綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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無人島試験開始~終了後+閑話
#14 幻想殺し


 

俺達は厳重の検査を受けて無人島に一人ずつ上陸していく。先生方は携帯の没収から私物の持ち込みがないかを隈なくチェックしている。

 

停泊した甲板は燦々と照りつける太陽から隠れる術なく、暑さに悶える生徒ばかりだ。

そんな中、少し寒そうにしてる堀北が合流してきた。

 

「今まで何してたんだ?」

「本を読んでいたのよ。誰がために鐘はなる。知らないでしょうけど」

 

アーネスト・ヘミングウェイの代表作じゃないか。

映像化もされてそこそこ有名だと思うが…。

確か戦争の舞台にも関わらず恋をした男女を描いた物語だったはずだ。

 

「意外だな。お前ならあの舞台で恋に落ちるなんて状況、馬鹿にしそうなものなのに。」

「知ってるのね…。ネタバレはしないでよ。続きが気になってるんだから。でも、私物の持ち込みは禁止されてるのなら仕方ないわね。」

俺の質問には答えず、そう、残念そうに呟く堀北。

 

よく見ると、いつも整えられている髪の毛が乱れている。

いつも外見にも気を遣っている几帳面な堀北にしては珍しいことが気になった。

 

出来心でネタバレしたら殺されそうだ。俺は何も言わないことにする。

長い荷物検査を受けて、やっと島に上陸した。

 

――――――――――――――――――――――――

 

Aクラスの担任の真嶋先生が生徒全員を見下ろす台の上から話し始めた。

当然皆そっちの方を注目する。

 

「今日、この場所に無事に着けたことを嬉しく思う。一方で一名ではあるが病欠で参加できなかった者がいるのは残念でならない」

「いるんだよなぁ。旅行に毎回参加できないヤツ」

前にいた池が振り返って、珍しく俺に話しかけてくる。

いや…前向けよ。悪目立ちしてるぞ。

 

「では―これより本年度最初の特別試験を始める。」

今から無人島で遊ぼうなんて甘い、その幻想はぶち殺されていく。

 

「期間は今から1週間。君たちにはこれからの1週間、無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる。なお、この試験は実在する企業研修を参考にして作られた実践的かつ現実的なものであることを最初に言っておく」

 

「無人島生活って、船じゃなくてこの島で寝泊まりするってことですか?」

Bクラスの誰かがそんな質問をする。衝撃の事実を聞かされて、動揺してるDクラスとは違い、冷静に現実を分析してる奴がBクラスにはいる。この差は大きい。

 

「そうだ。試験中の乗船は正当の理由なく認められていない。この島での生活は食事から寝る場所の確保まで各自で行ってもらう。」

 

無人島でDクラスの面々と自給自足の集団生活か…。

真嶋先生の説明で事態を把握してきた池や山内は騒いでいたが、その行為には恥を晒す以外に何の意味も無かった。せめてこの二人くらいは別の括りにしてくれないだろうか。

 

だが、池や山内みたいに騒ぎ立てる事はしなくとも、この試験に納得してない生徒も多いようだ。

 

「今君たちはこう思ってるんだろう。こんな試験にどんな意味があるのか。だが、本当に一流企業に実在するものだ。それを何者でもない学生の君たちが頭ごなしに批判する?おかしな話だ。一例とした企業よりも格上の会社を経営をする社長ならまだ、批判する権限はあるかもしれないが、そうでない人間に否定できる根拠は無い。」

 

真嶋先生はそう言うが、それはおかしい話だ。その仮定ならその一例の企業の社長がどんな暴挙に出ようとも止められない。もし、デスゲームとかを開いても文句は言えない訳だ。いや、この学校なら参考にしそうな気配すらあるな。

 

その話は置いとくとして、評価する権利は誰にだってあるはずなのだ。

そんな思想で丸め込もうとするのは、些か政府運営の学校としてどうなんだと問いたくなるな。

その上、旅行と言う名目で連れてこられて騙し討ちのような真似。PTAは黙っていないぞ。

 

