せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
時間とは唯一全人類に公平な物である。大金持ちも貧乏人も、男も女も、代表候補生も一般ピーポーも関係なく1秒は1秒であり、平等に過ぎ去っていく。
はい。来てしまいましたクラス代表決定戦。ワテクシことレオ・シキシマがオルコットさんにボコのボコにされる日である。
結論から言うと、空を飛ぶことについては1週間程度じゃどうしようもなかった。学園にある整備用の打鉄やラファールの飛行ユニットをポン付けできないか試してもみたが、流石にダメだったらしい。
本日はメインマッチである私とオルコットさんの試合以外にも、他薦があったからという理由でクラス代表候補に選ばれた織斑VSオルコットさん、最後に私VS織斑という3戦が予定されている。まぁ最後の試合に関して言えば、私は保健室送りで不戦敗という可能性もあるんだけどね、ふふふ……
アリーナへの道すがら、クラスメートの女子の何人かに声を掛けられる。意外にも激励が多かった。もちろん、彼我の実力差を心配したり、あるいはそもそも男が調子に乗るな的な声もあったけれど、心配は気持ちだけ受け取り、女尊男卑は鼓膜の辺りでシャットアウトする。
ピットでは織斑と篠ノ之さんが待っていた。
「おっすレオ」
「よっ。篠ノ之さんもわざわざ来てくれてありがとう」
「気にするな。こいつの付き添いのようなものだからな」
この1週間、織斑は篠ノ之さんに稽古を付けてもらっていたらしい。なんでも彼女は剣道の中学女子全国覇者なんだとか。織斑も小学生の頃は中々の腕前だったらしいが、中学3年間は諸事情でバイトに明け暮れ、すっかり腕が鈍ってしまったとぼやいていた。
「織斑は篠ノ之さんにしごいて貰ったから、今日は余裕だな?」
「……いやぁ」
「え?」
そして明かされる驚愕の事実。なんでも織斑には本来専用機が用意される手筈だったのだが、相手方の都合で機体の納入が遅れに遅れ、試合当日の今もなおまだ届いていないんだとか。
「まぁいざとなったら練習機の打鉄で出るさ」
「その会社大丈夫なのか? こんな言い方はアレだけど、今の織斑の立場なら他のメーカーとか選び放題だと思うが……」
「あぁ……今はいいよ。その辺りはおいおい考えるさ」
「それもそうか」
「しかし、アレがレオの機体か……なんというか、ISっぽくないな?」
「言うな……」
整備中の我が愛機を見て織斑も篠ノ之さんも何とも微妙な顔をしている。「実は陸戦しかできないんだぜ? ハハッ」とか言ったら更にアレな顔になるんだろうなぁ。
最終チェックが完了したらしく、整備科の人に呼ばれた。
「んじゃあ行ってくるよ」
「おう! 頑張れよ!」
「武運を祈るぞ」
かくしてクラスメート2人に見守られながら、私はシュライクへの搭乗を開始した。
※※※※※
『機体最終チェック完了、システムオールグリーン!』
「カタパルトコンディション良好!」
「発進要員以外の整備科生徒は至急退避しろ!」
「機体、カタパルトへの接続完了。シキシマ君、いつでも行けるよ!」
『了解、シュライク出ます!』
刹那、カタパルトに接続されたレオの機体は猛烈な勢いで加速し、出撃ゲートからアリーナへと飛び出していった。
「か、かっけぇぇ……!」
映画やゲームの中でしか見たことのないようなザ・出撃シーンに思わず感動していると、隣にいた箒が不思議そうな声で呟いていた。
「あんなIS、見たことないな……?」
その言葉の意味が分かるのは、もう少し後の事になる。
※※※※※
私がアリーナに飛び込んだ時、既にオルコットさんはアリーナの中央付近で待っていた。
「これは失礼を。レディーを待たせてしまったようですね」
「あらお気遣いなく。この程度、待った内にも入りませんわ。
そちらこそ、どうやら逃げずに来たのですね?」
アリーナ中央付近で低空に浮くオルコットさんの機体『ブルー・ティアーズ』。2メートルはあるだろうライフルを抱えている。
無重力の宇宙で活動することを前提に開発されたISの武装は、そもそも巨大化しやすい。ましてや彼女は英国の第3世代機のパイロットであることを許された存在だ。長物に振り回される、なんてことはまずないだろう。
「というか、あなたの機体は何ですの?
