せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
皆さま、本当にありがとうございます。
「さて、準備はできたかしら?」
「欲を言えば応援を呼んで囲んで叩きたいんですがね」
「あら、始める前から1対1じゃ勝てないって宣言? ……まぁ、正しい認識だけどね」
軽口を叩きながらも試合開始と同時にどのように動くかをイメージしていく。
相手は学園屈指の手練れ。ボーダーブレイクで言うならば全国対戦の赤帯(SSランク)以上、白黒(EX)や黒(ACE)レベルで考えておいた方が無難だろう。そんな化け物連中相手にタイマンで私が勝てた事なんて冗談抜きで片手で足りる。やっぱりあの連中どこかおかしいよ……
今回の機体は全身クーガーSでバランスを重視したアセンになっている。特殊兵装にはリペアユニットをチョイス。相手の出方が分からない以上、回復を入れるのが重要になると判断した。
「ルールは織斑君の時とだいたい同じ。私に絶対防御を発動させれば君の勝ち。君が戦闘不能になれば私の勝ち。それでいいわね?」
「はい」
ちなみにだが、今回のような少々特殊な模擬戦では実弾は使わない。訓練用の仮想空間システムを展開し、網膜に訓練フィールドの景色を投影する事で、実戦さながらの緊張感を持って訓練を行えるのだ。むろん銃弾も仮想の物。ダメージを受けたとシステムが判定すれば、被弾箇所の機体パーツの動きが制限される。初めてコレを体験した時はそれはもう驚いたね。
網膜にホープサイド新都市のような市街地が投影される。会長は数ブロック先にいるはずだ。
試合開始のカウントダウンが始まる。
これから戦う相手は圧倒的格上。分かっている情報は生身での格闘戦が滅茶苦茶に強い事と、IS学園最強を自称している事くらい。対して会長は恐らくだけれど私の情報を多少は調べていてもおかしくはない。あれ、自分は相手を知らず、相手は自分を知っているって負け戦の典型パターンじゃ……?
5カウントで大きく呼吸し、意識を切り替える。
3カウントでいつでも飛び出せるように身体に力を篭めて、
タイマーが0になったと同時に、私は武装を呼び出しながら前へと飛び出した。
※※※※※
タイマンにおいて大事な事はなんだろうか?
機体性能? プレイヤーの腕? それらは確かに重要だ。でも、個人的に最も重要だと思っているのが、『より先に相手を見つける事』だと思っている。先手を取られた上で相手に勝とうと思ったら装甲マシマシのゴリラみたいな機体でもない限り厳しいだろう。今私が乗っている機体はクーガーS。装甲もそこそこあるがあくまでも標準型としては、という範疇。会長がどれだけ自分の機体に慣熟しているかは分からないけれど、少なくともこれまで模擬戦してきた代表候補生のみんなよりも格上と想定するしかない。
だから、
――コール、滞空索敵弾
バシュゥっという音と共に打ち上げられた索敵センサーが一定の高度に達した瞬間、パラシュートが開き、センサーが索敵範囲内の敵機の存在を教えてくれる。
「……いた!」
センサーに反応。3ブロック先の交差点に敵機はいる。いるのだが、
「交差点のド真ん中で止まってる。……待たれてるなぁこれ」
周囲のビルへは登れない。大きな交差点だから見晴らしも最高。こちらが姿を見せた瞬間、相手もこちらを補足するだろう。
マジか、位置取りだけで索敵の優位性を殺されたぞ。
いや、まだだ。こちとら支援兵装、各種トラップがある。そうなると……アレを使うか。
多くはないが『仕込み』を済ませると、私は会長のいる方向へと機体を走らせた。
※※※※※
「遅かったねシキシマ君。野暮用でもあったかな?」
「レディにお会いするのにプレゼントの1つも無ければ失礼ですからね。会長ほどの方ともなれば用意する『物』も相応のモノが必要になりますし」
「おねーさんはそういうのあんまり気にしないよ?」
「まぁここは男として見栄を張らせてください、という事で」
「そういうのおねーさん好みよ、実力もセットならなおさらだけど」
「それはこれからお見せしますよ、っと!」
静から動へ。遮蔽物として配置されているトラックなどを利用しながら会長へと距離を詰める。
対する会長はまだ動かない。近接戦をするつもりか? だったらわざわざ付き合う必要もない、距離を保って蜂の巣にしてやる!
