明らかに周りの奴らの生きる世界が違う件   作:ポルポル

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魔巫法女妖少狐女5/GBF?6

 ちょっと待って貰って良いか?

 

 オレは無言で天井を見つめて脳みそを休めていた。

 

 これはどっちなんだろう。

 涼音は『もともと魔法少女だった』ことになってるんだろうか。魔獣人のように。

 

 反応に困るなぁ。

 

 涼音は「あれれ?」と妙にかわい子ぶった感じの声音で、困惑した様子を見せている。

 

 なにが「あれれ」だ。

 

 涼音を見る。

 巫女服をベースにした感じのドレス。肩にはふわふわとした装飾が揺れ、スカートの裾は折り込まれて波打っている。年齢を考えると幼い意匠だが、涼音自体整った外見をしているので、似合っていないとは思わないし、可愛いことは認めよう。

 

 ちら、と雅さんに視線を向ける。

 雅さんは珍しく表情を崩していた。呆れた様な困惑したような目つきで、口をぽかんと開けている。

 

 ああ、安心した。

 

 雅さん視点でも、この状況は想定外だったらしい。

 もしもこれで雅さんが平静だったら、さすがに溜息を吐いていたと思う。

 

 涼音は瑠璃ちゃんを見ている。

 

「あんまり驚いてない……?」

 

 瑠璃ちゃんは困ったように笑った。

 

「えー、と……。見て、すぐに分かったから。あなたが魔女だって」

 

 ここに来る前に見れば分かるって言ってたものね。

 

 瑠璃ちゃんの言葉に涼音は

 

「魔法少女、ね?」

 

 と反応した。

 

「あ、あはは……」

 

 と瑠璃ちゃんが苦笑を零す。

 涼音。小学生に気を遣わせるんじゃないよ。

 

「涼音、似合ってるよ。どうしたの? その可愛いドレス」

 

「でしょう?!」

 

 オレの褒め言葉に涼音は喜んでいる。それはそれで可愛いし嬉しい。

 

「でも、あんまり驚いて貰えてないみたいで残念」

 

「驚いてはいるけど……まあ、色々あってね。涼音の方はなにがあったの? 涼音って魔法少女になれたんだっけ?」

 

「え? なれないけど……。今までなったことないでしょ……?」

 

 雅さんの反応からして違うとは思うけど、もしかしたら歪な変化が起きているんじゃないかと思って聞いてみたんだけど、違うらしい。

 涼音は「急に何言ってんの? 疲れてる? 大丈夫?」とでも言いたげに困惑と心配を表情に滲ませている。オレを心配してくれているのは嬉しいんだけど、なんだろうな……。なんか……。うん……。こいつ……。

 

「じゃあ、やっぱり意識不明になったことが関係あるのかな?」

 

「たぶん、そう。雷留君がいなくなったあと、ロードサービスを待ってたら急に眠くなっちゃったんだけど……。神社のときと同じだって思ったから、今度は吞まれる前に霊力で魔獣人を封じてみたの。そしたら、変身できるようになったよ」

 

 瑠璃ちゃんの件からしても、自分の中の魔獣……人が倒されることが魔法少女化の条件なのかな。

 でもそれってなんか……魔獣人になってるってことだったりしない?

 違う?

 それっぽい設定、割とあるよねぇ。

 

「なるほど。つまり、魔獣人に襲われて、一人で倒したってこと?」

 

「うーん。まあ、そうなんだけど……」

 

 涼音はもごもごと口籠る。

 

「どうしたの?」

 

「倒したって言っちゃうのは憚られるというか……自分で納得できないというか……?」

 

「そうなの?」

 

「うん。孵ろうとする魔獣人を抑え込んで『卵』を霊力でガチガチに固めただけだから……。ちょっと時間がかかったけど、戦ったかというとそうでもなくて」

 

「別に気にすることなくない? 充分凄いことだと思うけど」

 

「そ、そうかな?」

 

 涼音は不安そうに言った。

 

「うん。要は敵の先手を挫いて完全に制圧したって事でしょ? 中々出来ることじゃない」

 

「そ、そうかなぁ?!」

 

 涼音は嬉しそうに言った。声の抑揚が高くなっている。

 

「夢の中で敵を倒したら魔法少女に成れるようになった……。それが魔法少女になる条件……なのか。瑠璃ちゃん、瑠璃ちゃんもそうだったの?」

 

「あたしは……パパとママから生まれた魔獣人に襲われて、あの人に助けて貰ったから……。分からないわ……」

 

「そっか……。涼音はもう大丈夫なの? 不調は無い?」

 

「うん。むしろすっごく元気!」

 

 涼音がぐっと拳を握りしめて見せて来る。

 魔獣……もとい魔獣人を倒したら、その宿主は元気になるって言うのは瑠璃ちゃんが前に言ってたことだ。自力でなんとかしたってのは、凄い。

 

「二回も寄生されるんだね」

 

「そうね……。なくはないけど……。パパとママもそうだったし……」

 

「そうか。そう言えばそうだったね。なんだろう。もしかして、魔法少女の才能を持っている人やその近くの人が狙われやすいとかなのかな?」

 

「……そう、ね。確かに、ありえなくはない、かも」

 

「……」

 

 オレは思った。

 

 ―――神主さん、やばくね?

