明らかに周りの奴らの生きる世界が違う件   作:ポルポル

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ヤンキー少女2

 信乃ちゃんとの電話からおよそ30分。

 病院の前では半グレの仲間たちが大量の車でバリケードを作り道を封鎖していて、大混雑していた。

 

 警察や消防はまだ来ていないようだけど、どうなってるんだ?

 余りに遅い。病院への銃撃なんて稀に見る大事件だぞ。

 

 病院内の人がどう対応しているかは分からないけど、ためらいなく拳銃を発砲するような奴を相手に出来ることなんて、自分の身を護る以外にはないだろう。つまり信乃ちゃんは警察も来ないまま、およそ30分孤軍奮闘を強いられているってことだ。

 

 ……。

 

 行くしかないよなぁ……。

 うーん……。

 

 どうなるだろう。

 名前を捨てて街を出る、くらいは考えておこう。

 本当に、どうしてこうなったのか。こういうこととは無縁の生活を送っていたはずなんだけど……。

 まあ、これもオレの行動の結果だ。今ここで中途半端に投げ出せば死にはしないだろうけど、大きな悔いと未練が残る。やると決めたからには、最後までやり遂げよう。

 

 パンパンになった買い物袋を手に提げて、オレは人の壁を作っている半グレたちの前に歩み出た。

 

「なんだぁ? てめー、見て分かんねーのか。取り込み中なんだよ!」

 

 人相の悪い男が、手に持った鉄パイプのようなものを見せびらかすように動かして、にやにやと下種な笑みを浮かべてオレに近づいて来る。

 顔が近い。タバコ臭いし息も臭い。

 

「下っ端のチンピラに用はないよ。どいてくれる?」

 

「あ゛あ゛!?」

 

「こんなところで人払い役させられてるってことは下っ端ってことだと思ったんだけど、違ったのかな?」

 

「んだぁてめぇ!!」

 

 チンピラが鉄パイプを振りかぶった。

 

 オレは買い物袋を提げた方の手に持っているライターオイル入り100円ショップ霧吹きのトリガーを引き、中身をチンピラに向けて噴射した。

 

「ああ、目が!! いてえ、いてえ!!」

 

「そうだよね。痛いよね。ごめんね……。なるべく早く目を洗った方が良いと思うよ」

 

「あ、あ、あ!! あああああ!!」

 

 チンピラが前屈みになって顔を押さえて呻きながら後ずさる。

 

「なにやってんだてめぇ!!」

 

 別のチンピラが襲い掛かって来ようとしているので、そっちにも霧吹きを噴射する。

 チンピラが立ち止まったため顔にはかからなかったけど、服に霧が染みこんだ。立ち昇る刺激臭に気づいたのか、チンピラは鼻をすんすんと鳴らすと、弾かれたようにオレを見た。そして自分の服を見つめ、またオレを見る。今度は化け物でも見るような目で。

 

「が、ガソリン……? うそだろ……!?」

 

 下種な笑みを浮かべてこちらを見ていた周りのチンピラたちがどよめく。

 

「なんだあいつ」「ガソリンってまじ?」「ガソリンはやべぇだろ……正気じゃねぇよ」「狂ってんだろ……」「どこの組の奴だ?」

 

 失礼な。オレは一般人、カタギだよ。

 オレは霧吹きを持っていない方の手をチンピラに向けて伸ばした。チンピラの視線がオレの掌からはみ出ているライターに吸い込まれる。

 

「服……、汚してしまって申し訳ない」

 

 ライターのスイッチに指を乗せ、親指に力を籠める。

 

「なっ、なん、なんだお前! イカれてんだろ!? 頭おかしいんじゃねーのか!!」

 

「その言葉はあまり好きじゃないんだけど……そういう話をするつもりも無いんだ。通らせて貰いたくて。いいよね?」

 

 ライターを掲げたまま前に進むと、チンピラが怯えた様子で道を開けてくれた。

 通りすがりに一言、オレは言った。

 

「どいてくれてありがとう」

 

