寝台から失礼します
おはようございますシロネンです
テスカトリポカ神の宮殿から逃げ出した私は
ショチピリとマクイルショチトルと一緒に暮らしています
正直ケツァルコアトル神が来なければ
テスカトリポカ神がいる宮殿から逃げ出すことも
抜け出すことも出来なかったでしょう
正直見つかってしまえばそこで御終いの恐ろしい行動です
あの奇跡のような条件でなければいけなかった
そうでなければショチピリも私も命はなかったでしょう
寝台から身を起こし上半身裸の身体にマントを巻き付ける
えっ?シロネン女神なのに上半身裸?半裸?
着てた服はワンピース丈の貫頭衣じゃなかった?
上半身裸でも大丈夫ですよ
だって今の私は女神シロネンではなく男神
トウモロコシの神「センテオトル」が私の
今の私の身体は女型機体ではなく男型機体ですので
ではシロネン改めてセンテオトル
私はセンテオトルです。
今の私はテスカトリポカの配偶神でもなく
「豊饒の女神」でもなく
ケツァルコアトルの化身にして
トウモロコシの男神 センテオトルと名乗っています
まぁシロネンが死んだというよりは
ケツァルコアトルの権能の一部を譲り受けたシロネンは
私の原型である白いテスカトリポカの化身である
男神の形に女神シロネンが変形したのです
女神シロネンはあくまでも焼け残った
化身の痕、痕跡、焦げのような存在だった
だけどケツァルコアトルの
元の白いテスカトリポカの化身としての機構、機能が原型に近くなった
とはいえトウモロコシをもっと食べれば元の原型に戻れるというわけではない
アステカ神話では破壊の後に再生あれど逆行はない
一度破壊されたものは元の形には戻らず、新しい形をとって繁栄する
今の私は原型ではなく新しいケツァルコアトルの化身として構成されている
だがシロネンであった頃よりは非力ではなく神としての権能も増えた
何より今の身体は少年の身体で構成されており
シロネンであった頃よりも機構の強さと機能の強さが段違い。
今なら片手で木を握りつぶし、宝石に変えられる
木を宝石に変えれる程の握力を出せる
テスカトリポカ神の所に居れば決して手に入らなかった
テスカトリポカ神の妻 シロネンのままでは絶対に出来なかった
私に出来ることが増えたのが嬉しくて
中南米神話世界の神なら誰でも持つ
仲間外れでも異例でもない普通の権能に舞い上がりました
誰の目も気にならない、誰の気持ちも気にならない
きっと誰も気には留めてもいないだろうけど
それでも私は嬉しくて楽しくて
いくつもいくつも宝石を作ってしまいました
だがこの機能も機構も決して正常ではない、私個人の機能や機構ではない。
これはあくまでもケツァルコアトルの権能と機構を一部譲られただけ
ケツァルコアトル本人は自身の削ったというのに、全く最高神として異常を来しておらず
今日も今日とて第二の太陽の座についている
かつてテスカトリポカが務めていた太陽の座に、何食わぬ顔で平然として主宰を務めている
今までと比べ物にならないぐらいの
機能を手に入れることが出来たけれど
テスカトリポカ神から一人で身を守れるかと問われば、私は絶対に守れない
むしろセンテオトルに成りたての私では、すぐにセンテオトルとしての肉を剥がされ
中身のシロネンを引きずりだされるだろう
それだけは嫌だ折角テスカトリポカに近くなれる力を手に入れたのに
また何もない焼け跡だけのシロネンになってしまう
例えテスカトリポカ神にもう一度焼き尽くされようとも
抵抗も反抗も出来ない無力のシロネンは嫌だ
そういえば私が今テスカトリポカ神から身を隠している場所
現在センテオトルが身を寄せている場所を言っていませんでしたね
私がいるこの場所はケツァルコアトルの領域
その領域の一角にあるマクイルショチトルとショチピリが
共同で暮らす宮殿で暮らしています
テスカトリポカ神の宮殿までとは行きませんが
広大な敷地を誇る宮殿です。それもその筈
この宮殿はケツァルコアトルの宮殿なのです
なぜこの二人を住まわせているかわかりませんが
この二人と私とケツァルコアトルと暮らしています。
といってもケツァルコアトルは仕事が忙しく、太陽の座から遠い
この宮殿には中々帰ってくることは出来ないので
実質
