綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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#20 二人きりの客室。半裸の男。何も起きない訳も無く。

 

「あんた、分かってるんでしょうね」

「くくっ。伊吹か。」

龍園の客室にいきなり飛び込んできたのは伊吹だ。

 

「この結果。誰も納得しないわよ」

伊吹は怒り心頭といった様子で龍園に詰め寄る。

だが、山田アルベルトがその進行を阻むように立ち塞がる。

 

「アルベルト。あんたはそれで良いわけ?」

山田アルベルトは答えないが退かない意志だけは強く表していた。

 

「伊吹。俺はこの旅行前に綾小路の情報を集めろと言ったよな」

龍園はニヤニヤとした態度を崩さずに話を展開する。

 

「石崎は綾小路を口が達者な奴だと言った。お前からの報告は大した事ない奴だと言っていたな」

「それが何?」

「大した事ない奴ってのはどうやって判断したんだ、伊吹。まさか、休日1日張り付いただけでそれを上辺で判断したわけじゃないだろ。お前、虚偽の報告してるわけじゃないよな?」

「は?知ったこっちゃない。そんな事よりも今は試験の話だろ。私に無理矢理責任を押し付けないで」

 

「お前が大した事ないって判断した奴は全てのクラスのリーダーを当てていた。それに、俺がリーダーを突き止めるやり方を知っていたかのように対策を取っていた。それがこの結果だ。」

「だから何?」

「お前がまともな報告をしてればこうはならなかった」

龍園は伊吹の言動から綾小路との間に何があった事を確信している。

 

「だっさ。自分の失敗を人のせいにするのね」

「失敗?誰が失敗したんだ」

「は?」

龍園は伊吹の足元に一枚の紙を滑らす。

 

「何これ」

「疑問を持つ前に読めよ」

 

それは一枚の契約書。

①AクラスにCクラスから200試験ポイント相当の物資を引き渡すこと。

②俺が掴んだ他クラスの情報を葛城に渡すこと。

(他クラスのリーダー情報ではなく戦略や動向)

③本試験終了後。本契約に同意した生徒全員から2万プライベートポイントを毎月龍園に譲渡。※卒業まで継続

 

「くくっ。葛城は今回、試験ポイントを270pt残した上でスポットを3ヶ所占有し続ける作戦を取っていた。葛城の想像通りに事が進めばAクラスは約320ptで試験を終えてただろうな。なら、慎重なあいつが欲張ってリーダー当てに参加するのはやめて墓穴を掘らないように行動するのは目に見えてたのさ。」

 

「だけど、Aクラスは70pt―」

 

龍園は伊吹の質問を遮るように説明する。

 

「俺が手を組んだのは葛城だけじゃない。Aクラスの坂柳派とも通じた。そいつは俺にAクラスのリーダー情報をリークした上で俺が占有してたスポットの誤使用までするとんでもないクズだったぜ」

 

リーダー情報のリークはリーダー当てられで-50ptと占有ポイントで得るはずだったポイント約50ptの損失を意味する。さらにスポットの誤使用で-50pt。-150ptの損失だ。

龍園への信頼を買うためとは言えとんでもない暴挙である。

 

「そして、極めつけは綾小路だ。綾小路はAクラスのリーダー情報を何処かで掴んでいた。しかも、それをBクラスに流している。一之瀬も馬鹿じゃない。綾小路と俺と同じく契約書のようなもので同意したか。それとも確実な証拠の提供があったのか。何にせよ、一之瀬と綾小路にまだパイプが繋がっている事は間違いない。」

 

「その結果がAクラスの結果だ。葛城は今頃、どんな気分だろうな~。心中お察しするぜ。くくっ。」

 

「でも、今回の試験は私達は0ptだった。こんなの、あんたのポイントが増えるだけじゃない。」

 

「伊吹もAクラスの連中も目先のポイントに踊らされすぎなんだよ。Aクラスの連中はプライベートポイントが潤沢だ。プライベートポイントの重要性を見失っている。」

 

「伊吹。もう分かっただろ。この試験。痛い目を受けたのはAクラスだけなんだよ。Dクラスも今回は勝ったがこれは初見殺しのラッキーパンチだ。綾小路の手口はもう分かった。次はない。」

 

そういう龍園の目は確実に先を見据えていて、伊吹は言葉に詰まった。伊吹は無言で部屋から出て行った。

 

「おい。誰か念のために伊吹を尾行しておけ。石崎以外でやれよ」

 

「くくっ。もっと俺を楽しませてくれよ。」

 

――――――――――――――――――――――――

 

『卒業までの間、世間との接触を強制的に断ち、外に出ることを禁ずる。』

この校則が目当てだった。

 

ところが「あの男」が接触してきたのならそれは何の意味もなさない。

 

「はぁ…俺に地軸を動かすほどのパンチ力があればな…」

いつまでも茶柱先生の思惑通りに動く訳にもいかない。

 

無人島試験が終わって1日目。

 

生徒達は無人島試験が終わり楽観ムードに入っている。

俺の携帯にも何件かメッセージが来ていた。

 

俺は茶柱先生の支配下に置かれた現状に心が倦んでいて、とても返信する気にはなれなかった。

客室の窓から見える朝の海の景色をただただ眺めて慰めてもらっていると同室の洋介から声がかかる。

 

