明らかに周りの奴らの生きる世界が違う件   作:ポルポル

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SH分岐点④

 大丈夫、分かってる。

 

 大丈夫。私は分かってる。

 

 パニックになっちゃったんだよね。

 分かってるよ。私は、ちゃんとわかってる。

 

 目の前で美空ちゃんがあんなことになって。

 自分だって危険だった。

 

 怖かったんだよね。凄く怖かったよね。

 

 大丈夫。仕方ないよ。あんなの、誰だってそうなるよ。

 

 誰だって。

 

(私はならなかった)

 

 頭を振った。

 

 ―――律。律。

 

 自分に語り掛ける。

 

 ね、やめよう?

 

 それは、さすがにちょっと酷だよ、律。

 うん。ちょっと酷だよ。

 

 だって彼は初めてなんだよ?

 

 私はさっきまで下水道で何回も繰り返してたし、前の世界の経験だってあるんだよ?

 比べて、彼は何もかもが初めて。

 

 それはさすがに酷だよ、律。

 許してあげようよ。

 

 初めてなら、誰だって―――。

 

(東堂さんはならなかった)

 

「ああ……」

 

 聞こえてきた自分の声に、なぜだか涙が出そうになった。

 胃の不快感に歯ぎしりをする。

 

「行こう、律……」

 

 道をなぞる。

 物語をなぞる。

 

 私たち(・・・)はまた、何度も(・・・)同じ道をなぞった。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 何度も歩いて、歩きなおして。

 あの家の前に立って、息を潜めて。

 

 また彼が現れた。

 

「こっちだ」

 

 もう何度も聞いた。

 隣の一軒家から三島君の声。

 

「三島君!?」

 

 美空ちゃんの声が大きい。

 さっき言ったよね。

 何度言えば分かるんだよ。

 

 美空ちゃんは私が見ていることに気づくと、あざとい所作で口元を隠した。

 バカ野郎。

 それで気づかれたんだよ、前は……ッ!

 さっき言っただろ……!

 

 美空ちゃんが青褪めて、息を吞んだ。

 

「り、律……? ご、ごめ……。そ、そんな顔―――」

 

 一軒家の扉がゆっくりと開く。

 しー、とハンドシグナルをした三島君が現れた。

 なんだろう。無性に腹が立った。

 

 私は美空ちゃんの手を引いて三島君のところへ向かう。

 

「い、いたいよ……っ」

 

「……」

 

 うるさい。

 三島君の脇を通り過ぎ、私は扉の中に入る。

 美空ちゃんを家の中に引っ張り込むようにして手を離す。前のめりに私の前に出た美空ちゃんは、玄関の段差に躓いて、倒れ込んだ。

 

「い、いた―――っ」

 

「うるさいって言ったよね? いい加減にしてよ。何回言えば分かんの?」

 

「え、ご、ごめんね……。で、でも、律、ずっと怖い顔で黙って……」

 

「ああ?! ああ……? ああ……。あれって()だっけ……?」

 

 少し上を向いて思い出そうとしたけど、色々混ざってて、よく分かんない。

 美空ちゃんは癇に障る弱弱しい表情で私を見ていた。

 

「なに?」

 

「り、律……やっぱり……」

 

「なに?」

 

「へ、変だよ……」

 

 は? 

 

「ひ……っ」

 

「ふ、藤砂……?」

 

 三島君と美空ちゃんは引き攣った顔で私を見ている。

 なに?

 人を化け物を見るみたいに。

 

 ムカつく。

 ムカつくなぁ。

 

 誰のせいで、誰のためにこんな苦労をしてると思ってんだよ。

 

 ―――舌打ち。

 

「……さっさと扉、閉めてくれる?」

 

「え? あ、ああ。そうだな……」

 

 扉を閉めた三島君が、なよなよと座り込んだままの美空ちゃんに寄り添うと、美空ちゃんは三島君に縋りつくように身を寄せた。

 

 ―――大きくため息。

 

 美空ちゃんが肩を揺らした。

 

 なに?

