せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
丸一日通して行われたIS実機訓練を終えると流石に疲れがどっと出る。
しかしIS学園の夕食は時間が決まっているため、どれだけお腹が空いていようがしっかりガッツリ食べる事はできない。
ならばどうするか。
「このパンとオレンジジュースください!」
「あ! プリンもう売り切れてる……」
そう、購買部である。IS学園の生徒はほぼ全て年頃の乙女とはいえ動けばお腹も減るし時にはお菓子をつまみたくもなる。カロリーが気になる? 高校のカリキュラムに加えて軍事訓練とISについての座学がみっちりあるんだぞ? 下手に食べないダイエットなんてやってみろ、冗談抜きで倒れかねない。
軽食からお菓子にジュース、各種文房具にコスメ用品まで、学園生活に必須なアイテムが一通り揃っていてしかも手ごろな価格で買える。それがIS学園の購買部なのだ。コスメ用品はいらないだろうって? それを呟いたためにクラスの女子から総ツッコミを喰らった織斑と同じ道を辿りたければその意見を口にするといい、私は止めないから。
鳴いて撃たれた雉はともかく、この購買部についても食堂と同じように海外から来る生徒のために各国の物が用意されていたりする。甘党の私としても普段なかなか見る事のない海外のお菓子とかも食べられるのは素直に嬉しい所だ。だがチョコレートにオレンジをミックスした奴を私は生涯許さない(過激派)
しかし、この揚げパンにジャムをたっぷり塗ったようなスイーツとか、男の私でもカロリーが気になる――
視界の外から伸びてきた手が、今まさに気にしていた揚げパンを掴む。少し遅れて見覚えのある金色が目に飛び込んできた。
「こちらを1ついただけます?」
「あれ、セシリアさん」
「ひゃわ」
ビックゥ! とセシリアさんの肩が跳ねた。もしかしたら本人はお忍びとか思っていたのかもしれない。いやその高貴さでお忍びは無理でしょ……
「れっ、レオさん! 奇遇ですわねこんな所で!」
「あ、うん。……セシリアさんも甘いもの好きなの?」
「えぇ、こちらはドイツのベルリーナー・プファンクーヘンというお菓子ですわ。レオさんにも分かりやすく説明するとなると……ジャムの入った揚げパン、といった所でしょうか。このように上に粉砂糖がかかっているので食べるととても幸せな気持ちになれますわ」
「おぉ……!」
初めて見るけれど断言できる。これは絶対美味しい。第一に揚げパンをマズく作る方がおかしいのだ。加えてそこにパンと相性の良いジャムと、トドメに粉砂糖。これ本当はクリスマスとかちょっと特別な日に食べるお菓子じゃないの? 大丈夫? 特にこれといったこともない平日に食べても。
だが甘い物には勝てるはずもなく。私もセシリアさんと同じものを買おうとパンの置いてある籠を覗いてみれば。
「売り切れ、だと……!? さっきまでまだまだ残っていたのに、噓でしょ……?」
「あ……わたくしが引き止めてしまったから、でしょうか……」
「いえいえ、セシリアさんのおかげでまた一つ美味しいお菓子の存在を知ることができたんです。ここは大人しく次の機会を伺いますよ。
ふむ、しかし……」
「な、なんです?」
「いえ、そのパンって、ジャムが入っているんですよね? だったら例えば揚げパンに切り込みを入れて、ジャムじゃなくてホイップクリームをサンドして上からココアパウダーをかけたりしても良さそうだなぁって」
「……アリ、ですわね」
割とガチで考えてたぞこのお嬢様。かわいいかよ。
「レオさんの発案は素晴らしいのですが、このお菓子、ちょっとした問題点がありまして……」
「問題点? 日持ちしないとか?」
「いえ、ですがそれに勝るとも劣らない重大事項です。
このお菓子……カロリー爆弾なんです……!」
「……」
えぇ(困惑)
いやね、女性の美に対する意識が野郎のそれとは別次元の物だっていうのは分かっていたつもりだ。けど、今日一日ハードに過ごしてからの栄養補給でカロリーを気にしていて良いのだろうか……?
