「え?」
なにこの雰囲気。
魔人と魔獣に関係あることは察してるけども、間違いなく新ワードだよね。さっきからちょいちょい二人の口から出てて、二人は当然のように共通認識として話してるっぽいことも分かる。
でも新ワードだよね?
なんだろう……。ズン〇コベロンチョみあるな……。
まあ、オレは速やかに聞いて終わらせるけど。
「いや、魔獣人って言葉。オレは知らないんだけど」
「えぇ……? どうしたの急に」
瑠璃ちゃんは困惑した様子でオレを見上げた。またなんか言い出した、みたいな雰囲気を感じるところに、瑠璃ちゃんの中のオレへの印象が伺える。気に入らんな。
一方で雅さんはというと、なにやら薄っすらと瞳を細め、静かにオレを見つめていた。観察されている感じがする。それはそれで気分は良くないけど。
「ごめん、魔獣人が何か分かんないんだ。二人は分かってそうだけど……教えて貰っていい?」
「本気なの……?」
瑠璃ちゃんは困惑している様子で続けた。
「ふざけていたり、揶揄っているわけじゃ……ない、のよね? あ……。も、もしかして……! やっぱり、さっきの歪みの影響が、東堂さんにも!?」
「うーん。どうだろう。そうなのかなぁ?」
「でてるのかなぁ?」と内心で思いつつ、腕を組んで首を傾げる。
すると雅さんはとても心配そうな表情を浮かべてオレの膝に両手をそっと置いた。
「東堂様……。東堂様の身になにかあれば、わたくしは……っ」
「はい。はい、分かってるよ。ありがとう。それを確かめたいから、教えて欲しいんだよね」
恒例の雅さん劇場が始まる前に雅さんを手で制し宥めたオレは、改めて瑠璃ちゃんに魔獣人とは何か問いかける。
瑠璃ちゃんは訝し気な表情を浮かべてオレを見つめたまま、「東堂さんがそう言うなら……」と口を開いた。
「さっきも言ったけど、魔獣人は人に巣くい、存在を喰らい、乗っ取る人間の天敵。噂話くらいでも、その存在を認識すると狙われて……倒すには魔法を使うしかない」
それって魔獣じゃないの? 人どっから生えたの?
「ありがとう。じゃあ雅さんは、魔獣人をどう認識してるの?」
「以前お伝えした通り……徳川の時代より我ら『あやかし』や霊能力者を弑し、『最後のあやかし』となったわたくしを狙う者達、でございます」
それって魔人じゃないの? 獣どっから生えたの?
なんだろうなぁ……。
オレはぽりぽりと頭を掻く。
「えー、あー……。二人は今、その……魔獣人の性質について話してくれたんだよね? 間違いなく」
二人は同時に頷いた。
「瑠璃ちゃんと雅さんって、共通の怪異と敵対してるんだ?」
二人は頷いた。
雅さんは若干不安げに、瑠璃ちゃんは困惑と心配を表情に浮かべている。
オレがさっきの歪みとやらでで記憶に支障をきたしてるとでも思っているんだろう。オレからしたら二人の方にとんでもないこと起きてそうでめちゃくちゃ心配なんだけど。
「そうなんだ……。あのさ、雅さんは以前、そいつらを魔人、って言ってたと思ったけど、それについてはどう? 瑠璃ちゃんも、以前は魔獣って呼んでいたと思ったけど、どう?」
「そのような記憶はございませぬが……。申し訳ございませぬ、あるいは無意識に魔獣人をそのように略し、呼称しておりましたやもしれませぬ」
「あたしも覚えがないけど……気づかないうちに略して呼んでたのかも……?」
二人は本気で困惑しているようだ。演技ではないだろう。さすがにここで嘘を吐く理由も無いし、二人してオレを担ぐ意味もない。
「雅さんは以前、魔獣については何も知らないって言ってなかったかな? 性質についても少し話したと思ったけど、聞いたことも見たこともないって」
「申し訳ございませぬ。まこと、申し訳ございませぬ」
雅さんが突然ソファから立ち上がり、かと思えば凄い勢いで土下座した。
「あのときは……面倒ごとに巻き込まれたく無く、知らぬ存ぜぬと虚偽を申しました……ッ! どうか、どうか……お許しくださいませ……っ」
「そうなんだ……。へぇ……」
必死に頭を床に擦り付ける雅さんを優しく立たせる。
オレの返答に、雅さんは蒼褪め、この世の終わりみたいな表情で震え始めた。可哀そうだけどちょっと可愛い。
「お、おゆるしを……」
「え? 別に怒ってないけど、どうしたの?」
「と、とうどうさま、お、おゆるしを……」
怒ってないっちゅうの。
言葉通りに「へぇ……、そうなんだ……」って納得して受け入れただけなの。
「許す許す。気にしないで」
いつものことだし、と雅さんを宥め乍ら、内心で考えを進める。
さて、雅さんの言葉。
これはどこからどこまでが本当なんだ……?
