せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
今日は1日ISでの演習が組まれているから、今のメンタルで再びみんなの前に戻る訳にはいかない。昼休みの間にできる限りいつも通りの私に戻らねば。
だがしかし。そもそもこのIS学園においてゆっくりと気持ちを落ち着けられる場所はほとんどない。女子のいない場所なんてそれこそ寮の自室かトイレ、あとは更衣室くらいだ。午後の演習の事やそれに伴う着替え等々を考えると、私は安息の場所を更衣室にせざるを得なかった。
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シュノーケリングにも使えそうな見た目のISスーツを着れば、午後の準備はとりあえずできあがる。
「……はぁ」
ため息をつくと幸せが逃げる、なんて言われることがあるけれど、個人的には逆だと思っている。そもそも何かしらのアクシデントが起こっているから、人はため息をつくのだ。
思い出されるのは先ほどの光景。
相手に対応を強いるのが目的とはいえ、発射したミサイルが全弾撃墜されるなんて予想もできなかった。
それこそレーザーのようなガトリング砲の火箭をバレルロールでかわしながら的確も極まる狙撃を繰り出してくるとか、もはや反則級だった。
けれど、セシリアさんの動きが素晴らしかったからこそ、私は自分が情けなくて仕方なかった。
ミサイルに対処された? そもそもミサイル自体まともに動ける機体で周囲に障害物があればかわす事も可能だし、一斉に発射した弾頭が列を作って目標に殺到する性質上セシリアさんほどの射手ならば迎撃される、という可能性も想定できた気がする。
回避行動だってそうだ。必殺の一撃をバレルロールでかわすなんて、前世でやった戦闘機ゲームのラスボスだってやっていた機動じゃないか。ましてボーダーブレイクの全国対戦で戦ったハイランクプレイヤーたちなんて、何度撃ち合いの最中に死角を取られた事か。
そこまで考えてハッとした。ゲームで私や多くのプレイヤーがやっていたように飛んだり跳ねたりする動きは確かに有効だった。けれど、あれはあくまでも『ボーダーブレイク』というゲーム内での話だ。最近私の戦績がパッとしないのは、機体の操縦をどこかゲームの延長線上に考えていたからじゃないだろうか? ゲームだと自分の機体を見下ろす3人称の視点だったが今は(当たり前だけれど)1人称の視点だ。ではその場合の弾幕はどう見えるだろう? ダメージが入るか入らないかの距離で起こった爆発はどう見えるだろう?
怖いんだよ。
相手の弾幕は全部自分に向かってくるように見えるし、爆発なんて起こった日には絶対防御とか関係なしに身がすくむ。
ヒトという生き物として抱えている本能。危険から身を守るための本能が、私を縛りつけている。当たり前の事ではあるんだけれど、今はどうにも鬱陶しく感じられた。
そういった意味でもみんなは凄い。ガトリング砲に狙われているっていうのに冷静に弾幕を回避し、あまつさえ反撃までしてくるセシリアさんもそうだし、織斑なんてメインウェポンが剣だぞ? 剣一本で機関銃を相手に突っ込めるとか頭のネジが1本どころか何本も消失してるとしか思えない。少なくとも私にはとてもマネできない……
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『レオさん、手の中の物を今すぐに捨てなさい!』
『次は相手のISを解除してから降伏勧告するんですね!!』
私は、リムペットボムの起爆スイッチを思い切り押し込んで――
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俺はマーシャルソードを振りかぶり、
「食らいやがれえええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」
刃が当たる寸前に、刀身を90度回転させた。
本来であれば何の意味もない行動。だが、今はこれが一撃必殺の意味を持つ。
『――!?』
マーシャルソードの刀身に貼り付けたヘヴィマインが複数個同時に敵機に触れ、私の意識は閃光と共に消えた。
※※※※※
いや、私もこれまで散々自爆とか色々やってたわ。今さらどうして弾幕程度でビビっていたんだろう? 頭のネジどころか脳みそをどこかに落としているようなマネしてきていたのに。
「!?」
「だーれだ?」
瞬間、視界が闇に閉ざされるのとほぼ同時に声が聞こえる。
目の周りに感じる柔らかさと温かさ。誰かの手で覆われているのか?
