「さて、どんなモンかね世界」
凪誠士郎の声が、狭い廊下内で響く。
彼は今、二次
その後ろからは馬狼照英、千切豹馬、剣城斬鉄、清羅刃と、錚々たる顔ぶれが連なる。
馬狼が言った。
「フン、
潔・凛たち二次
曰く、『1stチームは完封されて負けた』と。
それを聞いて俄然ヤル気に満ちている凪と馬狼だが、反対に千切などは不安が勝るようだ。
「完封されたっつっても、1点もぎ取ってんだろ?あのメンツ相手にそれだけでもスゲーって」
「あ?ビビってんのかお嬢?俺が居ればもっと点入るっつーの」
「いや、俺が5点入れて勝つ」
凪・馬狼でメンチを切り合う中、斬鉄が清羅に話しかける。
「とうとう俺もワールドクラスか。世界に選抜されるって、中々気分がいいモノだな」
「……(首を横に振る)」
「え?俺らが世界に選抜されて戦うんじゃなくて、世界から選抜されてきたヤツらと戦う?……いや分かってたけどね。そういうパターンも想定してだな……」
相変わらずの早とちりを、無口で修正する。
このメンツが2ndクリアチーム。超攻撃特化のエゴイストたち──“
そんな彼らがいよいよ、世界が待つフィールドへの扉をくぐった。
彼らを迎えたのは、低音の残念そうな声だった。
『やっぱヒョロいな。こんなんもう賭けになんねーからヤメだ、ヤメ』
『そうだな。ま、お前のシケた1万ドルなんざ元からどーでもいい。つーか、マジでモヤシみてぇなヤツが居るな』
凪たちを見て英語で軽口を叩くのは“重戦車”ダダ・ジウバ、“ゲットゴールジャンキー”アダム・ブレイクの雄々しい二人。
彼らは特に凪を見て、もはや心配するレベルで日本人の体格の細さを嘆いた。
『んー、でもルックスは中々だね。オイラには負けるけど』
“そばかすベイビー”パブロ・カバソスが、庇うように見せかけて自分を立たせる。相変わらずマイペースな世界組だ。
視線を感じた凪が呟く。
「なんか、俺のこと言われてる?」
「ナメられてんだろ。テメェがボーッとしてるからよ」
「英語だから何言ってっか分かんねぇな。ま、ナメられてる感はありありと伝わってくるけど」
馬狼がフンと鼻を鳴らし、千切も気合いを入れ直す。斬鉄もメガネの位置を正し、清羅は靴紐を確認して臨戦態勢だ。
そんな挑戦者たちの雰囲気を感じ取り、“レ・アールの貴公子”レオナルド・ルナがニコニコと頷いた。
『うんうん、みんな良い眼をしてる。勝てる要素ゼロなのに、やる気だけはあっていいね!』
彼はメチャクチャ良い笑顔を浮かべているのだが、ピリッ、と凪たちの雰囲気が一段と引き締まった。何と言っているかは分からないが、何かを言われた事は伝わったのだ。
そんな張り詰めた空気の中、“神童”ジュリアン・ロキがため息をついて音頭をとった。
『ルナさん、また……。まぁ気を取り直して、早速始めましょうか。皆さんも待ちきれないみたいですし』
「バチ、殺す」
「ああ。トップスターだろうが、俺の足でブチ抜いてやる」
「なんかバカにされた気がした。許せん」
「……」
「とりま、早く潔に追いつきたいし……ブッ倒そうか、世界」
──“
ボールは先行、凪たちから蹴り出された。
フォーメーションは清羅をアンカーに、扇状に残り四人が突出したエゴ全開の
左右のサイドから千切と斬鉄の最速コンビが切り込み、中央で馬狼と凪のペアが
そして開幕、清羅刃から前線へパスが出された。
「俺が先陣を切る」
パスを受けたのは、剣城斬鉄。彼はトラップすると同時、右サイドを爆走した。
『お、けっこう速ぇじゃん』
「ぬ!?」
そこに立ちはだかる、圧倒的な無頼漢。ダダ・シウバ。
一瞬気圧された斬鉄だったが、直ぐに眼に熱を灯し、進化したフェイントを織り交ぜて抜き去ろうとする。
『はいよ、コッチな』
「なに!?」
……が、その重厚な肉体からは想像もつかない俊敏な動きで先回られ、フェイントで止まった瞬間のボールを取られてしまう。斬鉄は愕然とし、凪たちも驚きに目を剥く。
そのままカバソス→ロキからの再びのジウバへ流れるようなパスが繋がり、ゴールが叩き込まれた。
『シャッハァ!』
【
瞬きの間のゴールシーンに、凪たちが戦慄する。
「マジか。斬鉄のフェイントが一発で読まれた……?」
「何やってやがるバカメガネ!取られるにしてもアッサリ過ぎんだろ!」
「ぬ……スマン。しかし、何が起こったのかマジで分からんかったのだが……」
斬鉄に慢心はなかった。だが彼の全力全開のプレーは、それを遥かに上回る技量と経験で塗り潰されたのだ。
千切が呟く。
「これが世界のトップレベル……っ。潔たち、こんなヤツらから1点取ったのか」
その言葉に、馬狼がピクリと反応した。
「あ?マジでビビってんなお嬢。俺らが潔以下って言いてぇのか?」
ピキる馬狼が全身から熱を発する。「ボール俺に寄越せ!」と威勢を放ち、試合は再開した。
──RESTART!!