 

 ―――舌打ち。

 

 美空ちゃんは瞳を泳がせていた。

 じっと見つめると、私から目を逸らし、三島君の胸に顔を埋めた。

 

 あー、はいはい。

 美空ちゃん、あざといし。

 セックスアピール強いし。

 無防備アピールしてるし。

 

 男はたまらないかもね。

 

 満更でもないんだろうね。

 三島君も。

 

「み、美空さん、無事でよかったですけど……。藤砂……? なんでここに……。これ、どういう状況……?」

 

 舌打ち。

 

 今回は私が言わなきゃいけないやつか。

 あーもう、面倒くさいな。

 

「助けに来たの。美空ちゃんは私の従姉」

 

「従姉……? 言われて見れば似てるかも……。助けにってのは……」

 

「私は前、似たような場所に閉じ込められてた。だから来た。それだけ」

 

「……マ、マジか」

 

 三島君が戸惑いながらも、目を輝かせる。

 私を希望の象徴のように見ている。だったら指示に従ってくれないかな。

 

「オレ達はどうすれば―――。いや、まずは……ありがとう、藤砂。助けに来てくれて……。この家にこもってたら安全っぽいけど、正直心細―――」

 

 その話はもう何度も聞いてるし、興味もない。

 

「この世界の中心に窪みがいくつもある石碑があって、そこに対応したアイテムを納めたら出られる。もう二つ見つけた」

 

 オモチャのイヤリングと、コンパクト。

 

「おお……?! ええ!? よくわかんねぇけど、すごいな……。本当だったら、すぐに出られるんじゃ……?!」

 

 単純バカが。

 

 この二つを見つけるまでに、私がどれだけやり直したと思ってる。同じ道を何度歩きなおしたと思ってる。簡単に言うなよ。

 

 私は一度、三人で進むことを何度目かの周回でやめた。

 美空ちゃんと二人で別ルートを進み、三島君を避け―――それでもここに戻って来た。戻って来ざるを得なかった。

 

 どの道に進んでも、手に入るアイテムの限界は二つ。

 

 それより先はどの道も、女二人の力じゃどうしようもない障害があった。

 

 私は詰んでいた。

 三島君と合流したくなくて、何度か引き延ばした。

 それでも、あまり放っておくと、三島君はいつの間にかこの家の中で死ぬ。

 

 だから、今が限界だった。

 合流を引き延ばせる、最後のタイミングが今だった。

 

 三島君の顔は、久しぶりに見る。こんな顔だったっけ?

 

 また、私の持ってる情報を伝える。

 

「やっぱそうか。そういう感じか……。でもさ、オレ、肉塊も、人型も潰したぜ?」

 

 何も知らない馬鹿。

 それ自惚れだから。

 潰したって、なに?

 ゲームかなにかだとでも思ってんの?

 

「あれ? 信じてない?」

 

 三島君が笑う。

 

「そんなでも無かったぞ。確かに見た目は怖いけど、バッドとか自転車とか、近くにあったのを武器として使って、なんとか―――」

 

「その個体が弱かっただけ」

 

 遮る。

 

「以後は私の指示に従って」

 

「え? いや、でも」

 

「黙れ。従え」

 

 この二つを集めるのにどれだけやり直したと思ってんだ。

 この周回で終われるなんて、ハナから思ってない。でも、今回は割と当たり回だ。今のタイミングでまだ美空ちゃんが生きている(・・・・・・・・・・)。せっかくだから、出来るだけ先を見ておきたい。

 

「藤砂……」

 

「……」

 

 三島君と目が合って、少しして、三島君は目を逸らした。

 

「わ、分かった。分かったよ……。分かったから、そんな睨むなよ……」

 

 変なことを言うね。

 睨んでなんていないのに。まあ、どうでもいいけど。

 

「……」

 

「……」

 

 三島君が視線を動かして微笑んだ。

 その先には美空ちゃんが居る。

 美空ちゃんが身じろぎをした。

 

「外、見て来て。さっきの化け物がいなくなったか確認してきて」

 

「え? オレ?」

 

「他にいないでしょ」

 

 三島君は顔を引き攣らせている。

 なに?

