明らかに周りの奴らの生きる世界が違う件   作:ポルポル

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巫女・妖狐9

 面倒くさいことになってしまった。

 きっと失われる普通の大学生活へのせめてもの抵抗として、二人を神社の巫女さんとして紹介したのに、雅さんがまた余計なことを……。

 寂しそうに困惑している田辺の心境がどういったものかは分からないけど、ありがたくも慕ってくれているらしい田辺に失望されることは避けたい。

 

「田辺。雅さんの言うことは気にしないで欲しい。彼女はどうやら虚言癖があるようなんだ」

 

「ま、まあ、さすがに信じたわけじゃねぇけどさ……。ちっとびっくりしたのは確かだけどよ~。つーか、ライさんがそこまで言うってのも結構だなぁ」

 

 田辺はどうやらオレを信じてくれるらしい。

 面白がって騒ぎ立てるようなこともしないし、良い奴だよ本当に。

 

 それに比べて、雅さんは……。

 

 雅さんは田辺の視線から逃れるように身を竦めて視線を逸らし、崩れた巫女服を急いだ様子で整えた。

 傍目に見てるだけだと、本当にハプニングで肌が露わになってしまった淑女って感じだ。田辺も目のやりどころに困っているようだ。

 

 だけど大丈夫だよ、田辺。

 この人、本当のところは全裸を見られることにまるで抵抗がないんだ……。

 

 雅さんの徹底されたムーブからすると大丈夫だとは思うけど、一応釘は刺しておこう。

 

「雅さん。これ以上はオレも許容範囲を越える。自重して欲しい」

 

 田辺はオレの物騒な物言いに困惑しているようだった。

 

 雅さんは、不快感を押し出したオレの言葉を聞くと焦り怯えたような様子を見せた。両手を下腹部の前に揃えて置き、綺麗な動きで小さく頭を下げると、これ以上は出しゃばりませんとばかりに、数歩後退る。

 田辺は胡散臭そうに雅さんを見ていたが、雅さんの一連の動きを見て、再び困惑したような表情を浮かべる。

 

「なんか……大変そうだな~」

 

 田辺が苦笑した。

 どうやらこれ以上は触れないでいてくれるらしい。

 

 雅さんなりに必死なんだということは分かるけど、オレに取り入ろうと形振り構わなさ過ぎて、かえって顰蹙を買ってることにどうか気づいて欲しい。

 もう少し大人しくしてくれれば、オレだって無下にはしないんだけど……。人の迷惑を考えないというのは、やはり妖怪だからなのかな。それとも、こういうムーブを好む相手が多かったんだろうか。

 

 困るなぁ。

 だけど魔人関連のことを考えると、雅さんを突き放すことも出来ないしなぁ。

 世界を魔人から守る最後の一線であるらしい雅さんのことは、嫌でも守らないといけない。神主さんからも頼まれてるし。

 オレの体質も役に立たないな……。確かに脅威からオレを守ってくれるみたいだけど、こういう細かいところではまるで意味をなさない……。

 

 しかし周囲からの視線が痛い。人が集まっていて鬱陶しい。

 今は次の講義が始まるまでの僅かな休憩時間でしかないから、だいたいの人は直にいなくなるとは思うけど、あまり大勢の印象に残りたくはない。以後の大学生活が余計に騒がしくなってしまう。

 さっさと撤収したいところだ。

 

「じゃあ、田辺。またね。次の時限の講義も取ってたろ?」

 

「え? まあ……」

 

「それじゃ」

 

 田辺に軽く手をあげて別れを告げ、正門外の車へと向かう。

 雅さんが付いて来るのは分かったけど、涼音が動かないな。

 

「涼音?」

 

 振り向いて涼音を呼ぶ。

 涼音は何故か田辺を見つめていた。

 

「涼音、行くよ?」

 

「ふっ……」

 

 涼音はオレの声掛けには答えず、田辺を見たままニヒルに笑う。田辺は困惑した様子を見せ、すぐに表情を顰めた。

 涼音は田辺の反応を見ると満足そうな表情を浮かべ、オレの方へと寄って来る。

 

「雷留君、行こっか」

 

 機嫌よさげに通り過ぎていく涼音の背中を見つめる。

 

 なんだ……?

 

 今のやり取りに一体どういう意味が……?

 涼音が田辺を煽ったらしいことは分かるけど……。

 まさかとは思うけど、オレが田辺より涼音と雅さんを優先したことに優越感を持ったのか?