ボールを受けて猪突猛進する馬狼照英。
それに相対するはイングランド代表、アダム・ブレイク。
『良い眼をしてるな、小僧』
「うるせぇ!どけ!」
直進、からの
『だが、青すぎる。もっと女のように熟れろ』
ドガン!と肩がぶつかり合い、馬狼が一方的に体勢を崩した。
「なっ!?」
(コイツッ、あのネガ野郎よりパワーが!?)
反射体幹、パワー、技術、すべてが格上。
馬狼が立ち上がった時には、パスを繋ぎ終えてフィニッシュに入るゴールジャンキーの後ろ姿が。
『ムサいだけの男にゃ見る価値もねぇぜ』
【BL:0-2:WF】GOAL!!
「クソっ、何だアイツの身体は!?本当に同じ人間かよ!?」
「斬鉄も馬狼も、まるで分かってたみたいに止められたな。世界相手に技術で戦うのは、分が悪いみてぇだ」
戦慄する馬狼の横で、千切が眼に熱を灯す。
「次、俺に寄越せよ。風穴一発ブチ開ける」
己の俊足ならば、例え分かっていても止められない。仲間の武器が通用しない今、これが最も合理的なギャンブルと言えた。
──RESTART!!
「行っくぜ世界」
ギュン!と加速する千切豹馬の足。
視界の隅には“神童”ジュリアン・ロキが映るが、その姿は後方へと流れていく。
そして千切にしか届かぬ完璧な弾道のパスが出され──……
『良い足ですね。ですが……』
「は?」
ゴゥ!と風が吹き荒れ、置き去りにしたハズのロキが現れた。いつの間にか隣に……いや、すでに前を走り、一撃必殺のパスを強奪する。
『僕はもっと速い』
反転、と同時にその姿が消えた。
文字通り目にも止まらぬ速さ。まさに神速。
ロキはそのまま独走し、走るエネルギーそのままにシュートを放った。
【BL:0-3:WF】GOAL!!
「マジか。お嬢が速さで負けた……?」
「あのロキって奴、俺の完全上位互換かよッ!?ヤバ過ぎんだろ世界……ッ!」
項垂れる千切に、馬狼が「まだだ、まだ試合は終わってねぇぞクソが!」と荒ぶる。
だがそんな彼らを嘲笑うかのように、次のボールは清羅のパスすらカットされ、カバソスのテクニカルなシュートが叩き込まれた。
【BL:0-4:WF】GOAL!!
