せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
『もしも学校がテロリストに襲撃されたら』
全国の中二病患者の諸君はこの命題をどう考えただろうか。ちなみに私は逃げの一手である。相手がどの程度の武器を持っているか分からない上、ロクに筋肉も何かしらの武芸を修めている訳でもない自分が抵抗したところで死体が1つ増えるだけだからね、しょうがないね。初手で拘束される可能性? ……ハハッ!(目逸らし)
しかし、私は前世からのオタクなわけだが、どうしてこうもこの「ハハッ」というたった3文字のカタカナに恐怖を覚えるのだろうか? 特に意味があるとは思えないが、妙に恐怖心がかきたてられる。強大なナニカに追い回されるような、そんな悪夢にも似た感覚に捕らわれるのだ。理由は分からないのだが。
分からないなりに訳を探ろうと「ハハッ! ハハッ!」と甲高い声で笑いながら校内を歩いていたら他の人にそっと距離を置かれた。残念ながら当然の話だった。
※※※※※
校内アナウンスのチャイムが鼓膜を震わせる。思わずスピーカーを見やると、放送室にいるであろう声の主、更識会長は祭りを盛り上げる更なる燃料――当事者にとっては爆弾でしかない――を投下した。
『1時間後に生徒会主催のイベントを行いまーす! 優勝者には【ちょっとした】ご褒美を用意してあるから、生徒の皆は奮って参加してね。
それと、1年のシキシマ君には事前準備を手伝ってほしいから、生徒会室まで来てね、以上!』
もう嫌な予感しかしない。彼女と関わるようになってそれほど時間が経ったわけではないのだが、彼女がこういった宣言するのは大抵ロクでもない事が起こる時だって相場が決まっているんだ。私は詳しいんだ。
かといって行かないという選択肢もない。下手に行かなかったら校内放送である事ない事喋られかねない。何をバカなと言われるかもしれないが彼女だったらやるという『凄み』を感じる……!
退くも地獄、進むも地獄というほどひどい目にあるとは思いたくないが、私は足取り重く生徒会室へと向かった。
※※※※※
「失礼しまーす、1年のシキシマですー……」
「あらシキシマ君元気なさそうね? もう疲れちゃったのかしら?」
「誰のせいだと思ってるんですか……」
まぁぶっちゃけてしまうと精神的疲労の原因はと聞かれればこれから起こるであろうドタバタ劇と今もなお校内に潜むテロリストの比率は3:7といった所か。
生徒会室にはもう1人会長に呼ばれたであろう人物が疲れた顔をして立っていた。というか織斑だった。もう姿を見ただけで察したよね。あ、織斑も巻き込まれたんだなぁって……
「それで、生徒会主催のイベントって一体何が始まるんです?」
「それはもちろん第三次大戦、じゃなかった。ちょっとした演劇よ。2人にはいきなりだけど主演を張ってもらうわ!」
「えぇ……」
いや主演ってあなた……
「そんな事言われても困りますよ。第一主演も何も台本すら見てないのに無茶ぶりが過ぎますって」
「流石のおねーさんもそこまで求める事はしないわ。演劇の題目は『シンデレラ』。2人も話の流れは知ってるわよね?」
「カボチャの馬車で舞踏会に向かうお姫様の話なら……」
「えぇそう。それに喋ってもらうセリフだってあんまりないわ。進行は私がやるし、2人はシンデレラっぽいセリフを適当にしゃべってもらえればそれで充分」
「だったら、まぁ……って、そもそも私は何の役なんです?」
織斑が王子様として……私は何だろうか。城の執事Aとか?
「シキシマ君には舞踏会に来ていた他国の王子様の役を演じてもらうわ。ハッキリ言ってモブみたいな役だけれど、下手なキャスティングだと生徒会が炎上しちゃうしね」
「……なるほど」
2人いる男子だがシンデレラの主要人物である王子様は1人だけ。なるほど、会長は会長で苦労しているのかもしれない。
モブ役だったら私はステージの隅っこで立っていれば良い訳だ。勝ったな!
「2人の衣装はもうアリーナの更衣室に用意してあるから。着替えてから最後の詰めを話すわね」
ニヤリと笑って生徒会室を出ようとする会長に、言いようのない不安が込み上げてくるのであった。
本当に大丈夫だよね?
※※※※※
証明の落とされた舞台。指定された場所で、私は開演の時を待っていた。
『シンデレラ』の話は有名だし当然知っている。
継母と義理の姉たちに虐められていたシンデレラは親切な魔法使いの助けでドレスや移動手段を得て城の舞踏会(王子の婚活パーティー)に参加する。
そこで王子に見初められるも、0時の鐘を合図に魔法は解けるため、彼女は王子に名前も告げられず、逃げるように城を後にした。
王子は舞踏会で出会った美しい女性(シンデレラ)を忘れられず、彼女を妃に迎えるために国中の女性を調べる事にした。王子が一目惚れした女性は名前こそ名乗らなかったもののよほど慌てていたらしく、履いていたガラスの靴が片方脱げてしまったのにそのまま帰ってしまったのだ。そのガラスの靴が手掛かりになる。靴がフィットする女性を探せばよいのだ。
調査隊がシンデレラの家へとやってきた。シンデレラの義理の姉たちも靴を履こうとするが当然合わない。そしてシンデレラの番になり、彼女がガラスの靴を履くと彼女のため作られたかのように足に合う。かくしてシンデレラは城に招かれ、王子と結婚し、幸せに暮らしましたとさ。
……大雑把だがシンデレラのあらすじはこんな感じだったはずだ。今回の演劇ではいきなり舞踏会から始まると聞いているのだが、物語は成立するのだろうか?