 前は止めても行ったのに。それで先行しすぎて無駄にやり直したときもあったよね?

 忘れたの?

 ああ、忘れたのか。

 

 あーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 

「えっ、ちょっと……」

 

 美空ちゃんが出しゃばって来ようとするから、視線を向けた。

 息を吞んで黙り込んだ美空ちゃんに、三島君が笑いかけた。

 

「大丈夫。ほんとにちょっと見て来るだけだから、すぐ戻る!」

 

 美空ちゃんは私を見て……立ち上がり、三島君の後を追おうとする。

 

「座ってて」

 

「え……? えっと……」

 

 美空ちゃんは立ち上がろうとする。

 

「座ってろっていってんの!」

 

「ひっ、ご、ごめんね……」

 

 酷く怯えた表情と声。

 ぎり、と奥歯を噛みしめる。

 

「あ、あのね……律。その、わたし、何かしたかな……?」

 

 したよ。

 私の指示を聞かなかった。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 止めろって言ったのにヤッタ。

 やれと言ってやらなかった。

 土壇場でいつも私の指示を無視する。

 

 黙れって言ったよね?

 叫ぶなって言ったよね?

 化け物が寄って来ても音を立てなかったら安全だって何度も何度も何度も説明したよね?

 

 何度も何度も何度も何度も何度も。

 何度も何度も、あんたを助けるためにやり直す身もになってよ。バカなの?

 ああ、バカだから繰り返すんだよね。何度も言ってるのにさ。

 

 死にたいのかな?

 

 あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 

 分かってる。

 これが初めてだってことは。あなたたちが、初めてだってことは。

 

 分かってる。

 怒る資格なんてない。

 私が悪い。

 私が悪い。

 

 ―――助けられない私が悪い。

 

 そういうことでしょ?

 

 大丈夫。私は、分かってる。

 

「べつに」

 

 そのことを、美空ちゃんは知らない。

 だって、その美空ちゃんは、もう死んでる。

 

「ただいま。さっきのやつ、いなくなってたぜ」

 

 三島君が戻って来た。

 私と美空ちゃんを見比べて困ったように眉を寄せ……美空ちゃんの傍に座る。

 美空ちゃんがすすす、と三島君の傍に寄る。

 

 なに?

 今回はあんたたちには記憶があるの?

 前より仲良さげだね。

 

「いつでも行けるけど……、どうする? いや、ちょっと休もうぜ」

 

「ダメ。行くよ」

 

「いや、ちょっと休んだ方が良いと思う」

 

「ダメ。行くよ」

 

「いや、でも……」

 

「うるさいな」

 

 三島君を睨みつける。

 

「言うこと聞けよ。お前らにこの世界の何が分かんのよ」

 

「……」

 

 三島君は信じられないものを見るかのように、私を見た。

 

「……分かった。藤砂がいいなら、良い。でも、ちょっとだけ待って―――」

 

「武器も要らない。意味ないから」

 

「いや、でも、さっき言ったろ? 武器があれば倒せる奴も」

 

「さっき言ったよね? 言わなかった? 言った? 言ったよね??? それはそいつが弱かっただけ。例外だって。耳、聞こえてる?」 

 

「……」

 

 三島君は片眉を上げ、唇を少し噛んだ。視線を上向きに泳がせて、小さく頷いている。なにかを納得しようとしている仕草。

 

「分かった」

 

 ムカついてそう。

 

 でも、どうでもいい。だって言うことを聞かないなら、彼が死ぬだけだし。

 こんな男一人、あいつらに比べたら怖くないし。

 

 まあ、死なれたら困るけど。

 

 人手が無くなる。

 

 私も詰む。

 

 食べ物が無くなって餓死する。

 

 それは辛かったから、嫌だ。

 あの化け物たちに殺して貰えるなら、その方が楽(笑)。

 殺して貰えないなら自分で死ぬしかないし。

 

 なんでかなぁ。

 なんでこいつらに私の命まで左右されないといけないのかなぁ。

 私が助けてあげてるのに。

 どうして勝手をするのかなぁ?