センテオトルの役割はトウモロコシを育てること
根本はシロネンの時とあまり変わりありません
でも今は花も育てているんです
花の育て方を教えてくれたのはショチピリで
私が育てた花を買ってくれるのはマクイルショチトルです
売った花で新しい種や服や靴・・・偶に果物などを買っています
二人は欲しいものにしては気にするなと言ってくれましたが
私は二人に何も返せないので商売をしたいと無理を言いました
二人は納得しない表情をしていましたが何とか了承してくれました
ただし商売することに関して約束を二つかわしました
ひとつ 育てた花は必ずマクイルショチトルかショチピリに渡すこと
ふたつ 決して二人を通さずに誰かに育てたものを渡さない事
なんでも育てた花はシロネンとしての名残が残っているそうで
誰彼構わず花を渡してしまえばテスカトリポカ神が気づいて
ケツァルコアトルの宮殿に来訪しセンテオトルに成る経緯に
関わった神全てを引き裂きかねないと
特にセンテオトルに関しては自身の配偶神にも関わらず
男神と逃げ出しあろうことか敵対する最高神の化身に成長している
という言い逃れも弁明も何も言えない最悪の自業自得
先ず間違いなくテスカトリポカは何を言っても
何も聞かずに何もかもを辞めてはくれなだろうーーー。
わかっていたが私がしたことも
テスカトリポカ神が起こすであろう所業も
私の自業自得にも程がある
この一件に関してはテスカトリポカ神に
何をされようともどんなことでも受け入れるしかないが
アトラトナンが八つ当たりなどされていないか
何かひどい暴力を受けていないか
アトラトナンの安否が気になったので
マクイルショチトルに聞いたところ
「あれから何回かテスカトリポカ神の宮殿に行っているけど
アトラトナンの姿は見ていない、恐らく後宮から出されていない」
購入する品々の中には明らかにアトラトナンが好む品々があるが
テスカトリポカ神が全て選ぶだけで本人の姿形も存在もわからない
おそらくシロネンがいなくなったことで後宮から出さなくなった
後宮に監禁しているのかもしれないと
テスカトリポカがしても可笑しくない考えを口にした
後宮から出されていないなら
きっと宮殿の方にも出ていないのか
アトラトナン 大地と海の女神
彼女は広い広い水域が好きで
宮殿にいたころはよく二人で宮殿内にある小さな湖で
小舟に乗り、ただ水の上で水が流れる様を見ていたな
水が広くどこまでも流れていくのが好きな彼女
その彼女が水槽のような宮殿に閉じ込められているとしたら
会いに行きたい
会って無事を確認したい
でも会いに行けない
会いに行ってはいけない
会いに行ったらまた会いたくなってしまう
会いに行ったら何も無くなってしまう
何もかも無くなって何もないシロネンに
特になんて事のない通常の権能
シロネンだけの異例の権能
でもアトラトナンはシロネンの名前をずっと呼んでくれた
何かが満たされた気がしたけれど結局何もわからなかった
それを知るためにも理解するためにも今はまだ
センテオトルでいたいそれ以上にも成りたい
私が何の不安も不満もなく何もかもを受け入れる為に
私は私以上にあらゆる分野に精通する全能になりたい
とまぁ色々な思案と不安を考えながら歩いていると
自分が手入れをしている花畑が目に入った
ケツァルコアトルの方針で「自然はそのままが一番いい」
咲くも咲かぬも花次第だそうで庭園ではなく
適度に手入れをしながら放置するという状態だ
花畑は一面青青青 蒼空色の絨毯
この花畑の花すべてはマクイルショチトルからの
依頼を受けて育てたもので何でもある夫婦神に
その夫婦神の名前はまだ聞いてはいない
二人いわくついてからのお楽しみらしい
花を渡しに行く時に私も一緒に連れて行ってもらえるようで
花の生産者の顔見せと今後の商売や独立のための知り合い作りの為
そこまで考えていてくれたマクイルショチトルとショチピリには
一生の恩義と感謝しかない、それを少しでも返せるように
いつもよりも念入りに花の品質と色を調べる
何でもこの花を渡す夫婦神は誰でも知っている有名な二人
仲睦まじい仲の良い夫婦神一体誰なんだろうか
「シロネーン…じゃなかったセンテオトル!」
「なんですかマクイルショチトルどうしたんですか?