だが、生徒達の不平不満に構わず、説明されていく。

真嶋先生の説明を纏めるとこうだ。

 

・試験専用ポイントが各クラス300ポイント与えられ、そのポイントを自由に使って、必要なものを購入できる。

(各品の購入ポイントはマニュアルに記載)

・テント2つ懐中電灯2つ簡易トイレなど支給されるものもある。

・そしてその試験のポイントは残った分だけ2学期以降のクラスポイントに加算される

・非常時用にGPS搭載の高機能腕時計が配布。外したらペナルティ。(安全用)

・『リタイアすると−30pt』『環境汚染に該当する行為は−20pt』『毎朝8時と午後8時に点呼不在だと一人につき−5t pt』『他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物損害は即失格』『他クラスのスポットの誤使用−50pt』

 

ちなみに病欠していたのはAクラスの生徒だったため、マイナス30ptで開始時点から他のクラスより少ない270ptスタートになるそうだ。ペナルティが容赦なく課せられることの証明だった。

 

そして、追加ルール

・クラスで1人のリーダーにはキーカードが支給

・島にあるスポットでキーカードを使用すればその場所を占有できる

・占有した場所はそのクラスのみが使用できる

・占有1回につき1ボーナスポイントが支給され、8時間毎に占有権がリセットされる

・キーカードはリーダーのみ使用可能で、リーダーは正当な理由なく変更できない

・試験最終日に他クラスのリーダーを指名して、当たれば+50pt 外れれば−50pt。当てられれば+50ptかつボーナスポイントが無効。

 

こんなところか。真嶋先生は一方的な説明を淡々としていく。

今回の試験のテーマは自由だと言っていた。

甘美な旅行計画で生徒を騙し討ちしたことに対する言い訳にも聞こえたが、それだけではなさそうだ。

 

説明が終わり、後は担任が各クラスに詳細説明と質問に対する回答を受け持つようだ。

今回、各担任は管理監督者としてクラスに付き添うことが業務らしい。

 

茶柱先生は生徒の質問に一つ一つ答えている。

遠目からそれを見てると星之宮先生がやってきた。

 

「やっほ〜。綾小路君。元気してる?」

「こんにちは。…先生って服装は自由なんですか?」

星之宮先生以外の先生はジャージを着用しているが、この人は半袖のTシャツを着用しており、非常なラフな格好だ。体のラインもばっちり見えている。

 

「え、もしかして欲情しちゃった?ごめんね〜。それは保険医にはどうしようもできないかも〜」

この人は本当に教師なんだろうか…。

 

「ねぇねぇ、佐枝ちゃんの方見て」

反論の隙は無く矢継ぎ早に話を繋いでくる星之宮先生。

彼女の言う通りに、茶柱先生の方を向くと誰かに質問されたのか、簡易トイレの使い方をジェスチャーを交えてレクチャーしていた。

 

「茶柱先生がどうかしたんですか?」

「もうっ!分かってないなぁ。佐枝ちゃんみたいな生真面目でクールなタイプが、あのジェスチャーしてるのちょっと扇状的じゃない?」

「……」

たしかに。

流石に口には出さずに心の中で肯定しておく。

 

「星之宮先生!どこ行ってるんですかー」

俺が何か答えるよりも早く、一之瀬がこちらにやってきた。

どうか、星之宮先生には職務放棄で減給がされますように。

 

「あ、綾小路君。や、やっほ〜」

一之瀬は俺がいると思わなかったのか、びっくりしたようにモジモジと挨拶してきた。

 

俺が挨拶を返そうとする前に星之宮先生が割り込んでくる。俺が発言する時間をこの人はさっきから与えてくれない。

まあ、それを狙ってやってる訳ではないだろうな。目のつくもの全てに反応するタイプだ。

 

「んー?」

訝しげに俺と一之瀬の顔を交互に覗き込んでくる。

「あは!一之瀬ちゃんちょっと照れてる〜!!」

小学生低学年の男子の煽りにしか聞こえなかった。

 

「ち、ちょっと!星之宮先生!」

「あはは〜。可愛い〜。」

この人、本当に教師か??(2回目)

俺が一之瀬と星ノ宮先生の絡みについていけなくて、それを蚊帳の外でみていたら、頭上に痛みが走った。

 

「おい。お前、説明は聞いてたんだろうな」

ご立腹の茶柱先生がいた。はい。見てましたよ。簡易トイレですよね。ちょっと分かりにくかったので、もう一回やってもらっていいですか?

