程なくして人の形を取り戻した肉塊が動き出した。
「助けて……貰ったわね……」
気怠そうに上体を起こして項垂れた彩乃さんはこれまで聞いたことが無いような弱気な声をしていた。
オレは彩乃さんが精神的に追い詰められていることを察するが、見た目がまだ人体模型のグロイ方みたいだったので、あくまで声での判断だったが。
「喜んで貰えたなら嬉しいよ」
徐々に彩乃さんに髪の毛が生えて来る。肌も徐々に戻ってきているようだ。
彩乃さんは膝を抱えて小さくなった。
「喜んで、か……。そうね……。喜ぶべきなのでしょうね。あなたに……会えたんだもの」
彩乃さんの声にはやはり力が無い。疲れ果てた迷子の子供のようだ。見た目まだまだらな人体模型だけど。
「その節はごめん。もしもオレに連絡を取ろうとしてくれていたなら……謝るよ。ただ君を避けていたわけじゃないんだ。ちょっとした事情があって」
「そう、なの……?」
彩乃さんがこっちに視線を向けたので、オレは頷いた。
「もしかしたら、なんだけどね。オレ、平行世界を移動してるみたいで」
「は……?」
彩乃さんが思わずと言った様子で零した一言にオレは苦笑した。
真っ当な反応だと思う。
「彩乃さんが戦ってる怪獣……妖魔だったかな? それとは違う怪異がいる世界にずっといたんだ。多分だけど」
彩乃さんが片足を伸ばし、オレの方に上体を向ける。が、その顔にはまだ皮膚が無く、表情はちょっとわからない。
「ところで……なんかすごく痛々しいけど、大丈夫なの?」
「あっ……。きゃっ!」
彩乃さんはオレから顔を背け、自分の体を抱きすくめた。
裸を見られることには何の抵抗もない彼女だけど、皮膚の下を見られるのは恥ずかしいらしい。服を貸してあげても良いんだけど、皮膚の下の肉に直接衣服が触れるのって痛そうで悩むな……。
「服、要る?」
「だ、大丈夫よ。ただちょっと……見ないで……もらえるかしら?」
恥じらいが滲んだ彩乃さんの声に頷き、オレは背を向けた。オレとしても助かる。
オレの背中に彩乃さんの声が届く。
「それで、その……。あなた、平行世界って……? わたしの連絡を拒否していたわけじゃないの……?」
そっちの方が気になるんだね。
「拒否なんてしてないよ。彩乃さんの連絡は、すぐにでも応答するつもりだった」
「そう……なの……?」
「うん」
「そう……」
彩乃さんが安心したように呟いた。
「もう、大丈夫そう?」
「え?」
「オレ、急用があってね。もう行かなきゃ」
「え……」
声から彩乃さんの心境が……絶望感が伝わって来る。
「ちょ、ちょっと待って。待って、貰えないかしら……っ?」
「待ってあげたいけど、オレも急用が……」
焦った声音の彩乃さんの心境を思うと心が痛い。が、ホントに、マジで待ってあげたいけど、ガチの急用が。
「お願い……」
泣きそうな震える声。
待ってあげたいんだけど、急用なんだよ。ホントに。
「ごめん」
「あ……やだ……」
彩乃さんが身じろぎをしたのを背中越しにだが感じる。きっと手を伸ばしているんだろう。
「……事情は聴くから、端的にお願い」
「あっ……」
背中越しにそう伝えると、彩乃さんが嬉しそうに息をのむ音が聞こえた。
彩乃さんの方もどうやら切羽詰まっているようだ。話だけは聞いて、瑠璃ちゃんたちとどっちの優先順位が高いかを判断しようと思う。判断を下したら、もう悩まない。
「白夜が……」
彩乃さんはそう言って口籠り、こう言った。
「お父さんが……妖魔に……なって」
なるほど。
白夜さんってお父さんだったんだ。
「前、白夜さんは彩乃さんが作ったって言ってなかった?」
「ええ。そうね……。お父さんの外見を模して作ったのが、白夜。そう、ね。お父さんはもう亡くなっているから……お父さんが妖魔になったというのは……違うわね。ごめんなさい……」
なんかオレが感じ悪いみたいになってて嫌なんだけど。
でも急いで事情を聞きたいんだよね。
「以前戦いの中でいなくなってしまったらしい白夜さんが彩乃さんのお父さんの似姿で、それが何故か敵になってしまって意気消沈していることは分かったよ。大切な人と見た目が同じなのは辛いよね」