 

 ふいに、瑠璃ちゃんと涼音が同時に、弾かれたように同じ方向を向いた。剣呑な雰囲気だ。

 

「「魔獣人……!」」

 

 異口同音。

 涼音も魔獣人と呼んでいることはもう、いい。

 思ったのは、二人が向いている方角が、神社の方ってこと。神主さん……? 大丈夫か?

 

「出たの?」

 

 オレの問いに瑠璃ちゃんが頷いた。

 

「ええ。でも……」

 

「どうしたの?」

 

「こんなに孵化が続くなんて、今まで無かったのに……。やっぱり、あの女が何かしてるのかも……っ!!」

 

 瑠璃ちゃんが駆け足で窓に近づき、窓を開けた。そしてすぐにドレスに変身し、窓から飛び立とうとする。

 

 オレはそれを止めようと思ったが、瑠璃ちゃんは飛び立つことを……躊躇った。

 瑠璃ちゃんに続こうとしていた涼音がたたらを踏むようにして立ち止まる。困った様子で瑠璃ちゃんの背中とオレに視線を行き来させている。

 

「どうしたの?」涼音は瑠璃ちゃんに問いかけた。瑠璃ちゃんは振り返らず、拳を握りしめている。

 

 オレは何も言わずに瑠璃ちゃんを見守った。恐怖はあるだろう。でもそれを乗り越える意思を彼女はもう持っている。だとしたら、彼女が足踏みする理由は何だろう。

 瑠璃ちゃんは振り返らないまま、ゆっくりと話し出した。

 

「きっと今のままじゃ……あたしは、あの女には勝てない」

 

「そっか……」

 

 瑠璃ちゃんの声が震えている。

 

 オレが止めようと思っていた理由もそこだったから、瑠璃ちゃんが自分で立ち止まれて良かった。

 

 今ここに居る三人の中では、きっと雅さんが一番強い。そう思う理由は、格下には横柄な態度を取る癖がある雅さんが、瑠璃ちゃんと涼音の二人に対して横柄な態度を取り続けてるからだ。瑠璃ちゃんに対してはなんというか、親近感みたいなものは感じてそうだけど。

 

 そして三人の中で一番強いっぽい雅さんでさえ、それなりの強さの魔獣人をタイマンで倒すためには、苦労して作った眷属のおよそ70の全滅を余儀なくされている。霊長の魔獣人はかなり強いらしいから、雅さんが倒したやつよりも格上だろう。瑠璃ちゃんが一人で勝てるとはオレも思えなかった。

 

 涼音は瑠璃ちゃんについていこうとしていたし、そうなれば雅さんも行くだろうけど……敵は未知数だ。瑠璃ちゃんや茶々ちゃんたちが三人がかりで負けてる以上、三人が掛かりでも勝てるかどうか分からない上に、情報は瑠璃ちゃんが持っているものだけ。迂闊な行動は避けた方が良いと思う。

 

 瑠璃ちゃんはか細い声でこう言った。

 

「あたし、どうすればいいんだろう。勝てないと分かってて行くのって、ダメなことなのかな……。助けたいと思ってるのに、助けられないのは……辛いよ……」

 

「難しい問題だね」

 

 これは一般人が火事で家の中に取り残された人や、溺れている人を助けに行くようなものだとオレは捉えている。

 瑠璃ちゃんはなまじ知識があるから、水を被り口元に濡れタオルを当てて火の中に突入したり、服を脱いで水の中に飛び込んだりと、そういう(・・・・)手順はちゃんと踏めてしまって、しかもそれで成功体験も積んできている。だからこそ、今までよりも強い業火の中、荒波の中に飛び込んでしまい、結果、前回は失敗した。

 

「涼音と雅さんの三人でも難しそう?」

 

「……」

 

 瑠璃ちゃんは何も言わない。

 

「教えて欲しいな。大事なことだから。瑠璃ちゃんの感想で良いんだ。なんとなくの」

 