 それを相手である田辺に伝えるためのやり取り……?

 

 なんでそんなことをするんだ。

 涼音は友達が少ない……というか、いないようだし、独占欲でも弾けたか。

 

「田辺」

 

 顔を顰めている田辺に声を掛ける。

 

「よければまたカラオケに行こう。メッセージで空いてる日を教えて貰えるとありがたいかな」

 

「ライさん……!」

 

 田辺が嬉しそうに笑う。頭も輝いているが、つるつるだった頭に薄っすらと髪が伸び始めているから以前ほどの光沢は無い。

 

「それじゃあね」

 

 もう一度田辺に手を挙げて別れの挨拶をし、今度こそ車の方へと向かう。

 車に近づくと、雅さんが恭しく車の扉を開けてくれた。

 

「え……。ああ、ありがとうございます」

 

 雅さんが静々と会釈した。

 以前言っていたように、オレの身の回りの世話をするというのは嘘ではないらしい。ありがたいのはありがたいんだけど、VIP待遇すぎて笑ってしまいそうになる。オレは吸わないけど、もしもオレがタバコでも咥えようものなら数秒でライターとか出してくれそうな気配がある。

 

 後部座席なのは隣に座るためなのかな。

 雅さんを無視して助手席に乗るのも感じが悪いので、素直に後部座席に乗り込んだ。同じタイミングで涼音が運転席に乗り、遅れて雅さんが反対側に回り、オレの隣に乗り込んで来る。

 バックミラー越しに涼音が雅さんを疎ましそうに見ているので、オレは見なかったことにした。

 

「雷留君、バイト先のスーパーで良いんだよね?」

 

「うん。頼むよ。ガソリン代は出すから」

 

「……」 

 

 バックミラー越しに見える涼音の表情がにやけている。

 

「どうしたの?」

 

「いやぁ……」

 

 涼音が照れたように笑った。

 

「なんかこういうのって、友達って感じがするなぁって」

 

「そう?」

 

 反応に困るな。

 今のやり取りに涼音は友情を感じたらしい。

 喜んでるみたいなので良いか。 

 

「はよう出せ」

 

 雅さんが言った。

 

 またこの人は流れをぶった切る……。

 

 涼音さんは妖怪を、雅さんは妖怪退治屋を毛嫌いしている。

 互いにちゃんと名前を呼んで欲しいという頼みは聞いて貰えたけど、それ以上の改善はなかなか難しいようだ。二人の問題だから変に出しゃばるつもりはないけど、あんまり険悪だとオレも不愉快になるからある程度は抑えて貰いたいところだ。

 

 車が発進する。

 正門近くにまで見物に来ていた学生たちから離れていくと、にゅ、と雅さんの尾が生えてきた。

 

「尻尾……隠してくれたんだ。ありがとう、雅さん」

 

「……」

 

 雅さんはオレを見て静かに微笑んだ。

 自然な所作に気品を感じる。

 絶対に本人には言わないけど、オレ以外への横柄な態度や、オレへの露骨な媚売りを止めてくれれば結構すんなりと懐に入って来そうなんだよな……。

 さすがに長い間、男を手玉に取って来たと自称するだけはあって、雅さんの所作の一つ一つに惹きつけられるものがあることはオレも否定はできないし。

 

「雷留君、勘違いしちゃダメだよ。雅は単に妖怪バレしたくなかっただけだから」

 

「黙れ」

 

 バックミラー越しに涼音が雅さんを睨み、雅さんもにらみ返している。

 せっかく感謝したのに台無しだよ。

 

「雷留君さ、バイトってやめられないの?」

 

「突然だね……。どうして?」

 

「これからもずっと送迎っていうのはどうかなって思ってね。待ってる時間も長いし」

 

「そうは言っても、オレも稼がないといけないから辞めるのは難しいよ」

 

「うちでバイトしたらいいと思う!」

 

「神社で? 売り子とかってこと?」

 

「そう! お給料は弾むよ!」

 

「お金出すのは神主さんだろ……? 確かに悪い案じゃないとは思うけど、オレもすぐには決められないよ。入ったばかりだし、近所だから付き合いもあるし」

 

「いっそうちに引っ越したらどうかな? そしたらそういうのも関係ないでしょ?」

 

「いや、それはさすがに……」

 

 神社に永久就職はちょっと……。 

 

「ふっ」 

 

 雅さんが馬鹿にするかのように鼻を鳴らした。

 涼音の表情が苛立たし気に強張る。

 この人らは定期的に喧嘩しないとならない縛りでもあるのか?

