「オイ、早ク!」
ザクセンの声に促され、自分は廊下へ飛び出す。
「…何なんでありますか、この惨状は。」
死体と負傷者が並ぶ、ところどころに穴の開いた廊下を走りながら呟く。
「向カウノハ上甲板ダ、突ッ切ルゾ。」
ザクセンが衛生兵らしい人間の間を縫いながら進む。
「…これが地獄でありますか。」
何が地獄だ、ここはそれよりももっとひどいじゃないか。
そう心の中で毒づきながらザクセンの後を追う。
「コレハ、上甲板ノ奴ラカラ頼マレタモノダ。」
ザクセンが一人呟く。
「…残念ダガ、コイツラノ分マデハ無インダ。」
「分かってるであります…」
自分がそう返し、角を曲がった瞬間。
背後から、ドンと強く突き飛ばされるような衝撃を受ける。
ゴロゴロと廊下を転がり、頭を壁にぶつけたのか目の前がチカチカと点滅する。
「……イ!……タ⁈」
ザクセンが駆け寄ってきて、肩を掴む。
「オイ!大丈夫ダナ⁈」
「ええ…何があったのでありますか?」
肩を揺らされた事で意識がはっきりし、頭を押さえたまま爆風が来た方を見る。
「…直撃ダ。」
ついさっき走り抜けた廊下が、血で染まっていた。
角から顔をのぞかせ、来た道を見る。ついさっきすれ違った衛生兵が、頭を失ったまますぐそこに倒れ込んでいた。
さっきまでそこに横たわっていた人が、細切れになって一面に飛び散っている。
すぐそばの壁が大きく抉れ、廊下と同じように真っ赤な隣の部屋も見える。
「先を…先を急ぐのであります。」
迫り上がってくる吐き気を無理やり飲み込み、ザクセンの腕を掴んで起き上がる。
「…ソウダナ。コッチダ。」
すぐそばの扉のハンドルを開放し、二人揃って飛び込む。
「どこに出るのでありますか?」
「後方、主ニ対空砲ヲ管轄スル奴ラノ所ニ出ル。」
自分が体全体で扉を押し閉める。
「クソ、ココモ…」
足首が浸かるほどに溜まった水をバシャバシャと跳ね上げながら廊下を走る。嫌というほどに足が取られる。
応急修理部隊らしい人物が断裂に取り付いている後ろを駆け抜け、ほんの少しだけ階段を下がる。
「まるで迷路のようでありますな、ザクセン殿!」
「同感ダ!コノ先ノ階段ヲ登レバ、後部艦橋ニ出ル!」
腰程度の深さまで浸水した廊下を、二人そろってバシャバシャとかき分けて進む。
息が切れる。ほんの少し寝ていただけでこの有様か、それでも大和魂持つモノかと必死に足を動かす。
「ココダ…アキツ、先ニ登ッテクレ。」
ザクセンに促され、急な階段を駆け上がる。
防水扉を押し開け、どたどたと外に転がり出る。
ざぁと一つ大きな波が直撃し、びしょ濡れになる。
今までくぐもって聞こえていた砲撃音が、明瞭に聞こえる。
「…ただいま、であります。」
気が付いたら、そう呟いていた。
「サァ、行クゾ…オイ、大丈夫カ?」
「…っ、ええ。大丈夫であります。」
ザクセンの声に意識を戻す。頭上を砲弾が飛び越えていくのを見送り、ザクセンの後を追う。