綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
―軽井沢恵の独白―
私は一人では生きていけない。
中学の時、嫌というほどそれは実感した。
あの悪夢を見るような日々は、私を破壊して、青春も友達もすべて失った。
もう、あんな夢を見るのは嫌だ。
同じ目に遭うのは嫌だ。
青春も友達も必要ない。私はただ私を守ってくれる存在が欲しい。
その為なら何だってする―それが私。寄生虫。
中学から遠く離れたこの場所には今までの私を知ってる人など居ない。けれど私は焦っていた。
また同じ事を繰り返してしまうんじゃないかって。
だから一刻も早く後ろ盾になってくれる存在が欲しかった。地位も立場も保証してくれて、そして何よりピンチの時に助けてくれる。そんな存在が。
今なら分かる。幼児が王子様に夢を見てる。これはそんな話だ。だって、そんな私に都合のいい存在はただの偶像で、妄想でしかない。
私にとって入学1日目がこの先の運命を決める分水嶺だった。
自己紹介を先導した平田洋介君。
この人が今後このクラスで台頭する人物だと思った。だから、洋介君の発言には誰よりも先に乗っかって肖ろうとした。
だけど、須藤君とかいう空気の読めない不良が平田君が作った雰囲気をぶち壊した。その時の平田君の表情に僅かだけど影が差した。
その影は中学の時、私が悪夢を見てる間、傍観してた人に似た既視感を感じた。
私が感じたその既視感は私の心にしこりとなって残った。
その時だ。綾小路君が発言したのは。
その場の暗い空気を変えていく様は少し頼りになる感じがした。
私が平田君に不安が残ってた時に現れた人。私は少し迷ったけど綾小路君ととりあえず話してみようと思って呼び出した。
話して分かったことがある。
綾小路君は自己紹介の時のように陽気で剽軽な人じゃなかった。
あれはクラスの空気が悪くなったのをどうにかするための手段でしかなかったって。まだ始まって間もない何の思い入れのないクラスを助けるために動いた綾小路君なら、初対面の私も助けてくれるんじゃないか。そう淡い期待を抱いてしまった。
いや違う。私は私一人で抱えきれない重荷を誰かに早く支えて欲しかった。
弱い私が強い私を偽って、潰れてしまう前に。
誰かに弱い私を吐き出してしまいたかった。
それが、綾小路君だった。
彼は私に地位も立場も与えてくれなかったけど、後ろ盾になる事だけは約束してくれた。
それだけで私は明日からも、強い私でいられるはずだった。
――――――――――――――――――――――――
『これより、学校所有の無人島に上陸します―』
アナウンスで荷物を持って30分後に集まるように放送がかかった。このタイミングだな。
俺は松下、佐倉、みーちゃん、椎名と分かれて荷物を取りに部屋に向かった。
客室の番号は俺の部屋を示すものじゃない。軽井沢がいる部屋だ。
俺はノックして、中にいるはずの人物を呼び出す。
「は~い。」
出てきたのは佐藤だった。
「え?あ、綾小路君!?ど、どうしたの?」
「ああ。軽井沢いるか?」
「軽井沢さんね。い、いるよ。ちょっと待ってね。」
「軽井沢さん~。綾小路君が~」
そうして、俺が部屋の外で待っていると、軽井沢がやってきた。
「珍しいじゃん。どうしたの?」
「少し、話がある。ついてきてくれ」
俺はそれだけ指示して歩き出す。
「…ちょ、ちょっと。用件くらい言いなさいよね」
そうは言いつつも軽井沢はついて来た。
この時間。皆は無人島に上陸する準備している。
だから、人の目がつかない場所は幾らでもあった。俺は誰も来ることがない温水プールの近くにやって来る。
「ここら辺でいいな」
「あんたほんと人の話聞かないわね。それで。何?」
ついてきている間、軽井沢を無視し続けていたからな。
あまり時間に余裕もないのですぐに本題に入ることにする。
「軽井沢。俺は役に立ったか?」