見慣れない機体、というのもありますが、ピットから出てきて以降地上走行しかしていませんわね?」
「まぁその辺りは機密とかかん口令とか色々ありましてね。各種工作を行う支援機、とだけ言っておきましょう」
「そんな機体で本気でわたくしに勝てると思っていて?
まぁいいですわ。あなたに最後のチャンスをあげましょう。今この場でわたくしに謝罪なさい。そうすれば許してあげますわ」
「ありがたい申し出ですが」
――コール、ネイルガン
「それはチャンスとは言えませんね!」
既に試合開始されていたにも関わらず余裕からかライフルを構えもしていなかった相手に発砲。銃声とままた違う独特の発砲音と共に、極太の釘が飛んでいく。
普通に避けられるだろうと思ったその射撃は、しかし過たずオルコット機に着弾した。
「――なぜ、避けないのです?」
「サービスですわ。あなたのその武器では私は倒せない。しかしいくらなんでも無傷でわたくしが勝ってしまってはあんまりでしょう?」
「――言ってくれる」
だが、割と純然たる事実でもあるから笑えない。嘗められるも何も、彼我の性能差はそれだけあるのだ。
「さて、サービスは今のでおしまい」
――ロックオン警報!
いっそ優雅な所作でライフルを構えた彼女は、地を這う私に宣告する。
「踊りなさい、ブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で」
※※※※※
第3世代IS『ブルー・ティアーズ』。その兵装は中距離~長距離射撃武器のライフルと、同じく射撃型のビットが4基、それに近接防御用のミサイルビットが2基になる。
いかにもな『射撃型機体』だが、そんな機体への対処法のテンプレである『近接してズンバラリ』はとても難しい。単純に私を狙う銃口が5つもあることに加え――
「のわぁぁ!? あぁもう、いい腕してる!」
搭乗者たるオルコットさんの腕が良すぎて、近づくことすらままならないのだ。近づこうとした出鼻をビットに挫かれ、あるいはビットの射撃を回避した先にライフルから放たれたビームが『置いてある』。
「っぶな!?」
かなり無茶な姿勢になりながら上体を反らし、頭部への直撃コースだったビームを辛うじてかわす。とはいえ直撃していないだけで、さっきからかすったりなんだりで徐々に機体のシールドエネルギーは削られていっている。
戦闘開始から5分。早くも私の機体の耐久値は半分程にまで減っていた。
対してオルコット機は最初の被弾以外全くダメージを受けていない。当たり前だ。私は接近しようとしてはビットに阻まれ、追撃をかわすためにアリーナ中を逃げ回っていたのだから。
(予定より早いけど、こんなに削られたなら仕方ない!)
――コール、弾薬ボックス
――コール、リペアユニット
地面に設置した弾薬ボックスから使用した弾薬を補給し、また損耗したシールドエネルギーを回復させる。
「本当に支援機なんですのね。武装もどちらかといえばPDWの類。
決闘を申し込んだのは確かにわたくしですが、ここまでの差があると不憫にすら思えてきますわね」
「そう思うなら決闘を取り下げてくれてもいいんですよ?」
「まさか。一度成立した決闘である以上、決着が付くまで続けるのがルールでしてよ」
「律儀なことで!」
ネイルガンを発砲。こちらに狙いを定めていたビットAに数発が命中。落とせはしなかったがどこか重要な場所に命中したらしい、動きがフラフラし始めた。
「やりますわね。ですがビットは後3基ありましてよ?」
「なら全部落とすまで!」
ビットを狙って撃つ、撃つ撃つ! そもそも的が小さいこと、相手の攻撃をかわすため移動しながらの射撃だからか精度は粗い。でも下手な鉄砲も数撃てば当たる! 連射性能に優れる分マガジン内の釘を撃ち尽くすのもあっという間だ。それでもこのネイルガンのリロード方法は単純で、2秒くらいしかかからない!
