せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
リハビリも兼ねてでかなり短いですがご了承ください。
「ねぇ織斑君にシキシマ君、おねーさんもうちょっとここで手伝うし、休憩にでも行ってきたらどう?」
動き回る事しばらく。ようやくお客さんの波が落ち着いてきたのを見越したように会長が声をかけてきた。
一時の、文字通り忙殺されるような忙しさはだいぶ落ち着き、交代でなら休憩に出られるほどの余裕も出てきた。
せっかくの学園祭、出し物だけでクラスに閉じこもる……というのも少し寂しい、会長の提案はありがたいものだった。
「提案はありがたいですが……クラス的には大丈夫?」
「うーん、オープン直後に比べればだいぶ落ち着いてきたし、多分へーき!」
だったらありがたくお言葉に甘えよう。私と織斑は切りのいい所で応対を切り上げると少し時間を開けて教室から出た。
のだったが。
「あの、すいませんそういうのは学校を通してもらってからで……」
「そう言わずに! こちらの追加装甲や補助スラスターなどはいかがでしょう? 今ならもう1つ、脚部ブレードも付いてきます!」
(また絡まれてるのか……かわいそうに)
先に教室から出たはずの織斑が階段の踊り場でセールスに絡まれていたでござる。
私にもそれなりの数が来るセールスだが、やはり『ファーストマン』な織斑が使う装備というのはやたらと世間の注目を集める。有名スポーツ選手が使うシューズにプレミア価格が付くようなものと言えば近いだろうか。織斑いわく、夏休みの半分くらいがそういった企業との交渉だのなんだので潰れたらしい。流石にかわいそうが過ぎると思うの。
もっと切ないことに、どれだけ各企業が必死に売り込もうとも、織斑の機体は相当なワガママさんらしく、固有兵装以外は一切受け付けず、仮に量産品のアサルトライフルを使おうと思ったら機体による補助が一切受けられない完全マニュアル状態で射撃しないといけないんだそうな。重機関銃クラスの威力があるIS用のライフル銃をマニュアル操作で狙って撃つ? 訓練でしかやりたくないシチュエーションだ。
ともあれ、織斑も各企業も完全に時間の無駄になってしまったのだ。諦めきれない企業の一部は私にアポを取ろうとしてきたけれど、その頃には私の予約枠は埋まってしまっている。まぁドンマイというやつだ。
回想はこの辺にして、そろそろ助け舟を出すとしよう。
「お、いたいた。おーい織斑! ……先約か?」
「レオ! って訳ですいません、友達を待たせてるんで!」
「あっ!」
なおも未練がましく織斑に手を伸ばすセールスらしき女性を横目に、私は織斑と歩き出した。
※※※※※
「ふーっ、助かったぜレオ」
「タイミングよく通りがかっただけだよ。それよりも災難だったな? 今度はどこの会社よ?」
「うーん……『IS装備開発企業 みつるぎ』だってさ」
「『みつるぎ』……? あんまり聞いたことないな。まぁ向こうも必死なんだろ」
「でもせめて学園の窓口を通してほしいよ」
「それはそう。……ちなみにこの後の予定は大丈夫なのか?」
「中学の時のダチを案内するんだよ……って時間!」
「ありゃ、それはマズい。早く行ってやれ」
「悪いなレオ、また後で!」
「おぅ」
織斑の背中が視界から消え、慌ただしく去っていく足音が校内のざわめきに紛れても、私はその場に立ち尽くしていた。
うろ覚えの原作知識が警鐘を鳴らしている。
そうだ、確か5巻では学園祭の裏で謎の敵組織が暗躍していたんじゃなかったか? 正確な名前は忘れてしまったが……なんとか企業、だっけ? とにかくそんな感じの組織の工作員が何かしでかすんだったはず。クソが! 断片情報ばっかりで先生に警告しようにもロクな報告ができねぇ!
どうする? やんわりとだけど報告すべきか? 例えば『織斑にしつこく言い寄っているセールスがいた』とか……いや、そんなのしょっちゅういるから警告としては弱いな。
「あれ、シキシマ君休憩に入ったんじゃなかったっけ?」
「会長?」
堂々巡りに入りかけた思考を遮ったのは、教室にいてくれるはずの更識会長だった。
「あれ、会長ってクラスの手伝いじゃ……」
「まぁまぁそれはさておいて。何かあったって顔してるけど、変な人でもいた?」
考えるより先に言葉が出た。
「そうなんですよ。さっきここで織斑にすごく言い寄っているセールスの人がいて」
「……へぇ? 特徴とか覚えているかな?」
「えっと……確かスーツ姿で、髪の長い女性でした。
あっ、そういえば織斑が名刺もらってたと思います」
「そっか、ありがとねシキシマ君。一応私の方でも入校記録とか調べてみるよ」
「はい。
……その、大丈夫でしょうか」
不安と焦燥。
あちこちから歓声があがるこのIS学園のどこかに、それらを壊したいと希求ししかも実行に移そうとしているテロリストが潜んでいる。これが私の妄想とかだったらまだマシだが、残念ながら事実だ。警告をしようにも根拠は薄弱。信じてもらえる可能性の方が低いし、よしんば信じてもらえたとしても犯人の目的を思い出せない以上どこを守ればよいかも不明。
内臓をじっくりと炙られているかのような焦り。
それを今更のように自覚する自分が情けなかった。そう、私は原作知識を持った転生者だ。今回の事もそうだ、思い出せたはずだ。ここがISの世界だと分かった時点でこれから起こる事件をノートか何かにでも書き起こせば、今は思い出せなくなっているナニかを未然に防げたのではないか。
これまでだってそうだ。特に銀の福音なんて物語の根幹に関わるような大きなイベントすら忘れていたなんて、原作知識というアドバンテージを投げ捨てるにも等しい。
そんなネガティブな気持ちが、つい言葉になって零れた。
「うーん、生身でアメリカあたりの特殊部隊とやり合うなら、ちょっと厳しいかもね」
「負けちゃいますか?」
「いいえ? 勝つわよ」
だから、今の自分よりも遥かに格上の彼女の言葉に、私は救われたような気持になってしまったのだった。
「それはそうとして、今のセリフなんか負けフラグっぽいのでやめてください」
「なんでよっ!?」
肝心な事に限ってド忘れしたりするよね……