反射的に目を覆う物をどかそうと手を伸ばす。しかし何も掴めずにただ視界が開けた。
「……どちらさまで?」
「うふふ、今はまだ内緒」
彼女が身に着けているネクタイからして上級生だという事は分かる。しかしながら上級生に知り合いがいる訳でもなく、相手の正体は見当もつかなかった。……っていうかさ。
「私、入口の札を『使用中』にしていた筈なんですが?」
「あら、そうだったかしら? 見落としていたかも」
「男女逆だったら警察沙汰になってもおかしくないってのに……これが性差別か」
「悲しいけど、それが今の世の中よ」
「あなたの事を言ってるんですがねぇ!?」
駄目だこれ、何言っても無駄なパターンだ。
「……はぁ、それで? 一体何の要件ですか?」
「ん? 今はただの顔見せよ。まぁ後でまた会えると思うわ」
「顔見せで異性が着替えてる更衣室に忍び込むとか……
とんだ変態ですね」
「……変態じゃないし。本当に着替えていたら出直そうと思っていたし」
「私、先輩が入ってきたの全く分からなかったんですが。もしかしたら先輩、本当はずっと気配を消して覗き見してたんじゃ……?」
「違うわよ!」
「本当かなぁ?」
ワ○ワ○さんの発言に疑惑の声を向けるゴ□リくんみたいな声を出しながら思う。――さてはこの人ギャグ路線で押されると弱いな?
「さて、気はほぐれた?」
「っ!」
天秤が一気に傾いたような感覚がした。主導権を一気に持っていかれたような。凸屋が2機くらい前線を抜けていくのを遠目に見つけてしまった時のような、そんな感覚。
今すぐに何かしらの行動をしなければ。ダメージはもう防げなくとも、最小限に抑えなくては。
だが先輩はそれを許してはくれなかった。
「君の記録は色々と見せてもらったわ。正直に言うけどよく持ちこたえていられるわね。おねーさんちょっとビックリ」
「な、にが……」
「君の機体、『ブラストランナー』だっけ? 今君が乗っているのって、もう結構なハイエンドモデルなんじゃない? いつまで周りのみんなに食いつけるかしら?」
図星だった。私がメインで乗っているシュライクや今回セシリアさんとの演習で乗ったヘヴィガードより上位互換と呼べる機体は確かにあるが、今はまだ1年目の2学期序盤。
織斑のセカンドシフトや篠ノ之さんが紅椿を受領したような進化を他のみんなも果たしたとしたら、既に終了した――つまり、もうこれ以上の進化がありえない――ボーダーブレイクの機体しか乗れない私は、そう遠くない未来に必ず詰む。
「そこでおねーさんから提案がありまーす。
まだ詳細はちょっと言えないんだけど、近いうちに織斑君と一緒におねーさんの特訓を受けてみない? こう見えても腕には自信あるのよ」
「特訓、ですか……」
腕に覚えがある、というのはハッタリとかではないだろう。考え事にふけっていたとはいえ、目隠しをされるまで私は先輩の存在に全く気付けなかった。男子2人が使うにはもったいないほど広い更衣室に彼女が入ってきて私の背後を取るまでたっぷり数メートルはあったというのに。
そこまで白兵戦に自信がある訳じゃないけれど、少なくとも目の前の女性はラウラさんと同格かそれ以上くらいには強いように私には思えた。
「それで、どうする?」
「……分かりました。よろしくお願いします。
それはそうと、実際に覗いたりはしてないですよね?」
「してないわよ!!」
何か悔しいから、最後にちょっと擦らせてもらったけど。
※※※※※
「ぎゃあああああ!」
昼休みが終わって午後の訓練。命知らずにも遅刻をかましたため織斑先生の命令でデュノアさんの的になっている織斑を見ながら、私は今後のことを考えていた。
(今メインで乗っているシュライクよりも同じ軽量機でもガルムやZ.t.といった高ランク帯で乗っていた機体がまだ控えている。でもその機体が使えるのはいつまでだ?
ISの原作がどこまで続いていたかは知らないけれど、ロボ系の常として敵味方問わず機体のアップグレードはあって当然だ。いずれ私の機体、というかブラストランナーそのものが完全に置いて行かれる。立ち回りでカバーするにも限度があるだろう)
遠くない未来にやってくるどん詰まりを避けるためにも、私も、ブラストランナーも、未知の領域に踏み込まなければならない。
今以上に強くなるには、セシリアさんやラウラさん、仲良くなれたみんなを守るには、ISとは違ってもはや存在しない『原作』を超えなくてはいけない。
それは鉛にも似たプレッシャーとなって、私にのしかかってきていた。
レオ君の強くなりたい理由って
① 自分だけ飛べない
から
② 伸び代がない
に変わってるから一応進歩してると言い張れないこともない(震え声)