綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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#15 童貞は火に入る夏の虫

 

池・山内・高円寺が戻ってきていない以上、この集合場所を離れるわけにもいかない。

道に迷ったのか又は時間を失念してるのかは分からないが、待つ他に方法は無かった。

 

集合時間が過ぎて一時間が経った。

Dクラスの面々のヘイトは当然、その3人に飛んでいく。

あの3人が意気揚々と飛び出していった時、こんなことになるとは誰も思っていなかっただろう。

洋介は必死にクラスの空気を保っているが、もう待つという選択は取れない。

 

カリフォルニア州立大学リバーサイド校の心理学教授Kate Sweenyの研究によるデータによれば、待つ行為はネガティブな思考に陥りやすい。

人は先の未来に不確実なものやコントロールできないものに不安を覚えるからだ。

 

洋介にはそれが分かっていない。

池達3人をどうにかして見つけて合流させる方向で動いている。

 

「茶柱先生。池君達が返って来なくなったんです。もしかしたら事故にあっているかも知れません。」

洋介はDクラスを傍観している茶柱先生に相談する方向に舵を切った。

池達3人の状況を悪い風に表現して手を借りようとしている。

 

「そうか。それは残念だったな」

「何か取れる手段はありませんか」

「あると言えばある。だがそれには代償を必要とすることは言うまではないな。これは試験だからな。」

俺たちが払える代償は未来のクラスポイントになるものしかない。

 

「どれだけの試験ポイントが必要なんですか」

「試験ポイント15ptあれば、それで対象の確実な位置情報を教える事ができることになっている」

 

15ptで一人の位置情報が得られる。

もし、集団で迷っているなら15ptの出費で済むことは洋介にも理解できるはずだ。

集団で迷っているのなら、だが。

 

「みんなどうかな?」

洋介は明るく振る舞いそう問いかけた。

 

「そんなポイントを使っている余裕は俺らにないんじゃないか?」

ポイント保守派の幸村はそう反論する。先程のトイレ議論の時は仲間だった池を慮る気持ちは一切無いようだ。

 

「幸村君の話もわかる。でも、大変な探索組を率先して受けてくれた彼らには使う価値があると僕は思う」

幸村は当然、探索を渋った側。そんな生徒が攻める道理は無いと洋介は説き伏せる。

 

洋介においてクラスメイトより試験のポイントの価値が優先されることはない。

そして、れに不満を持っていても、その反対の論理に正義はない。

池達を切り捨てる発言になるからだ。

 

櫛田も洋介の先に光明があると思ったのか便乗する。

15ptなら、、と賛同する生徒も増え始める。

たかが15pt払うだけでこの膠着状態を抜けれるなら惜しみはしないだろう。

この場の流れが洋介の方針に流れ始めたのを感じた。

 

仕方なく口を挟むことを決める。

 

「洋介。ポイントを使う前に確認したいことがある。その教えてもらえる位置情報は継続的なものなのか?」

皆が失念していた箇所を指摘する。

洋介は茶柱先生にどうですかと問い掛ける。

 

「位置情報は私が確認した時のものを教える。」

「つまり継続的なものではない…」

洋介に賛同していた者たちの希望は消えていく。

 

「ならば、使わない方がいい。その時の位置情報を追っても二の舞になることは目に見えている」

洋介がどうすればと弱音を吐く前に言葉を被せる。

今、洋介に潰れられるわけにはいかない。

 

「だから、今からの行動について、提案してもいいか?」

クラスの面々がこっちを向いた所で話始める。

 

「今から、櫛田が見つけたスポットに行き、ベースキャンプとして占有する。そこからはテントの設立から食料の確保、マニュアルで買うべき物の精査。それを手分けしてこの一週間の生活の基盤を整えてもらいたい。」

「それは分かったけど、池君たちはどうするの?」

櫛田が先陣を切って問い掛けてきた。

 

「そして別行動として平田と何人かはここで待っててもらいたい。池達が帰ってきたときの為だ。そして夜の点呼の2時間前までに戻って来なかった場合はポイントを使おう」

残す生徒に平田を人選したのは、池達が帰ってきた時の対処もうまくできるからだと補足する。

 

「なるほど。いいんじゃないか?」

幸村が賛同してくる。幸村だけじゃなくほとんどの生徒の反応は好感触だ。

後は洋介だけだ。

 

「どうだ?洋介」

「池君達を見捨てるつもりはないんだよね?」

「当たり前だ」

「うん。分かった。清隆君を信じるよ」

洋介が乗った所で方針は固まった。

 