1マガジン20発を撃ち切って命中するのは2~3発。正直言って目を覆いたくなる数字だが、さっき補給を済ませたばかりで弾切れの心配はない。
射撃とリロードを挟みながら弧を描くようにオルコット機に接近する。オルコット機のビットはもう残り1基。
(行ける!)
「――まずは謝罪を。男だから、空も飛べない機体だからとレオさんを侮ったこと、心からお詫びしますわ」
「何――」
――ロックオン警報!
――ミサイル接近警報!
思いもよらないミサイル警報にオルコット機の方を見ると、白煙を靡かせてミサイルビットが2基、私の方にまっすぐ向かってきていた。
「ビットを3基も落とされた挙句ここまで接近を許すようでは、射撃に特化した機体を預かるわたくしとしては敗北も同然」
「マズッ!?」
(嘘だろう!? あの距離じゃオルコットさんにもダメージが……いや、爆風で多少ダメージを負っても俺を落とす事を選んだってのか!?)
持っていたネイルガンを投擲し、なんとかミサイル1基を誤爆させる。だが、残る1基はすぐ近くにまで迫っていた。
「あぁクソッ!」
閃光が走った事を認知した次の瞬間には轟音と衝撃に巻き込まれ、私の視界はブラックアウトした。
※※※※※
――メインシステム再起動。
――絶対防御発動。操縦者レオ・シキシマへの肉体的ダメージは0。
――機体コンディション レッド。中破と推定。
「……ぅぁ」
何とか生きてる。そう形容する方が良いくらい、シュライクはボロボロだった。というかさり気に絶対防御が発動した辺り、どうやら最後のミサイルは私に直撃したっぽいな。
一方のオルコット機はというと、確かに目に見えてシールドエネルギーは削れ、残り半分を切ったくらいにまで減っている。それでも、あと1~2回ビームがかすっただけで戦闘不能になりそうな私に比べればはるかにマシだ。
「どうやら、負けたみたいですね」
「えぇ、改めて申し上げましょう。降伏しなさいな。ここまでシールドエネルギーに差がある以上、この状態からどう立ち回ってもあなたに勝ち目はありませんわ」
「違いないですね」
大きくうなずき、私は手を上げた。すると当然、私の手にある物体もオルコットさんからよく見える訳で。
「レオさん、手の中の物を今すぐに捨てなさい!」
「次は相手のISを解除してから降伏勧告するんですね!!」
私は、リムペットボムの起爆スイッチを思い切り押し込んで――
※※※※※
(よう相棒、戦う理由はみつかったか?)
意識が浮き上がるような感覚がして、私は目を覚ました。
誰かに、何かを言われた気がする。何か大切なことを問いかけられたはずなのに、どうしても思い出せない。
「目が覚めましたのね」
声がした方を見ると、制服姿のオルコットさんの姿があった。ってなんで?
「あれ、俺は確か模擬戦で……」
「意識が戻ったばかりなんですから無理はなさらないでください。わたくしは校医の先生を呼んでまいります」
「オルコットさん、あの後何が――」
「セシリアと呼んでくださいな、レオさん。
あなたはわたくしを道連れに自爆したのですよ。完全にしてやれられましたわ」
苦笑いを残して去っていくオルコットさん。
あぁそうだ。思い出してきた。
普通にやったんじゃシュライクではブルー・ティアーズには間違いなく勝てない。勝つためにはいくつもの条件をクリアする必要があった。
まず、相手が私を嘗めていること、これは最初からクリアしていた。実際ISに乗っている側からしたら、普通に考えれば私は雑魚にしか見えないだろう。
そして次に、相手が接地している、あるいは地表ギリギリに滞空していること。これも何とかなった。これで仮にオルコットさんが上空からひたすらにビームを撃ち下していたら、私は2~3分で蜂の巣になって終わっていただろう。
そして、私が手動で起爆できる爆発物を複数所持していること。ゲームの時の『ボーダーブレイク』では爆発物の設置数に制限があり、一定数以上は設置できない縛りがあったが、その縛りが無い事は模擬戦前の先生方との訓練で確認してあった。
ここまで来ればあとは実践である。私はビームを避けて躱してアリーナ中を逃げ回りながら、そこら中にリムペットボムをポイ捨て……もとい設置しまくったのである。問題はこの方法だと、オルコットさんが最初に居るアリーナ中央に設置ができない事だが、そこだけは私が戦闘中になんとかする必要があったのである。
結果からして賭けは大成功。オルコットさんは読み通り当初の位置を離れて即席地雷原の方に移動し、見事爆発に巻き込まれたのだ。まぁ私も普通に吹っ飛ばされたんだがな!