俺が人の目を排除する条件と場所を選び、ここに呼び出した意味を軽井沢は理解する。
「そうね。あんたのせいで余計な問題も色々増えたけど、それを差し引いても合格点ね」
…余計な問題?それには心当たりが無い。
だがそこを掘り下げると話が逸れそうだ。
「そうか。なら、もう十分だろ」
「……え?」
「もう、貰った分は返しきったはずだ。」
軽井沢がこの先、俺が伝えようとしていることを察するには十分な言葉だ。
「…イヤ。」
軽井沢はシンプルな言葉で俺の言葉より先に否定する。
「この1学期。お前を見てきたが、もう俺がいなくても大丈夫だ。」
軽井沢との関係は軽いものだ。何かあれば切れる関係だった。
俺は淡々と冷徹に説明していく。
「今のお前なら、ピンチになっても―」
「…イヤって言ってるでしょ‼︎」
軽井沢は俺の言葉を遮って、ヒステリックに懇願するように叫ぶ。
「お前の事は知ってるつもりだ。もう俺は必要ないだろ」
「…うるさい。あんたはまだ何も分かってない。」
「……私がどんだけ弱い人間かって、分かってない…」
弱音を吐露する軽井沢はクラスの時と別人のようだ。
二重人格なんて言ってしまえば簡単だが、そうではない。
ただ、周りのその他大勢に見せていなかった部分が表面に出てきてるだけだ。
「だが、俺たちの関係は安いものだろ。もうその分はお釣りがくるほど返した」
軽井沢の自立を手伝い中間テストでは軽井沢グループに高得点を取らせてクラスでのカーストを上げるのも手伝った。
もうこれ以上はチーズケーキとオレンジフロートでは賄えない。
軽井沢は俺の言葉を聞いても首を振るだけだ。
「お前にはまだ俺が必要なのか?」
「…さっきから、そう言ってるでしょ」
「…なら、なおさら今までの関係は終わりにしよう」
「は?何言ってんの?それじゃあ…」
「今までは一方的にお前が俺を頼る関係だった。だけど」
「俺にもお前が必要だ。軽井沢」
軽井沢は俺の言葉を聞いて少しずつ、落ち着きを取り戻す。
「俺はこれからもお前に協力する。だから、これからは俺にも協力してくれ。」
「…協力って何よ。私に何をさせたいの。」
「俺の目的を知る必要は無い。ただ、俺の指示に従って欲しい。」
「なんか…今のあんたすごく胡散臭いわよ」
「胡散臭くても俺が必要なんだろ?」
わざわざ客室まで軽井沢を迎えに行ったのも、軽井沢と俺の間に信頼関係があることを周りに示すため。
それを軽井沢が俺に求めていた事の一つだ。
「…分かったわよ。協力する。」
「俺も今後は軽井沢が求める事が俺に出来ることなら何だってしよう。だから―」
「私にできる事は何だってしろって言うんでしょ?」
「ああ。」
「そんな条件出していいの?言っとくけど私、我儘だから。今まで以上にあんたを利用するわよ」
俺は即答する。
「構わない」
「…ふーん。っそ。」
俺は我儘なんて安い懇願はしない。
相手が選択肢を限りなく無くした舞台を用意して命令するだけだ。
それが我儘よりもたちの悪い行為であることを自覚した上で。
わざわざ言葉にしないが、軽井沢との安い関係は俺が他の人脈を広げていく度に、軽井沢の中に見えないストレスが蓄積していってただろう。
一方的に与えてもらう関係では軽井沢の不安は晴れない。
――――――――――――――――――――――――
俺達Dクラスは大興奮を持って、無人島から豪華客船に戻った。
1学期の間、ずっと感じていたクラスとの劣等感も今のこの優越感が優に勝った。
先にリタイアしていた堀北と高円寺が豪華客船の上で待っていた事も、この功績の前では些事だった。
何しろ来月からは3ヶ月ぶりに0ptからの復帰だ。
「てか、マジで綾小路君凄くない?」
「ほんと!綾小路君と同じクラスで良かった」
「清隆くん……」
俺が導いたクラスのリーダーは既に皆に報告している。
推理の理由も適当にでっち上げた適当なものだった。