洋介は間違っている。

洋介の不安の種は3人の行方かもしれないが、他の生徒の悩みの種はこの後どうなるんだろうという不安。

 

俺は提案と言ったが、あれは明確な指示。

指示を得た皆は水を得た魚のようだった。もう池達3人のことなど本気で心配してる人間など洋介を除いていない。

 

――――――――――――――――――――――

 

櫛田捜索班先導で俺達はスポットに辿り着いた。

洋介含んだ5名の生徒には先程の集合場所に残ってもらっている。

 

「今から占有しようと思うんだけど、リーダーどうしよっか?」

 

櫛田はそんな風に切り出した。占有にはリーダーを決める必要がある。

誰も立候補せずに無言の時間が流れた。

31人いて、無言って中々見れるものじゃない。Dクラスの主体性の無さが浮き彫りになった瞬間だった。

 

「綾小路君でいいんじゃない?さっきも助かったし」

「賛成〜」

軽井沢の提案を仕切りに俺が白羽の矢が立つ。

 

「まあ、俺は特に不満はないが…」

特に誰からも反対する声もなく決まっていく。

 

「うん。私も清隆君がいいと思う。」

みーちゃんも流れに乗るように、最後の一押しとばかりに俺を推した。

 

「え?清隆?」

誰かが、みーちゃんのその呼び方に反応する。

そして、夜の自動販売機に集る蝿のようにみーちゃんは取り囲まれ、質問の嵐になった。

 

議題が流れて取りまとめていた櫛田が困ったように俺に近付いて俺にだけ聞こえる声で話してくる。

 

「綾小路君。あれ見て、夜の自動販売機に集る蝿みたいって思ったでしょ」

「え?」

声に出してないよな…?

 

「駄目だよ〜。女の子を蝿なんて比喩表現したら。」

「いや、全く思ってなかったが。」

「え〜。ほんと〜?綾小路君なら思ってると思ったけどなー。群がる女子の声が蝿の羽音に聞こえて五月蠅い〜って」

いや、ほんとにそこまでは思ってない。

 

「…それは、櫛田がそう思ったからか?」

「私がそんなこと思うわけないじゃん〜」

そう言い残して櫛田は茶柱先生の方に走って行った。

櫛田は相当鬱憤が溜まってそうだな。俺が冗談で思ったことを本気で思ってそうだ。

 

「はい、これ。」

櫛田が戻ってきて、こっそり渡してきたのはクラスのリーダーカード。

 

「…ああ。ありがとう。」

「絶対っ!誰にも見せないでね」

まあ、櫛田の忠告通りリーダーの情報を漏らす訳にはいかないからな。

俺は櫛田からリーダーカードを受け取り、櫛田とその他何人かクラスメイトを連れ沿って、俺達はスポットを占有した。

 

そこからは櫛田にテントの設営等々を任せて、平田の元に戻ることに決めた。

だが、一人で行くわけにはいかない。誰を呼ぶべきか、迷っていると解放されて少し疲れた様子のみーちゃんが寄ってきた。

 

「丁度いいところに来た。今から洋介の方の様子を見にいくんだ。ついてきてくれ」

俺はそう言ってみーちゃんを連れて、寄るべき所に寄る。

 

「茶柱先生。今から洋介の方に向かいます。付いてきてください。位置情報を使わせてもらうかもしれません」

テントの中にいる茶柱先生にそう声を掛けた。

テントの入り口がチャックのタイプのテントだ。

 

「そうか。分かった。ちょっと取り込んでる。少し待て」

中からカサカサと物音が聞こえる。

 

俺は興味本位で問いかけてみる。

 

「テント。開けてみてもいいですか?」

「っっな!あ、綾小路。開けることは許さん。開けた場合、お前は即失格になることを覚悟しておけ」

茶柱先生は早口で脅しをかけてくるが、そうはならないという自信があった。

 

俺は隣にいたみーちゃんに目配せで開けるように指示する。

 

「え、だ、だめだよ。綾小路君。」

みーちゃんは俺にだけ聞こえる声でそう言う。

 

「みーちゃん頼む。これは本当に大事なことなんだ。」

みーちゃんは最後まで迷っていたが、俺が真剣な表情をしてるのを見て決意する。

 

「ごめんなさいっ!」

 

みーちゃんは謝るのと同時にテントのチャックを一思いに開いた。

そこには茶柱先生の健康的で白い背中に黒い下着がよく映えた景色が広がっていた。

汗を拭いていたのかテントの床にはピンク色の可愛いタオルが置いてあった。

……うん。良いコントラストだ。

 