呼称を略していたいう二人の証言。以前、魔獣について「知らない」という嘘を吐いていたという雅さんの自白。
確かにそれなら筋は通るのかな。だとしたらオレが新ワードだと思っただけで、別に本質は何も変わってないってことになるわけだけど。
でも……なんだろうな、この違和感。
おにぎりと寿司が同じ料理だとか、ダックスフントとシベリアオオカミが同じ生き物だって真顔で言われてるような絶妙な「お、おう……」感。
ちげえだろ。明らかに。
どうしたのものかな……。
これ、やっぱり二人の方が「おかしい」んだろうな。だってオレは『普通』だもの。いつだって……過去の事故ときだって……オレは『普通』だった。それはこの一年で『確信』に変わっている。
「ごめんね。ちょっと考えさせて貰っていい?」
間違いなく、魔獣と魔人は別の存在だ。
まず……魔獣は喰った存在を消滅させる。
魔人はその存在を乗っ取るが、別に乗っ取られた存在が消えるわけじゃない。
この違いは大きい。
以前、神主さんの姿に偽装していた鬼の魔人がいた。
もしもそれが『魔獣人』だったなら、神主さんは涼音の記憶から消えていないとおかしい。
あ、いや……オレと涼音が会ったのは、魔人が吹き飛んだあとだったか……。なら涼音が神主さんのことを認識してたのはおかしくはない。これは違う。
じゃあ、過去に消されたらしい鬼や天狗のお伽噺が現代に残っているのはどうだろう?
魔獣人が魔獣と魔人の性質を併せ持つなら、妖怪は人々の記憶から消えていないとおかしい。
妖怪は人間と違って世界から消去されないとか言われたらそれまでだけど。
鈴院家に残っている日記と手紙はどうだ?
涼音の先祖の友人の先祖の日記(なげぇよ)と、涼音の先祖の友人から涼音の先祖に送られた手紙。
日記には、過去、魔獣人に霊能力者が次々に消されていたと記されていた。
だとしたら、その霊能力者たちの記録が日記に残っているのはおかしい。魔人と魔獣が同じ存在で、同じ性質を持つなら、人々の暮らしから抹消されているはずだ。涼音に関する記憶が雅さんから消えていた以上、「霊能力者だから」、という特例は通用しない。
神社での一件。
雅さんから不承不承ながら「現代最強の霊能力者である」と太鼓判を押されている涼音が、為すすべなく魔獣の法則に呑み込まれたという事実は、「霊能力者でも魔獣の法則には抗えない」、という確固たる根拠になる。
つまり、過去の霊能力者が魔獣と同じ性質を持つ魔獣人に消されたなら、残された人達の記憶に消された人たちのことが残っているわけも無いし、日記だって無かったことになっているはず。
間違いない。
魔獣と魔人は別の存在だ。
でもなぁ……。
「霊能力者たちが魔人に消された」っていうのはあくまで故人の推測でしかないからなぁ……。その前提が崩れると今の考察も崩れちゃうんだよなぁ。
しょうがないのは分かるんだけど、もうちょっとこう、信じるに足る情報を誠実に貰えないかなぁ……。主に雅さんね。
「雅さんは……オレと会うまでずっと『魔獣人』から逃げていたんだよね? 狭間ってところに攻めて来たのも、雅さんの故郷を襲ったのも、『魔獣人』だって認識してるんだよね?」
「おっしゃる通りでございます」
「だとすると……。妙じゃない?」
「妙、とは」
「涼音の家に、涼音の先祖の友人の日記が残ってること。雅さんが、雅さんに兄弟がいたことを覚えているのもおかしくない?」
「え……? ……!」
雅さんは違和感に気づいてくれたらしい。
「そう。おかしいんだよ。魔獣人は妖怪や人間に巣くい、その存在を喰って消し去り、乗っ取る。二人は今、そういう認識をしてる。だとしたら、魔獣人に消された故郷の兄弟や山の主さんの記憶が雅さんに残ってるのって妙だし、消されたはずの人が残した書物が鈴院家に受け継がれているのも妙だ。神社での一件……あのとき、雅さんは涼音のことを一時的に忘れたっていうのは覚えてるよね?」
「た、たしかに……ッ! おっしゃる通りでございます!」
「だよね?」
名推理に気持ちよくなっていると、
「あの……」
と瑠璃ちゃんが恐る恐る手を挙げてこう言った。
「魔獣人は乗っ取りの段階で……喰った存在を再構成するの」
「どういうこと?」
なにそれ。新情報じゃない?