花の納品までまだ期間がある筈ですがもしかして早まりました?」
「いいや期間事態はまだ余裕はあるんだけど
今花畑に入っても大丈夫か?」
「はい大丈夫ですよ花もほとんど咲いているので
あとは採取するだけです、でも花は踏まないように
小道の上を歩いてきてくださいね」
「良かったじゃあ少し花畑で待っていてくれ」
「はい?」
花の品質を確認する為にショチピリでも呼んでくるでしょうか
それにしてはマクイルショチトルは慌てた様子で花畑から姿を消しました
一体何が起きているんでしょうか?もしや
ケツァルコアトル神が久々にご帰還なされたのか
マクイルショチトルが向かった方向に耳を澄ませる
「お二方こちらが依頼された花畑になります」
「なんて綺麗な花畑…まるで青空が花に落ちたかのようね」
「この蒼空色の花畑全てが依頼していた花になるのかな?」
マクイルショチトルの他に声が聞こえてくる
誰か他の神を案内してきたのかな
声からして男神と女神かな?もしや依頼してきた夫婦神では
ケツァルコアトル神ではないとは言え礼を尽くさなければいけない
初めての仕事の依頼人との顔合わせかもしれないと
機構の鼓動が太鼓を素早く叩いたかのような幻聴が聞こえる
そんな逸る鼓動を抑えながらー「初めましてセンテオトルです」-
と挨拶を交わそうとマクイルショチトル達が
立っている方に身体を向けた
見知らぬ男神と見知らぬ女神
そこにいたのは美だった
美しさという言葉の意味を知らなかったと
思い知らされるほどの美貌の女神
美しい女神と仲睦まじい夫婦という
言葉から連想される神々はたったの二人
この状況の意味に私の機構は一時停止した
動揺と混乱のあまり失礼とわかっていながらも
予想外の
目を開き大きく口を開け大きな声で叫ぶ
「トラロック神に女神ショチケツァルっ!!?」
なぜここにテスカトリポカ神!ケツァルコアトル神!と同じ
中南米神性存在最高神の一柱!雨の神トラロックがここに!?
花と喜びを司る女神であり工芸の守護神であり
トラロック神の妻である女神ショチケツァルがここに!?
何も聞いてないからどう対応すればいいかわからないぞ!!
見本を求めマクイルショチトルに
ん?私がうろたえていることに対して何か不思議そうな顔をしているな
いやでも私は何も聞いていないんだが
聞いても「お楽しみ~」とはぐらかされたんだが
「・・・・・あれ?依頼人のこと話してなかったっけ?」
マクイルショチトルが頭をかしげる
その言葉で私は気づいたそうか
私がショチピリから聞いてると思ったのか!!
多分ショチピリの方もマクイルショチトルから
聞いていると思ったのか何というすれ違い!!
そして私の確認不足!!経験不足!!
あらかじめ防げたかも知れないという失態に
考えつき想定も対応も何も全くわからないまま
初めて依頼人から仕事の成果をじっくりと見学されることになりました
どうしよう…塞がれた胸の傷が酷く痛み始めた気がした
機能なしか腹部まで締め付けられるように痛んできた