だが、櫛田と軽井沢の推挙があったとはいえ、Dクラスのメンバーは俺を簡単に信用した。
この特別試験で池達を見つけた事も、混乱するクラスに口を挟んで導いた事も試験のリーダーを全うした事も最後に俺が出すリーダー当ての情報に説得力を持たせてくれた。
そして、その結果が特別試験での好成績に繋がった。クラスメイトの俺への評価は鰻登りだ。
試験中、意気消沈してた池もこの結果を見て調子に乗っているのが気になるが…。
クラスメイトの輪から抜け出した俺は遠くから眺めていた堀北の方に向かう。
「あなた…何をしてたの?」
その言葉に返す前に茶柱先生が口を挟んできた。
「悪いな。堀北。今から綾小路と話があるんだ。後にしてくれ。ついてこい。綾小路。」
俺は無言で茶柱先生の後についていく。
堀北にはまだ、理解出来てないようだ。結果から、俺が何をしたかは分かっている。そこまでのプロセスを知りたがっていた。
茶柱先生に先導されて船の反対側まで歩いていく。
人気が完全に無くなった場所で立ち止まり、茶柱先生は振り返った。
「まず。ポイントの徴収からさせてもらう」
俺は茶柱先生にポイントを渡す。これで俺のプライベートポイントはほぼ尽きた。
「確かにポイントは受理した。試験ご苦労だったな」
「とりあえず、これで満足してもらったと思っていいですか?」
「ああ。予想以上の出来だった。素直に感心した。」
「なら今すぐ聞かせてください。『あの男』が俺に退学を要求した話は本当ですか。その根拠を教えてください」
「私がお前の事を詳しく知っている。それが何よりの根拠だ。他の教員でお前の実力を知ってるものなどいない。疑ってるものもな」
確かに、茶柱先生が他の教員よりも俺のことを知っている事は事実だろう。だけどそれは根拠にならない。
「イカロスの翼。有名な神話だ。お前も知ってるだろう?」
「それが何か?」
「イカロスは自由を得るために幽閉された塔から飛び立った。しかしそれは一人の力ではない。父であるダイダロスが翼を作るように指示して、飛び立たせた。自らの意思で飛んだ訳ではない。まさに今のお前にそっくりだと思わないか?」
「理解できませんね」
「あの男。いやお前の父親は言っていた。清隆は自ら退学する道を選ぶ、とな。太陽に翼を焼かれ大海に落ちて死んでいったイカロスのような結末を迎えると言う事だ。」
それでイカロスの翼か。
「これからどうするつもりだ」
「先生も知ってるでしょう。イカロスはダイダロスの忠告や助言を守らない」
翼を焼かれながらも、俺は俺のやりたい事を全うする。
それが志半ばで力尽きたとしても。
それが俺の唯一無二の歴史となる。
――――――――――――――――――――――――
茶柱先生に連れられた道を戻るように進むと堀北が待っていた。堀北と目が合うと俺に問いかけるようにして言う。
「聞かせてくれるのよね?」
「お前の答えを聞いてからな」
俺が問いかけていることは一つ。それも堀北は分かっている。
堀北はたっぷりと時間を空けて言う。
「……私が次に目を覚ました時。もう客室のベットの上だったわ。私は自分の無力さを噛み締めたわ。私にはもう驕りも誇りも砕け散って欠片も残ってない。けれど、兄さんに言われた死に物狂いで足掻くと言う言葉だけは私の中にはまだ残ってる。私は絶対に諦めない。」
俺は目で先の言葉を促す。今のは堀北の覚悟と自省。返事じゃない。
「だから、私は貴方の手を取る。」
「その意味を理解してるんだろうな?」
「貴方の目的も見えてこない。行動の意味も教えてもらえない。けれど掴んでしまえば離せないし後戻りも出来ないんでしょう?」
「ああ」
「まるで奴隷ね」
「そうだな」
「…認めるのね。それを。」
「見方によればそう捉える事も出来るってことを認めただけだ。」
「いいわ。その条件で構わない。もう私には後戻りする後なんてないもの」
そう言って堀北は手を差し出して来た。