「く、狂ってんだろ……! 頭おかしい、こいつ……! ……おい、大丈夫かよ」

 

 チンピラはチンピラなりに仲間意識もあるようで、服が汚れたチンピラは、目を押さえて蹲ってしまった人に声を掛け、怯えたようにオレを見た。

 先へ進む。

 途中、何人か近づいて来ようとしたが、霧吹きを噴射して中のライターオイルを引っかけておいた。

 

 仕方がない。

 大人数を想定した自衛の手段がこれ以外に思いつかなかった。

 でも、悪いのはイカれたことをしてる君らだと思う。

 

 小走りに先へ進むと、病院の正門付近に人影が見えた。

 チンピラとはどうも雰囲気が違う男達が誰かを囲むように並んでいて、その後ろに見覚えのある男が立っている。あのときの半グレだ。片腕を包帯でぐるぐる巻きにしていて、手の先はよく見えない。

 

「変な奴が!」

 

「あ゛ぁ?」 

 

 オレの後ろから大声で半グレのボスを呼ぶ声がした。オレはボスに駆け寄りながら買い物袋からボトルを一本取り出した。これも100円ショップで買ったやつ。着脱式の蓋をぽん、と外し、中のオイルをボスへとぶん投げ、中身をぶちまける。

 ボスは咄嗟に両腕で顔を庇ったあと、オレに銃口を向けてくる。

 

「こんにちは。それはライターオイルです。あまり詳しくはないんですけど、発砲したら火だるまになるのかなって思います」

 

「何者だ、お前は……」

 

 ボスは鼻を鳴らし、体に染みこんだ液体が引火性の高い液体だと理解したようで、愕然とした様子でオレを見ている。

 オレは病院の出入り口前で血塗れで蹲っている信乃ちゃんを一瞥した。

 せっかく退院を目前に控えていたのに、また重い怪我を……。

 

「信乃ちゃん、助けに来たよ!」

 

 信乃ちゃんは痛みが酷いのか、緩慢な動作で顔をあげる。

 

「ら、ライル……くん……っ!!」

 

 信乃ちゃんは痛みかそれとも別の理由か、顔をくしゃくしゃにしてオレを見ていた。

 見ているだけで痛々しい。もしかしたら、どこか撃たれてるかもしれない。出血がひどい。

 

「無視をするなぁ!!」

 

 ボスががなり、銃口を向けて来る。だが引き金からは指を離していた。燃えるのは嫌なようだ。

 オレはライターのスイッチに指を掛けて腕を突き出し、病院へ向けて叫んだ。

 

「彼女の手当てをお願いします!!」

 

 病院から見知ったナースさんやドクターが飛び出て来て、信乃ちゃんを連れて行く。

 

「らい、る、くん!!」

 

 信乃ちゃんがオレの方へ弱弱しく腕を伸ばしながら運ばれていくのを見送った。

 

「……狂ってるのか? いきなり出てきて、ふざけたことを……っ!」

 

「……」

 

「なに黙ってんだ! ああ!?」

 

「……」

 

 いや……、単にお前と喋る気もないんだわ。

 多分、何言っても話は通じないと思うし、舌戦をする気も、説得をして改心して貰おうとも思ってない。このまま警察が来るまでここにいて、法の裁きを受ければいいと思う。

 

「おい、お前ら! こいつ囲め!!」

 

「消火器の用意をお願いします!」

 

 オレは周りに集まってきているチンピラへ霧吹きをかけまくりながら叫んだ。

 そして買い物袋の中の瓶を取り出して蓋を外し、容器ごとライターオイルを打ち水のようにそこら中にまき散らす。そして空になった買い物袋をチンピラたちの方へ投げ、ライターを突き出してこう言った。

 

「言っておくけど、これは脅しじゃない。お前たちが強硬手段に出るなら迷わず火をつける。オレも無抵抗で殺されたくはないからね。一応、消火器は用意して貰ったよ」

 

「てめぇらビビってんじゃねぇぞ!!」 

 