「……もうアイツらリーチか。ヤッバイね、何も出来てない」
凪のボヤきに、しかし反応を返すチームメイトは居なかった。
清羅は無口のまま佇み、斬鉄は口をつぐんで、馬狼は悔しさに歯を軋ませ、千切に至ってはダンマリで俯いている。
そんなチームBLに、WFの声が響いた。
『あーん?少し大人げなかったか?』
『しょうがねぇだろ。1stチームのヤツらが割とフットボール出来てたから、最初からチョイやる気出して来たんだろが』
『まぁそれぞれの能力を確かめるために、ある程度は自由にさせてたけどね。こんなモノかな』
遥か高みからの見物。
彼らにとってこれは勝負ではなく、文字通り『お試し合い』の試合なのだ。
凪たち“
「凄いね。あの凛よりもまだ上が居るんだ。サッカーって本当に面白い」
トン、とボールがセンターマークに置かれる。
圧倒的な実力差を見せ、試合の終わりが見えてきた現在。
いささか気の抜けてきたトッププレイヤーたちは、この男の雰囲気に違和感を感じた。
サッカーど素人の天才、凪誠志郎という男に。
『なんだ、モヤシ小僧。まだ元気があったか』
『生意気な目ェしてるぜ。負けてるヤツの感じじゃねぇな』
『そういや、まだコイツのプレー見てないね』
口々に言われるが、生憎と凪は英語のリスニングは得意ではない。授業ではただの睡眠導入剤だった。
それでも雰囲気を感じ取ったのか、凪は頷いた。
「けど、このままじゃ面白くない。次は点取るよ」
これだけ差を見せつけられて、なおこの発言。驚いたのは、敵よりチームメイトの方だった。
千切が詰め寄る。
「な、凪!?正気かよ……、アイツらからどーやって点取る気だ……!」
「え?フツーに正気だけど?というか、潔たちコイツらから1点取ってんだし、俺らも出来んでしょ」
あっけらかんに言う凪に、千切は絶句した。だがその背後から、異様な熱気が漂ってくる。
怒れる馬狼だ。
「珍しく意見が合うな、クサオ。あのヘタクソに出来て、俺に出来ねぇ道理がねぇぜ……!」
「ああ、意気投合してる場合じゃないな。意気消沈して行くぞ!」
「……(首を横に振る)」
「だからそれ逆だって、バカ斬鉄。……つーワケで、なんかアイディアない?」
「大見得切っといてソコは他人任せなのかよ!?……分かったよ、一矢報いてやる!」
先程までの沈黙は嘘だったかのように、やにわに話し込むチームBL。
その光景を、チームWFは微笑ましそうに見ていた。
『良いね、
『ですね。磨けば光る逸材ばかりです。最後にもう少し、彼らのプレーを見てみましょうか』
貴公子と神童の言葉に、『しゃーねぇな』と凪たちの作戦会議を待つ大人たち。
そして五分後。
ザン!とセンターラインに居並ぶ凪たち。
その眼には若干の緊張を滲ませながらも、全員が闘志とも言える覇気を纏っていた。
「待たせたね。行くよ世界」
──KICK OFF!!
遂にボールが動き出した。
そして同時に走り出す、三人の影。
爆発的初速の斬鉄・最高速度の千切・突進力の馬狼。
常に走り回ってパスを待つ彼らと、その中心で凪と清羅がワンツーパスでジュリアン・ロキを避け、中盤を押し上げる。
パスの選択肢を極限にまで増やした、撹乱と陽動の
『およ、いい動き』
『ちょこまかとメンドくせぇ』
『ガハハ!元気でイイじゃねぇか!』
それぞれがマッチアップし、余裕で警戒網を敷く。だがそれこそチームBLの狙い。
「……ここだ、行けお嬢」
「オーケー、ブチ抜く」
凪からの一撃パス。入り乱れる中、中央突破の千切豹馬が連動するが……
『赤いの、お前は本当に男なのか?日本人は童顔だから余計に分かんねぇぜ』
女狂いと名高いアダム・ブレイクが、疑問を口にしながら千切と同じタイミングでボールの落下地点へと迫る。彼はパスの供給ラインを先読みし、千切との競走を互角の攻防にしていた。
(ッボールへのエグい反応に、そもそも身体能力がクソ高ぇ!俺の方がほんの少し速いけど、千切れねぇ!?)