 

茶柱先生はマニュアルを持っていて、それで俺の頭上に制裁を与えてきたのは自明の理だ。しかも角を使ってきた。この人。

俺は頭を押さえながら苦悶の表情を茶柱先生に向けておく。

 

「私の説明を聞かずに、他クラスに油を売ってるとはいい度胸だな。綾小路」

「いや、それは誤解です」

「この場には星之宮と一之瀬。状況証拠は揃っている。言い訳は無用だ」

 

確かにこの場だけ見ればそうだけど、Bクラスの生徒ほとんどは向こうにいますよ。これ、俺が悪いんですか…。

この特別試験といい、茶柱先生といい、今日は不幸だ。夏のバカンスの幻想をぶち殺したのは教師側なんだから、そっちに不幸が行くべきなのに。

 

「綾小路君。大丈夫?ごめん。私が来たせいで…」

一之瀬が心配そうな表情を向けてくる。

実の所、もう痛みは引いている。これは茶柱先生に自分のクラスの生徒に手を出した罪悪感を出させるためにしてるモーションに過ぎない。

 

「いや。大丈夫じゃない。今回の特別試験。リタイアするしかないかもしれない」

「えーーーー!!ほんとに!?」

「おい、綾小路。まだふざけるのか?」

純粋無垢の一之瀬を揶揄っていると、茶柱先生から即座に横槍が入る。手にはマニュアルを携えている。

 

「一之瀬。前言撤回だ。だんだん痛みがひいてきた」

 

「…綾小路君?」

一之瀬はようやく俺が嘘をついたことに気付いたようで、唇を尖らせていた。

そして、そんなことはお構いなしに星之宮先生は俺の方に寄ってくる。

 

「痛いの痛いの飛んでけ〜。どう?これでもう痛くないでしょ?」

俺の頭を撫でて、満足気に笑う星之宮先生。

 

「養護教諭の免許って簡単に取れるんですね」

「ぶっ。」

俺のその言葉がツボだったのか、茶柱先生吹き出した。

 

「あー!ひどーい。馬鹿にしたー!」

「ぷっ。知恵。もう満足しただろ。自分のクラスに戻れ」

そう言って茶柱先生は軽く笑いながら、手で払うようなジェスチャーをする。

てか、星之宮先生から俺に構ってきたの知ってますよね。その言い方は。

 

「あっ!そうです。星之宮先生に聞きたいことがあったんです!!」

一之瀬も用事を思い出したのか星之宮先生と話し始めた。

 

「お前もだ。もう少し真面目に取り組め。」

俺は茶柱先生にクラスの生徒が固まって相談し合ってる場所に向けて背中を押される。

 

「あ、綾小路君、まったね〜」

「お互いがんばろうね。綾小路君」

星之宮先生と一之瀬に見送られ、Dクラスの面々の方に向かうことになった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

俺が合流すると、ポイント保守組と女子達が仮設トイレを買う買わない議論で揉めていた。台頭してるのは幸村と池コンビと軽井沢・篠原コンビか。洋介も仲裁に入っているが議論は止みそうにないな。

 

「簡易トイレなんて絶対無理!!」

「トイレなんかそれで我慢しろよー!クラスポイントの方が大事だろ!」

「まあ待って。皆、落ち着いて話し合おう」 

 

俺は割って入って、合理的かつ平和的な解決法を提案をすることにした。

 

「多数決で決めればいいんじゃないか?」

「あっ!それでいいじゃん。」

俺の案に軽井沢が乗るように言う。

クラスの大半が仮設トイレを使う方針だと信じてるようだ。

 

「まあ、勝手に決められるよりは…」

幸村は少し自信なさげにしていたがこの案に賛成した。

俺は洋介に目配せして、多数決の場を持たせるように促す。

 