「火傷は辛いって聞くよ。オレやこいつに命を賭ける価値があるのか、考えてみて欲しい」

 

 チンピラたちが互いに顔を見合わせながら、その場で停滞する。ボスは苛立たし気な様子で舌打ちをした。

 

「なんだてめぇは!! どこのモンだ!!」

 

「……」

 

「無視してんじゃねぇぞ!!」

 

 ボスが拳銃を握ったままオレに駆け寄って来ようとする。

 ポケットから蝋燭を取り出し、ライターで火を灯した。

 

「脅しじゃないって言ったはずだけど」

 

「ま、待て! 待て待て待て! 分かった! 落ち着け! そもそも、お前だって無事じゃすまねぇだろ……!」  

 

 拳銃を握ったままボスが両手を前に突き出してオレを制止する。

 お前が警察が来るまでそこで待ってればそれでいいんだよ……。 

 

「……」

 

「な? 落ち着けって」

 

「……」

 

 オレは何も言わずにボスを見つめ続ける。

 半笑いだったボスの表情がじわじわと恐怖に歪んでいく。

 

「ようやく分かって貰えたみたいでなにより。なるべく一線は越えたくないから、逃げないでもらえるとありがたいかな。素直に警察のお世話になった方が良いと思う」

 

「それは……逃げたら燃やすってことか?」

 

「そうだね。信乃ちゃんのことを忘れろ、なんて言っても信用なんてできないし」

 

「お前、あの女のなんだ。なんでそこまでする?」

 

「……」

 

 そういう問答に答える気はない。

 黙っているオレに、ボスが声を震わせて言った。

 

「狂ってる……」

 

「狂ってる? いいや、オレは『普通』だよ」

 

 中学生の女の子にここまでやるお前の方が狂ってると思う。

 

 青褪めたな。

 ボスが目を見開いてオレを見ている。

 

 チンピラたちも怯えたようにざわめいている。

 いや……どう考えても病院にカチコミ掛けてくるやつらの方がおかしいだろ。自分のことを棚に上げるのはよくない。

 

 サイレンが近づいて来る。

 

「くそ……なんでこんな……。さっさと切り上げるはずだったのに……」

 

 そのとき、乾いた破裂音が響いた。

 

「う、あ……」

 

 オレの目の前で、ボスがゆっくりと崩れ落ちる。

 肩から噴き出した赤色。

 撃たれたんだ。

 

 誰に?

 

 音のした方向を見た。しかしそれらしい人影はない。向こう側は救急の入り口が病院の本館建物から飛び出すように作られているから、隠れられると分からない。多分、建物の陰から撃ったんだと思うけど……。次から次へとよくもまあ……。

 

 警察の人が走って来る。機動隊ってやつかな。シールドを構えて突っ込んできて、チンピラたちを次々に押さえ込んでいく。

 オレの周りにもシールドを構えた人たちが集まって来た。

 

 警察の人達は「こいつはどっちだ……?」と迷っているようだったので、手に持っていた蝋燭の火をふー、と息でかき消してポケットにしまい、両手を挙げた。

 

「ご苦労様です。オレは通報者です。あなた方が来るまでの時間稼ぎをしていました。そこに倒れている人、どうやら誰かに撃たれたみたいで、逮捕するより治療をした方が良いと思います」

 

 警察の人達が顔を見合わせる。

 ……。

 結局、オレも警察に連行されることになったが、とりあえず一件落着ということで良いだろう。あとは信乃ちゃんが無事なら良いけど……。

 

 警察署から解放されたのは夜遅かった。目撃者の証言もあって、それでもかなり早めの解放なんだとは思う。警察の人からはかなり強めに注意を受けたが、来ないのが悪いだろ。信乃ちゃんがどうなっていたか分からないし。

 

 署を出てからようやく、電源を切らされていた携帯の電源を入れた。

 

 ……。

 着信履歴。結構な数だ。

 しかも、電話の主は……神主さんだ。

 着信時間は電源を切った直後。

 

 嘘だぁ……。

 

 オレはタクシーを拾い、神社へと急行した。

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