身体は、まだ15、16歳であったとしても鍛えれば相応に応えてくれた。端的に言ってしまうと、今の私は運動のできるやや細マッチョなのだ。……まぁIS学園どころか1年生でカウントしても私より強い人は多いんだけどね。もう凄いの。するりと腕を取られて一瞬で関節極められるとかザラ、上位勢なんか気が付いたらこっちが投げられたりするの。
前世の男連中からしたら「女子と組み手だと!? そんな羨ま……けしからん! 許さんぞところ天の助……!」となるかもしれないが、そう簡単な話でもないのだ。まず普通に授業だから先生に加えてクラスメートの目がある。それに組み手の授業とか女子からしたら「体格・重量で自分より優勢な相手と格闘する事になった場合」の結構大事な訓練だ。勝ち負けは別としても不真面目な態度で臨む女子はこれまで見た事もない。……周囲を完全に騙しきって私や織斑に触りたいという目的を遂行された日にはもうお手上げだけどね。
ともあれ、今となっては私もプールみたいな大きな波もない環境ならば、泳ぎには自信が持てるようになっている。まぁ今日のような激混みのプールでは、泳ぐどころじゃなさそうだ。というか迂闊に入ったらはぐれそうまである。セシリアさんもそれは分かっているのか苦笑い気味だ。
「これでは泳ぐどころではありませんわ」
「もう少し来る日を遅くした方が良かったですかね?」
「いえ、夏休みの終盤でもない限り当分このような状態になりますわ」
「それはありえますね」
芋洗いとはまさにこの事か。水面よりも肌色の方が面積が多く感じる今日のプールに入ろうとはちょっと思えない。何かイベントでもない限り、プールから人がはける事はないと思われる。
とはいってもここの売りはプールだけではない。空腹になればフードコートでお腹を満たせるし、複数出店しているアパレル系のお店で夏らしい服やハワイアンな水着、他にも色々とカエルのである。お店も結構な盛況ぶりではあるけれど、少なくともプール程ではない。
セシリアさんをエスコートしながら、ショッピングエリアへと足を向けた、その時だった。
『ご来場の皆さまにお知らせです。本日午後1時より、中央大プールにて参加型イベントを開催いたします。優勝者には豪華景品を用意しておりますので、どうぞ揮ってご参加ください』
突然のアナウンス。詳しい事はは分からないけれど、どうやらイベントがあるらしい。
「行ってみます?」
「えぇ、少し、興味がありあますわ」
フラグは既に立っている。後悔というのは事後にやってくるから後悔なのだ。
※※※※※
『ご来場の皆さまにお知らせです、本日のメインイベント『水上ペアタッグ障害物レース』を開催します! 優勝したペアには5泊6日沖縄旅行チケットをプレゼント! 12時より受付を開始します、ぜひ揮ってご参加ください!』
ピクリと。一瞬だけセシリアさんが固まった。それは本当に一瞬で、ともすれば見過ごしてしまいそうな仕草ではあったけれど。ほんの僅かに彼女から溢れ出た緊張が、セシリアさんが戦闘モードに入った事を表していた。
「セシリアさん、出るつもり?」
「……レオさんに隠し事はしたくありませんわ。えぇ、そのつもりです」
やめろぉ!(やめろ)。こちとら今日の短い間だけで理性がガリガリ削られているんだぞ!? 沖縄というIS学園から離れた場所で5泊6日だと!? そんなの保護者が許しませんわ! ……セシリアさんはアレだし私は私で中々連絡取れないんだったわチクショウ! 証人保護プログラムはもうすこし融通を利かせてくれよ頼むよ!
私の魂の叫びはしかし現実を変えることなどできるはずもなく。受付開始と同時に手続きを行うべくセシリアさんは意気揚々と受付へと向かい、
「えっ、レオ!?」
「織斑?」
「セシリア達も来てたの?」
「鈴さん、今日にされたのですか?」
恐らく似たような事を考えていたであろう鳳さんと、よく分からないけどイベントは楽しみにしていそうな織斑とばったり出くわしたのだった。
※※※※※
どれだけ気乗りしないことでも、決まってしまったことには従わなければいけない。それが組織の常で、この世界で『普通』に生きていくための必須スキルだ。
でもさ、嫌じゃないどころか普通に嬉しいけれど自分を(さまざまな意味で)狙っている女子と5泊6日で沖縄旅行に行くためのチケット争奪戦って、それ私参加する必要ありますかねェ!?
ヤる気満々の女子勢に半分引きずられるようにして受付に向かい、2組でエントリーしようとする。が、
「レオ・シキシマ君、ねぇ……本当に出るの? 周り見てみ? みーんな女の子ばっかりだよ?」
「え、あ、本当だ」
「そんな中に男子が混じっちゃうのはちょーっと不味いんじゃないかなぁって」
受付のお姉さん(礼儀)がエントリーしようとする男たちを片っ端から篩にかけている。
一見もっともな理由に思えるけれど、だとしたらちょっと後ろの方で参加しようとしている水着の女性たちをニヤついた顔で見ている主催者らしき男をどこかに隠すべきだな。これ絶対主催としては水着の女子たちが飛んだり跳ねたりしてるのを見たいだけだろ。そんなイベントにセシリアさんや鳳さんを参加させたくないなぁ
理由(建前)が正論すぎる! あーあー仕方ないなぁ! これはちょっと参加できないなぁ!
「仕方ありませんね、セシリアさん、ここは諦め……」
「鈴さん」
「セシリア」
「「目指せ、優勝!!」」
「いや、そうはならんやろ?」
おっそろしい速さでペアが決まってやがる……嘘でしょ……
クリスマスガチャ、メジロパーマー狙いでウン十連(100以上行ったかもしれない)か引いたらまさかの星33枚抜きで心臓止まったゾ