「じゃあ、清隆くんの提案通り。多数決をしようと思う。無投票でも構わないので、参加して協力してほしい。」

 

多数決の結果。大差で仮設トイレが必要だという意見が勝り、仮設トイレの購入が決まった。俺が仮設トイレに挙げれば軽井沢グループの面々や佐倉、みーちゃんはついてくる。保守組が勝てる手立ては無かった。

 

幸村や池達のポイント保守組も多勢に無勢。渋々諦めるしかない。

個の力で一騎当千なんてのは、彼らには不可能だ。

 

「じゃあ、ベースキャンプを探そうと思う。それについて話し合いがしたい。」

洋介は特別試験が始まって、必死にクラスを纏めようとしている。だが、いつもより周りが見えてないな。

 

「洋介。ここは日差しが強い。少し木陰に入ってからにした方がいいんじゃないか?」

洋介は失念していたことを思い出したような顔をして言う

「うん。それもそうだね。」

 

俺は洋介を率先してフォローすることにする。

 

「じゃあ、洋介が先頭で先導してくれ。俺は最後尾で逸れるやつがいないか確認する」

「清隆くん。ありがとう。じゃ、後ろは任せたよ。じゃあ、みんな。ひとまずは僕についてきて」

洋介は重そうなテントを率先して持って、皆を先導した。

 

こうして、皆で森の中へ移動することになった。

 

――――――――――――――――――――――――

 

堀北はクラスに居場所がない。

Dクラスの生徒の集団を後ろからついていく形をとった、堀北が最後尾にいる俺とは必然的に近くなった。

 

堀北が重たい溜息をつきながら言う。

 

「先が思いやられるわね。」

「仮設トイレの件か?」

「ええ。」

「お前はどっち派だったんだ。」

堀北は多数決で挙手していなかった。自分の意見を持っている堀北にしては珍しいことだ。

 

「1ポイントでも多く残したい私と何が起こるか分からない未知数な無人島で生活の質を少しでも確保したい私がいたわ。だから、どっちも選択できなかった」

堀北はこの先の見えない1週間に不安を抱えているようだった。

「なるほどな」

 

「今回の試験思ったよりもずっと複雑で難解な試験と言えそうね。」

「そうだな。それより、お前大丈夫か?」

「なにが?」

少し睨むような視線を向けてくるので何でもないと答え視線から逃げておく。

 

「他のクラスの動向も気になるわね。他クラスが徹底的にポイントを抑えるようなら、私たちも我慢する他ない。こんな試験で差を広げられるわけにはいかないもの。」

「こんな試験ね。。」

「何?」

「いや、何でもない。頑張ってくれ。応援してる。」

「他人事ね。あなた。」

「いや。俺もポイントは欲しい。俺なりに頑張るさ。」

それに、頑張らなきゃならない理由が他にもあるからな。

 

――――――――――――――――――――――――

 

俺達はベースキャンプを探すために、3人1組の探索組をいくつか作って探索することになった。まあ、無難な策だな。洋介はここに残ってみんなのまとめ役をかってでた。

 

俺は探索組として参加することにした。

俺のメンバーは松下とかや乃となった。

比較的、運動ができるメンバーになったな。

 

みーちゃんや佐倉といった運動能力に不安が残るメンバーも俺が探索組になることを知って、探索組として挙手しようとした。だが、俺が体力を温存しておいた方がいいとアドバイスして事前に止めておいた。彼女らはこういう探索には向いてないからな。

 

ちなみに池、山内は颯爽と二人組を組んだが、余った一枠に入ろうとする者はいなくて、余った高円寺と組んでいた。問題児二人と異端児一人の不安要素が多いメンバーだ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「綾小路君、迷いなく進んでるけど何か手掛かりはあるの?」

俺の迷いのない足取りをみて、松下が問いかけてくる。

 

「ああ。ペース落とそうか?」

俺は二人を見て、気を遣った風に話しかける。

 