「……難しいと思う」

 

「どうしてそう思うのか……それも話して貰えるかな。言い辛いことなら、オレに耳打ちして欲しい」

 

 瑠璃ちゃんが振り返った。

 オレは微笑んで瑠璃ちゃんの傍に寄り、しゃがんだ。瑠璃ちゃんの口元に耳を近づける。

 

「感じるの。あの人が……一番強かったから」

 

「あの人って言うのは、葵ちゃん、だね?」

 

 瑠璃ちゃんが頷いた。

 葵ちゃんは相当強かったらしい。

 

「そっか……。今、瑠璃ちゃんが感じた魔獣人の気配は、例の?」

 

「ううん。霊長じゃないとは思う。きっと孵ったばっかりのやつ。だけど、あいつもきっと現れると思う。あいつ、魔獣人が孵ったらそいつを支配しに現れてるみたいだから」

 

「支配、か……」

 

 どんな感じなんだろう。雅さんみたいに眷属?にするのかな。

 

 瑠璃ちゃんの言葉を聞いて、涼音が言った。

 

「雷留君? なんか事情がありそうだけど、わたしは行くよ!?」

 

「待って。待って涼音」

 

 オレは涼音を手で制し、端的に事情を伝える。

 

「敵はかなり強いらしい」

 

「そうは感じないけど?」

 

「今はそうかもしれないけど、とんでもない奴が後ろに控えてるみたいだ。瑠璃ちゃんの仲間はいっぺんにそいつにやられた。みんな、涼音や雅さんと同じくらい強かったらしい」

 

「でも、わたしは行くよ。わたしは、困っている人を助ける、妖怪退治屋だから」

 

 涼音が強い意思を乗せた瞳でオレを射抜く。

 

「分かってる。分かってるんだよ、涼音」

 

 君のその勇猛さと優しさは、瑠璃ちゃんのそれと同じようでいて、少し違うことも。

 

「君のそれはアイデンティティだ。そこは譲れない最後の一線だってことも分かってる」

 

 幼少期に排斥され続けた経験から強固に培われたそれは、涼音にとっての生きる意味であり、涼音が涼音らしくあるための大切な心得。自分はそのために生きているという、道しるべ。

 

「初めて会ったときの語らいで、オレは涼音のそういうところが好きになって、尊敬した」

 

「え? 雷留君? 今、わたしのこと好きって」

 

「言ったよ。雅さんのときにも言ったけど、オレは自分を優先して出来る範囲で動く。だけど涼音は身の危険を省みない。とってもやさしい人だ」

 

「雷留君……。えへへ。なんだか恥ずかしいね」

 

「ん……。だけど、今の状況だとちょっとまずいんだ。瑠璃ちゃんの話だと……」

 

「ごめん、雷留君」

 

 オレの言葉を遮って涼音は言った。

 

「こういうと感じ悪いかもしれないけど、その子、まだ小学生くらいでしょ?」

 

 瑠璃ちゃんを傷つけないために、オレは皆まで言わせず、口を挟む。

 

「言いたいことは分かる。だけど、この子はこれまでたくさん辛い目に遭って、傷だらけになった心で……それでも囚われた友達を助けたいと強く願ってて、本当はすぐにでも飛び出したいはずなんだ。だけど、それじゃあどうにもならない現実があって……この子はちゃんとそれと向き合ってる。今のこの子の言葉を無視することは、オレには出来ないよ」

 

「雷留君……」

 

「東堂さん……」

 

 ほう、と涼音と瑠璃ちゃんが吐息を零した。

 どうした?

 

「涼音。君は瑠璃ちゃんと会ったばかりだし、オレからも事情の説明がちゃんと出来てないことは申し訳なく思ってる。だから一度、状況の説明だけでもさせて貰えないかな」

 

「でも、雷留君。今、助けを求めてる人がいるんだよ。神社では君がわたしを助けてくれた。誰かにとっての君に、わたしだってなりたい」

 

「それを言われるとオレも弱いな……」

 

 それはオレの渇望だ。意図的か否か、その言葉を選ばれるとオレも弱い。

 譲る気はないけど。

 

 反論しようとするオレよりも先に動いたのは、雅さんだった。

 

「涼音。おのれはずっと勘違いしとるようじゃが……おのれも儂も確かに、現代においてもはや最高峰の存在じゃ。しかしな、儂ら程度のあやかしや霊能力者なぞ、徳川の世にはいくらでもおったわ」

 

 苛々を隠そうともせず、雅さんは涼音を睨む。

 

「おのれの欲求で東堂様と(わっぱ)を危険に晒すな、小娘が!」

 