 

 雅さん、悪い顔してるなぁ。めちゃくちゃ姿勢正しいし、佇まいが淑女のそれだからギャップが凄い。

 涼音がバックミラー越しに雅さんを睨んだ。

 

「雅さん。運転中に運転手の気を逸らすようなことは絶対にするな。もしも何かあればオレ達だけじゃなく、色んな人が被害を被ることになる。弁えるべきだ」

 

 さすがにこればかりは頼みって形で言うんじゃなく、強く窘めないとまずい。

 

「も、申し訳ありません」

 

 語気強く叱ると雅さんは縮こまった。

 

「ごめん、涼音。さすがに運転中はオレが手綱を握るから、雅さんのことは気にせず、運転に集中して欲しい」

 

「は、はい!」

 

 ん……?

 縮こまっている雅さんだけじゃなく、涼音もなんかどぎまぎしてるな。

 まあ、涼音にも言外に釘を刺したつもりだったし、一触即発な二人を諫めるにはそれくらいでちょうどいいかもしれないし、触れないでおこう。

 

「……ん?」

 

 しばらく大通りを道なりに進んでいると、ふいに車が道を逸れた。 

 このまま進むと、かなり遠回りになる。帰れなくはないけど非効率だ。どうしたんだろう。

 

 雅さんは道なんて知らないから特に気にした様子もなく、流れる景色を窓から眺めている。ときおり、ほう、と感心するような声が聞こえるのが印象的だ。新鮮なんだろう。今朝も車が動き出したときテンションが上がってたしな。

 

 車はどんどん道を違えたまま進む。涼音に何か考えがあるのかと思って黙っていると、ウィンカー音が鳴ると共に車が減速し、近くのコンビニへと入って行く。

 

「買い物?」

 

「う、うん。ちょっとね!」

 

「ふぅん。オレも少しのどが渇いたから飲み物でも買おうかな」

 

 リンゴジュースか、アップルティーがあればいいな。

 

「雅さんも何かいる?」

 

「あっ……」

 

 隣の雅さんに声を掛けると、呆けた様子を見せる。

 なに、その反応。

 

「東堂様、お怒りであらせられたのでは……」

 

「それとこれとは別だよ。そもそも怒ってもないよ。叱っただけ」

 

「……」

 

 雅さんは困惑した様子だ。

 

「どうする? なにか要るなら買ってくるよ」

 

「……。東堂様、よければわたくしもご一緒しても……?」

 

「いいよ」

 

 雅さんが少し驚いた様子を見せ、安心したように吐息を漏らした。

 全員が車を出ると、涼音はセンサーで車をロックし、足早にコンビニへと入って行く。

 オレは涼音の背中を見送り、車の向こう側から回って来る雅さんを待って、コンビニへと向かう。

 

「そうだ、雅さん。お願いだから、あまりオレの周囲で騒ぎを起こさないで欲しい。雅さんとはこれからも一緒にいるわけだし、これ以上、雅さんを悪く思いたくない」

 

「……」

 

 身に覚えがあるのか、振り返って見た雅さんは静かに俯いた。

 隣に気配を感じないから後ろを向いたけど、やっぱり後ろに控えていた。徹底してるな。

 でも……。

 

「前も言ったと思うけど、素直に頼ってくれればオレは出来る限り力を貸すつもりだ。その出来る限りって言うのも、雅さんを全力で守るってことでみんなで話をつけた。それは雅さんもその場にいたから知ってるはずだけど、どうしてまだそれを続けるの?」

 

「東堂様は本当に……率直なお方でございますね」

 

「そうだね。それは自分でも思う」

 

「わたくしも、お伝えしたかと存じますが……わたくしは東堂様をお慕い申し上げております。身の回りのお世話をさせていただけることが、幸福である、と」

 

「それは本当のことなの?」

 

「真にございます」

 

「そっか……」

 

 目を閉じる。

 胡散臭いし、この数日の雅さんの様子からして、彼女を信用できる要素は欠片も無い。彼女を信じたいと思うけど、信じさせることこそが彼女の目的なのだとしたら……と警戒してしまう。

 

 だけど、ふと思った。

 もうどっちにしろ、彼女の思惑であるオレ達の庇護下に入るという目的は達成されてる。それでもなおこのムーブを続ける理由は、考えつく限り二つ。

 