「私は大丈夫だよ〜」

「私も大丈夫。結構進んでるから迷わないか心配しただけだから。」

速めのペースで探索してるが小野寺かや乃は俺に並ぶようについてくるが息一つ切らしてない。毎日の運動の賜物だな。

松下も思ったより体力はあるようだ。汗はかいているが疲れた様子も見えない。

 

「来た道は覚えてる。問題ない。それに、もう少しで着く。」

俺は意義ある景色とやらで学校側がスポットに指定しそうな場所をいくつか見つけていた。俺のルートはそれに向かってほぼ直進の最短ルートで進んでいる。元の場所には問題なく戻れる。

 

「あ!あれ道じゃない?」

「そうみたいだな」

無人島の森の中から、人が切り開いた道が見えた。

そこには山の一部にぽっかりと空いた洞窟のようなものも見えた。恐らくあれは学校が用意したスポットの1つだろう。

 

「あれ、もしかしてスポットじゃない?」

松下もすぐにその可能性に思い当たったようだ。

3人並んで洞窟を見ていると、洞窟の中から人影が見えた。

 

俺は両隣にいた二人の肩を組むように手を伸ばして、口を押さえて茂みの影に潜むように抱き寄せて、腰を下ろす。

 

二人は戸惑っていたが、状況がわからない今、姿を見られるのは避けたい。

かや乃は存外大人しくしていたが、松下は暴れようとする。だけど、それも洞窟から出てきた男二人の声が聞こえて大人しくなる。

 

「こんな大きさの洞窟なら、テントは2つあれば十分ですね。それにしても、運良くスポットを見つけられて良かったですね葛城さん。」

「運?お前は何を見ていた。上陸前からここに洞窟があることは見えていた。運なんかではなく必然ということだ。それに、お粗末な発言には気を付けろ。俺にはリーダーとして監督責任がある。聞き耳を立てている奴がいるかもしれない」

「す、すいません。でも、上陸前からって言うのは?」

「この島に上陸する前、客船は不自然にこの島を一周回った。それにアナウンスの表現も変だった。」

「な、なるほど…。」

「俺には全然気付かなかったです!流石葛城さん!学校の意図を見抜いてたんですね!」

「もう次に行くぞ。弥彦。スポットが押さえられた以上長居は無用だ。」

 

そういう、スキンヘッドの男の手にはカードのようなものが握られていた。

遠ざかっていく男達の声が微かに聞こえてくる。

 

「これで、坂柳派も黙るしかありませんね!」

「内側ばかりに目を向けていると足元を掬われるぞ」

「でも、警戒するとしたらBクラスくらいですよ?Cクラスは勝手にクラスポイント減らしてますし、Dなんて論外です。」

「お喋りは終わりだ。早く進むぞ。」

 

俺はその男達の声が聞こえなくなってから、更に2分ほど、物音を一切立てずに待つ。

 

「行ったか…。」

俺が確認してそう一息ついた時。松下はするりと俺の手を抜け距離を取る。

一方かや乃は固まっているようだ。俺はかや乃も解放して、立ち上がる。

 

「悪かったな。二人とも。」

俺が声をかけたことでようやく、金縛りから解けたかや乃が俺を見上げる。

 

「…う、うん。大丈夫だよ〜。あはは。気にしないで。綾小路君」

いつも快活な印象があるかや乃にしては、ぎこちない返事だった。

 

松下は溜息をついて、俺を睨むようにして言う。

 

「…まあ、確かに仕方ない状況ではあったけどさ〜。綾小路君―」

「悪い、その話は少し後でもいいか?今すぐ確認したいことがある。」

俺は松下の言葉を遮って、二人にここで待つように言い渡す。洞窟に走って駆け寄った。印象はよくないが余計な時間食って他の人が来たら面倒だから仕方ない。

 

洞窟内にはスポット占有する機械が備え付けられていた。

Aクラスが占有していることと、時間が表示されている。

その時間は5分前に占有したことを雄弁に語っていた。

 

Aクラスのリーダーはあの二人のどちらかに間違いないようだ。

俺は満足できうる情報を得たので、すぐに松下やかや乃が待っている位置に戻った。

 

「で、どうだったの?」

 

