せめてISに乗らせてくれませんかねぇ!? 作:とある物書きMr.R
這う這うの体でデュノアさんが構えるライオットシールドの影に飛び込んで、ようやく私は一息つけた。とはいっても非常に優秀なスナイパーであるセシリアさんの現在位置が分からないため、ここもしばらくしたら危険地帯になるだろう。セシリアさんが狙撃手の基本である『撃ったら移動』をおろそかにするとも思えないし、デュノアさんの盾が射線を塞いでいるとしたらなおさら私を狙いやすい場所へ移動するだろう。
今の私の最適解はとにかく舞台から可能な限り早く降りて身を隠すことだ。そういう意味ではセシリアさんが撃ってこない今は絶好のチャンスとも言える。
「移動する!」
「カバー! ――はできないや、ごめん!」
訓練の癖かスナイパーへの制圧射撃をしようとしたらしいデュノアさんの声を聴きながら私は盾の後ろから舞台袖へと飛び出し――
「やはりこのルートが正解だったか。まぁセシリアの射撃から逃れようと思えばここしかないからな」
「ラウラ=サン!? ナンデ!?」
ネオサイタマのサンシタみたいな声が出るがどうか許してほしい。逃走ルートでサバイバルナイフを携えた正規軍人(なぜかウェディングドレス着用)と出会えばこうもなろうというものだ。
「さてレオ、私も強硬手段はできれば採りたくない。その王冠を置いて行ってくれないか?」
「何でこの王冠を欲しがるのかイマイチよく分からないんですが、これ取ると電流に襲われるので嫌です」
「ぬぅ……しかしだな」
「何です?」
「生徒会長に言われているんだ。『男子2人の王冠を手に入れた生徒にはその男子と相部屋にしてあげる』と」
「あの野郎……!」
衝撃の事実。瞬間的に堪忍袋が沸騰するが、今は目の前のラウラさんをどうにかしないといけない。一人の男としてはセシリアさんやラウラさんのような超が付く美少女と同棲というシチュエーションに非常に興味があるが、それが実現した場合の心労というデメリットも同時に思い浮かんでくる。嫌って訳じゃない。けれど正式にお付き合いしたわけでもない異性といきなり同居というのは非モテのオタクにはハードルが高すぎるし、仮にモテモテの野郎でも付き合ってもいない女性と同居ってのは思う所があると思うんだ。
本音? せめて私の意思を確認しろクソ会長。
「レオさん! 見つけましたわ!」
ここでセシリアさんのエントリーだ。やはりと言うべきか彼女もウェディングドレス姿。正直凄く綺麗でずっと見ていたいんだけど、状況のせいで台無しである。マジで許さんぞ会長。
「セシリアさん、ラウラさんから聞きました。私のコレを手に入れれば同居できるんですよね?」
「……そうですわ。なのでレオさん、それを渡してくださいまし」
「お断りします。
さっきの放送でもあったように私の服には電線が仕込まれています。この王冠が私から離れたら電流が流れる仕様になっているみたいです。2人には悪いけれど、あの痛みをまた味わうのは御免です」
「2人?」
「違うぞレオ。その王冠を狙っているのは――」
2人の声を遮るようにアリーナに何かを連続して叩くような音が響く。音の発生源は開け放たれた扉だった。
「さぁ! ただ今からフリーエントリー組の参加です! 皆さん、王子様の王冠目指して頑張ってください!」
「ハァ?」
ち○かわみたいな声が出るが仕方ないだろう。開け放たれた扉からは数十人はくだらない数のシンデレラたちが様々な得物を手にアリーナへとエントリーしてきたのだ。
「織斑君、おとなしくしなさい!」
「私と幸せになりましょう、王子様!」
「そいつを……よこせぇぇぇっ!」
「ワァ……ァ……」
お願いです会長、ちょっとは手加減してください。ていうかしろ馬鹿!