 本当にオレに好意を持ってくれているか、見捨てられては困るかの二通りだ。

 

 後者だとすれば、ちょっと状況が変わる。

 雅さんからすると、オレ達は実のところ雅さんを『見捨てることができる』状態だということになるからだ。

 それは、雅さんがなんらの事情で命を落としても、オレ達、ひいては人間にとってそれほど悪影響が生じないということで……。

 

 つまり、彼女は嘘を吐いているってことになる。

 御柱さんが残っていれば、雅さんが祓われるようなことになっても問題がないってことなのか……。それとも、そもそも魔人という存在が人間にとって脅威ではないのか……。でも神主さんの話だとヤバいみたいだし……。前者なのかな。

 

 どちらにせよ……。

 

「雅さん。オレはあなたのことを見捨てようとは思わない。故郷を失い、生きるために逃げ続けたというあなたの境遇を思えば、オレも胸が痛い。きっとあなたは生き残るために必死なんだろうなと、勝手な印象だけど、そう感じてる。不安も恐怖もあるだろうし、オレ自身、あなたに安心して良いとは言えない」

 

 でも。

 

「昨日、オレがいないとき、少なくとも涼音は命を賭けて戦った。あなたを守るために。ひいては人類を守るためだったとしても、それを知るよりも前に、涼音はあなたの境遇に同情し、あなたのために戦うことを選んだ。どうか、その想いだけは蔑ろにしないで欲しい。涼音はあんな態度だけど、きっとオレ以上に雅さんのことを案じてると思うから」

 

 多分ね。

 

 妖怪に人の心が無いなら今の話は無駄だ。

 人を利用するのが当たり前という価値観なら、今の言葉は届かない。

 むしろオレ達が心を砕こうとしていることを察し、これ幸いと付け入ろうとしてくるだろう。

 できれば人の思いを理解できる妖怪であって欲しいし、今はそうでなかったとしても、そうなって欲しいと思うけど……。

 

「東堂様……」

 

 雅さんは困惑した様子だ。

 

 おっと?

 

 マジで困惑してる感じがする。

 

 思っていた反応と違うな。

 嬉々として乗っかって来るか、粛々とオレの言葉を受け入れる素振りを表面上は見せるか、慇懃無礼な態度で涼音のことは断固拒絶するとかかなと思ってた。

 

「東堂様は……わたくしに何をお求めになられますか……? 可愛がってはくださらないのでしたら、わたくしはなにを……」

 

「可愛がる……?」

 

 相撲部屋とかで言う可愛がるなのか、赤ん坊やペットに対しての庇護欲から生まれるものなのか、大人の男女の関係性で言う可愛がるなのか、先輩と後輩とかそういう感じなのか……。

 

 色々考えられるけど、これまで雅さんが取って来た行動……オレに媚び諂うような態度から考えると、性を含めた主従関係のことなんじゃないかとは思う。

 

「突然何を求めるって聞かれても、別に何も……。今の状況もオレが望んだものじゃないですし」

 

「わたくしは、不要でございますか」

 

「どうしたの急に」

 

 なんだ……?

 なんか違うぞ。

 

「先ほどから、東堂様はわたくしに気安く話しかけてくださっております。それはわたくしを受け入れてくださったということでは……?」

 

 いや、単にオレの中の雅さんの株価がさっきの一件で落ちたってだけだよ。

 

 さすがにストレートにそれは言えないけど。

 

 要は庇護下に入る代わりに差し出せるものが見つからなくて不安になってるってことなのか。

 一番自信がありそうな性接待も断ってるもんな……。

 

「別にそんなの気にしなくてもいいよ。オレはそもそも最初から雅さんのことを受け入れてるし、こうなった以上はオレも最後まで付き合うつもりだから」

 

 嫌だったけど。

 初めて会ったときの恩と義理はもう清算してるけど。

 

「でも、どうしても雅さんがオレに見返りを用意したいって言うなら……普通にしててくれればそれで」

 

「普通……でございますか……?」

 

「ああ、ごめん。伝わらないよね。なかなか慣れなくて。そうだな……雅さんが少しでも人に優しく生きてくれれたなら、それが嬉しいかな」

 

「人に優しく……? それが東堂様のお望みとあらば……」

 

「そんなに畏まらなくても良いよ。人に優しくって言っても、雅さんの出来る範囲で良いし。オレも最初は雅さんのことを見捨てようとしたんだし、無理強いするつもりはないんだ。オレの知らないしがらみとかもきっとあるんだろうし」

 

「承知いたしました」

 

 雅さんが恭しく頭を下げた。

 なんだろう、この感じ。

 

 もしかして雅さんって、オレに対しては本気で服従してるのか?