これでは
それでも、もはや選択肢はない。千切はボールを前方へ弾いた。
「そのボール、ゴチ」
『ぬ!?』
弾いたボール、それを突進してきた馬狼照英が右からかっ攫った。
馬狼の規格外の行動にゴールジャンキーが一瞬驚く。だが暴走する悪役に追随するは、さらなる暴力の塊。
『元気いっぱいだなガキ!俺ァ嫌いじゃねぇぜ?』
ブラジルの荒ぶる暴君、ダダ・シウバ。彼が馬狼にその全身をぶつけてきた。「ぬァ!?」と呻く馬狼が咄嗟に
「後は俺に任せろ」
「バカメガネ!?てめぇ!」
それを剣城斬鉄が爆発的加速で回収。
戦う筋肉たちを置き去りに、ボールは右サイドからゴールへと突き進むが……
『奇想天外なのは認めるけど、ちょいと稚拙だよ』
ベビーフェイス、パブロ・カバソスが走行ルートに立ち塞がる。蜂楽レベルのドリブルですら容易く止める彼に、斬鉄の勝ち筋は……──
「俺の仕事は……ここまでだ!」
カバソスとマッチアップする手前、そこで斬鉄はゴールへシュートを放った。
ゴールにはまだ遠すぎる
「ナイス斬鉄。つーか皆喰い合いすぎっしょ。作戦通りだけど」
凪誠士郎だ。
彼は仲間同士が喰い合う中、ただ一人ゴールへ向かって走り込んでいたのだ。
……だが、その背後に迫る2番ビブス。
『これが話し合いの成果かな?モヤシくん』
「!?」
スペイン代表、レオナルド・ルナ。
彼は一人抜け出す凪の背を、ジックリと観察しながら追っていたのだ。
『仲間同士で食べ合う非合理性で、俺たちを撹乱したつもりかな?イイ線はいってたけど、詰めが甘かったね』
「マジ?完全に抜け出したと思ったんだけど」
飛来するボール、ゴール前のワンシーン。
この一瞬、口調はゆっくりだが、凪の眼と脳は高速で思考を巡らせていた。
──斬鉄のシュート性のパス──敵の圧すげぇ──絶妙な間合いでコース塞がれてる──撃っても入らん──どうトラップしても奪われる──
「……なら、コレっしょッ!」
凪の選択した
だが敵にコースを潰されている今、そのボールはゴールの縦枠──ポストにゴガン!と直撃した。
ボールは弾かれ、ルナの背面へ。
そこに、
「まず、1点!」
シュートコースを切り開いた。振り抜く、凪の足──……
『だから詰めが甘いって』
……の前に、超反射&反転で貴公子の足がシュートブロックし──……
「ってな感じの
『ん?』
ヂュン!と
ボールはさながら薬莢を排出するが如く凪の背後へ流れ、ボールをトラップするのは、清羅刃。
「……撃つ!」
ドッ!と完全ど|自由《フリー』、GKもDFも居ない無人の空間にシュートが放たれた。
完璧な連動と化学反応。
これが彼らの戦い方。互いすらも喰い合い、なお輝く己の武器で敵を打ち倒す──……
『ッおっと。良いプレーですが、僕の前では遅すぎましたね』
無人の空間、そこに突如として神童・ロキが現れ、シュートボールを横切ってからボールを弾いた。
凪が思わず呟く。
「は?マジ?」
『おー、ナイス、ロキ。シュートが思いの外遅かったから、危うく通り過ぎるところだったね』
全員の死角から神速で現れたロキと、余裕の間合いでシュートブロックに走っていたルナが減速する。
呆ける凪の目の前で、
そして目を細めると、彼は言った。
『俺たちが絵心から与えられた役割は君たちの査定なんだけど、それは十分よく分かった。君たち、とても良いよ』
相変わらずの満面の笑みだが、しかしその目はまったく笑っていなかった。
『とても良い。……だからこそ、誠意を持って挫いてあげなくちゃ』
「!?」
ズン!、と空気が重くなった。
凪が構え、清羅がカバーに動いた時、すでにルナは彼らの後方へ。
「!?、何突っ立ってやがる!?」
叫ぶ馬狼が正面、左右からは千切と斬鉄が挟むも、スッ、トン、ちょん、とゆったりとしたワンタッチで避けられる。
特別素速いワケではない。何か特殊な技術を使われたワケでもない。
なのに誰も触れられない。貴公子は汗ひとつかかず、五人からゴールを奪い去った。
【BL:0-5:WF】GOAL!!
あっという間の試合終了に、五人は思わずその場にへたりこんだ。
息も絶え絶えな彼らに、トッププレイヤーたちは優雅に去っていく。
『最後は本当に良かったよ。君たちみたいなプレイヤーを育てるためなら、この施設を建てた無駄金もちょっとは無駄じゃないかもね。アディオス、才能の原石君たち』
凪たちを歯牙にも掛けなかったルナがそう言い残し、彼らは去っていった。
残された凪は、大の字で身を投げ出すと呟いた。
「点、取れなかった……。世界、すげー……」