俺はその手を掴んで引き寄せる。
当然。堀北は俺と急接近する形になる。
堀北は俺と接触する直前で踏ん張り立ち止まった。
「これは条件にある行動?」
堀北は俺の目的を探るような目で聞いてくる。
「いや、引き寄せて欲しいのかと誤解した」
「それは誤解とは言わないわ。」
「もし、これが条件にあたる行動だとしたらお前は手を引くのか?」
「なるほど。それを試したのね。」
「ああ」
「私はもうどん底よ。差し伸べられた手が悪意や下心であったとしても、上に上がれるならそれを掴む」
「ひどい言われようだな」
堀北の目には覚悟の灯が宿っていた。
「だが、覚悟は受け取った。」
堀北にとって兄に認められることはこの学校にいる理由であり、存在意義のようだ。
堀北がいなくてもどうせAクラスを目指さなきゃならない。この契約に俺のデメリットはどこにもない。
堀北は俺の手を離して距離を半歩取って見上げてくる。
「今度は貴方の番よ。この試験中、何をしてたのか教えて」
いい質問だな。堀北が知りたいことを全て聞き出せるものだ。
――――――――――――――――――――――――
俺はこの試験に取り組むにあたって、二人の協力者がいた。だが、目的は違う。
櫛田は主に試験を有効的に進めるための協力者だ。
軽井沢は主に堀北を俺の駒にするための協力者だ。
俺は一日目。
櫛田にはその場その場で臨機応変に指示を出していたが、軽井沢には固定の指示を出していた。
軽井沢の指示の内容は「池と山内に反発すること」「俺と櫛田の意見に同意すること」の二つ。
まず池や山内を高円寺を使ってはぐれさせた。
それは、そのトラブルに対応する洋介を踏み台にして俺が台頭するため。
洋介はポイントを使って池達を探す提案をしたが、どんな提案をされても櫛田と軽井沢を使って上から洋介の理論をねじ伏せる予定だった。
そして洋介をベースキャンプじゃなく集合場所にとどまらせて、櫛田と俺でベースキャンプに向かう。
洋介の欠いたDクラスで俺をリーダーとして軽井沢に指名させる。
最初から、俺が皆から認められたリーダーになることは決定事項だった。
次に池や山内を連れ戻った際に軽井沢には強く責めてもらった。
それは池や山内を孤立させるためじゃない。
軽井沢グループが所有する武器の試運転だ。
結果。池や山内といったコントロールできないお調子者を黙らせるくらいには威力を発揮した。
これなら、タイミング次第で体調不良の堀北にとどめを刺すだけの力があることを確認した。
池達が都合良く黙ってくれたのはほんの少しの副産物だ。別に余計な行動をされても対処は容易だった。
2日目。他クラスの偵察に行く。
Cクラスに向かう。龍園の近くにはトランシーバーがあった。
試験を放棄する龍園にとっては無用の長物のはず。
俺は龍園がリーダーを当てる戦略を取っていることに気付いた。
そして龍園の前で椎名に接触して、椎名と俺が関わりのあることを匂わせておく。これは後の布石だ。
Bクラスには一之瀬に連れられて向かう。
一之瀬クラスにCクラスのスパイが入り込んでいるのではと考えていたがそれは外れた。
龍園は別の戦略でリーダーを割り出す作戦のようだった。
Aクラス
一日目の探索時点でリーダー候補は二人に絞り込めていた。
葛城と弥彦と会って確信する。
ここまで策を巡らせて慎重に立ち回る葛城が、リーダーカードを持って洞窟から出てくるなんてことは有り得ない。なら、リーダーはこの石崎タイプの弥彦に間違いないだろう。
そして、Aクラスにもトランシーバーが置いてあった。
潤沢な物資とトランシーバーもあわせてほぼ確実に龍園と組んでいると推測できた。
俺の大胆な行動は葛城から龍園に報告してくれるだろう。
3日目
Bクラスの近くに潜伏して、Cクラスの戦略とBクラスのリーダーを突き止めた。
Cクラスは小数人で島に潜伏して、トランシーバーで連携を取った見事な戦略でBクラスを看破した。
