「……全7チーム、35人の才能の原石たちの査定はこれにて終わりだ。ご苦労さまだ、才能の結晶たちよ」
モニターが壁一面に並ぶ部屋、それらを背に猫背で立つ細長い男──絵心甚八の言葉に、レオナルド・ルナたち世界的ストライカーは思い思いに寛いでいた。
「うん、どの子もいい子たちだったよ。サッカー後進国なりに、未来は明るいかもね」
「ちょっとルナさん。それあんまり褒めてないですよ」
ロキの突っ込みに「え、そうなの?」と相変わらずのルナ。
カバソスたちも話に加わる。
「まぁ結構マシな部類だったでしょ。一応は絵心の人選でもあるわけだし」
「だけだよぉ、あまりにもヒョロガリ過ぎんだろ?とりあえず肉食わせとけよ肉」
「どーでもいい。終わったんなら早く帰らせてくれ。俺はチョメチョメしに行きてーんだ」
トッププレイヤーともなると全員がマイペースを極める。それに負けず劣らず、絵心も話を突き進めた。
「一息つくのはもう少し後にしろ。これからお前らの個人評価も参考にするんだ、早く帰りたければさっさと喋れ」
世界相手にも高圧的な態度を崩さぬ絵心に、ルナはニパッ!と笑顔を浮かべて近付いてきた。
「フフ、絵心は相変わらずだね。こんな施設も作っちゃうし、本当に君は世界一に未練がありまくりなんだね」
「……」
ピリ、と二人の間に沈黙が走る。
他の人間も口を閉ざす中、一際高い声が入室してきた。
「皆さん、お疲れ様です!あの、粗茶ですが宜しければどうぞ」
ブルーロック職員、帝襟アンリだ。
彼女の登場に空気が一気に弛緩し、ルナも絵心から距離をとる。
アダム・ブレイクが慄いた。
「オイオイ、コイツは驚いたな。まさかこんな場所でこんなダイナマイトレディに出会えるとは……ッ」
彼は元々険しい目つきをさらに険しくし、アンリに近づいて見つめる。
アンリは「?、遠慮せず召し上がってください」とお茶を差し出した。
「ああ、頂こう。隅々まで」
ブレイクの手がお茶をスルーしてアンリの体に触れようとした、その時。ダダ・シウバとパブロ・カバソスの両名がその手を止めた。
「オッサン、ここはそういう店じゃねぇぜ?」
「そーそー。ほら、絵心がスッゴい目でコッチ見てるよ」
カバソスの言葉にブレイクはチラリと視線を送るが、しかしそこに居たのはいつもの絵心だ。隈は凄いが、別にスッゴい目とやらはしていない。
代わりに口が開かれ、いつもより三割増ほど低い声が響き渡る。
「……さっさと与えられた仕事をして帰れ。そうしたら然るべき場所に案内してやる」
「へいへい。ったく、ダリィぜ」
ブレイクは今度こそお茶を受け取ると「サンキュー、ハニー」と一気に飲み干して器を返した。アンリは「?」と何も気付かぬまま、お茶を配り回る。
アンリのお陰で空気がリフレッシュ(?)された中、ロキが苦笑しながら進み出た。
「じゃあ僕がまとめて話しますよ。自分勝手な大人たちだと……なにかと時間が掛かりそうですし」
特にルナを注視するロキに、肝心の本人は「?、じゃあロキにお願いしちゃおうか」とお茶を啜る。
他のメンバーも内心面倒くさかったのか「マジ?ほんじゃ任せた」「オイラも早くハラジュク行きたいし、ロキに頼んじゃお」と帰り支度を始める。
「あ。そういえば」
そこでルナが突然、スマホを弄るとそれを耳に当てた。
誰かに電話を繋いでいるようだが、他のメンバーは全員首を傾げている。通話先が誰なのか、誰も知らないらしい。
しばらくして、通話は繋がった。
「もしもし、久しぶりだね!っあ、切らないでね?いやー面白いことがあったから君に教えたくてさ、ちょっと時間いい?」