こんな事を考えてしまうあたり前世も含めて恋人とかできなかった理由なんだろうなとか考えてちょっとへこんだ。
「……ま、まぁそうですよね。揚げる行程がある以上他のお菓子と比べれば高カロリーになるのは当然ですし」
「嘘は言ってないようですが本音ではないですよね?」
「っ!」
図星ではあった。毎日訓練や座学をしている以上そこらの運動部並みに消費カロリーは多いと思っているし、むしろ食べない方が身体に悪いっていうのも本音だ。一番は、日々の細やかな努力があってこそ多くの女子(美少女に限る)はそのスタイル等を保てているのだけれど、好きな物くらい気兼ねなく食べたらいいのに、という身も蓋もない意見なのだが。……だって私どれだけ食べても肉つかないし。
既に本音を語っていない事を見透かされている以上何も言わない訳にもいかず、結局私はそのままをセシリアさんに告げる事にした。
「はぁ……
男の方っていつもそうですわね! わたくしたちの事を何だと思っているのですか!」
「えっと、ごめんなさい?」
「確かにここでの学業や訓練は厳しいですし、1日の消費カロリーは多いです。が、それとこれとはまっっっっっったく別のお話! お砂糖の摂りすぎはニキビに繋がることだってあるのです!」
「「「うんうん!」」」
いつの間にか周囲で話を聞いていた女子たちも大きく頷いている。あの、本当、すみません……
「だいたい! いくら食べてもお肉がつかないなんて羨ま……もとい、個人の体質のお話をされても、ほとんどの方は食べればそれだけ体重が増えるのですよ?」
「はい……理解が足りなくてすみませんでした……」
フェ○ンに怒られたシュ○ルクみたいな顔をしながらセシリアさんに謝り、最終的に私はすたこらと購買部から逃げだしたのであった。
※※※※※
「あ、結局何も買えなかったし……」
きん‐く【禁句】
1 和歌や俳諧 (はいかい) などで、使ってはならない語句。止め句。
2 聞き手の感情を害したり刺激したりするのをはばかって避けるべき言葉や話。「受験生の前では、落ちる、すべるの類は—だよ」
禁句の意味をこれでもかと体感した後で、空腹を主張するお腹を撫でながら寮へと向かう。もうこの際砂糖とミルクたっぷりのコーヒーでも淹れようかと歩いていると、後方から小走りで近づいてくる足音が聞こえた。
「レオさん!」
「セシリアさん?」
誰かと思ったら、先ほど女子とカロリーの関係性を『教えて』くれたセシリアさんだった。……ちょっと気まずい。
「その、先ほどはすみませんでした。皆さんの前でレオさんに恥をかかせてしまいました……」
何が始まるのかと内心身構えていたら、セシリアさんが最初に行ったのはまさかの謝罪だった。
一瞬謝られるような事か? と思わないでもなかったけれど、よく考えれば公衆の面前で頭を下げるのは恥だったわ。それも全面的に私が悪いような事でもなかったし、客観的に見れば私は大恥をかいた事になるのだろう。
(正直そんなに気にしてないんだけど、それじゃあセシリアさんが納得しないか)「謝罪を受け入れます。セシリアさんとしても周りの女子まで参加してくるのは予想外だったでしょうし」
「それはそうなのですが……その、許していただけますか?」
「えぇ、私の発言がデリカシーを欠いていたのも事実ですし」
「ありがとうございます。ですが、このままではわたくしの気が収まらないので」
と、セシリアさんは何かビニール袋に入った物体を取り出した。開かれた包装から食欲をそそる良い匂いが漂ってくる。
「こちらを、半分こ、しませんか?」
光の速さで私は頷いた。
※※※※※
翌日、朝のHRどころか1時間目も丸っと使った全校集会が行われるということで、私たちは朝から移動することになった。
『それではこれより、IS学園全校集会を始めます。
まず、生徒会長より挨拶があります』
司会を務める生徒のアナウンスの後、照明が絞られ、唯一明かりの灯ったステージに視線が集中する。
カツカツと足音を響かせて登場した女子生徒に、私は見覚えがあった。
『さてさて、今年は色々と立て込んでいてちゃんとした挨拶がまだだったね。
私の名前は更識楯無。君たち生徒の長だよ。以後よろしく』
うわ、かっこよ……。
そう思ったのはどうも私だけではないらしい。あちこちから彼女に魅了された女子たちの熱っぽいため息が聞こえてくる。彼女のようなタイプをカリスマって言うんだろうな。
まぁ着替え途中のロッカールームに侵入してきた変態、もとい先輩なんだけれど。いっそ変態先輩とでも呼んでやろうか。
私がくだらない事を考えている間にも、更識会長の演説は続く。
『さて、今月中旬に控えた一大イベントである学園祭なのだけれど、今回に限り特別ルールを導入しようと思います。
それは』
会長がどこからか取り出した扇子を勢いよく開いた直後、空中投影ディスプレイが展開され、デカデカと『特別ルール』とやらが発表された。
『題して、【各部活対抗、男子生徒争奪戦】!』
「は?」
「はぁぁぁぁぁ!?」
あの変態先輩、とんでもないこと始めやがったな!?
ところでネタ元のゾンビ物がアニメ化するってマ?