「見た目だけじゃないの。見た目だけじゃ……無かったの」
「というと?」
「記憶も……同じだったわ。わたしと過ごした日々を……あの白夜も覚えてて……。小さい頃の思い出すらも……」
「そうか……。それは余計に辛いね」
彩乃さんは身内を利用されて精神攻撃を受けているらしい。なんて卑劣な……。許せない……。
しかもあの白夜さんには迷いみたいなものが無かったから、完全に洗脳されているか、記憶とか見た目が同じだけの造りものか、それとも……。オレの持つ創作知識的には、あとあと洗脳を解いて仲間になるとか……あるけど。そんな世の中甘くないだろうし。敵は敵だろうな。
「彩乃さん。彩乃さんが辛い状況なのは分かった。でもオレも今、もしかしたら命の危機にある知り合いのところにすぐに向かわなきゃいけないんだ。ごめんね」
「あ……。で、でも……わたしも……。そう、見て。わたしを……!」
「いいの? さっきは見て欲しくないって」
「いいの。見て」
振り返る。
足を延ばして座っている彩乃さんの体……皮膚の再生は半分くらいと言ったところか。
明らかに今までの彩乃さんの再生速度よりも遅い。
彩乃さんは苦し気に顔を背け、絞り出すように言った。
「わたしの再生能力は、わたしの精神に比例するの……。敵はどんどん強くなっていて……」
つまり精神的に参ってるから再生速度が遅くなっちゃってる、と。
なるほど……。
白夜さんが敵にいる以上、再生能力の活性は期待できない。そのうえで敵が強いから……さっきみたいに再生が追い付かなくて追い詰められてあいつらに次は殺されるかもしれない、ということかな。
「傍にいてくれないかしら……お願いよ……」
オレがいてなんか役に立てるのかなぁ。
状況が許すならそうしてあげたいけど、瑠璃ちゃんたちがな……。
連れて行く、あるいはついてきてもらうのは……どうだろうな。
魔獣人の件もある。オレの考えが正しくて、彩乃さんと瑠璃ちゃんたちの邂逅でまた歪みが発生して妖魔獣人とかいう化け物が生まれたら目も当てられない。
どうしたものかな。
涼音、雅さん、瑠璃ちゃん。向こうには三人いる。一人ぼっちの彩乃さんの方を優先してあげたいのは正直なところだ。
だけどなぁ。
さっきの雅さんと涼音の喧嘩、瑠璃ちゃんの状況を考えると放って置くのはちょっとリスク高いよね……。
涼音に関して言えば、正直言うと、仕方ないかなと思うところはある。オレは涼音が好きで、いなくなってほしくないけど、彼女は大人で、他人だ。オレの弟妹でも無ければ子供でもない。彼女が自分の意思で戦うことを選んだなら、オレはそれを止めることは出来ない。その結果、彼女がオレの前からいなくなったとしたら、哀しみもするし嘆きもするけど……オレはそれを受け入れる。因果応報。オレの力が及ぶ限りオレは彼女に寄り添うけど、彼女の選択、自ら進んでやったことの結果に対し、口を挟むことはできない。
オレが瑠璃ちゃんや信乃ちゃんを放って置けないのは、彼女たちがまだ無知な子供であり、理不尽に巻き込まれているからだ。
「きついことを言うようだけど……」
オレの前置きに、彩乃さんが怯えたように肩を跳ねさせる。
「彩乃さんが今どういう状況なのか、改めて端的に話して貰えるかな? 本当はゆっくり聞いてあげたいんだけど、オレにもあまり時間が無くて。オレは君の状況を全く知らない。その前提でお願い」
「え、ええ。ええ、もちろん。聞いて……貰えるのなら、すぐにでも」
彩乃さんはどこか嬉しそうにそう言って、かと思えば沈痛な面持ちで語り出した。
「わたしは妖魔とのハーフで……淫魔を母に持つ……妖魔界の奴らにとっての裏切り者。わたしが幼い頃、奴らは父を殺し……わたしの命を対価に、わたしに取引を持ち掛けてきた。人間界に侵攻するための大きな『扉』を開ける役割を担うようにって。でも、わたしは父を殺した奴らを憎んだわ。そんな取引になんて乗らなかった」
「お母さんはどうしたの?」
「知らないわ。あの女は……父を……わたしたちを見捨てたのよ」
そうなのか。
そうなのかなぁ……?
