「マジか……っ!?どうせ
烏の驚きと呆れを含んだ声が響き渡る。
“
彼らは今、世界選抜の五人を目の前にして大いに盛り上がっていた。
特に乙夜と雪宮が好戦的だ。
「烏が『有り得へんやろ』なんて言うから期待してなかったけど、やるじゃんブルーロック。世界トップとヤり合えるとかマジ最高」
「俺も最初は烏くんと同意見でしたが、まさか本当に本物と戦えるとは……。光栄の限りです」
憧れはあれど萎縮など微塵もない、純粋な若き闘志。
そんな彼らを前に、世界選抜たちはゆるりと構えていた。
『三組目がアレか。相変わらず、どいつもこいつも生意気な目ェしてやがる』
『ブハハ!いいじゃねぇか!日本観光のついでだったサッカーにハリが出てよ!』
『まぁ張り合いは無いんだけどね。そこはしょうがない』
大人たちの他愛ない雑談に、突然烏たちの表情が引き締める。
突如張り詰めた空気に『ん?』と首を傾げるスーパースターたち。そんな彼らに、雪宮が代表して口を開いた。
『俺たちの前に二チーム通過したはずですが、その人たちとのサッカーは張り合いがありませんでしたか?』
言語を合わせてきた雪宮に、ルナがニコニコと返事する。
『文字通り大人と子どもだからね。誠意は持って相手はするけども、君たち相手に本気になる事はまったくありえないよ』
言葉の内容はきちんと、それこそ誠意溢れる物言いなのだが、烏たちは敏感に感じ取っていた。
自分たちを視るその『目』が、完全にナメているのを。
烏はため息を吐いた。
「ま、そりゃそうやろ。ルナさんの言う通りマジで大人とガキなんや。ナメられて然るべき、やな。……つかこの三次
烏の言葉に、乙夜がキョトンと首を傾げる。
「あれ、烏英語聞けんの?ユッキーもなんか流暢に会話してるし、マジいつ勉強してんだし」
乙夜の反応に「聞けるだけやないで」と得意げな顔を作ると、烏は大人たちに向き直った。
『けど、タダで負けてやるほどお人好しやない。俺は勝てる勝負しかしない主義やねんけど、こない
ニヒルな笑みで連ねる英語に、雪宮も同調する。
『ですね。現役のトッププレイヤーと戦える機会なんて、ここを逃したらしばらく無いでしょうし。……それに、俺たちを前の二チームと同じだと思わない方がいいですよ?』
若者たちの威勢の良さに、世界選抜で唯一ブルーロックの面々と同年代のロキが感嘆とした。
『ハハ、凄い自信ですね。それでこそストライカーだ。……では、早速始めましょうか』
『ああ、お手柔らかに頼むで』
三次
──KICK OFF!!
「ハナから全力で行くで乙夜!」
「指図すんなし。つーかそれ以外の選択肢ねー」
叫ぶ烏旅人、動く乙夜影汰。
相手は言うまでもなく格上。
試合開始から速攻のコンビネーションで切り崩す烏×乙夜に、世界が目を細める。
『およ、良い
『ですね。無駄がだいぶ少ないです』
カバソスとロキを抜き去り、烏以外の全員がゴール前に集結する。
その集団の中、頭角を現すのは雪宮剣優。
「ここ、イケるよ烏くん」
「ああ……確かにソコがええわ!」
ドシュ!とパスが放たれる。
抜け出した雪宮への完璧な弾道……を通り過ぎ、その背後の影へ。
「ちゅーす。完璧」
シャドウストライカー、乙夜へのパスだ。
雪宮の激しい主張を隠れ蓑にし、裏街道から素早く忍び寄る。
この高度な連携が通れば得点は必至──……
『良いね。最初から必死で向かってきてくれると、俺たちとしても相手のしがいがあるよ』
相手があのレオナルド・ルナたちでなければ。
「マジかよ」
走る乙夜、その前にルナが立ち塞がった。
乙夜はボールをトラップし足下に収めるも、得点に繋がるコースが見えない。
彼は瞬時の判断で後方へパスを出し、日不見愛基→柚春彦から烏へとボールが戻ってきた。
「やっぱカタいのぅ。穴どころかヒビすら見当たらんわ」
どうしたモノかと頭を悩ます烏に、この状況でもどこか弾んだ声が横から聞こえてきた。
「それなら俺に任せてよ。俺がこじ開ける」
雪宮だ。
確かに彼の能力ならば、世界相手でももしかしたら……と思わせるモノがある。
烏は決断した。
「そうか……、なら任したでユッキー!」
ドッ!と横パスを受けた雪宮が「ワールドワイドに行くよ」とドリブルする。
その前方を塞ぐのは、パブロ・カバソス。
『なんだか活きがイイのが来たね』
『一人目はベビーフェイスか。
切り替えた雪宮が世界を相手に得意の1on1を仕掛ける。
ザッザッ、とボールを左右に細かく動かし、相手の重心をズラしたところで一気に抜き去った。
『おー。日本人にしては珍しい、ゴリゴリのドリブルだね』
『お褒めに預かりどーも』
背後から聞こえるカバソスの声に、雪宮の口調は穏やかながらも内心は有頂天だった。
(やった!あのカバソスを抜いた!やっぱり俺のドリブルは世界に通用する!)