頼む。おかし買ってあげるから、これ以上の後出しは止めて。
「消された人の存在を乗っ取って、魔獣人が人間として転生するのよ。もとの人の人生を乗っ取って……自我を持つの。そしてそいつは、自分で仲間を増やしていく。多分だけど……霊長の魔獣人はその段階に至った化け物だと思う」
なにそれ。やっぱり新情報なんだけど。無かったよね今まで。魔獣の説明にそんなもの。
考えるのめんどくせぇ……。
ホントに正式名称魔獣人で、関係者が各々略称で呼んでただけなのかなぁ。もうそういうことで良いかもなぁ。
でもなぁ。前に瑠璃ちゃんは魔獣、雅さんは魔人って言ってたのに、急に魔獣人で統一されてんのはやっぱり変だと思うんだよなぁ。
なんか……後出し後出しで「魔獣と魔人は一緒です」「一緒一緒一緒一緒一緒ッ!!」「一緒だっつってんだろ!!」と何かに頭ごなしに押し付けられてる感があるな……。
オレ、そういうの嫌いなんだよね。それ、不愉快です。
まあいいや。
少なくとも今現在、魔獣と魔人の性質を併せ持ったとんでもねぇバケモンが生み出されていて、それがオレ達の敵っていう事実は理解しました。これ以上考えるのはめんどくせぇ……もとい無駄です。はい。
どうしてこんなことに……。
確か……、涼音のことで神主さんに電話したとき、雅さんは魔人って言ってたよなぁ。じゃあ、何かが起きたのはその後か。関係ありそうなのは、やっぱり二人が同時に体験した『歪み』だよねぇ。
二人は揃って、『世界が歪んで引き伸ばされてこねられて混ざった』と言った。そもそも世界が歪むってなに?
ムンクの『叫び』みたいな感じ?
ぐにゃぁ、って言ってたしな。
あ、と背筋に電気が走るような感覚を覚えた。急に閃いた。直感があばれている。
オレを中心に生じた歪み……。混ざり合う世界……。引き込まれるような感覚……。
もしかして……。
「ジョグレス進化……?」
「じょぐれす?」
反応した雅さんは申し訳ないがスルーする。
そういうことなのか……?
今さっき、まさに今さっき。
雅さんの世界と瑠璃ちゃんの世界……二つの世界が混ざって、結果、辻褄合わせのために魔獣人とかいうとんでもないバケモンが生まれたってこと?
なんで考えるの止めた途端にそれっぽいこと閃くんだよ。やめろよ。
えぇー。
なんでいきなりそんなことに?
というか、ホントに二人の
でもなんでオレを中心に?
オレ、普通に生きてるだけなのに……。
にわかには信じ難いけど……雅さんと瑠璃ちゃんが、実は違う世界の人だったって仮定する。
すると、オレは今まで、パラレルワールドを何度も行き来してたってことになるよね?
そんなことあるぅ?
だって、じゃあ、信乃ちゃんと葵ちゃんが一緒の場所にいたのはなんで?
あの二人は一緒の世界線ってこと?
それとも実はオレが(いつもどおり)認識してないだけで、信乃ちゃんの世界とはとっくの昔に混ざってたってこと?