事情は分からないけど、彩乃さんも事情を把握できてないなら、お母さんはお父さんが殺されるよりも前に……ってパターンもある気がする。でもそんなヒロイックなこともリアルにそうはないか……。
「それから10年と少し……。わたしは妖魔と戦い続けたわ。父を殺した妖魔を……殺すために」
「そうか……」
復讐か……。
それとは別に、お母さんを探すためってのも理由としてはありそうだけど。
「『扉』があるからかしらね……? 妖魔の現れる頻度は少なかったけど、でも、徐々に強くなっていることは感じていたの。そしてあの日、白夜を失って……今日、わたしは負けた」
彩乃さんはまた膝を抱えて縮こまった。
「どうしたら……いいのかしら……」
おっも。
こっちはこっちで重いよぉ。
普通に恋愛相談とかそういうのしてくれ。そういうのなら喜んで相談に乗るから。失恋の痛みもなんとか元気になって貰えるように慰めるよ。恋愛経験なんてないけど。
彩乃さんは膝の間に顔を埋めたまま震える声で話し続けた。
「奴らは……わたしを殺そうとしている。でも、それは怖くないの。なんでかしらね……怖くないの。本当に。わたしは最期まで戦うわ。父の仇を討つそのときまで。でも……お父さんが……」
……。
なるほど。
お父さんと戦うことだけは出来ないってことか。
もしかしたらさっきは……戦うことも出来ずに嬲られてたのかもな……。
「分かってるのよ。お父さんはあの夜に死んだの。妖魔に……ぐちゃぐちゃにされた……ッ」
ぎり、と歯ぎしりすらも聞こえてきそうな、怒りの滲んだ言葉だった。
「あれはお父さんじゃない。お父さんの因子を使って作った……白夜の因子を使って作られた模造品でしかない。それは、分かってるのに……っ。わたしはずっと、お父さんの仇を討つために戦って来た……っ! なのに……! お父さん……っ。お父さんだけは……っ」
「お父さんのこと……大好きなんだね」
以前、彩乃さんは日常生活でも色々と苦労しているようなことを言っていた。両親を失って……たぶん、一人で生きて来たんだろう。妖力……人を操る力があるらしいから、それがかえって彼女を孤独にしているんじゃないかな。国の助けを借りるという発想も無く、養護施設とかに助けて貰うこともできず、同年代の友達とかもいなくて、彼女はきっと孤独に戦って来た。
彼女は不器用で優しくて、そして一生懸命だ。それが例え復讐という動機から生まれた行動力であっても、オレはそう思う。だってオレを助けてくれたもの。
「……っ」
オレは彩乃さんの傍に近寄り、傍にしゃがんだ。
「ね、お父さんはどんな人だったの?」
「えっ……?」
彩乃さんは涙を滲ませながら驚いた様子でオレを見た。
「彩乃さんのお父さんのこと、知りたいな」
「……」
彩乃さんは呆けたようにオレを見つめる。意図を図りかねているようだ。
ただ単に聞きたいだけだよ。君みたいな優しい子が十年もの間、その優しさを失くさずに持ち続けられた『因』となる人の、人となりを。
「優しい人だったわ……」
彩乃さんはそう言うと、過去を懐かしむように薄っすらと目じりを緩めた。
「気が弱くておどおどしていて……わたしが妖力でいたずらをしても、困ったように笑う人だった……」
「うん」
「でも……他の人間にそれを向けたとき、お父さんはとても怒ってた。それは人に石を投げることと同じだって。やっちゃいけないことだって。わたしの力は……誰かを幸せにするためのものだって怒って……泣いてたの。お父さんはわたしを……愛してくれていた」
「そうだね……。オレもそう思う。優しくて、立派な人だ。今の話を聞いただけでもそう思うよ」
「ふふ。稼ぎはなかったけれどね……」と彩乃さんは小さく微笑んだ。そして、泣きそうに顔をゆがめた。