 どうして、私をくるしめるのかなぁ。

 

 私が嫌いなのかなぁ?

 

 私たちは家を出て小道を進んだ。

 怯える美空ちゃんは三島君と手を握り、私は二人の前を進む。

 

「藤砂、大丈夫か? そんなに先に行って」

 

「話しかけないでくれる?」

 

「……」

 

「あの、道こっちじゃ……」

 

 美空ちゃんの声が聞こえて、三島君がそれを聞いて、私に指図しようとしてきて、私が反論すると美空ちゃんがまた口を挟んできて、三島君が出しゃばって来て―――揉めてるうちに何かが来たりするから。

 

「こっち。黙ってついてきて」

 

「……」

 

 美空ちゃんが黙る。

 最初から黙ってればいい。分かってるんだから、こっちは。何回、やり直させられたと思ってんの。あんたたちのおかげで。

 

 確かに遠回り。

 

 だけど、これが最短。正確には、これが最速の最善ルート。三島君と一緒に居る時間を少なくするために、美空ちゃんが死んだルートで自殺する前に何十回も試した。

 

 無駄はない。

 

 身を屈めて植木の枝を圧し折る。

 その枝を折ると、そこだけ植木の生え方が歪で、人が通れる隙間がある。

 公園に入る。

 林を抜ける。

 

 防災倉庫の中に安っぽいブレスレットがある。それを回収するには、倉庫の鍵が必要。

 

 倉庫の鍵は三島君が持っている。私たちと合流する前の逃走中に、三島君はこの鍵を手に入れている。

 だからこのブレスレットを手に入れるには、三島君が生きていないといけない。壊すこともできるけど、大きな音を立てると寄って来るから。

 

 最初の方の周回では、美空ちゃんが死んだあと、三島君と二人で行動してこのブレスレットを回収した。

 だから別の周回で三島君があの家で死んでいたとき。ブレスレットの回収のために死体を漁ってみた。

 

 けれど――鍵はなかった。

 

 今回はスムーズだ。

 

 ブレスレットも、問題なく回収できた。

 

 三人いる。

 アイテムも三つ。

 

 無駄がない。

 誰も死んでいない。

 

 次。

 以前に2度、私と三島君が不覚にも釣られて(・・・・)死んだ場所。

 

 防災倉庫中のスコップを手に取る。

 

「この先の十字路を右。泣いている子供がいる」

 

「子供……?」

 

 スコップを三島君に差し出す。

 

「罠だから」

 

「え?」

 

 三島君の手に移ったスコップを指差す。

 

「頭潰して」

 

「え?」

 

 三島君が目を丸くして、スコップと私を見比べる。

 

「お、おれが……? ていうか罠って……?」

 

 私は防災倉庫の奥から折りたたまれたパイプ椅子2つと脚立1つを運び出した。

 

「これ持って」

 

 パイプ椅子2つを美空ちゃんに持たせ、私が脚立を持つ。

 

「行くよ」

 

「お、おい、藤砂!?」

 

「うるさい」

 

 立ち止まって振り返る。

 三島君は着いてきてたけど、美空ちゃんが動いていない。

 

「遅い」

 

「え、あ……」

 

 パイプ椅子を持って動き出した美空ちゃんを確認して歩き出す。

 

「止まって。そこの茂みに隠れて目を閉じて下を向く。良いと言うまで待つ」

 

「待つ? なにを?」

 

「黙れ」

 

 三島君を黙らせ、三人で茂みに隠れる。

 程なくして、ずりずりと何かを引きずるような音。

 

「絶対に何も言うな」

 

 何かを引きずる音と共に、見上げるほどの大きさの異形が通り過ぎていく。

 皮膚を剥がれた牛のような化け物。黒ずんだ汚い液体を垂れ流しながら進んでいく。

 少しして、地響きをあげながら速度をあげて遠ざかっていく。

 