うーん。全く身に覚えがないからどうしようもねぇや。ハハ。
あー。
うわ、どうしよう。まずいな、これ。
彩乃さんからすると、残された電話番号に電話をかけてオレに接触しようとしても、一切繋がらないって状況か。
すげぇ痛ましい……。何とかならないかな? 無理かなぁ。今までも無理だったものね……。
あっ……。
律ちゃん……。
そう言えば、連絡ねぇや。うわ……。そっちはちょっと……いや、ガチでまずいか?
いや、待てよ……?
そういえば、オレって涼音と一緒に、何度も茶都山家に訪問してるよな。
会えなかったけど、表札は確かにあった。
そうだよ。
年末のタイミングで一度、オレ達は茶都山家にも瑠璃川家にも行った。あのとき、確かに表札はあった。つまり地続きってことだ。
さっきのタイミングで世界が混ざったなら、それはおかしい……よな……?
なんだ。良かった。パラレルワールドなんか無かったんだ。ただ彩乃さんと律ちゃんから連絡が来なかっただけか。
……。
あれ……?
いや、待て、よ?
そう言えば、瑠璃ちゃん、こう言ってたよな……?
『瑠璃ちゃんたちが魔獣に襲われたのは、およそ
だとしたら、おかしい。
二人の家に、『表札』があるのは……おかしいんだ。オレの家に茶都山家から『法事に行く』なんて手紙が届いているのもおかしいことだ。
だってそのとき、瑠璃ちゃんの話ではもう……茶都山家は魔獣に襲われて壊滅していたはずなんだ。
「瑠璃ちゃん。茶々ちゃんたちって年末、法事で学校休んだりした?」
「え? そんなことなかったと思うけど……。というか、年末にはもう……茶々は……」
「そっか……。辛いことを言わせてごめんね」
なるほど……じゃないよ。
いみわかめ。
世界って……フシギダネ。
事実は小説よりも奇なり、ってことか……。はえ~。ぐちゃぐちゃだよ、もう。
というか、なんか瑠璃ちゃん、茶々ちゃんの名前はっきり呼べるようになってるな。覚悟が決まったからかな?
しかし、そうか。
うーん……。
答え合わせなんてやりようがないけど、覚えてはおこう。ただちに影響は滅茶苦茶出てるし、害もありそうだけど、打てる手なんて無いし、どうしようもない。
「これはオレの考えなんだけど」
と前置きをして、オレの推理を2人に話した。
「そうだな……。雅さん、徳川と豊臣って分かる? その二つが混ざり合って徳臣があるとする。これが魔獣人。雅さんは最初から徳臣しかなかった……って認識してるけど、オレからすると徳川と豊臣どこ行った? 徳臣って何? って感じになってる」
「なるほど……。わたくしが徳川、小娘が豊臣、と」
「なんか割り振りに他意を感じるけど、まあそんな感じで良いと思う」
ちゃんと分かってんのかな?
「加えさせていただきますと、今の例えであれば、東堂様は『すめらぎ』である、とわたくしは捉えても?」
スルー。
「瑠璃ちゃんは……今の学校が実は別の学校と合併してできた学校なのに、瑠璃ちゃんはもともとの学校の存在が認識できなくなってるって思えばいいと思う」
「そんなことが起きてるの……?」
瑠璃ちゃんは半信半疑というか、困惑している。実感が無いんだろうから仕方ないとは思う。
「起きてるみたいだね」
「どうして東堂さんにはそれが分かるの?」
「それはオレも知りたい」
「やっぱりこの人ちょっと……あれね……」
ぽそっと言ったの、聞こえてるからね?