――コール、ラピッドネイル
連射される釘が会長の機体目掛けて殺到する。しかしそれでも会長は全く動こうとしない。どういう事だ、バリアユニットみたいに攻撃を防ぐ手段があるのか?
疑問の答えはすぐにもたらされた。釘が会長の機体を貫いた瞬間、機体がばしゃっと音を立てて崩壊したのだ。
「!?」
「ふふ、その顔を見たかったのよね」
近くの建物の角から余裕の笑みを浮かべた会長が姿を現す。さっきのは一体何だ? 幻影、というよりは――
「水、ですか?」
「せいかーい。察しが良いね」
舌打ちが漏れそうになって慌てて堪える。会長の機体が水を自在に操れる能力とかを持っていた場合、マジで私は詰みかねない。実弾もニュードも爆発も斬撃も威力を減衰できて入手も容易とか防護装備として見たらかなり優秀なのでは? ……ある程度以上の兵器での攻撃を防ぐとなるとかなりの量が必要になるし、かなりの量を集めると重量がかさむから微妙か。
だとしても今私が持っているネイルガンだと威力減衰がどれだけになるか分からない。少なくとも突撃銃クラスの武装に切り替えなくては。
――コール、ヴォルペ・スコーピオ
が、先手を取ったのは会長の方だった。私よりも素早く武装を展開した彼女が放つ銃撃に私は回避を選択せざるを得ない。
会長の武装は一般的な突撃銃。問題は、会長が拡張領域に保存している武装が全く読めないところか。射撃戦をお望みか、近接戦をしたいのか、それともバランスを取るのか。
悠長に考えている場合じゃない。精度の高い射撃が次々と襲ってくる。少し前まで身を潜めていたトラックが穴だらけになる光景に背筋が冷たくなるが、同時に違和感も覚えていた。
会長がこの学園で最強格の生徒であることは最早疑うまい。生身でも、ISでも相当の実力を持っているのだろう。そんな人と対峙している私が『まだ1発も被弾していない』のはいくらなんでもおかしくないか?
私の腕が、会長と伍するレベルにまで上達しているのであれば嬉しいんだけれど、残念ながらそうではない。そうなると――
「会長、小手調べはこのくらいで良いのでは?」
「あ、ばれた? 今年の新入生は粒ぞろいだ~って聞いていたからつい試したくなっちゃった」
「お眼鏡に適いましたかね?」
「ん~、まだまだね。今の君なら、余裕で倒せる」
その言葉を脳みそが理解するまでに2秒はかかったと思う。そして理解と同時に音が聞こえた。具体的に言うならば「カチン」という音だ。
「これは厳しい。操縦のその字も知らなかった人間が半年未満でここまで動けるようになったんですがね」
「そうね。それで? 君の命を狙うテロリストがいたとして、同じ事を言うのかしら? 訓練途上だから仕方ないって」
会長の言葉と同時に機体が被弾した。
「っ」
「他の子もそうだけれど、特にシキシマ君や織斑君はターゲットになりやすいの。女尊男卑の過激派に、ISを良く思っていない勢力。まぁ具体的な名前を出せば両手の指じゃ足りなくなるから省略するけれど、そんな連中にも負けない、最低でも応援が駆け付けるまで持ちこたえられるように、私が君たちを鍛えるのよ」
会長が放つ銃弾は正確に私の機体を捉えてくる。回避機動を取っても回避したその先に銃弾が『置かれて』いるのだ。完全に動きを読まれている。
(ギアを上げた……訳じゃなさそうだな。マジでさっきまで手加減してただけなのか)
シールドエネルギーの残量が危険域に達して、私は手札を切ることにした。機体を細い路地に滑り込ませ、とにかく射線を切る。どうせすぐに追いつかれるだろうが、それでも一旦距離を置かねば。
――コール、リペアユニットβ
じわじわと回復していく耐久値を横目に機体は止めない。狭い路地を疾走しながら、時にランダムに角を曲がったりして、後から追跡してきているであろう会長を混乱させようと試みる。滞空索敵弾はその滞空時間が切れたのか、または撃墜されたのか、こちらも会長の姿を見失っていた。
目指すは会長と接敵する直前までいた交差点。索敵で会長の機体を確認した私はあの周辺に色々とトラップを仕掛けていたのだ。あの辺りに上手く誘い込めれば、まだ勝機はある、筈。
あと1ブロック。少し遠回りしかけれど、この角を曲がれば目的地だ。
(行ける! あそこまで行けば!)