 根本的なところに強者の庇護下に入るっていう目的があるわけだから、完全に裏表が無いとは言い難いけど、オレへの態度そのものは本心からやってる?

 

 弱肉強食的な感じか。

 格上の存在の庇護下に入る代わりに下僕のように付き従う、序列がしっかりした群れを作ってる的な。狐の生態ってどうなんだろう。確かイヌ科だったからそういう習性とかあるのかな?

 そう考えると、妖怪というか野生動物的には真っ当な生き方なのかもしれない。

 

「まあ、とりあえず店に入ろう。駐車場で長々と話すようなことじゃないし」

 

「かしこまりました」

 

「行こうか」

 

 雅さんを伴ってコンビニの中に入る。

 涼音の姿が見当たらない。

 

「あれ? 涼音がいないな……。先に入ったはずだけど」

 

 すんすん、と雅さんは鼻を鳴らすと、とんでもないことを言ってみせた。

 

「涼音はただいま大便を拵えております」

 

「雅さん、それ、絶対涼音の前で話題にしちゃだめだからね。約束して」

 

「お誓い致します」

 

「うん。絶対ね。もし破ったらしばらく雅さんのこと無視するから」

 

「それは……恐ろしゅうございます……」

 

 火を見るよりも明らかな未来を避けるために釘を刺しておく。

 

「じゃあ、飲み物を……」

 

 飲料コーナーへ向かて歩き出した瞬間、違和感を覚えた。

 

 人の気配が消え、急速に世界から音が遠のいていく。

 

 ああ、久しぶりだな。

 

 次の瞬間、コンビニ前から轟音が響いた。地面が揺れる。

 すぐにコンビニの外に出た。

 涼音の車があった場所にクレーターが出来ていた。当然、車は見当たらない。

 

 ここが彩乃さんの結界の中なら、本物の涼音の車は大丈夫なはずだけど……。

 というか、ちょっと、畳み掛けて来過ぎじゃない……?

 

 周囲を見渡すと、雅さんの姿も無い。どうやら彼女は置いてきてしまったらしい。

 コンビニの外に出て、巨大なクレーターを覗き込んだ。

 

 ぱらぱらとクレーターの中を小石が転がる音が小さく響く。

 

「彩乃さん?」

 

 クレーターの中に誰かいる。

 だけどそれは人と呼ぶにはあまりにグロテスクな肉塊だった。

 だけどそれは蠢いていて、徐々に人の形を取り戻しつつある。超再生能力……彩乃さんかなやっぱり。

 

 彩乃さんらしい肉塊は一体どっから飛んできたんだろう。

 そう思い、顔をあげた。

 

「わぁ……」

 

 遠くに人が立っている。高層ビル程の背丈の……巨人だ。

 まるで巨大な人体模型のようなグロテスクな容貌の巨人がそこにいて、こちらを無機質な瞳で見つめている。

 

 巨人の周りを何かが飛んでいる。

 巨人は掌を広げ、腕を乱暴に振り回した。

 すると、飛んでいた何かが丁度巨人の掌に呑み込まれる。巨人は握りこぶしを口元に動かし、舌をべろんと垂らす。そして広げた掌をべろりと舐め挙げて、何かを呑み込んだ。

 

「白夜……っ!」

 

 クレーターの中から悲痛な叫び声が聞こえた。

 見れば彩乃さんがいた。

 やっぱりあの肉塊は彩乃さんだったんだ……。

 

 彩乃さんは上半身を起こし、悲痛な表情で巨人の方を見上げていた。

 彩乃さんの体はまだ修復途中のようで、体のあちこちに小さな瓦礫片がめり込んでいる。彩乃さんはその瓦礫片を指先で掴み、勢いよく引き抜いた。

 彩乃さんの体から血が噴き出し、痛みに呻く声が漏れる。痛そうだ。

 

「彩乃さん、大丈夫ですか?」

 

「えっ……。嘘……。あなた、生きていたの……?」

 

 声を掛けると、彩乃さんは凄く驚いたようにオレを見上げた。

 どうやらオレは死んだと思われていたらしい。

 

 彩乃さんが立ち上がり、オレを見上げた。

 オレは思った。

 

 ―――また全裸だ。

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