龍園が虎視眈々とチャンスを狙ってそれをものにしてることが分かった。
4日目
俺は女子のテント2つの裏にトランシーバーが一つずつ隠されていることを見つけた。
これは龍園が着実と詰め寄ってきている証拠だ。
5日目
龍園が雨と点呼の時間という生徒の気が緩む条件を利用して仕掛けてくる。
佐藤は予想通り、不測の事態に慌てた。ビニールから飛び出すとは思わなかったが。
みーちゃんも同様に動揺している。この二人を人選した意味も如実に表れてくれた。
俺はその状況でも平然と更新した。
そして、ビニールを即座にはぐ。スポットに更新できる位置にいるのは、俺と櫛田。俺に抱き着いているみーちゃん。遠目から確認していた龍園は事前に集めていた情報もあり確信しただろう。リーダーは俺であることを。
後に龍園のトランシーバーが消えたことを確認する。
もう既に龍園の試験は終わっていた。
6日目
軽井沢に転ぶ一芸をうってもらい、堀北に悪意ある精神攻撃をしてもらった。
彼女は少し躊躇していたが、俺に逆らうことをしなかった。
そして、堀北は予想通り倒れる。後は知っての通りだ。
夜には、一之瀬にAクラスのリーダー情報を流して当てるように指示した。
クラスの命運を左右するポイントが賭かっている状況だが、一之瀬は俺の言葉を最後まで信じ切った。
7日目の結果につながった。
俺はこれを試験の結果に左右する部分だけを切り抜いて堀北に伝えた。
つまり、軽井沢のことは伝えない。櫛田に協力してもらったことだけを伝えた。
Bクラスを手助けしたことも言わなかった。
――――――――――――――――――――――――
「待って。龍園君は貴方がリーダーだと気付いていたんでしょ。じゃあ何故。」
「結果が分かってるんだ。お前にも分かるだろ。」
「…本当のリーダーは貴方じゃない」
「ああ。本当のリーダーは櫛田だ。皆には俺がリーダーであると信じてもらうことが龍園を騙す上で大切だった。」
どうしたって油断してる時にどこかでリーダーの話になる。と補足したが、実際は櫛田や軽井沢に上手くその話題に誘導してもらっただけだ。
「おかしい。そんなこと。貴方は…龍園君が私達のテントにトランシーバーを仕掛けることを事前に分かってなきゃ無理よ」
「最初から、リーダーを当てる戦略を切り捨てて考えていたお前には思いつかないだろうな。俺はマニュアルでトランシーバーを見つけた時に既に思い付いた戦略の一つだった。リーダー当てを作戦としていた龍園がこの手を使ってくることも視野に入れていた。」
「呆れるわね。」
「自分の視野の狭さにか?」
孤立した人間は視野狭窄に陥り、俯瞰的に考えない悪癖がつく。
それは堀北も例外じゃなかった。
「反論できないのがむかつくわね」
だが俺の予想と一部ポイントが違ったのも事実。
Aクラスのポイントが予想より低かった。
何がトラブルがあったと考えるべきだろうな。
「恐れ入ったわ。そして再認識した。貴方の手を取ることがAクラスに上がる上で最も重要だって」
「証明できたなら何よりだ」
「改めて、よろしくお願いするわ」
堀北は改まったように、手を差し出してくる。
俺はその手を先程の再現のように思いっきり引いた。
もう、手加減はしない。堀北に踏ん張る隙すら与えず抱き寄せる。
堀北は抵抗しようとするが、腕ごと巻き込むように腰に手を回して抑え込むようにロックする。
抵抗が無駄だと悟った堀北は俺を見上げてくる。
見上げた顔色は少し朱に染まっている。体調不良のせいではないだろう。
「…貴方、何のつもり?」
「誤解と言えば許してくれるか?」
「離さないと本気で怒るわよ」
「本気で抵抗しようとした結果が今じゃないのか?」
「…もう。貴方の腕が立つのは分かったから。…離して」
その弱弱しい声は前に聞いたな。生徒会長の時と同じ声だ。
「どうして離して欲しいんだ?」
「どうしてって…。」
堀北は言いづらそうに口ごもる。