しかし着替えたこの衣装、ワイヤーか何かが通っているらしく、着ていて変な感じだ。会長いわく演劇部に借りたらしい。型崩れ防止とかでワイヤーが入っているのかもしれない。
なんて考え事をしているとブザーが鳴り始めた。開演の合図だ。
幕が上がり、照明が舞台上の織斑と私を照らし出す。
『むかしむかし、あるところに、シンデレラという少女がいました。
――否、それは最早名前ではない』
(ん?????)
おかしい。初手から話が変な方向に行ったぞ?
『今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちの夜が始まる。王子の冠に隠された他国の軍事機密を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!!』
なんだこれは、たまげたなぁ。
驚愕と混乱に思考が漂白されるが、ただ一つハッキリしていることがある。――私たちはどうやら会長にハメられたみたいだ。
(いやみたいだじゃないが?? っざけんなあんチクショウ!!)
「たぁぁぁぁ!!」
「のわぁっ!?」
裂帛の気合と悲鳴。硬質の物体が何かに当たる音。
見ると純白のドレスに身を包んだ凰さんが織斑に襲い掛かっていた。いや訳が分からん。
手に持つ刃物(レプリカだと信じたいけれど当たったら大怪我しそう)や蹴り、時々手裏剣みたいな暗器とバリエーション豊かな攻撃を織斑はどうにかといった様子で捌いていく。いや捌ける時点で凄いと思う。あそこにいるのが私だったら暗器でやられていたかもしれない。
……しかしまぁ、スパッツを履いているとはいえよくもスカートでああも大胆な足技を繰り出せるものだ。よく鍛えられた美しい脚が見え――
「っだぁ!?」
次の瞬間、突然の浮遊感に続いて私は尻を強打していた。
何が起こった!? いや、椅子が壊れたのか!
痛む尻をさすりながら立ち上がろうとして、ふと壊れた椅子の脚が目に入った。木製のそれに穿たれた小さな穴。横から強い衝撃を受けたのだろう1本が折れ、バランスが崩れたことで残った3本の脚も折れた、といった所か。
――待て、小さな穴?
マズいと思う間もなく2度目の衝撃。頭にかかっていた重さが消失する。カランカランという音の発生源を見れば、先ほどまで被っていた王冠が転がっていた。
間違いない。今私は狙撃に晒されている。発砲音は聞こえなかったからおそらくスナイパーはサプレッサーを装着している。客席からの距離は100メートルも無いとはいえ、細い椅子の脚に当ててくるとか並みの腕じゃない、っていうか、そんな芸当が出来る子を私は1人しか知らない!
「セシリアさん!? ナンデ!?」
返答は銃弾で返ってきた。足元に着弾したそれが床の木材を削る。
『誇り高い王子様にとって王冠とは己の分身です。肌身離さず身に付けなければならないそれが無くなると、王子さまは身を裂かれるような痛みに襲われるのです』
「は? ――ぃだだだだだだだだだァァッ!!??」
全身にバチバチと痛みが弾ける。静電気をウン十倍にしたような痛みに、私は床を転げまわる事しかできなかった。
【しかし着替えたこの衣装、ワイヤーか何かが通っているらしく、着ていて変な感じだ。会長いわく演劇部に借りたらしい。型崩れ防止とかでワイヤーが入っているのかもしれない】
(ワイヤー……電気ショックか! そこまでやるかあの野郎!?)
「さっさとその王冠をよこしなさい一夏!」
「やだよレオみたいになりたくないし!」
「問答無用!」
織斑は織斑で修羅場まっただ中のようだ。というか何が彼女たちをそこまで駆り立てているのか。
何とか転がっていた王冠を回収。とりあえず近くのテーブルを引き倒し、天板を即席の盾にする。というか待てよ。未だに凰さんとセシリアさんしか姿を見せていないのは何でだ?
「一夏! こっちだよ!」
「シャル! 助かったぜ!」
考えていた傍からデュノアさんが登場。彼女もまた純白のドレスを身に纏っていた。その手には機動隊が持っているようなライオットシールド。今の織斑には彼女が天使に見えたに違いない。しかしそれは私も同じだった。
「デュノアさん! 私もそっちにいってもいい!? スナイパーに狙われてるんだ!」
「いいけど……動いても大丈夫なの?」
「多分!」
彼女たちの狙いは王冠だ。そして銃器を使っているらしいセシリアさんとしては可能であれば私には弾を当てたくないはず……だよね? とにかく、全力で走ればリスクを考慮して射撃は止むと信じたい!
……彼女の腕なら移動目標も普通に撃ち抜きそうだけど。えぇい覚悟を決めろ!
デュノアさんまでとの距離、だいたい20メートル。急げば数秒かでたどり着けるその距離が、ひどく長く感じた。
半袖ワイシャツとスラックスという夏のサラリーマンスタイルで夕方ブックオフにいたら「学生さんですか?」と声をかけられたのがこの夏の思い出です(今年で28になるアラサー)