綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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#10 ちゅ、多様性

 

一之瀬曰く、Cクラスによる粘着するような嫌がらせ行為を受け始めたのは6月後半になってからだという。

彼女が率いるBクラスは期末テストに向けて教室で勉強していたが、そのまわりを取り囲むように出入り口付近にはCクラスの石崎達が張り付き、教室から出てきた生徒に執拗に絡む。そんな被害を受けていたらしい。

 

そこで彼女が取った手段が、観衆の目が常にある図書室に逃げ込むこと。

 

それはシンプルかつ効果的な対策で、石崎が逃げて行ったあの騒動は既に3日前。

石崎達が姿を見せる様子はない。もう図書室に来るつもりはないのだろう。

 

「一之瀬。ありがとう。助かった」

 

一之瀬率いるBクラスとは、あれから毎日、放課後に図書室で顔を合わせている。

今日は色々あって、図書室に来るのが遅れてしまった。

満席を危惧して場所の変更も視野に入れていたが、一之瀬が確保しておいてくれたのだ。

 

「全然気にしないで。困った時はお互い様だよ。それに綾小路君には借りがあるしね」

一之瀬の隣にいたインテリ風な見た目の男子生徒もその言葉に続く。初めて見た生徒だ。

 

「この間は助けてくれたとクラスメイトから聞いた。誰にでも出来る行為じゃない。助かった。ありがとう」

その男は神崎と名乗って丁寧に頭を下げてきた。

その後すぐに、神崎はBクラスの生徒に呼ばれて、そっちの方に向かっていった。

 

一之瀬は、俺との距離を詰めて、耳に手を当てて小声で話す。

 

「実は、ここだけの話なんだけど、Cクラスの人達は神崎君をターゲットにしてたっぽいの。それで、痺れを切らした神崎君とCクラスの人達で口喧嘩に発展しちゃって…。

だから、綾小路君には人一倍感謝してるんだと思う。」

 

なるほどな。神崎がクラスポイントが減った原因というわけか。

ここ三日の勉強会に居なかったのも、石崎達との接触を避けるためだろう。

そして、石崎達への対策が十分有効的なことを見越して、今日から参加する流れになったのだろう。

 

「Cクラスの攻撃は止んだのか?」

俺はCクラスの情報を一之瀬から聞き出すことにする。

 

椎名にあれから連絡を取っているが、「これはCクラスの問題なので巻き込みたくありません」と俺が関わることを強く拒絶している。

椎名から情報を得られない以上、当事者の一之瀬に頼る他ない。

 

「うーん。一応はね。でも、油断出来ないよ」

「やはり、龍園か?」

 

一之瀬が稚拙な行為を繰り返す石崎達をそこまで脅威に感じてるとは思えない。

なら、一之瀬が警戒している相手は別にいる。

 

「およ?綾小路君。もしかして、何か知ってるクチ?」

「いや、龍園という生徒の噂を耳にした事があっただけだ。今回の件、石崎達が主犯のようには思えなかったからな。噂と事実を照らし合わせた結果、裏で絡んでるんじゃないかと推測しただけだ」

「ふむふむ。中々鋭い視点をお持ちのようですな〜」

 

彼女は時折、軽いノリを見せる側面がある。

交友関係が広く学年でも慕われているようだが、これもまた、皆が親しみやすさが感じる要素の1つなのだろう。

 

「綾小路君の考えは正解だよ。」

「何か龍園の反感をかうようなことをしたのか?」

「うーん。それは違うかな。」

「というと?」

「うーん。何て言えばいいんだろう。龍園君にとって、これは単なるきっかけ作り…みたいなものなんだと思う。」

龍園の傭兵を当てがうような戦略は攻撃ではなく小手調べ。

付け入る隙を炙り出す行為に過ぎないという事か。

 

「なるほどな」

「ええ!今ので、ほんとに分かった?。我ながら上手く言葉にできなかったのに。」

「ああ。これは龍園にとって、ほんの些細なお遊びと言う事だろう?」

「そ、そうだね。私には他人の嫌がる事をする事をお遊びって表現する発想はなかったや…。でも、それがぴったりな言葉かも。」

 

一之瀬の明るい雰囲気が少し重々しくなる。

クラスメイトを罵倒される行為を遊びとして認めるのは、一之瀬のような優しさを持つ生徒には心苦しいことか。

 

「案外、好きな子にちょっかいをかける。そんな可愛い感情が龍園の原動力かもしれないな」

突拍子も無い俺の発想を聞いた一之瀬は、表情を明るくして笑う。

 