考え事をしている間に校医の先生がやってきて、私は診察を受けた。結果は異状なし。リムペットマイン複数個の爆発はほとんど残っていなかったシュライクのシールドエネルギーを一瞬で消し飛ばし、絶対防御をほんの少し抜いて私の脳みそをシェイクしたようで、軽い脳震盪ということだそうだ。もし後から何かしらの症状が出たらすぐに保健室に行くようにと念を押される。
「なるほど、あの動きにはそのような意味があったのですね……ふふっ。わたくしもまだまだですわね」
保健室を出た私たちは、寮へと向かっていた。模擬戦自体放課後に行われていたため、今日の授業は全て終わっている。宿題も少し出てはいたが、オルコットさんからの伝言によるとクラス代表候補の3人――私、オルコットさん、織斑――は1日の猶予が与えられるそうだ。
「私としてはオルコットさんの「セシリア」――セシリアさんのミサイルをまともに受けた時点で負けだと思っていますよ。アレでシールドエネルギーが全損しなかったのは奇跡です。あの瞬間に決着がついていても何ら不思議ではなかった」
「幸運を掴み取れるのもまた実力の1つですわ。
――さて。レオさんにあぁもやられてしまった以上、わたくしとしては様々な方に謝って回るつもりです」
夕焼けに照らされた彼女は、何故かとても危うく見えて、
「セシリア、何か変なことを考えてはいませんか?」
「……鋭いですわね。
英国の代表候補生として、また第3世代機である『ブルー・ティアーズ』を駆る者としてわたくしに敗北は許されない。わたくしには国家の威信と、オルコット家の名が懸かっていますわ。そんなわたくしが入学早々に、しかもこれまでISに触っても来なかった殿方に敗れたとあっては、最悪の場合本国に召還され、代表候補生の称号を剥奪されてもおかしくはありません。
僅かではありましたが、ここでの生活は楽しかった。仲良くなれそうな方とも出会えました。初日に侮辱してしまった皆さまには本当に申し訳なく思っています」
「待て、待ってくれ」
人の話を遮ることに抵抗感を感じながらも、それでも声をかけずにはいられなかった。
「いくらなんでも、一回負けたからそれで終わり、だなんてあんまりだろう!?」
「一般生徒の方はそうでしょう。しかし代表候補生にもなれば話は変わります。候補生であったとしても国の名を背負う以上、無様な敗北は許されないのです」
感情的には全く納得できない話だが、『田村』としての、大人としての私には納得できてしまう部分があった。国の名を背負うこと、誇りを背負うことは栄誉であると同時に、とてつもない重圧になりうる。
前世の話だ、サッカーの祭典が行われた時に、中東の某国のチームと、世界の超大国のチームが激突した。結果は超大国のチームが勝った。そして試合後、両者の健闘を称えてハグを交わした中東国家の選手は、「負けたのにハグを交わすなんてけしからん」と、なんと帰国後に当局に拘束されてしまったのだ。もちろんこれは極端な事例だし、背景には宗教対立とか戦争とか色々な事が絡み合っていたのだけれど。
「……国旗を背負う以上、何のリターンも無い敗北が受け入れられないのは分かった」
「それは何よりですわ「でも!」??」
「リターンがあれば話は違って来るんだろう?」
正直に言おう。この時の私はどうかしていた。
「それなら、たぶん今は日本しかもっていない私のISのデータをセシリアが手に入れられれば、それはセシリアの功績になるよな?」
戦闘シーンは捗るなぁ