てっきり、俺は散らかりまくった部屋を必死で片付けてる物音だと思ったら、衣擦れの音だったらしい。

茶柱先生の以外にも片付けができないとかいうお茶目な一面を暴こうとしたら、胃が痛くなってきた。

 

俺の景色に広がっていた煌びやかなコントラストは数秒後真っ白になっていた。

こっ、これが、、ホワイトルーム。。ドサッ。。(地面に倒れる音)

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

目が覚めた時、徹底して茶柱先生に声を掛けた後からの記憶が無くなったと言い張ったのだが、茶柱先生の鬼の形相は一向に緩まらない。

 

「すいません。まさか、職務中に着替えてるとは思わなかったんです」

俺は逆に開き直ることに決めた。

 

「私は開けたら、失格にすると言ったよな?」

「開けたのは俺じゃなくみーちゃんです。この事件は純粋無垢なみーちゃんに罪を問うべきです。ですがこれは5歳の子供がちょっと悪戯しちゃったようなものです。許してあげてください。」

「き、清隆君!!?」

突然の裏切りかつ幼児体型を比喩されて、みーちゃんは声をあげた。

 

俺は茶柱先生に対して強気で出ていく。

俺が茶柱先生にさせられていることを思えば、これくらいの報復は許されていいはずだ。知らんけど。

  

「王。開けたのはお前で間違いないのか?」

茶柱先生の標的はみーちゃんに移る。

みーちゃんは俺に助けを求めるような目で見てきたが、俺も真似て助けを求めるような目で見返す。

 

「…は、はい。私です。」

俺が唆したとは言え、事実は事実。そこは証言してもらわないと困る。

 

「そうか。なら、今回は不問にする。だが、次は無い。肝に銘じておけ。」

茶柱先生は五歳児の悪戯を許せる寛大な心を持ち合わせてたようだ。これで、将来結婚しても安泰ですね。

みーちゃんは許されたことを不思議に思っているようだが、みーちゃんにとってはその不思議よりも許された事実の方が大きいようだ。ホッとしている。

 

俺とみーちゃんは並んで歩き、茶柱先生は後ろからついてくる形で洋介の元に向かう。

俺はみーちゃんに話を振ることにした。

 

「さっきは大変そうだったな。」

リーダー決めの時の話を振る。

 

「そ、それ!清隆くんも説明してよ~」

「説明も何も名前で呼んでるだけじゃないか。そんなに変か?」

「そ、それはそうだけど、清隆君のこと名前で呼んでるの私と平田君くらいだから、目立つんだよ~」

確かに今、俺のことを名前で呼んでるのはその二人だけだな。

 

「じゃあ、名前で呼ぶのは止めるか?」

「そ、それは。だめ。やめない。」

「そうか」

「だって、清隆君も…やめてほしくないでしょ?」

「ああ。それ以外で呼ばれても答えるつもりはない」

「それは拗ねてるってこと?」

みーちゃんは嬉々とした顔でそんなことを聞いてくる。

 

彼女が今後、俺のことを名字で呼ぶことがあるとしたら、それは破局を意味する。

 

俺はみーちゃんの手を握る。

「ああ。もし、苗字で呼ばれたら1年は口を利かないかもしれない」

「ええっ!!そんなに!?」

「ああ。それくらい俺は嬉しく思ってるということだ」

俺がみーちゃんにあげた名前で呼ぶ権利は形のない結婚指輪みたいなもの。片方が捨てればそれは終わりの証だ。

 

「お前ら二人とも、反省の色が見えて私は嬉しいよ」

手を繋いで楽しそうに話してる俺らを見て皮肉を言ってくる茶柱先生。

 

「茶柱先生もどうですか?片方空いてますよ?」

俺はみーちゃんと繋いでない方の手を見せてアピールする。

 

「綾小路。いい加減にしろ」

いつもより一際低い声で、茶柱先生は俺を睨む。

みーちゃんがいなかったら俺にも反論の余地はあったんだけどな。

こう凄まれてしまうと、みーちゃんがいる状況では何も出来ない。

 

見たことの無い茶柱先生にみーちゃんが怯えている。

俺はみーちゃんに耳打ちする。

 

「茶柱先生、照れてるだけだから。」

みーちゃんは半信半疑なようだったが、俺が平然なのを見て、少しは安心したようだ。

 

ほんと、茶柱先生は罪な人だ。強欲の罪の他に嫉妬の罪も持っているらしい。

これは子供泣かせるタイプだな。結婚できないぞ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「洋介。池達は?」

「いや、まだだ。」

洋介は芳しく無い表情を浮かべて言った。

既に、集合しているはずの時間から2時間は経っているな。

 