「あはは。綾小路くんも冗談言うんだね。クラスのみんなに、勉強教えてることもあるし真面目なタイプかと思ってたよ」

「冗談?」

俺は極めて真顔で返す。

 

「え?」

一之瀬は俺の真顔から、真剣な空気を読み取る。

 

「一之瀬が相手なら、龍園が好きになるのにも不思議はないと思うけどな」

「…え、え、え?」

一之瀬が本格的に困惑し始めたのは、少し面白いが、流石に揶揄いすぎるのも悪い。ここで引くことにする

 

「ここまでが冗談だ。」

「…」

俺のその言葉を聞いた一之瀬は大困惑から一転。ジト目で固まる。

 

「…綾小路君って意外に意地悪だったりする?」

「悪い。好きな子にはちょっかいをかけたくなるんだ」

俺は間髪入れずに淡々とそう返す。

 

「…綾小路君?」

 

蛇のような一之瀬から睨まれるが全然怖くない。むしろ可愛い。

 

そしてもう一つ,俺を睨むような視線があった。

あれは確か一之瀬が、千尋ちゃんと声をかけていた生徒だ。

もしかしたら、本当に何か地雷を踏んでしまったかもしれない。

 

俺の脳は、強く撤退の指示を身体に出していた。

 

「悪い。揶揄いすぎた。許してくれ」

俺は両手を軽く上げて降伏を示す。

 

「もうっ。冗談でもそういうこと言うと、綾小路君の言葉はどんどん軽くなるんだからね」

散々、揶揄われてもなお,一之瀬は俺の心配をする形で返してくる。

どこまで優しいんだ。一之瀬は。

 

――――――――――――――――――――――――

 

期末テストに向けての勉強会。

俺講師務める軽井沢中心のグループは本日をもって大きな変化が訪れることになった。

 

---その日の昼休み---

 

「松下。少しいいか?」

「うん。どうしたの?」

「少し相談がある。教室では話しにくい。一緒に食堂にでも行かないか」

 

松下は少し考えた素振りを見せる。

 

「みーちゃんも呼んでいい?」

ただ、ご飯を食べる目的ならそれでいいが、生憎、今回はそうじゃない。

 

「悪いが、今回限りは二人で頼みたい」

松下の表情は少し曇る。

 

「分かった。じゃあ、廊下で待ってて」

そう言って、遠目から俺たちのやり取りを見ていたみーちゃんの方に松下は向かっていった。

松下は場を回すのが上手い生徒だ。上手くやってくれるだろう。

 

俺が廊下で待つこと数分。松下は出てきた。

 

「おまたせ。行こっか」

「ああ。色々と悪いな」

「いいよ~。今日はその代わり、綾小路君のおごりね」

「ああ。そのつもりだ」

「あっ。勿論、山菜定食は無しだからね」

「…ああ。勿論だ」

先回りして、山菜定食ネタは潰されてしまった。

 

俺は定食の中でも、日替わり定食を選ぶ。

松下も山菜定食以外なら、特に希望はないらしく、俺に一任してきたので、同じ日替わり定食を二つカウンターで受け取った。

 

端にあった窓際の席に並んで座る。

 

「なんで日替わり定食にしたの?唐揚げ定食も同じ値段で、そっちの方がボリュームあったのに」

松下は座るなり、そんな質問をぶつけてくる。

 

「唐揚げ定食の方が良かったのか?」

「言ったでしょ?山菜定食じゃないなら、何でも良いって。それよりも質問に答えてよ。」

そんなに重要なことだろうか。

 

「松下は知っているか分からないが、この食堂のメニュー。日替わり定食だけ異質なんだ。」

「どゆこと?」

松下は俺の口振りに疑問がさらに膨らむ。

 

「日替わり定食と山菜定食には無くて、その他のメニュー全てにはある。これが何か分かるか?」

「山菜定食と日替わり定食になくて、他にはある。。うーーんダメだっ!分かんない。答えは?」

松下は少し考えたが、すぐにギブアップする。

 

「答えは売上高だ。原価率を考えればすぐに答えに辿り着く。唐揚げ定食は唐揚げとレタスの千切りと米と味噌汁のみだ。そう考えると決してリーズナブルとは言えない。提供する側が明らかに得をする価格設定になっているからだ。これは他の常設されてる定食にも同じことが言える。それに比べて日替わり定食の多種多様のおかずを見れば一目瞭然。明らかに原価の方が高い。つまり、これと同じ日替わり定食を食べるケースはここの食堂で食べるのが一番コストパフォーマンスを発揮するということだ。」

 

