蛇の乙女の憧憬   作:八千草

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今の時代は巨人が支配する世界
この時代の太陽の名は「ナウイ・オセロトル」
そしてこの時代を担い主宰する神こそテスカトリポカ
彼は今日も天の頂にて有数の敵となり翻弄する

若々しいトウモロコシの女神 シロネン
彼女の仕事場はテスカトリポカの領域である戦士の楽園「ミクトランパ」
その楽園にある広大な敷地を誇る畑で戦士たちを活気づける食物
テスカトリポカが発明した「神の肉」
神の肉たるトウモロコシを育てるのが彼女の仕事


豊穣の女神 シロネンの役割である

しかし再生と滅亡の輪廻を重要視する中南米神性において
豊穣の女神は異例の存在だった
ケツァルコアトルやショチケツァルも農耕の神性を持つが
この二人の神性はあくまでも「豊饒」
土地があることで植物の成長を特化でき
自らが育てる必要はなく植物を成長させるという過程を飛ばすことが可能

一方シロネンが持つ「豊穣」は
自分で初めから、自ら植物を育てる必要があった
自分の手で育てて初めて植物の成長を特化できたのである

シロネンは破壊と再生をもって豊かな土地を作れる「豊饒」ではなく
穀物が豊かに実るが最初から自分が成長させる必要がある「豊穣」

犠牲なく破壊なく繁栄だけをもたらす

異質異例の女神



それが「豊穣」の女神 シロネンと呼ばれる神性存在だった


第一暦 シパクトリ

青く青く雲ひとつさえない

時代は第一の太陽「ナウイ・オセロトル」

場は戦士たちの休息場 テスカトリポカの領域「ミクトランパ」

 

その領域の一角に戦士たちの糧となり血肉となる神の食糧 トウモロコシ

太陽の恵みをうけどこまでも広がるトウモロコシ畑

発明者たるテスカトリポカの概念を映し出したかのように色とりどりなトウモロコシがここにある

ここにあるトウモロコシは全て領域の主であるテスカトリポカの管理に置かれている

勝者も敗者にも戦士であるならば分け隔てなく公平に与えられる神の食糧

何かあっては一大事なのである一粒も取りこぼせない

 

その畑を管理しトウモロコシを育てるのが女神シロネンの役割

豊穣の女神としての仕事

大事な大事な大仕事です

 

そんな大事な大事なトウモロコシが一本 私の右手に握られています

そして目の前には顔を青くしながら頭を下げる名もなき乙女たち

乙女たちは私が管理を任されているこの場所において

身の回りの世話や仕事を手伝ってくれる名もなき神性存在達

簡潔に言うと私の眷属に当たる者たち

その彼女たちが顔を青くしている理由が

私の右手に握られているトウモロコシが関連しているのです

 

ことは数分前新たな神の食糧を育てるために畑にトウモロコシの(たね)を植えている最中

一匹の黑い蛇が眷属の一人に牙をむいてきました

それに驚いた眷属がトウモロコシの(たね)を落とし、踏みつぶしてしまった

そこまでは良かった ただそこからが大問題

 

踏みつぶしてしまったトウモロコシの(たね)を食べようとした

不慮の事故とはいえ 神の肉を踏みつぶしたと罪の重さと恐怖から

一大事の隠蔽を図ろうとしたと眷属は泣き叫んだ

 

私も一緒に泣き叫びたい

 

と思考を現実逃避をするのはまだ早い

事態を好転するのは遅すぎるが事態をどう収束するかは

遅すぎるというわけではない

考えろ考えろ考えるんだいつだって考えることだけはしてきた

戦いも暴力も手に取ったことのない私だけど

いつだって考えることだけはやめなかった

なんだって考えることは止められなかった

今の状況を打破する何かを!!!!思いつきたい!!

 

 

正直に言うと隠ぺいを図ろうとした時点で我々は滅亡の危機にある

 

王に不正を働こうとした

 

命を懸けて告白しても命をもって裁かれるだろう

 

 

思い浮かぶはテスカトリポカ神が黒の側面で怒り散らす(マジギレ・テスカトリポカ)姿

そうなれば我々は死ぬ

てかもう死んでるかもしれない

 

 

まずい まずい まずい 本当に終わる!!!

明日などなく終わってしまう

死など感じ入る間もなく終わってしまう

私が我らが終われば戦士たちの休息を邪魔することになる

そうなればテスカトリポカが本来すべきことである

戦士たちに与えられる公平さが行われない

誰にも味方せず誰にもいきわたるはずである神の食糧が分配されない

いけないいけない!!そんなことはあってはいけない

戦いの神テスカトリポカの領域の一角を任されている神にあるまじき事態

まずいまずいなんとかしなければ考えなければ

考えても考えても最悪の事態しか思い浮かばない!!!

両手でトウモロコシを握りながら右から左へ左右に振る

 

突然の主のあんまりな奇行変動に

泣いていた眷属もうつむいていた眷属も慌てて私を止めようとする

止めないでくれ!辞めさせないでくれ!!神の食糧にも縋りたい気持ちなんだ!

文字通り神頼みだ!!名案でろ名案でろ!!後がないので名案ください

自分で思考を止めると後で手に負えない事態になることはあるが

今は本当に後がないんです!!

集中するほどに周りが見えなくなる私

そんなんだから気づかなかった

 

部屋に誰が入ってきたかは気づかなかった

足音も気配もよく知っていたのに

第一声が発するまで気づかなかった

 

 

 

 

「何をしているんだシロネン」

 

 

唇から発せられた音、音の一音一音の動作と重さ聞き間違えようのない声

意識を覚醒させるには十分に足りる音

即座に音の発する方に意識を視線を目を思考を口を向ける

何かきこうと何か言おうと

その御方の姿を確認した

 

指がよく通る黄金の長髪、しなやかさと一切の不合理さがない戦士の肉体

全てを見透かし、映し出さず煙に巻かれる鏡のような薄灰色の瞳

高く、近く、どちらにもいない中立存在

数多くの名を持つ我らの命をいかすもの(イパルネモニア)

 

 

「いやまて本当に何をしているんだお前は」

 

 

籠があったら今すぐに入りたい

このような奇行変動を見られるなど

このような失態など一番見られたくない相手

今一番遭いたくない神物(じんぶつ)

私が最も焦がれ、憧れる神物(じんぶつ)

 

領域の主 テスカトリポカ その(ひと)が私を見下ろしていた

 

 

 

 

 

 





何も困らなかったんです 息をするだけなら 本当になにも。
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