松下が率直に問いかけてくる。

彼女は先程のAクラスの2人の会話で俺が、ここを目的として探索してきたのを理解しただろう。だから、俺が松下の話を遮った後、洞窟に向かったのを止めなかった。

 

「私たちにセクハラして、意義ある情報は取れたか聞いてるんだけど?」

俺がすぐに答えなかったからか、そんな風に補足してきた。

 

「いや、その件は悪かった。あのスポットはAクラスに占有されてた。」

「ふーん」

いつもと違い、返しが淡白なことを見ると相当ご立腹のようだ。

 

「ほら、かや乃ちゃんも話聞いてたでしょ。もう行くよ」

突っ立ったままぼーっとしてるかや乃に松下は声をかける。

 

「うん。もう大丈夫。」

「悪かったな。咄嗟に触ってしまって」

俺は再度謝って、来た道を戻るように歩き出す。

二人も俺の後についてくるように並んでついてきた。

 

松下とかや乃はこそこそ何かを話している。

それをやめたと思ったら俺に並ぶように右隣に二人並んできた。俺と松下でかや乃を挟むような形だ。

 

「ところでさ、綾小路君。」

松下が話は変わるけどと前置きして話しかけてくる。

 

「なんだ?」

「みーちゃんのこと聞いていい?」

疑問系だが、これを断っていい未来はあまり無さそうだな。かや乃も俺のことをアルカイックスマイルで見上げている。

 

「答えれることなら構わない」

みーちゃんが、あの夜のことを松下やかや乃にどう話してるか分からないが、ありのままを答えるしかないな。

 

「ちょっと気になる言い方だけど。じゃあ、質問一つ目!みーちゃんに何て告白されたの?」

「それ、俺じゃなくてみーちゃんに聞いた方が良くないか?」

「みーちゃんに聞いたけどその部分ははぐらかされちゃって。」

「なるほどな。じゃあ、俺も答えない。みーちゃんが恥ずかしがった理由は分からないけど、みーちゃんが話したくないことを勝手に俺が話すのは俺が嫌だからだ」

 

かや乃は俺の言葉を聞いて、何かに気付いたような顔をしていた。

松下も俺が話さない理由には納得したようだ。

 

「それもそっか…。じゃあ、1個だけ、聞いていい?」

俺は顔で言葉の先を促す。

 

「みーちゃんのこと好きなんだよね?」

「ああ。」

俺は間髪入れずに答える。この部分だけはぶらす訳にはいかないからな。

 

「じゃあ、なんで付き合わなかったの?」

果たして,松下はこの質問をしてくる。

恋人にならないという選択は俺が望んだもの。その答えを明確に持ってるのは俺だ。

 

「付き合わない方がいいからだな。」

「どういうこと?」

「悪いがこれ以上は答えられない。でも、みーちゃんを悲しませない上でそれが一番大事なことだ。それだけは言える」

「……。つまり、みーちゃんの為にその選択をしたってこと?」

「それだけは確かだ。」

かや乃は俺と松下の会話を真剣に聞く姿勢を見せている。

 

松下は今の言葉をどう解釈するだろうか。

かや乃は今の言葉をどう解釈するだろうか。

 

その話はこれっきりで終わったが、その解釈が俺にとって都合の良い方向に進むことを祈るばかりだ。

 

俺達は元の集合場所に戻ると、櫛田探索チームが川の近くにあるスポットを見つけたようだ。俺達Dクラスはそこにスポットを構えることとなった。

 

池と山内と高円寺は集まる時間になってもまだ帰ってきていないようだった。

 

 




無人島編も少しずつ進めていきます。
例に違わず、茶柱先生による脅しで綾小路は少し本気を出さざるを得ない状況に陥ってます。

補足
軽井沢は意外なことに原作では簡易トイレ派なんですよね。
けどこっちでは軽井沢が仮設トイレ派で書いてます。
これも一応今後の伏線のつもりです。


松下が綾小路から距離を取るような姿勢を見せたのは汗をかいていたからです。

小野寺かや乃は今まで、男に触れられた経験が無かったため綾小路と急接近して心が揺さぶられているという感じにしました。


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