「お父さん……」
彩乃さんの心の支えはずっとお父さんだったんだな。
それと、やっぱり
彩乃さんが戦い続けた理由はきっと、復讐のためだけじゃないんだろうなって。お父さんとのエピソードを聞いて、彩乃さんの口から真っ先に出てきたものが「人を幸せにする力」という教えだったから……オレはそう思った。それにやっぱり、オレを助けてくれたもの。
「彩乃さん。あの豚、オレを見てどこかに行ったよね? って、分かんないか」
「いえ、見ていたから分かるわ」
「あの状態で?」
「魂がそこにあったから」
「へえ、そうなんだ」
「あっさり受け入れるのね」
「まあ、そういうこともあるのかなって」
「ふふ。やっぱり、面白い人ねぇ。あなた」
彩乃さんが立ち上がった。
オレも立ち上がる。
すると彩乃さんはオレにふわりと寄りかかって来た。
柔らかく、そしてでかい。
「抱いて……くれないかしら……。すべてを忘れられる気がするの。もう一度、戦える気がするの」
抱きしめる、って意味じゃないんだろうな。
「光栄だね。君のような綺麗で、可愛らしい子に求められるのは」
そう言って彩乃さんの肩に手を置いてゆっくりと押し返す。
彩乃さんは楽しそうに笑った。
「試したの?」
「いいえ。本心からよ。でも、あなたはきっとそう言うと思ったから」
彩乃さんはゆったりと微笑んだ。とても綺麗な微笑みだった。艶やかな髪が揺れる。もう、傷はすべて治っていた。
「思い出したの。お父さんがどんな人だったか。わたしがお父さんから貰ったものが、なんだったのか」
彩乃さんは目を閉じて切なげに微笑み、自分の心臓の上にそっと掌を添えた。
「お父さんはもういない。だけれど……」
彩乃さんの切なげな微笑みは……なにか暖かいものに触れているかのように、穏やかなものへと変わって行く。
強い人だな……。
尊敬するよ、彩乃さん。
そして目を開けた彩乃さんはオレを見て驚いた様子で目を丸くし、苦笑した。
―――またね。
そんな呟きが聞こえたような気がしたが、オレの前にはもう彩乃さんはおらず、オレは夜の気配をちゃんと感じられる清閑な住宅街の裏道に佇んでいた。
なんだったんだろう。
彩乃さんとはいつもすぐに離れ離れになってしまうなぁ。
涼音と雅さんとの付き合いはめちゃくちゃ長いのに。
でも今回はパターンが違ったな。
今までの彩乃さんとの出会いは、直前までオレが居た場所と同じ景観で、少し違う雰囲気の中でのものだった。けど今回は明らかに場所が違ったんだよな。
ぶっちゃけ、瞬間移動してた。
異変抗体があるから、誰かに移動させられたわけじゃないと考えると……オレが無自覚にそっちに行ったってことになるよね。
そういうこともあるのか。まあ、雅さんのときも知らん間に変なところにいたし、そういうこともあるのか。んー、法則が分からん。
世の中には、まだまだ分からないことがたくさんあるなぁ。
まあ、いいや。
彼女の力になれたならそれでいい。そうだとしたら嬉しいなぁ。すごく大変そうだったし。
オレはとりあえず、分からないなりに、もともと向かっていた方向へと足早に向かった。
結論から言おう。
―――霊長の魔獣に、雅さんと涼音が喰われてた。
瑠璃ちゃんが泣いていた。
霊長の魔獣はニヤケ面で瑠璃ちゃんと、瑠璃ちゃんの傍に駆け寄ったオレを見下ろしている。
オレは静かに、空に浮く女を見上げた。確かに美人だし色っぽい。
「東堂さん……っ。ごめんなさい……っ」
血塗れで蹲る瑠璃ちゃんは、何度も何度も「ごめんなさい」と謝っている。泣きながら、途切れ途切れの言葉で状況をオレに伝えて来る瑠璃ちゃんが痛ましい。
どうやら……涼音も雅さんもオレの言うことを守ろうとはしていたらしい。当然、瑠璃ちゃんも。