「オレが魔獣人について質問した理由はそんな感じ。話を脱線させてごめんね。それで話を戻すけど、オレ達が話し合うべきなのは、どうやって霊長の魔獣……いや、魔獣人を倒すかってことだね。瑠璃ちゃん、茶々ちゃんたちを助けるまでのタイムリミットって分かる?」
「ごめんなさい、分からないの」
「そっか……。分からなくなってるのは顔と名前?」
「それなんだけど……なんかね、思い出したの」
「え? どういうこと?」
「茶々の名前と顔、思い出したの。いま、さっき」
「思い出せた理由は分かる?」
「そうね……なにか、今までにない力を感じるの。ドキドキするような……不思議な感じ」
抽象的過ぎて分からんて。
「そうなんだ……。何があったんだろうね」
「分からないけど……戦うって決めたときに、力が湧いてきたの」
ふうん……。
まあ、割とあるよねそういうの。言わないけど。勝算が出てきたならありがたい。
雅さんが「東堂様」とオレを呼ぶ。
「どうしたの?」
「この小娘、今しがた位階が上がりましてございます」
つまりレベルアップしたってことね。
「今しがたって、いつ?」
「啖呵を切ったときでございます」
「ん……。なんだろうな……。そう言えば……前に瑠璃ちゃんこう言ってたよね。魔獣は人の夢をどうこうって」
「ええ。魔獣人は人の夢を食べるの。眠っている時の夢もそうだし、未来の目標もそう」
そうだね。確かそう言っていた。
「……なるほど」
「なにか分かったの?」
「うーん。どうだろう。それが事実かどうか分からないから今は言えないかな」
以前葵ちゃんに救われたときに、瑠璃ちゃんがいつの間にか持っていたというクリスタル。
それがもしも魔獣のコアだとか、魔獣が食べた人々の夢の結晶だとか、そういう割とありがちな感じのアイテムであり、かつ魔法少女の力がそれに由来するものだとしたら……。
『消された友人と一緒に
あくまでのオレの知識というか、ありがちな傾向としてね。
すると瑠璃ちゃんはじとっとした目でオレを見つめてこう言った。
「前から思ってたけど、東堂さんて胡散臭いって言われない?」
「言われない」
「東堂様は胡散臭くなどありませぬとも。誠実でお優しい殿方でございます」
ありがとう。
そう思った矢先、瑠璃ちゃんはこう言った。
「あ、別に、責めるつもりはないというか……あれはあたしも悪かったんだけど……。その、スーパーの時とか、すごく怪しかったから……」
まーた、この子は思ったことをすぐに口に出す。個性が弱点の方で出てる。失礼だぞ。
「あれ? もしかして根に持ってる?」
「持ってないわよ」
「茶々ちゃんに怒られたの気にしてるの?」
「持ってないって言ってるでしょ!! うるしゃい!」
瑠璃ちゃん、興奮しすぎて噛んでら。顔を真っ赤にして吠えた瑠璃ちゃんはだいぶ可愛かった。
「ごめんごめん。でも……瑠璃ちゃん。他人に感じているネガティブ寄りな印象を、その人に直接伝えるのはちょっとだけ、控えてあげた方が良いかもねぇ。瑠璃ちゃんにそんな気は無くても、言われた人は嫌な思いをしちゃうかもしれないよ? 素直なことは君の美点だし、オレは君のそういうところがだーい好きだけど、それは誠実であることとイコールってわけじゃないからね。オレも少し傷ついた(傷ついてない)」
「うっ……」
瑠璃ちゃんは照れたような、しかし申し訳なさそうな、複雑な表情を浮かべた。
謝れないのは……性分だね。正義感の強さから生じる他責的な出力の素直さじゃなくて、正義感が強いからこそ素直に自分の非を認められるポジティブな素直さが伸びるといいなぁ。どっちもこの子が持ってるものだけど、どっちが伸びるかで生き易さって変わるし。
しかしこの子、このままだと大人になってから物凄く困りそうだから、まだこの先もオレ達に縁があって、その機会があれば窘めてあげよう。
「ふふ。瑠璃ちゃんは可愛いね」
「う、うるさいな、もう!」
「ふふ。……とりあえず、これから涼音のところに行こう。涼音っていうのは、さっき言った霊能力者の女性のことだよ」
病み上がりの涼音を頼ることはなるべくしたくないけど、魔獣人とかいうバケモンが発生しちゃった以上、可能なら力を借りたいってのは正直なところだ。