矢継ぎ早に言葉を連ねるルナの言葉に、周りのメンバーは「ああ、コイツ相手に嫌われてんな」と思ったのも束の間、名前が出て衝撃が走る。
「そうそう。君が探してた絵心甚八ね、このブルーロックって施設の総指揮してたよ!いやー面白いよねー、自分がなれなかった世界一の夢を、サッカー後進国の日本の子どもなんかに託しててさ!君はどう思う?現在世界一のノエル・ノアは」
その名前が出た瞬間、一瞬だが絵心の目が見開かれた。
その一瞬を見逃さなかったルナがニコリと笑うと、通話をスピーカーにした。
スマホから響く無機質な重低音の、しかし強い意思の籠った声。
『絵心か……。相変わらず世界一の妄執に囚われているようだな。……“
そこでブツリと途切れてしまう。
ルナが「あ、せっかく繋がったのに」とニコニコ残念がる姿を、絵心が「このクソ貴公子が」とメガネを押し上げて呟く。
「まあいい、どうせいつかは知られる事だ。それより、さらに余計なことしない内にロキだけ残して早く
絶対内心怒っている絵心からぞんざいに扱われた大人たちは「はーい」とそそくさと退散していく。
彼らを見送ったロキは、絵心に向き直ると苦笑いで謝罪した。
「本当、なんかすみません」
「うっせえ。黙って早く報告しろ」
⬟ ⬟ ⬟ ⬟ ⬟
「ブルーロック……、コレか」
ドイツ、そこで最も強いクラブチーム『バスタード・ミュンヘン』。
そのクラブの一室で、パソコンの前で調べ物をしているのはノエル・ノアその人だ。
画面に映し出されているのは“
そしてアップされる、この
「アイツはまた、極端な事してやがるな。昔から変わらないヤツだ」
「なんだノア、画面のソイツは?気味悪い顔だな」
ノアの独り言に、その背後から若い声が被さった。
ノアは振り向かずに叱責する。
「カイザー、勝手に覗くな」
「はいはい、すみません。……へぇ、世界一のストライカーを創る実験場か〜」
ノアの言葉などまったく意に介さず、嬉々として画面の文字を読み上げるカイザーと呼ばれた男。
新世代
ノアはそんな彼を無視するが、カイザーの方からグイグイ来る。
「おいノア。この日本っつー国は哀れだな。あんなサッカー後進国でそんな人材が育つかよ」
“
「分からんぞ。そんな国だからこそ、とんでもないモノが眠っているのかもしれん」
ノアの意外な反論に「合理主義のアンタが珍しい物言いだな。……この絵心とかいうヤツのせいか?」と訝しむカイザー。
ノアは再びの沈黙の後「いいから帰れ。つーかお前、練習から抜けてきたろ?」と突き返した。
「分かった分かった、大人しく戻りますよっと。……今日のところは」
そう言い残して去るカイザーの背に、ノアは短くため息を吐いた。
「まったく。最近のヤツは調子づきすぎてて困る。誰か鎬を削れる……、同年代の相手が欲しいところだな」
そう零して、画面の中の絵心を見やるノア。
その胸中に何を思うか、それは彼にしか分からない。だが一見して無機質な瞳の中には、様々な想いが渦巻いて熱を発していた。
⬟ ⬟ ⬟ ⬟ ⬟
一方、部屋から去ったカイザーは腹心のアレクシス・ネスと合流していた。
「カイザー、なんだかご機嫌ですね?」
「ああ、久しぶりにノアの鉄面皮が崩れたところを見た。そしてネス、調べ物だ。ブルーロックと絵心甚八とかいうヤツについて調べろ」
「仰せのままに」
歩くままに指示を仰ぎ、ネスは颯爽と指令を遂行しに行く。
カイザーは鼻唄を奏でながら、不敵な笑みを浮かべた。
「ノアが興味を示すくらいだ……、何か面白い事に発展してくれよ、ブルーロック」
そして数日後、彼は画面越しに出逢う。
U-20日本代表と戦い、勝利を収めたブルーロックの姿──決勝点を決めた潔世一に。