「…当たってる…から」
「何が」
「…殺すわよ。私を羞恥に染めるのが貴方の目的なの?」
まあ、その通りなんだが。
「まあ、広く捉えればその一環かもな。」
堀北は睨むような目でその意味を問いかけてくる。
「聞いてくれ。堀北。」
「何よもう…」
俺は堀北と密着した状態で語り始める。
「これは俺が初めて旅行に行った時の話だ。行った場所はニューヨーク。それはもう、嫌な思い出しかない。ひどい旅行だった。でも学んだこともある。ニューヨークでは仲直りする時、ハグするそうだ。」
堀北の攻めるような視線は緩まらない。
「悪かったな。堀北。お前が無人島6日目。強情なお前はリタイアしないだろうと思って、俺はお前の首に手刀をうって強制的にリタイアさせた。」
堀北は衝撃の事実に驚愕している。
「墓まで持っていこうと思ったんだがな。それが今後の関係にひびになっても面倒だ。だから、今許してくれ。許してくれるなら解放する」
「…貴方、ふざけてるわね?それは謝罪とは言わないわよ」
「俺はいたって真面目だ。」
「…許すから離して」
「言葉だけじゃ信用できないな」
「ふざけるのもいい加減に…」
俺は堀北の言葉の途中で腕の拘束を緩める。
俺が求めていることを遅ればせながら堀北は理解する。
「これは俺の目的に必要なことだ」
そう言えば堀北は逃げられない。
堀北はおずおずと俺の背中に手を回した。
「…離して」
「まだ。信用できないな」
「…貴方…この要求分はきっちり貢献して返してもらうわよ」
堀北は俺の背中へ回した手に力を込めて抱き着いてくる。
俺はその瞬間に堀北を完全に解放した。
堀北が一方的に抱き着いている絵が生まれる。
堀北が俺から手を離す前にいうことがある。
「堀北。胸が当たってる」
すぐに解放してくると思った堀北は離さなかった。
「…もう、今更よ。。」
そう言って見上げてくる朱に染まった顔も遂に認める事のできた自分の弱さも堀北はもう俺に隠すことをしない。
「それに、これが貴方に必要なことなら返せないくらいの貸しにしておくわ」
堀北を孤独に追い込んだのは俺だ。
堀北を孤独から救ったのも俺だ。
これまで誰にも頼れなかった分、今頼れる存在が出来たことを堀北には噛み締めてもらいたい。
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試験 最終結果 詳細
Aクラス
初期ポイント270(坂柳リタイア)
リーダー当てられる−150
スポット誤使用−50(橋本)
生活での消費は全て龍園からの物資。
占有ポイント無効
合計70pt
Bクラス
初期ポイント300pt
生活での消費−100pt
リーダー当てられ−100pt(綾小路と龍園)
リーダー当て+50pt(Aクラス指名)
占有ポイント無効
合計150pt
(原作より生活での消費ポイントを減らしたのはスパイがいない分、行動に制限がかからなかった点と食費の消費がなかった点を考慮)
Cクラス
初期ポイント300pt
葛城に譲渡 -200pt
夏のバカンス代-100pt
リーダー当て+100Pt(葛城と白波千尋)
リーダー外し−50pt
リーダー当てられ-50Pt(綾小路)
占有ポイント無効
合計0pt
Dクラス
初期ポイント300pt
生活での消費 −180pt
(堀北・高円寺リタイア-60pt含む)
リーダー当て150pt(全クラス)
スポット占有
初日1pt。最終日1pt。3日目2pt‥(Bクラス偵察の為)
他の4日 3pt×4
合計286pt
補足
龍園の話は次に持ち越し。
そしてポイント前回含めて少し計算間違いあったので修正してます。
そして、軽井沢の武器ですけど、#11で佐倉を勉強会に加えた時、軽井沢のヒエラルキートップの支配力で円滑に場をまとめました。これを悪意が乗っかった時に‥空恐ろしいな。という表現しましたがこれの伏線回収でもあります。