セシリアさんかラウラさんの2択ならいざ知らず、名前も知らないような女性との同居は申し訳ないがご免被る。
「あの数の相手は無理だ、逃げよう!」
逃げるは恥だが何とやら。そしてかいた恥は生きてさえいればいつか挽回できるのだ。
私たちは迫るシンデレラの大群(なかなかのパワーワードだが実際の光景も酷い)に背を向けて逃げ出したのだった。
※※※※※
アリーナから脱出した私たちは校舎の方へとやってきていた。あのドレス姿であれば行動には制限がかかるはず。学園祭ということで多くの人がいる校舎であれば派手な動きはやりにくいだろう
同様のデバフはセシリアさんとラウラさんにもかかるが、最悪2人には制服に戻ってもらうという選択肢だってある。
(できればもっと雰囲気のある時にその姿は見たかったなぁ)
少し落ち着いたからだろうか、改めて見るドレス姿の2人の美しさに思わずため息が零れた。本当に、こんなふざけた状況でなければどれほど良かったか。
「どうかされましたか?」
「あぁいえ……お2人ともよく似合っていると思いましてね」
「ふふ、ありがとうございます。レオさんもよくお似合いですよ?」
「セシリアがよく似合うのは分かるが……私は言うほどだろうか? チェストリグやボディアーマーといったコンバットドレスしか知らないからな……」
「同性のセシリアさん的にはどうです?」
「そうですわね、わたくしから見てもラウラさんによくお似合いですわよ」
「うぅ……2人からそう言われると、何だか照れるな」
恥ずかしいのだろう、モジモジしだすラウラさんには悪いけれど、それはむしろ可愛さを増す効果しかない。
と、ISのプライベートチャンネルが鳴った。しかも私だけではないらしい、セシリアさんにラウラさんも同様の反応を示している。何故だろう、どうにも嫌な予感がするね。
着信の相手は会長だった。
「会長? どう――」
『あら良かった。3人とも一緒ね? 悪いけれど緊急事態よ』
空気が変わった。セシリアさんとラウラさんは周囲を警戒している。私は会長の話に集中することにした。
「状況は?」
『学園内に潜伏していたテロリストの位置を特定したわ。
私はこれから対象への急襲を行います。3人にはこれから送信する座標で待機してもらって、逃亡したテロリストの捕縛を担当してほしいの』
会長の言葉に続いてテロリストらしき女の顔写真や、IS学園近くにある公園周辺の地図が送られてくる。なるほどね。会長が急襲してほどほどに戦い、敢えて相手を逃がす。会長から逃げ切ったと緊張が緩んだ相手に私たちが襲いかかる、と。
「そうなると捕縛担当は私だな。AICはこういう状況だと酷く便利な装備だからな」
「ではわたくしはバックアップでしょうか? 周辺警戒および不測の事態における狙撃、といったところですわね」
『流石、これだけの説明でそこに行き着くのは頼りになるわね。シキシマ君には2人の中間点で双方の援護に当たってもらいたいの。どちらに何が起きても即応できるようにね』
「了解です。ちなみに相手の規模や装備について何か分かっていますか?」
『今の所不明よ。学園内に侵入した対象は1人だけだけれど、周辺にバックアップの人員がいるかもしれないしね。注意して頂戴。何かあったら無理はせずに退くこと。テロリストの確保は可能であればくらいに考えてもらって構わないわ』
ハッキリと言い切る会長に安堵の息がこぼれそうになる。規模も装備も不明の敵を拘束しろとかハッキリ言って無茶だ。そもそも対象を拘束するっていうのはこちらが圧倒的に格上の時だからできる事であって、仮に今回の場合だと相手が生身の人間1人や2人なら余裕で対処できるだろうが、相手がどこからか奪ったISを持ち出してきたりした日には、相手の力量にもよるけれど周囲に被害が及ばないように戦うので精一杯になる可能性だってあるのだ。
そして相手の情報が無い以上、こちらとしては最悪のケース――敵の装備や人員がこちらを上回っている――を想定せざるを得ない。
『悪いけれどこちらもそろそろ動かないといけないわ。対象を学園の外に追いやったら改めて連絡するから、すぐにポイントへ移動して頂戴』
「「「了解」」」
大まかな動きは移動中と待機時間で練るしかない。何とか作戦と呼べるような代物に持っていかなくてはという焦りは、冷たい汗となって背中を滑り落ちていった。
※※※※※
『会長よりtemporary(臨時)部隊へ。『対象』は学園から逃走。繰り返す『対象』は学園から逃走。
……凄い逃げ足ね、おまけにルート選択に迷いが無い。多分下見してるわね。周囲に異常は無い?』
『temporary―02、周囲に敵影ありませんわ』