「みーちゃん。ここから、ベースキャンプまでの道のりは覚えてるだろ?洋介達5人をベースキャンプに連れてってくれ。」

「え、清隆君は?」

「問題ない。少し経ったらすぐ戻る。そのあとベースキャンプから、池達を探しに行こう。」

「わ、分かった。」

 

洋介にも心配されたが、信じてくれとだけ言って下がらせる。

みーちゃんは洋介達を連れて、ベースキャンプに向かって行った。

 

 

俺は大きく伸びをする。

「あーーー、やっと解放されました。」

「何からだ?」

「責任からです」

「そうか。ご苦労だな。だが逃げられない運命もあるんじゃないか。お前には」

「貴方の言ってるそれは、運命じゃなくて作為的な悪意ですよ」

「名前は何でもいい。逃げられないことには変わらないんだからな」

 

俺はこの旅行が始まってすぐ、茶柱先生に呼ばれた。

茶柱先生の話の内容を要約すると「このクラスをAクラスに上げるために協力しろ。じゃないと退学させる」という脅し。

俺はそんな話に聞く耳を持たなかった。

 

「お前の父親は言ってきた。綾小路清隆を退学させろと」

茶柱先生が下卑た笑みでそんな言葉を吐いてくるまでは。

 

俺は茶柱先生の胸倉を掴み、目を合わせる。

「あんた、ほんとに教師か?」

「ここで決めろ、綾小路。私の要求を飲むか。私の手によって退学し父親の下に戻るか。」

俺は目を合わせて確信する。この教師は本気であることを。

 

これが今、俺と茶柱先生にある背景ーー

 

俺の父親が学校に俺の退学を迫ってきた。

この茶柱先生から告げられた事が事実かどうかを証明できない以上、俺は今、茶柱先生の奴隷となるしかない。

 

俺の計画はこんなところで終わらせる訳には行かないからだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「ああ。。美しい。大自然に悠然と佇む私は何よりも美しい!これぞ、究極の美!」

高円寺は大木の枝から枝へ飛び移るようにどんどん進んでいく。

 

「おい。高円寺に置いてかれるぞ!」

「いや、池。ほっとこうぜ。どうせ考え無しに動いてる馬鹿だ。」

「ダメだ!絶対!高円寺と離れないようにって言われたんだ」

「は?誰にだよ」

「…櫛田ちゃんだよ。それにこの試験でいい感じに結果を出せば名前を呼んでいいって…。」

「は?それ先に言えよ!俺が先に手柄をとって桔梗ちゃんって呼ぶ!」

 

「はっはっはーー」

「くっそ、あいつはえぇ!」

「待てって!高円寺ーー!」

 

高円寺は大木の上に仁王立ちして立ち止まって振り返る。

 

「醜いねえ。究極の美は相対性など求めていない。個体で完結してるものなんだよ。分かるかい?」

「はァっ、はァっ。」

帰ってきたのは、池と山内の荒い息遣いのみ。

 

高円寺は返事になんて最初から期待していなかったようですぐに進み出す。

池も山内もほぼ全速力で高円寺に張り付く。

だが、それも時間の問題。

 

「アデュー」

高円寺にはさらに加速していって見えなくなっていった。

 

「くっそ!見失ったー!!」

「てか。やべえ。ここどこだ。」

池と山内は甘いバカンスに夢を見ていた。

試験が始まって、その途切れた夢の続きを櫛田が匂わせる。

 

女の子が甘いものに目がないように、

童貞もまた、甘いものに目がなくなる。

 

そして、もう周りが見えなくなっていた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

「どうするつもりだ」

「その前に一ついいですか。」

茶柱先生が肯定を示す前に俺は話す。

 

「茶柱先生はこのクラスを必ずAクラスに上げたいんですよね?なら、何故、洋介の質問に対してさっきは変に誤魔化したんですか」

俺が言っているのは、位置情報の件。この人はクラスが間違った方に進むように誘導した。

"確実な"位置情報なんて表現するのはどう考えてもおかしい。強調するように言って、本当に重要な部分は隠蔽されていた。

 

俺は茶柱先生が答える前に答えを押し付ける。

 

「俺を試しましたね?」

 

茶柱先生は表情を上手く隠しているつもりかもしれないが、俺には雄弁に肯定を示しているようにしか見えない。

だが、こんなのは所詮、言葉遊び。だがそれだとしても稚拙な罠だった。

こんなことをしてほんの少しの俺の力への信頼を得て、私腹を肥やしてどうなる。

この人は追い込まれている。それがよく分かることだった。

 

「これは貸しですよ。茶柱先生。今、返してください。」

「何を言っている」

「位置情報には代償が必要。それを俺のプライベートポイントの後払いで売ってください」

 