これは俺の推測だが、日替わり定食はその日の食堂の在庫処理の側面から構成されたメニューになっているんだと思う。

その結果が、原価率無視の提供に繋がっているのだ。

 

「唐揚げ定食を食べるなら、食堂で食べるメリットは手間がかからないこと以外はないわけだ。」

「ああ。そういうことだ。」

「なるほどね~。…綾小路君お祭りとか行かないタイプでしょ」

松下からの質問の意図は掴めなかったが、正直に答えておく。

 

「行かないタイプというか、行けなかったタイプだな。家庭が厳しくてな」

「あ、そうなんだ。なんかごめんね」

「いや気にしなくていい。」

沈黙の時間が生まれる。やはり、この逃げ口上は諸刃の剣だな。

 

「それで、相談って何?」

松下は気まずい空気を話ごと変えるように、本題に入る。

 

「ああ、松下。さっきの話でいえば、松下は唐揚げ定食だろ?」

 

つまり、松下が俺の勉強会に勉強する目的で参加する理由は無いということだ。

松下の学力は軽井沢グループから見れば突出している。

分かりにくい比喩表現を使ったが、要はクビ宣告。

松下は俺の勉強会の生徒役に相応しくない。

 

「なるほどね。だから私だけ、ここ最近難しい問題が混ぜられた簡易テストを配られてた訳か。」

ここ数日の勉強会で俺が渡してる期末テスト範囲の簡易テスト。

松下だけには違うものを渡していた。

周囲と一人だけ違う状況に松下が気付かないはずない。

 

「ああ」

「そっか…。じゃあ、私は今日の放課後から櫛田さんの方に戻るよ」

そもそも松下は、中間テストの勉強会で、俺の勉強会の生徒の成長率の噂を聞いて途中から混ざってきたメンバーだ。

もともと学力の高い松下がその話を聞いて、俺の勉強会に参加したのは考えにくい。

では、松下が俺の勉強会にいることのメリットは何だろう。

 

「いや、松下には今日から、俺と一緒に講師役をしてもらいたい」

「えーっと、綾小路君なら、私が勉強ができるのに勉強会に紛れ込んでたわけ分かるんじゃないの?私は分かっているから見逃されてたんだと思ってたけど…。」

「ああ。軽井沢だろ?」

 

松下は既に軽井沢グループの一人だ。

軽井沢グループとは軽井沢をトップカーストにおいた軽井沢中心のグループ。

軽井沢より下のカーストの松下が、軽井沢達を上から教える講師役には向いていない。

 

彼女としては、隠してた能力を披露して、そのグループで悪目立ちすることは避けたいのだ。

 

「分かってるなら、私の答えもわかるよね?」

「俺が松下に教えて欲しいのは佐倉だ。それも、マンツーマンでやってもらいたい。佐倉は軽井沢よりも学力の低い赤点組。佐倉に教える分には、今のままの学力でも十分対応できるはずだろ?」

「佐倉さん?佐倉さんが綾小路君の勉強会に来るとは思えないけど。」

「いや。来る。そうなった時は対応してもらえるか?他の皆にも俺から、納得できるように説明する。」

 

松下としては、このグループに残りたいはずだ。

何をメリットとしているかは分からないが、それだけは事実としてある。

 

「分かった。綾小路君のお願い聞いてあげる。だから、私のお願いも一つ聞いて」

「ああ。なんだ?」

正直この要求を突っぱねても、松下は俺の思い通りに動いてくれるだろうが、どうせなら快諾して真面目に取り組んでもらいたい。少しでもポイントを稼いでおく。

 

「みーちゃんのこと。気付いているんでしょ?」

俺はそれに否定も肯定もせずに松下に先の言葉を促す。

 

「別にみーちゃんを受け入れろと言わない。でも、6月のトランプ大会での約束、それだけは守って。」

「ああ。」

松下はみーちゃんとの二人でのご飯に自分から誘えとは言わない。

みーちゃんが誘ってきた時に、それを無下にするなと釘を刺してきただけ。

 

それの意味することは一つだろう。

恐らく、みーちゃんは俺に、その時に告白をしてくる。

 

――――――――――――――――――――――

 

ーーその日の放課後ーー

 

本日の授業を終わりを告げるチャイムが鳴る。

これより、放課後ティータイムだ。

 

佐倉には既に話を通してある。

佐倉は最後まで迷っていたが、俺の勉強会に来ることに頷いてくれた。

佐倉に声をかけようと席を立ち上がる。

 

「綾小路君」

堀北が立ち上った俺に声をかけてきた。

遠くから緊張気味の佐倉がこっちを見ている。

 