誤算だったのは、霊長の魔獣があまりにも強かったこと。
瑠璃ちゃんはこれまで逃げられていたのではなく、逃がされていたということ。
目的は……雅さんを、最後の妖怪を引きずり出すことだってさ。
ま、瑠璃ちゃんと雅さんが言う『歪み』が世界の統合だと仮定して、瑠璃ちゃんがあの女から逃げられた数回の出会いは統合前の世界での出来事だから、どこまで本当かは分からないけど……。もしかしたら、瑠璃ちゃん以外の魔法少女を探してたのかもな。
「瑠璃ちゃん、動ける?」
瑠璃ちゃんは静かに首を振った。
もう逃げられない、か。
足が血塗れだ。どうやら銃で撃ち抜かれたらしい。
子供とは言え、さすがに瑠璃ちゃんを抱えて逃げるだけのフィジカルはオレには無い。
女は楽しそうに銃を弄んでいる。
オレは瑠璃ちゃんの傍に寄り、その体を抱きしめた。
「ごめんね。大切なときに離れてしまった」
痛いよね。辛いよね。苦しいよね。
きっと瑠璃ちゃんは自分を責めているだろう。涼音と雅さんが目の前で食われたことを、自分の責任だと感じている。小学生がそんなものを背負う必要は無いんだよ。
なんならオレが見誤った。妥協点を見つけたつもりだった。だけど、たとえもう会えなくなったとしても……涼音だけ見送って、瑠璃ちゃんと雅さんの三人で今後の対策を考えるべきだったなぁ。
もう打つ手はない。
オレは瑠璃ちゃんを庇うことしか出来ない。
オレが囮になって瑠璃ちゃんを逃がすことも出来ない。瑠璃ちゃんはもう動けないから。
せめて足がやられる前に合流で来ていたらなぁ……。瑠璃ちゃんがまだ空を飛べたとしても、この出血量じゃ、この子ももう長くは……。終わり、かな……。
「一緒にいるよ、瑠璃ちゃん。一人じゃないよ」
「東堂さんだけ、逃げて……」
瑠璃ちゃんは泣きながらそう言った。でも、その言葉には「置いて行かないで」という哀しい願いが滲んでいるのが分かった。
オレは何も言わずに微笑んで、瑠璃ちゃんの頭を撫でた。
瑠璃ちゃんはオレを見つめ、顔をくしゃくしゃにして……オレの胸に顔を埋めた。小さい体が震えている。
オレは瑠璃ちゃんを抱きしめたまま、女を見上げた。
女は楽しそうに、ムカつく表情で銃を構えた。
オレは瑠璃ちゃんの頭を優しく撫で続ける。
女が銃の引き金を引くのがゆっくりと見える。
オレは瑠璃ちゃんを安心させるべく優しく撫でながら、じっと女を見つめた。
―――そして、女が引き金を引いた。火薬が破裂する音と、『低い呻き声』。
オレはその一部始終を見届けた。
「そっか……」
魔獣人。
きっと彼らにも生きる理由がある。そういう生態だとしたら、オレはそれを悪だと断じる気もない。
女は凄く楽しそうだった。
人を見下し食い物にする下品な笑みだったけど、彼女は彼女なりに生を謳歌していたんだろう。
可哀そうに。
ただ、まあ……そうだな……。
強いて言うならば。
人の生活圏に入り、人の血の味を覚えた猛獣は排除されなければならない。それは
「オレと君とじゃ……、明らかに、生きる世界が違うみたいだ」
爆散し宙を舞う肉片が光る粒子に変わり、オレの腕の中で泣き震えている瑠璃ちゃんと……いつの間にか近くで寝転がっている涼音と雅さんの中へと沁み込んでいく。
消えていく肉片に興味を失くしたオレは、未だ震えている瑠璃ちゃんのつむじを見下ろして。慈しみの微笑みを浮かべ、ゆっくりと瑠璃ちゃんの頭を撫で続けた。
オレは思った。
―――どうしよう、これ。
実は周りには涼音と雅さんだけでなく、茶々ちゃんと葵ちゃんと神主さんと茶々ちゃんの両親と、たぶんだけど瑠璃ちゃんの両親と、タクシーの運転手さんと他知らない人達数名が転がっていた。
オレは瑠璃ちゃんの頭を撫で続けた。