ポイントではこの学校のありとあらゆるものが買える。だから位置情報の権利を買うのは正当だ。

だが、俺の予想では、後払いで購入するのは不可能だと考えている。

だから、俺の要求はその後払いの話を飲むことだ。

 

「ふっ。面白い。いいだろう。一人1500、6万ポイントで売ってやろう。」

「違いますね。58500ポイントの間違いでしょ」

「目ざといやつだな。ならそれで飲もう」

「いいんですか?そんなにすぐに撤回して。言葉が軽くなりますよ。」

「いいさ。どうせ私の言葉には常に半信半疑でいてもらわなくちゃ困る」

「…それに、5割も事実の可能性があればお前が動く理由には十分だろう?」

誰だって、生きるか死ぬかの選択を勝率5割のギャンブルの卓にはベットできない。

俺の貯めてきたポイントはこれで底をつきたな。。

 

「いつこれを使う?あまり暗くならない方がいいだろう?」

「慌てないでください。まだ揃っていないピースがあります。」

「ピース?」

「綾小路君。いる?」

 

そこに櫛田がやってきた。

「綾小路君の言われた通り、平田君と代わってきたよ。」

「ああ。ありがとう。今から、走ることになるがいけるか?」

「うん。私、走るのだけはそこそこ得意だから。」

 

俺と櫛田のやり取りを先生は黙って見ていた。

 

「では、位置情報を教えて下さい。」

「ここから、北北西に直線距離で1,1kmだ。今そこにいる」

恵方巻かよというツッコミは置いて、俺は北北西へと走り出す。

1.1kmか島のサイズ考えると結構遠いな。

櫛田も遅ればせながら付いてくる。

 

1.1km…。俺なら3分のカップラーメンができるよりも速く走れる。

 

だが、それは俺一人ならの話。

俺は櫛田が早々についてこれないことを察して、腰に手を当てて押す。

 

「きゃっ。」

触った瞬間悲鳴を上げたが、速度もどんどん上がっていく。

「はっや。なにこれ…。」

櫛田が転ばないように徐々にスピードあげるが、足場がだんだん悪くなってくるため止まる。

 

俺は櫛田の腰から手を離す。

櫛田は自分の限界を超えた速さで走ってたこともあり、大きく息切れしている。

後、目的地まで350mのはずだ。

 

「悪いが、急いでる」

俺は櫛田を前から抱きかかえてトップギアで森を駆け抜ける。

位置情報があった場所まで着くと、誰かが踏み荒らしたような後がある。

 

「櫛田。頼む」

最後の後半は自分の力で走っていなかったから、息切れも落ち着いている。

櫛田は大きく息を吸込み、声を出した。

 

「寛治くーん! 春樹くーん!」

クジラは800m離れていても、他の個体と意思疎通が取れる。

思わず耳を塞ぎたくなるようなこの櫛田の声は彼らにきっと届いただろう。クジラの半分くらいのデシベルは観測している。

 

俺がここに辿り着くまでの時間、彼らが歩いていたとしても400mに満たない。

そして、これは何より、彼らが求めていた女神のソプラノに違いないからだ。

 

櫛田の声に気付いた、池達は、

俺達の方に叫びながら走ってくる。

 

「「桔梗ちゃーーん!!」」

「ばっか。俺の桔梗ちゃんだ!」

「は?俺の匂いを辿ってきたに決まってる!」

 

いつもと変わらず、下らない喧嘩しながら、こっちに走ってきて合流した。

その後は何事もなく、帰ることができた。

いやあ。めでたしめでたし。

 

…あれ?一人いなくね?

 

その頃、豪華客船に一人の男が船首のてっぺんで高らかな声を上げていた。

 

「薄っすらと光る月明りは、水の滴る私によく映えるねえ…。ここを私の特等席にしよう。」

船内の職員のルフィかよというツッコミが高円寺に届くことは無かった。

 

高円寺六助。リタイア。 Dクラス -30pt。

 

 

波乱万丈の無人島生活一日目は終わった。

 





補足。
ここまでくれば丸分かりですが、今回の試験。綾小路は茶柱先生の脅しを受けて、二人の女の子と手を組んでます。一人はもう確定したようなものですね。
まあ、もう一人も伏線だけはそこらに張ってます。

綾小路が要求されたポイントはクラスポイント15ptのクラス全員のプライベートポイントの価値です。茶柱先生は40人で計算してたので綾小路は須藤を除く39人で計算し直した形です。

そして、無人島で高円寺がリタイアするのを止めるのは不可能^_^
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