せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
すまない、ロシア軍占領地域に走る鉄道の橋やら車両基地やらの座標を片っ端からメモしてリスト化してたら遅くなってしまった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「おぉ~!」
「なんだかシャルロットさん、凄くしっくり来るわね!」
「そ、そうかな……?」
文化祭が迫る中、ご奉仕喫茶をやる事となった私たちのクラスは放課後などの空き時間でメイドや執事の所作などについて訓練を行っていた。
「こんな感じかな?」
「もう少しゆっくりでいいと思うよ。仕事はテキパキとしなきゃいけないけどね」
「メイドさんも大変なんだね……」
水の入った紙コップを乗せたトレーを可能な限り優雅に運ぶ訓練やら、料理をお客さんに出す時のマナーに至るまで、その手の経験があるデュノアさんやラウラさんを教官役に、本物の貴族であり目の肥えているセシリアさんを審査役にして、私たちは使用人になりきろうとしていた。
「お飲み物になります、お嬢様」
「ありがとう、レオさん」
そう、『私たち』である。私や織斑も執事としてホール担当になったのである。
※※※※※
私が『レオ・シキシマ』ではなく社会人の『田村』だった頃。まぁ色々と広く浅いオタクだっただけでなく、「自分も何かやってみたい」となった私は、声劇にも手を出していた。
自分という存在に欠片も自信が持てず、現実逃避を繰り返すクソ野郎だった私にとって、自分ではない『誰か』になれる時間というのは、生きていく上でとても大切だったのだ。
極めたなんて口が裂けても言えないけれど、演技力にはそれなりに自信がある。そんな私としても、今回の執事ムーブは困惑することも多かった。
まず、実際に接客するという事。指先に至るまで執事になりきるにはちょっと時間が足りず――機体の訓練やら普通の授業もあるのだ、当然だろう――セシリアさん経由で『本物』の指導を受けたりもした。
その上でだが、人によって求める執事像が結構違うのだ。乙女ゲームの攻略キャラかな? というようなコッテコテの執事を求める人もいれば(ちなみにこれが一番多い)、使用人としての執事を求める人もいたりして、執事の奥深さを知れた。執事の奥深さって何だよ。
結果として私たちのクラスでは、メニューをコッテコテで媚び媚びの執事ムーブをご所望ならAセット、使用人としての立ち位置に徹するBセットに分けて、Aセットを少し割高にする事で決着した。
したのだが、
「ね、ねぇねぇ。本番の前にさ、私たちで予行練習してみない?」
「「「……ッ!!」」」
クラスメートの1人がこんな事を言い出した時、周囲の女子たちは「コイツ天才か?」って目で見てたね。私と織斑は遠い目になったけど。
その後どういう流れになったかはご想像にお任せするが……おおむね思った通りの光景が繰り広げられたとだけ言っておこう。男子2人でクラス中の女子に勝てる筈がないんや……
「おの、織斑君! Aセットください!」
「はいはい……お帰りなさいませ、お嬢様」
「はぅぁ……」
「レオ君、私にAセットを……」
「それでは……こちらでよろしいですか? お嬢様」
「はひぃ……」
な に こ れ ぇ ?
ガチ恋営業でも何でもない、ただコッテコテの執事ムーブをしているだけでこのザマである。君たち絶対にホストとか行くなよ?
さて、私と織斑がそんな事をしていると、当然この方々もやってくる訳で……
「何だ一夏、さっきのあの態度は」
「しょうがないだろ、そういうオーダーなんだから……箒はどうする?」
「そ、そうだな…………セットで」
「え? 悪い、聞き取れなかった」
「ぇ、Aセットを、頼む」
「何だよ、箒も頼むんじゃないか」
「こ、これは! その、ぇ演技指導だ!」
これには周囲一同ニッコリ。見て、箒さんがツンデレしてるよ、かわいいね。
「んっんん!」
「レオ、次は私たちの番な訳だが」
はい現実逃避終了。私の目前にはニッコリ笑うセシリアさんとラウラさん(クラシックメイド服バージョン)の姿が。セシリアさんたち……メイド服……ウッ、頭が……
先日の悪夢(桃色)が頭をよぎるが気合いで振り払う。悪鬼滅殺、煩悩退散……!
「それではレオさん、注文です」
とはいっても、彼女たちが何を注文してくるかはおおよそ予想ができている。どうせコッテコテの執事演技をするAセットを――
「Bセットをお願いしますわ」
「私もだ」
「なん……だと……!?」
うっそだろおい。
という心情が顔に出ていたのか、セシリアさんは苦笑いである。
「わたくしたちとしてはあのような演技よりもレオさんに素で接していただいた方が嬉しいので」
「うむ。まぁさっきのように接されたらと思うと悩ましい所があるのは否定しないが」
「なるほど」
なんだか納得してしまった。そりゃあ好きな人にしてもらうならコッテコテの演技よりも飾りのない気持ちで接してもらった方が良いよな。
「分かりました。ではお2人とも、こちらへ」
※※※※※
文化祭の準備はクラスの出し物に留まらない。
執事ムーブを散々やった翌日、私はのほほんさん経由で布仏先輩に生徒会室へと呼び出された。
「失礼します……あれ、会長はいらっしゃらないんですね」
「えぇ。これから話す内容的に彼女がいない方が都合が良いので」
布仏先輩から告げられた言葉の不穏さに思わず眉をひそめる。どういう事だ?