そう思いながら私は路地から飛び出し――ガンガンという音と共に機体を襲った衝撃、そしてごっそりと削れた耐久値を見て被弾した事を理解した。
「うっそだろ……?」
「私と戦う前にトラップを仕掛けていたのは評価できるわ。けれど、次からは地雷原への誘導はもう少し分かりにくくした方が良いわね」
嘯く会長の足元には、無力化されたであろうトラップが複数転がっていた。私の挙動がら罠を読んで先回りした挙句トラップを潰すとか……マジかよとしか言えないわ。
「参考までにどの辺りで罠の存在を考えたんです?」
「路地に入って少しした辺りかしら。シキシマ君の動きって結構ハッキリしているから、ただ逃げる動きと目的地に向かう動きとを見分けられやすいのよ」
「……うへぇ」
「っていう訳なんだけど。どうする? この辺で終わりにする?」
「冗談! 今度は近接戦に付き合ってくださいよ!」
言うが早いか、俺はSW―ティアダウナーをコール。欲を言えばスピア系の上位武器であるペネトレイターが欲しいのだけれど、無い物ねだりはできない。
ガチガチの強襲兵装であれば特別装備としてアサルトチャージャーが使えるのだが、今回は回復をという事で持ってきていない。クーガーSは優秀な機体だけれど、スピードでは軽量機に敵うはずもない。
対する会長は余裕の表れか。槍を握った俺が突っ込んできているというのに得物すら握らず笑っている。俺程度近づかれてからでもどうにもできるとでも言いたいのか? ……本当にできそうだから困るんだが。
それがどうした。
こちとら赤帯で最上位帯と戦わなきゃいけない格差マッチに放り込まれたりしてきたんじゃ。格上との対戦なんて日常茶飯事なんだよ。
まぁそれに。
(ティアダウナーなら『当てられれば』ワンチャンある。っていうかペネトレイターも他の近接上位武器も無い以上ティアダウナーでなきゃ俺に勝機がない!)
呼び出した途端にハッキリ分かるレベルで機体の速度が落ちる。まぁ当然だろう、このティアダウナーは重量によって相手を圧し切るタイプのグレートソードだ。1回振るだけでもモーションが大きい分外した時に致命的な隙が生まれるが、その分威力は半端じゃない。ゲーム時代は『魔剣』なんてあだ名がついていたくらいだ。……あだ名の由来は全国対戦というオンライン環境の問題でどうしても生まれるラグ、それによって『避けたはずの剣戟で斬られる』という事態が頻発したからなのだが、まぁティアダウナーが強力な事に変わりはないからヨシッ!
問題は相手たる会長が「当たらなければどうという事はない」を実行できそうな点か。織斑との試合で見た近接戦闘の技術を機体でも振るえるのであれば、隙の大きいティアダウナーだとむしろカモにされるかもしれない。……つくづくペネトレイターが実装されていないのが悔やまれる。
さて、いよいよ俺と会長の距離は近接戦のそれになった。ここまで来たら後はどう動くかに全てを賭けるしかない。ティアダウナーの近接モーションは2つ、横方向に2回剣を振る通常攻撃と、ダッシュしながら1回転する特殊攻撃だ。ヘヴィガードクラスの重装機でもなければまずワンパンできるし、仮に会長の機体が見た目と違って重装機だったとしても、ティアダウナーの一撃を受けて無事に済むとも思えない。
だから――このまま行く!
「どぉぉりゃあああぁぁぁぁ!!」
気合いを入れて剣を振りぬく。食らえ、とか、当たれ、なんて考えにはならなかった。必殺の間合いとタイミングで振る剣は、往々にして吸い込まれるように相手に当たる事が多かったから。
だからこそ、
「……は?」
「良い動きね。私じゃなければちょーっと危なかったかも」
螺旋を描く槍を持った会長の脇をただすれ違うだけで終わったのが、信じられなかった。
ISの強キャラたちがワンサマーに落ちたらポンになっちゃうの、IS学園の七不思議にカウントしても良いと思う