まあオレ、涼音が実際どれくらい強いのか知らないから……涼音が当てに出来る力を持ってるかも分からないんだけども。神主さんと雅さんの評価を参照にして「凄いんだなぁ」くらいには思ってる。
「ただ、涼音は状態が状態だから、あまり期待はしないで欲しい。オレ達三人で出来ることをやる……くらいの気持ちでいてね」
「その涼音さんって、どうかしたの?」
「うん。意識不明の状態で病院にいるんだ」
「えっ……」
瑠璃ちゃんは言葉を失っている。
「原因が分からなくてね。もしかしたら何か異変に巻き込まれたのかもしれなくて……。ああ、そうだ。魔獣……人か。魔獣人の影響で、意識不明の状態になることってあるの?」
「あるわ」
即答した瑠璃ちゃんにオレは驚いた。
「え、あるの?」
「うん。その人が……魔女の素質があるときに」
「……」
なるほど。
またややこしいことになって来たな。
涼音に起きた異変がこっちに繋がっている可能性が出てきた。だけど、涼音が意識不明になったのは『歪み』が生じる前だった……よな。よく分からない。
「それって瑠璃ちゃんが見たら分かるものなの?」
「うん。分かるわよ」
「じゃあ、なおのこと見て貰いたいな。申し訳ないけど、付いて来てもらってもいい?」
「申し訳ないって……もともとその人の所にはあたしのお願いで行く予定だったじゃない。へんなの」
瑠璃ちゃんがそう言うと、雅さんがぴくりと反応した。
「おい、小娘」
雅さんは瑠璃ちゃんに凄んだ。きっとオレに向けられた『へん』という言葉に反応したんだろう。
「いいよ、雅さん。別にもう気にしないから。ありがとう」
オレは雅さんに笑い掛けた。嬉しくてつい、その肩にぽんぽんと手を当てる。すると雅さんは驚いたようにオレを見て、ふんわりと微笑んだ。やっぱりすごい整ってるなぁ。
☆彡☆彡
「あ、雷留君。心配かけてごめんねぇ」
涼音が運ばれた病院の、涼音のいる病室に入ったオレ達を迎え入れたのは、元気な涼音だった。意外とすぐに目を覚ましたらしい。
今、神主さんはいない。別に何かあったというわけではなくて、オレ達とすれ違いで、いったん家に帰っているだけ。
涼音本人は今のようにたいしたことはないという自認だが、原因は不明のままだし、神主さんとしてはちゃんと検査をさせたいようだ。それはそう。他界した奥さんが残してくれた一人の娘だしね。
というわけで涼音は数日入院することになり、神主さんは今、入院セットを取りに家に戻っている。神社じゃなくて鈴院家の方。
病院への移動中に電話したとき、神主さん本人から聞いた。
今はもう夜も遅い。面会時間はとっくに過ぎていて、実はオレ達は面会をさせて貰えないはずだった。神主さんが面会を許可した、というわけではない。家族だからといって、病院のルールを押しのけるような権利は神主さんには無い。危篤状態ならいざ知らず、こうして元気に目覚めてるしね。
まあ、あれだよ。
雅さんがちょちょいと、ね。
あんまりよくないんだけど……、事情が事情だから仕方ないよね。
「涼音、元気そうでよかった。心配したよ、本当に。すぐに駆け付けられなくて、ごめんね」
「えへへ……。いいよ、そんな。それで……その子が?」
涼音の視点は瑠璃ちゃんへ向けられている。
「うん。瑠璃川瑠璃ちゃん。この子が例の魔法少女」
「魔女、ね」と瑠璃ちゃんは言った。
前から思ってたけど、この子、頑なに魔女って自称するよな。少女って言うのが気に入らないのかな?
年頃だもんな。でも、そういうのが少女なんだよ。
「そっかそっか……」と涼音は納得したように言った。
かと思えば、何やら悪だくみをしたようなしたり顔を見せ、ベッドから降り、立ち上がる。
「涼音、病み上がりだし、あまり無茶は……」とオレは涼音を諫める。
しかし涼音はオレの言葉を聞かず……なにやら仰々しく両手を広げ、意味深に笑い、こう言った。
「わたしは鈴院涼音。あなたと同じ……魔法少女よ」
次の瞬間、涼音が発光し……瞬く間に巫女服のようなドレスへと姿を変えた。
は?
オレは思った。
―――お前は魔女だろ。
年齢的に。
もうなんでもありじゃねぇか。
オレは知らない天井を仰いだ。