布仏先輩の家は代々更識家に仕えてきたと前に聞いた事がある。旧家、なんだろう。そんな彼女が宗家に翻意を持っているとは考えにくいが……
(『あの』会長に振り回され続ければ、そういう考えを持っても不思議ではない、か?)
更識家の存続が『更識 楯無』個人の存在よりも価値が高い場合、当主にその器が無いと判断すれば当主の座から引きずり下ろす事だってありえるだろう。だとしても、会長の城とも言えるこの部屋でそんな話をするとは思えない。
まずは先輩の話を聞いてからでないと判断もできやしないな。
「――私に何をさせるつもりですか?」
「怖い顔をされていますが、別に物騒な事をするわけではありませんよ?
シキシマ君はここしばらくお嬢様に振り回されて、どう感じましたか?」
「どうって――」
思い返されるのはあの夜。改造メイド服の2人に好き放題されて寝不足の私は、翌日の授業で数発織斑先生の出席簿アタックを喰らっている。
許せるはずがなかろう。
「お嬢様をぎゃふんと言わせる方法があるとしたら――」
「乗りましょう」
即断だった。あの会長に目にもの見せてやる、そんな気持ちでいっぱいだった。
いやね、こっちとしても復讐なんて大それた事を考えている訳じゃないんですよ。
でもさ?
復讐してもしなくても、味わった羞恥と失った睡眠時間はどうにもならないなら、復讐した方がスッキリすると思うんだ。(偽字幕キアヌ並感)
「それで、私は何をすれば良いんですか?」
「それは――」
なるほど、そう来たか。
こうして私は、執事ムーブの他に、とある役柄も演じる事になったのであった。……練習、頑張らないとなぁ。
※※※※※
IS学園は半分以上軍事基地でもあるため、学園祭だろうが敷地に入れる人間は大きく制限される。そのため、普通の学校であるようなイベント日の朝に花火を上げる、なんて事はやらない。
入学して初めての学園祭は、思っていたよりも静かに始まった。
「1組で執事喫茶やるみたいだよ!」
「しかもあの織斑君とシキシマ君からご奉仕してもらえるんだって!」
「ミニゲームに勝つと追加のご褒美があるとか……」
「なん……だと……!?」
ちょっとでも教室から出たらコレである。IS学園に男子生徒の人権は存在しないのか。今更の話だったわ。
私たち1組が行うのは『ご奉仕喫茶』だ。それ自体に異論は……もはや何も言うまい。ただ、私と織斑以外にも従者コスプレの希望者がそれなりにいたのには正直言って意外だった。結局、調理班・メイドプラス執事班・運営班の3班に分けて当日を乗り切ろうという事でまとまったのだ。
メイドプラス執事班には、私と織斑(強制)の他に、セシリアさんやラウラさん、デュノアさんに、篠ノ之さんも名乗りを上げた。各国の代表候補生プラス専用機持ちという人類の中でも上澄みの連中が揃って従者のコスプレとか何の皮肉だよと思いつつ、どうせ原作者の事だから美少女にメイド服着せておけばええやろ的なノリでやってるような気がしてならない。それはそれとしてセシリアさんやラウラさんのメイド服姿は控えめに言って最高なので原作者はグッジョブである(熱い手のひら返し)。
(しかしまぁ、人生って分からないもんだね)
この身体に生を受けて(というよりは憑依か?)から何度思ったか分からない述懐が頭をよぎる。
私にとって文化祭の最後の記憶は高校2年の時のものだ。高卒で就職したから大学の学祭の経験は無いし、高校3年の文化祭は就職試験の当日とモロ被りしたために『当日だけ』不参加となった。若者から青春を取り上げるという暴挙に私は泣いた。高校生時代は普通に青春を送れていただけに、なおの事辛かったぜ……
なので私はそれはもう張り切っている。執事でのご奉仕も全力を尽くすし、布仏先輩から提案された茶番劇も、精一杯演じきってみせよう。
『小物』の準備は整っているし、『衣装』もアリーナの更衣室にセット済みだ。上手く決まればあの更識会長の鼻を明かすには十分。
(ふふふ、ワクワクしてきたぜ……!)
『これより、IS学園学園祭を開始します。
3年生は悔いのないように、1年生はクラスメートや同学年の仲間と親睦を深めてとか色々言う事はあるけれど、
とりあえず全員、全力で楽しみましょう!』
会長の声で始まりを告げるアナウンスが流れた瞬間、学園中から歓声があがった。
本当に、あの人のこういう所は敵う気がしない。天性の人たらしと言うべきか、とにかく人をその気にさせるのが上手い。私だって、胸のワクワクがもうどうしようもない程に高まっている。
あぁ、本当に。私は恵まれている。
何かをできなかった後悔を拭い去る機会を得られた幸運に感謝しながら、私は開店直前のリハーサルへと向かった。
文化祭当日と就職試験が被った話は作者の実話です(血涙)