「同じく03、無人機も特に反応ありません」
『了解したわ。『対象』の場所はこの辺だから03の無人機で補足すると楽になるはずよ』
「了解、無人機を向かわせます。03アウト」
通信を切った私は指示のあった方向へと偵察機を射出する。使い捨ての無人機はすぐに『対象』の姿を補足し、映像を送ってきてくれた。
「事前情報にあった画像と一致。間違いなく『対象』ですね」
『噂に聞く国際テロ組織の構成員か……普通にしていれば一般企業の営業と言われてもおかしくない見た目をしているな。――これが本当の顔なら、という但し書きが付くが』
『ですわね。会長の情報では米国製の第2世代機を使用していたとも聞きます。IS適正のある潜入工作員の救助ともなれば回収部隊もISを装備している可能性がありますわね……』
『厄介だな。一応当初の予定通り最初は私が仕掛けるが、02、03両名は対IS戦闘を念頭に警戒を頼む』
『02了解しましたわ』
「03了解」
臨海部の公園とはいえ周囲には民家や商業施設もある。おかげでトラップらしいトラップはほとんど仕掛けられなかったし、セシリアさんの主兵装も使用に制限がかかっている。そのことを説明したら会長はあっさりと敵増援と接敵した場合は後退する事を許可してくれた。
まぁここにいるメンバーとか考えたらいくらテロリストの捕縛っていう大義があっても他国の領域で戦闘はマズすぎるっていう政治の領分が絡んだかもしれない。いずれにせよ面倒は無いのが一番だ。
と、『対象』がいよいよ近づいてきた。公式な記録に残せない秘密任務が始まる。
それなりの距離を走ってきたのだろう、『対象』は水道の蛇口に顔を近づけ――いつまでたっても水が口に入らない事で目を開き、そしてそれだけで自分に何が起こったのか察したらしい。状況判断が早すぎる。かなりの手練れかもしれない。
――と、その時。周辺に仕掛けておいた索敵センサー、その内の1つの反応が掻き消えた。
「っ、敵襲! 海の方からやってくるぞ!」
『こちらでも捉えましたわ! ――あれはっ!?』
「02?」
『英国が開発した第3世代機――サイレント・ゼフィルスですわ。スペック通りならBT兵器を装備しているはずです。警戒してください』
私たちが了解の返事を返すより先に飛来したレーザーがラウラさんの機体を襲う。重装甲が売りの彼女の機体に大したダメージを与えられるような攻撃ではなかったが、その一撃で『対象』を拘束していたAICが解除されてしまう。
『チッ……01より各員、プランBに移行する。所定の行動を取りつつ移動するぞ』
「03了解。02、大丈夫ですか?」
『平気ですわ。こちら02、移動します』
見た所相手は1機。それも生身の人間を守りながら後退しないといけないというハンデ付きだ。しかしうかつな動きができないのはこちらも同じな上、周囲に被害を出さないようにしないといけないという点ではむしろこちらの方こそ大きなハンデを背負っていると言って良いだろう。――『対象』を相手に確保された時点でこちらの負けだ。
武器を構える。嫌な汗が滲む。
(とっとと帰りたいのはアンタらも同じな筈だ。変な気を起こさず早く消えちまえ――!)
そんな私の祈りが通じたのかは知らないが、敵機は『対象』を抱えるとこちらに背を向けた。
そして何を思ったのか、その場で武装――セシリアさんが持っているスターライトのような長物だ――を発砲したのだ。セシリアさんの警告どおりそれはレーザー兵器だったらしいが意味が分からない。レーザーの行く先は海が広がるだけ、IS学園側の機体も人員もいない。
「んな、ぁっ!?」
『レオさん!』『レオ!』
だからこそ、そのレーザーがぐるりと軌道を変えてこちらに向かってきた時、私の対処は一歩どころか二歩遅れた。
――コール、バリアユニット
辛うじて展開が間に合ったバリアがビームを散らす。反撃をと思って武器を構えた時には、敵機は既に射程圏外まで逃げ去っていた。
(クソ、完全に油断した)
敵地に単機でやってくるような奴が特殊な装備を持っていない訳がない。それが何であるかは別として、相手の評価が足りなかったのは手落ちとしか言えないだろう。
『レオ、無事か?』
「大丈夫です。――すみません、油断しました」
『いいえ、あの機体を一番知っていたのはわたくしです。わたくしが警告すべきでしたわ……』
『その辺りの反省会は学園に戻ってからにしよう。今の私たちがここでISを展開しているのは本来違法行為だ。周辺住民に通報される前に撤収しよう』
「ですね」
『了解しましたわ』
かくしてテロリスト騒動は何とも後味の悪い結果に終わったのであった。
オータムとエムの出番ねーから!