『このまま一直線、突き進むよ!』
ゴゥ!と風が背に流れていく。
遮るものは何もない。1on1世界最強の自負は、現実に世界の壁をもブチ壊した。
雪宮はこのまま夢へと一直線に──……
『目ぇキラキラさせて眩しいな、小僧』
『ブハハ!オッサンになると若者の相手は厳しそうで大変だな!』
「!?」
アダム・ブレイクとダダ・シウバが、左右から挟みに来た。
新たな世界の壁に雪宮は驚く。が、やる事は変わらない。
『その壁も……ッ乗り越える!』
速攻の判断。
ドッ!と二人の間を通す、フカしたシュート。
聳え立つ壁を乗り越え、雪宮の
『良いシュートですが、残念。撃たされてますよ』
寸前、ジュリアン・ロキがブロックした。
完全な無人の空間を狙ったハズであるが、彼の神速の前ではそんな空間など生まれない。
そして彼の言葉がもたらす意味……
弾かれたボールは狙ったように雪宮へと返ってきた。
『……さすが、世界の壁はブ厚いね!』
内心では察してしまった雪宮が、頬に冷や汗を伝わせながらも再びのカバソスとマッチアップする。
『どう?もう一回チャレンジしてみる?』
カバソスが涼しい顔で言い放つ。その言葉に、雪宮は挑戦しないワケにはいかなかった。
「ッ、当然!』
ドン!と爆発的加速、からの様々なテクニックを駆使して相手を翻弄せしめる雪宮。
(テンポ上げて、そこ!一気に突っ込む!)
『ほい、ほい』
激烈なドリブルで切り込む雪宮に、今度のカバソスはわずかな動作で行く手を阻む。
先程ブチ抜いたのは夢か幻だったのか……、それほどの技量の差が顕れていた。
『本当、活きがいいね。それだけだけど』
『ッ、俺には時間が無いんだ!一度勝ったアンタに構ってるヒマは……ない!』
雪宮は奥歯を噛み締め、間合いを作ると強引にシュートを放った。
『あらら、逃げちゃったね』
カバソスの言葉に雪宮は口を開かなかった。ただシュートの行方だけを見据え……
『シュートコース丸見えですよっと』
再びのロキに弾かれてしまう。
だがその瞬間を待っている者たちが居た。
「ちゅーす。ヘイト集めご苦労さま、ユッキー」
ビュン!と影から
彼はずっと狙っていたのだ。負けん気の強い雪宮が放つシュートを、世界が弾くこの瞬間を。
──だが。
『ったく、半端にフットボール出来やがるからダリィな』
『ガハハ!そう言うな。コイツらなりに頑張ってきてんだろう!』
そこのルートは既に、ゴールジャンキーと戦車により完全封鎖されていた。
乙夜がボヤく。
「マジか、オッサンら邪魔……、してくんのは予想済み」
『ん?』
『お?』
ドッ!とワンタッチで乙夜が蹴った先は、逆サイド。
そこに辿り着く、“
「よく視てた乙夜。いただくで、ゴール」
目立つ雪宮を先頭に、影を動く乙夜すら囮に使ってこの致命の一撃を待っていた。
烏の一撃が世界を嘲笑う──……
『ふーん。君みたいなのも居るのか。バリエーション豊富だね、ブルーロック』
「んなっ!?レオナルド・ルナ!?」
だが一筋縄ではいかない。
塞がれたシュートコースを前に、烏はボールをキープし止まらざるを得ない。
……ルナは、いや、彼らはずっと視ていたのだ。烏たちの動き、連携、ポテンシャルを、査定という名目で。
『君たちの事は大体分かったよ。……最後に、かかってきなよ』
静かに待ち構えるルナに、烏は足下のボールを転がしながらため息ひとつ、呟いた。
『チッ、調子に乗れるのもここまでか。……ほんじゃまぁ、チョイと胸貸して貰いますわ』
『うん、来なよ』
覚悟を決めた烏が、真正面から世界に立ち向かった。
──十分後。
“
「ッはぁっはぁ……っ!ックソ、ズダボロやんけ!……遠いなぁ、世界……」
「キッツぅ……マジレベチ過ぎっしょ」
大人たちが去り、人工芝の上で仰向けになる汗だくな烏と乙夜。
力の限り奮戦した。だが査定を終えた世界の実力は、そのほんの一端だけでもあまりに隔絶していた。
結局1点すらももぎ取れず、彼らはいっそ清々しく天を仰ぐだけである。
「……」
そんな中、一人険しい目で大人たちが去っていった扉に向け続ける雪宮が居た。
乙夜が不審に思い、声を投げかける。
「どしたしユッキー、恐い顔して。トイレ?」
「ボケ、ほっとけや。自称世界最強の肩書きのために、一人アホみたいに突っ込み続けたバカタレなんぞ」
烏の言葉が聞こえたか聞いていないのか、雪宮は目を閉じてゆっくり深呼吸をしたあと、ようやく普段通りの雰囲気に戻った。
「すみません、どうしても悔しくて。どうやら俺は、世界最強ではなかったようです。……今はまだ、ね」
含みのある言い方に烏が「そらそうやろ、自称でも自惚れすぎてたわ、この非凡が」と蔑みに、雪宮は「まぁでも、日本に限っては変わらず最強ですけどね」と相変わらずブレない。
乙夜が「ランクダウンしてもエゴいねユッキー、その自信どっから来んの?」と煽り、雪宮が「いや、ただの事実でしょ?」とそれに乗っかって突如1on1が開始される。
大敗した空気は一気に弛緩し、シュババ!ビュン!と元気に動き回る彼ら。
そんなチームメイトたちに、烏が呆れたように呟いた。
「お前ら、その元気を試合中に出せやボケ。つか、さっさと次行くぞアホンダラども」