「何か用か?」

「....その」

「堀北。俺が忙しいのは、隣の席のお前が一番知っているだろ?話がないなら、もう行く。また明日な」

俺は堀北の横を通り過ぎる。

 

「..待って」

堀北は俺の制服のギリギリところを細い腕で掴む。掴む手に力はこもっていない。

もう一か月前の強気な堀北はいないな。

 

俺はその手を振り払い、彼女に振り返る。

 

「もう時間がない。最後だ。何か用か?」

俺は堀北の目を見てそう問いかける。

 

「私に出来ることを教えて」

「なんだ。指示が欲しいのか。」

「…ええ。」

「じゃあ、お前は自分の点数が少しでも上がるように勉強に励むんだな」

「違う。そういう事じゃなくて。」

「違わないさ。お前は勉強を教えるのは向いてない。その分野は俺や洋介や櫛田に任せればいい。今、順調に進んでいる勉強会にお前を加えても逆効果だ。ならお前には1点でも自分の点数を底上げする。それしか出来ないだろう。」

 

「...」

「それにお前も出来ることはないって分かってたんだろう?勉強会に講師役として参加したいと言わなかったのはそういう事だ。そんな中途半端なお前が出せる結果もまた中途半端にしかならない。」

「…貴方の言う通りね。」

「ああ。もういいだろ。俺は行く」

 

堀北はまだ本当の意味で孤立していない。

今、俺の勉強会に加えることは簡単だが、それは意味をなさない。

これから、クラスメイトはどんどん一致団結していく。

本当の意味で孤立するのも時間の問題だ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「皆に報告がある。今日から、生徒が1人増えることになった。佐倉だ。そして、松下だが、今回の期末テストの範囲の理解度は十分だと判断した。なので、佐倉の講師役をやってもらうことにした。勿論俺もフォローに入る。このメンバーで期末テスト乗り切ろう」

 

そう言って、軽井沢に目配せする。

彼女には事前にこのことを連絡していた。

彼女が、俺の話に乗っかって、それはグループ全体へと広がっていく。

 

そして彼女が佐倉に気軽に接することで、皆佐倉を受け入れる空気になっていく。

これがヒエラルキートップの場の支配力。

今はいい方にこれが作用してるが、これに悪意が乗っかった仮定を想像するだけで恐ろしい。

 

そこからは勉強漬けの毎日だった。

 

図書室での勉強会は大成功だ。その要因はBクラス。

ライバルクラスが真剣に取り組んでいる様を見せつけられれば、嫌でも闘志に火が付いた。

まあ、それはBクラスも同じだったので、文字通りの切磋琢磨したことになる。

この相乗効果はクラスポイントにも影響するかもしれない。

 

佐倉も松下と勉強している時、笑顔で話している姿も度々見れた。いい兆候だ。

佐倉はまだコミュニケーション能力が欠けているが、この中に佐倉が頑張っている姿勢を馬鹿にする者はいない。

 

松下のフォロー力もうまく機能している。みーちゃんと佐倉は似たようなタイプなので、松下とは相性が良かったのかもしれない。

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

期末テストまであと少し。

俺は今日も一日頑張るぞいと気合を入れて、部屋を出た。

すると、ロビーで管理人と話してる一之瀬がいた。

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

寮の管理人にお礼をして歩き出した一之瀬は俺の存在に気付く。

 

「やっほ。綾小路君。早いんだね」

「おはよう。一之瀬。今日はたまたま早く目が覚めてな。今、管理人に何を話してたんだ?」

俺と一之瀬は並んで歩き出す

 

「うちのクラスから出た寮生活での意見をまとめて、管理人さんに伝えてたところなの。騒音とか水回りとかね。」

「なんで一之瀬がそんなことを?」

 

「私、一応クラスの委員長だから」

「委員長?クラスの役割みたいなものか?」

「うん。私たち、Bクラスが勝手にやってるだけだけどね」

「それは、一之瀬が発案したのか?」

「うん。色々役割があった方が楽じゃない?」

「それはそうかもしれないが、流石だな。」

一之瀬のクラスのまとめっぷりは相当のようだ。

 

「にゃはは。そんなことないよ」

 

「一之瀬はいつもこの時間なのか?」

「うん。綾小路君は?」

「俺はいつも、この時間より10分は遅く出てるな」

「それくらいが丁度いい時間かもね。」

 