 お、おう……。

 

「逃げ癖狐が!」

 

 涼音がドレスから入院服に戻った。すると涼音の髪がまるで真下から強風に吹かれているかのように逆立ち、服がはためく。

 

「妖怪が人の気持ちなど理解できるはずもない! 自分さえよければいいという妖怪にはな! 今、誰かが救いを求めてるんだ! わたしは妖怪退治屋なんだよ! わたしたちはそのために生きて来たんだ! ここで足踏みして先祖に顔向けが出来るか!」

 

 涼音が凄む。

 雅さんが目じりを吊り上げる。

 

「おのれならそやつらを助けられると? 己惚れるのも大概にせいよ、人間風情が! おのれの短小な生の中で、ただ一人でも人を救えたことがあったか! 言うてみぃ!」

 

 うーん。

 凄いまともな言い合いだ。どっちも真っ当だぞ……。

 特別な力を持つ者は相応の責任を負うという、ノブレスオブリージュを実行しようとしている涼音。

 無力感に打ちのめされ続けてきた雅さんのリスク回避の姿勢。

 

 オレとしてはどっちも理があるというか……。

 

 美女二人の口喧嘩は見てる分にはなんかそそるものはあるけど、瑠璃ちゃんがいるからなぁ。やめて欲しいなぁ。

 半泣きになってしまっているよ。怖いよねぇ。年上の同性の言い合いって。

 

 オレは二人に両掌を向けながら、二人の間に歩いて入り、笑いかけた。

 

「じゃあ、まずは敵情視察ってことで」

 

「えっ?」

 

「東堂様……?」

 

「少なくとも、瑠璃ちゃんはこれまで何度かそいつに遭遇して、逃げられているわけだからね。みんなでそいつに会いに行ってみよう?」

 

「あ……」

 

「東堂様……」

 

 と涼音と瑠璃ちゃんはその発想は無かった、と言いたげに目を丸くした。雅さんは気づいてたっぽいけど、言わなかった感じかな。

 オレは涼音に視線を送り、こう言った。

 

「なんか、凄い強い奴がいるらしくてさ。だから一度、戦うんじゃなくて、情報を取りに行こう。涼音も一目見て、無理そうだと思うなら撤退する。戦略的撤退ってやつね。どうかな? というか……涼音、お願い」

 

「む……。それなら……まあ……」

 

 タイムリミットはある。だけど焦って全滅するのが一番ヤバい。専門家が他にいない以上、確実に被害者を助けるために、徹底的に準備をする必要がある。それが『最速』だろう。

 

 逆立っていた涼音の髪も、はためいていた雅さんの袖も動きを止めた。

 青褪めている瑠璃ちゃんの傍に近寄り、その背中を優しく撫でてオレはこう言った。

 

「それと。子供が見てるんだよ、二人とも」

 

「あ……。ごめんなさい……」

 

「申し開きもございませぬ……」

 

 涼音は瑠璃ちゃんに、雅さんはあくまでオレに、それぞれ頭を下げる。

 

「じゃあ、行ってみようか」

 

 涼音と瑠璃ちゃんは変身して窓から飛んで行き、オレは雅さんに抱えて貰った。

 

「ありがとうねぇ、雅さん」

 

「いえいえ。東堂様のお役に立てることこそ喜びでございますゆえ」

 

 見上げたオレを、雅さんは綺麗な微笑みで見下ろした。

 

 

 ☆彡☆彡

 

 

「はあ」

 

 オレはいつの間にか、無音の世界に立っていた。

 雅さんに魔獣人の出現地点の近くで地上に降ろして貰って、みんなで向かっていた途中だった。

 久しぶりに感じた、世界が色と音を失くしていく感覚。

 

 多分、これ、彩乃さん。

 

「いやぁ、ちょっと、タイミングが悪いかなぁ……」

 

 申し訳ないけど、今は急ぎでそれどころじゃ……。

 

 と思った矢先、近くの家屋が次々にぶっ壊れた。

 何かが飛んできて、家を貫通して行ったんだ。

 

 これまでの経験からすると、また彩乃さんが吹っ飛ばされて来たんじゃないかな……。

 

 うん。多分そう。

 オレの目の前にR18クラス通り越してスーパーのお肉コーナーに並んでるような感じの肉塊が転がって来たから。違うところは蠢いてるところかな……。

 

 千切れ飛んだらしいおにくが周囲から集まって来て、徐々に大きさを増していく。

 しかしそれが形になる前に何かが飛んできた。車だった。

 

 オレは目の前の肉塊を手に取って走り出した。

 遺憾なのは、もともとオレが向かってた方向からは逆走することになってしまったこと。

 