「行くよ」

 

「い、行くって……今のは大丈夫なのか……?」

 

「バカなの? 大丈夫だから行くって言ってるんだよ」

 

 私は立ち上がって歩き出す。

 

「そのスマホって……」

 

「……」

 

「やっぱりそうなんだ……」

 

 などと後ろから聞こえて来る。

 舌打ち。

 美空ちゃんのスマホ一つ。

 安いもんだ。

 全滅を避けられるんだから。

 

 あれは放って置くとずっとここから動かない。いずれ美空ちゃんがパニックになって死ぬ。だから美空ちゃんのスマホを使う。

 当たり前だろ。

 

 そして、十字路の右。

 いた。背中を向けて蹲っている子供。よくあるやつだ。あんなのに引っかかって、笑ってしまう。後ろから一息に後頭部を叩き割れば問題ない。

 私の力じゃダメだったけど、三島君の力なら一発で出来る。前のときはそれで大丈夫だった。

 

 だから、ここも問題ない。

 

 むしろ、次の方が厄介。

 だからパイプ椅子と脚立を持って来た。

 この二つしかないパイプ椅子でアレ(・・)から体を守って、逃げた先の突き当りで脚立を使って壁を越えて―――。

 

「は?」

 

「なあ、やっぱり……」

 

 三島。

 

 おい、三島。

 

 なにをやってんだ。

 

 なんでこっちを向いてるんだよ。

 

 頭を潰せって言っただろ。

 

「なにやってんだ! 早く!」

 

「だってあの子……泣いて……」

 

「だから!! それが罠だって―――ッ!!」

 

 なんで。

 

 なんで?

 

 確かにこいつは、私の言うことを聞かないことの方が多い。

 

 そのせいで何度やり直したかも覚えてない。でも、「あの子供の頭を潰す」という指示に逆らったことは、過去に一度もない。

 

 なのに。

 

 なのになんで?

 

 なんでこのタイミングで……。

 

「だ、大丈夫……? 君……」

 

 美空ちゃんが動き出した。

 子供の方に向かっている。

 

 美空ちゃん……。

 

「あーあ……」

 

 美空ちゃんの上半身が―――。

 

「わあああああああああああああああああああああ!!」

 

 三島君が騒ぎ出す。

 

 ごろ、と下半身が倒れる。

 少年の形をした化物は、その上半身を食虫植物のように上下左右へ開いた。赤い液体を滴らせた鋭利なナイフのような歯が並んでいる。

 

 そして、劈くような絶叫。

 

 三島君の上半身が、涙と鼻水を垂れ流しながら私の足元に転がった。

 

「あ……ああああ……あ……。いたい……たすけ……ああ……」

 

「……」

 

 縋るように手を伸ばす三島君を見下ろして、私は―――笑った。

 

「だから言ったのに」

 

 ―――暗転。

 

「あは」

 

 水滴の音。

 

「あはは」

 

 反響。

 

「あははははははは!!」

 

 大反響。

 暗い、水路。最初の場所。

 

「だから言ったのに! 私の言うことを聞かないから!」

 

 お腹を押さえてのたうち回る。お腹が痛い。

 

「ほら! ほらね!? 私の言うことを聞かない人は死ぬんだよ! 私が正しいんだ! 私は正しいんだ! 私の言うことを聞かない奴が死ぬ! ホントバカ! 言うことを聞け! 聞けよ!! 従えばいいんだよおおおお!! 何回目だよ!! もおおおおおおお!!」

 

 ぴちゃ、という水音。

 

 暗転。

 

「―――あれ??」

 

 暗闇の中、立ち上がる。

 

「どうするんだっけ、この水路……」

 

 えへへへ。

 

 ―――東堂さんは、まだ来ない。

 




2人は「律の言うことを聞かなかったから死んだ」わけではなく「律の言うことを聞けない状態の二人が、優しさゆえに罠に近づいて死んだ」というだけ。
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