一之瀬はその後も果敢に話題を振ってくれる。

「期末テストが終わったら夏のバカンスがあるって話は聞いた?」

「いや、身に覚えがないな。」

「そうなんだ。おかしいな。先生が言ってたけど…。」

「夏のバカンスか。少しきな臭いな」

「うん。私もそう思う。多分、これはターニングポイントだと思うんだ。中間テストや期末テストじゃ得られないくらいのポイントが取れるチャンスがあるんじゃないかな。」

 

まあ、あるだろうな。

中間テスト期末テストだけでしかポイントを増やす機会がないなら、それは学力で優劣がつく他の学校と変わらない。

 

「そうかもしれないな。いいのか?敵クラスの俺にそんなことを教えて」

「全然いいよ。こんな情報でよければいくらでも。それに、綾小路君には借りがあるしね。」

そう言ってくれるのは嬉しい限りだが。

 

一之瀬はあっと言葉をこぼして、何か思いつめたように立ち止まった。

俺も立ち止まり横を見る、そこには真剣な顔付きの一之瀬がいた。

 

「綾小路君に一つ質問してもいいかな?」

「俺に答えられることならなんでも答えるぞ」

「その、綾小路君って女の子から告白されたことある?」

 

「もしかして、告白されたのか?」

一之瀬の顔は悩める少女に見えた。

「え、あ、うん。そんな感じ…。」

一之瀬は容姿も性格も抜群。

まあ、告白されるのは不思議なことじゃ無い。

 

「綾小路くんさえ、良かったら昼休みに少し時間はもらえないかな?」

「ああ、別に問題無い。」

「時間と場所は後でメッセージで伝えるから、連絡先教えてもらっでもいいかな?」

「ああ。喜んで」

「ありがとう。悪いけど昼休みよろしくね。」

 

――――――――――――――――――――――――

 

体育館裏に昼休み終わったらすぐに来てほしい。

 

そのメッセージを見て俺は昼休みが入ってすぐ、足早に体育館裏に向かった。

俺もだいぶ早く着いたつもりだったが、一之瀬はもう居た。

 

「告白――」

「私,ここで告白されるみたいなの」

そう言って差し出されたのは、ハートの可愛いシールが貼られた手紙。

男がラブレターってちょっと…。いや、何も言うまい。

 

中を見るように一之瀬に言われ、中を開く。

丸く可愛い文字で入学してから気になってたこととその想いに最近気付いたことが綴られていた。

 

「これ、俺いない方がいいんじゃないか?」

「私,恋愛に疎くって。どう接したら相手を傷つけないか分からないの。だから助けてほしいの。」

「助けるってどうやって?」

「その、綾小路君、彼氏のフリしてくれないかな。調べたら相手に恋人いるパターンが一番傷つかないって書いてたから。あ、私がフラれたことにしてすぐに別れたことにするから。」

 

それで上手くいくとは俺には思えなかった。

それに俺は…

 

「それは無理な相談だな。」

「……!」

「一之瀬。懸命に告白してこようとしてくる相手に嘘をつく。それが1番、傷付ける行為なんじゃないか?きっと一之瀬は後悔する。そんな手助けを俺はしてやれない。」

 

「相手の必死な思いには、誠実に応える必要がある。俺はそう思う」

 

そう一之瀬に伝えて俺は、体育館裏から走って去る。

そして、体育館裏に足音を消して戻る。体育館の壁の影から、ギリギリ告白の様子が見えるポシジョンを取る。

 

約束の時間になって来たのは、千尋ちゃんと一之瀬が読んでた女子生徒だった…。女子生徒だった!!

あの、これが多様性ってやつですか。

 

結果から言えば、千尋ちゃんの告白は失敗した。

 

千尋ちゃんの望む関係は恋人で、一之瀬が望む関係は友達だったのだ。

これは千尋ちゃんと呼ばれる生徒が必死に紡ぐ言葉ではひっくり返らなかった。

 

千尋ちゃんが走って去って行くのが見えた。

 

初めて見る告白の顛末を見届けて俺は一つ学んだ。

一之瀬からメッセージで「変なことに巻き込んでごめんね」そう来ていたが、俺はうっかりありがとうと返してしまうところだった。

 

みーちゃんが俺との約束を指定してきたのは期末テスト最終日が終わった次の土曜日。

 

この経験は必ず、その時に活きる。

 




First takeにも出始めてる一躍ブームのあのちゃん。
昔はめっちゃ普通な喋り方してるんですよねーー。
まあ、関係ないことですが。

誤字報告助かってます。ほぼ全て反映させていただいております。

補足
まだまだ、夏のバカンスには行きません。
家電量販店のストーカー店長の問題と
龍園によるdクラスの茶柱に対しての制裁
みーちゃんとのデートとヤルこといっぱいです。
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