 なんでこのタイミングなんだろうなぁ……。

 

 次々と飛んでくる車。

 オレは困りながら、準備運動なしの全力疾走をキめた。

 

 しかし当然ながら、オレには高速で飛来する車を器用に避け続ける読みも技量も、足の速さもない。

 幸か不幸か車がオレにぶつかることは無かったけど、オレの進行方向に車が叩きつけられて爆発炎上し、道を塞がれてしまった。

 

「止まれ」

 

 後ろから声を掛けられる。

 肉塊はオレの手の中で徐々に大きくなっている。重さも増えて来ていて、持っているのが辛くなって来たところだ。

 荒くなった息を整えながら振り返ると、どこかで見たことがある様な感じの人が立っていた。

 

「あれ?」

 

 どこだったかな。どこかで見た様な……。

 

「あ、白夜さん?」

 

 確か、彩乃さんの家にあった写真で見た男の人だ。

 

「彩乃の仲間か」

 

 白夜さん?は納得した様子だったが、とてもじゃないけど友好的とは思えなかった。

 剣呑な雰囲気。その手に持った剣は大きく、血塗れだ。なんとなくその血は彩乃さんのものなんだろうなって感じる。

 白夜さん?は彩乃さんと思しき肉塊をじっと見つめている。

 

 なんか……彩乃さん?

 再生遅くね?

 いつももっとすぐに元に戻ってたけど、彩乃さんじゃないのかな、この肉塊。だったらあんまり持ってたくは無いんだけど……白夜さん?の感じからすると彩乃さんであってそうだしな……。

 

「淫魔に魅入られた人間といったところか。その肉を置いて消えろ。見逃してやる」

 

「あなた、白夜さんって人ですよね? 彩乃の知人の……」 

 

「忠告はしたぞ」

 

 白夜さん?は剣を構えてオレに向けた。

 そして身を屈め、今まさに突撃してきそうって感じになったとき、

 

「「待て」」

 

 と新しい声が聞こえた。声はノイズのようにくぐもっていて、二重に聞こえた。

 白夜さんの上から烏のような羽を羽ばたかせ、長いミミズのような腕を持つ、二階建ての家くらい大きさの豚のような生き物が降りて来る。グロ。

 

 豚の怪獣はなんか……オレを見ている。

 

「「あれは『天蓋』と『鱗持つ怪馬』を滅ぼした男だ」」

 

「な……っ、あれが?!」

 

 白夜さん?が豚を見上げる。

 なるほど……。またなんか始まったな……。いやぁ、今は止めて欲しいなぁ。急いでんだよなぁ。

 

「ただ人にしか見えんぞ」

 

「「言い分を認めよう。だが間違いない。この人間だ」」

 

「まさか……」

 

 白夜さん?と豚がなんか話してる。

 心当たりがあるような、そうでもないような……。

 

「何か用ですか?」

 

「「人間。その手の肉塊、置いていけ」」

 

「置いて行っていいなら置いていきますけど……」

 

 ちら、と肉塊を見る。

 

「これ、彩乃さんですよね?」

 

「「違う」」

 

「うーん。ちょっと信用できなくて……。本当にあなたたちの所有物なら申し訳ないんですけど……もし彩乃さんだとしたら、あまりいい結果にならないような気がして」

 

「「……」」

 

 豚が唸る。ブヒブヒじゃなくて、地鳴りのような唸り声だった。

 

「「……引くぞ」」

 

「なっ……!」

 

 豚が呟いて、白夜さんが驚いた様子を見せる。

 豚はすでに羽を羽ばたかせて宙に浮いていた。白夜さん?はオレと豚の間で視線を行き来させ、観念したように武器を仕舞い、ふわりと宙へと浮いた。

 

 遠くへと豚たちが消えて見えなくなった頃、徐々に人の姿を取り戻しつつある肉塊を見下ろす。

 腕が限界なので地面に置いて……オレはその傍に腰を下ろした。

 

 瑠璃ちゃんたちのところに早急に行きたいけど……今彩乃さんを放置していくの、ヤバそうなんだよなぁ。でもオレが持って歩ける重さの限界超えちゃったし……。

 

 そしてオレは思った。

 

 ―――しかしあの豚、大物感あったなぁ。

 

 初めてじゃない?

 こういう感じ。

 

 グロイなぁ。あんまり見てたくないなぁ。瑠璃ちゃんたち、大丈夫かな。どうしたもんかなぁ……。ちゃんと撤退してくれてると良いんだけどなぁ。心配だなぁ。

 

 蠢く肉塊を、オレは見守っている。

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