「清隆君。今回の試験色々とありがとう。清隆君がいなかったら今は無かった」

Dクラスは今、活気溢れている。

 

「洋介がいなくても今は無い。それは誰にでも言えることだ。」

「そうかもしれないけど、1番貢献してたのは清隆君だよ。今日、打ち上げをやろうと思ってるんだ。清隆君にも参加して欲しい」

洋介が主役の君が来ないと…みたいな事を目で言ってるような気がした。

 

「もしかして、『本日の主役』の襷とか用意してないよな?もしそうなら丁重にお断りするつもりだ」

「流石にそこまではしてないんじゃないかな。でも似合うと思うけど」

 

似合う訳ないだろ。

俺はポーカーフェイスで基本無表情だぞ。そんな奴にあの襷をつけさせるなんて罰ゲームだ。

 

「打ち上げは夜か?」

「あ、うん。そうだよ。実は客船内に打ち上げみたいな事を出来るスペースがあってさ。そこを予約してる」

「まさか、全員呼ぶつもりなのか?」

「うん。そういうスペースが客船内にあってね。でも、打ち上げってそういうものじゃない?」

そういうものなのか。知らんかったです。

 

「分かった。参加する」

「ありがとう。…それとは別件なんだけど…」

洋介が少し口籠る。俺は何となく洋介の言いたい事がわかってしまう。

 

「堀北も連れていく。堀北はクラスに必要だからな」

「うん。ありがとう。助かるよ。僕は余り好かれてないみたいだからね…。」

自分の弱さを認める事ができた堀北はきっと他の人の弱さも認める事が出来る。

堀北にとってもいい機会だろう。

 

「清隆君は今日はずっと部屋にいるの?」

「どうだろう。ちょっと動く気にはなれないな。」

「そっか。この1週間は大変だったからね。よく休むといいよ」

洋介は三宅から相談されてる事があると言って出て行った。

昨日試験が終わったばかりだというのにあのバイタリティはどこから出てるんだ。

 

俺は堀北に今日の打ち上げの場所と時間の詳細を送って、スマホを閉じた。

今の堀北なら俺が来いと言わなくても必ずここに顔を出す。

 

同室の高円寺と幸村も既に何処かに行ったようで、洋介が出て行ったこの4人用の客室には俺が一人ぽつりと残される。

憂鬱な気分を払拭するために部屋に備え付けのシャワーを浴びた。

水に濡れた犬みたいなその状態のまま、部屋に戻って窓を開ける。

海の匂いが吹き抜ける風に外気浴しているとノックの音がした。

 

同室の誰かがルームキーを持たずに部屋を出たんだろうか?

俺は腰にバスタオルを巻いて部屋を開けた。

 

「…あ」

 

俺がドアを開けるとドアが開いたことに驚いたような女子生徒の声がした。

俺はルームメイトじゃないことを察してまずいと思い、焦ってドアを閉めようとしたが、ドアの隙間に強引に体を入れてその女子生徒はそのまま部屋の中に入ってきた。

 

その時、部屋の中には半裸の俺と機嫌悪そうな伊吹が立っていた。

 

「あんた、私って分かった瞬間閉め出すんじゃ…無…い…」

伊吹は言葉尻になるにつれて俺の格好に気付いたようだ。

 

「あんた、喧嘩強いでしょ」

伊吹は俺の格好よりも引き締まった体を見てそんな事を言ってくる。

 

「喧嘩をした事がないから分からないな。それより、恥ずかしいんだが?出て行ってくれないか」

「無理ね。だってあんた、一度私を閉め出したらもう入れてくれないでしょ」

まあ。正解だな。

 

素直に応じないなら、出て行ってもらうために別のアプローチwp試みるまで。

 

「少し言いづらいんだけどいいか。」

伊吹は腕を組んで、顎で先を促した。

 

「ちなみにこのバスタオルの下は何も履いてないんだ。」

 

伊吹は分かりやすく固まる。

だが、そんな事はあり得ないと伊吹はすぐに思い直したのか頭を軽く振って反論してくる。

 

「嘘でしょ。どうせ。全裸にバスタオル巻いた状態でドアを開けるとは思えない」

「なら、確かめてみるか?」

「は?どうやっ…」

俺はバスタオルに手を掛ける。

 

「ばっ…。あんた本気?」

 

「ああ。伊吹。もしこの下に何も履いてなかったら、お前には俺の命令に何でも従ってもらう。逆に何か履いていたらお前の言う事に何でも従ってやる。」

「は?ちょ、ちょっと待って。何言い出してんの?そんな馬鹿みたいな賭けに乗るわけないじゃない。」

伊吹は今度こそ分かりやすく動揺する。

 

俺はバスタオルにかけてた手を外し、二本指を立てる。

 

「賭けに乗るか。部屋を出て行くか。お前の選択肢は2つに一つだ」

 

伊吹は舌を噛み締めたような顔をする。

煽られて悔しがる姿はまるで子供だな。ここまで言って出て行かないという事は俺に何かしらの明確な目的を持って接触してきたという事だ。

それを間抜けにも白状してる事を伊吹は分かっていない。

 

「分かったわよ。乗るわよ、それ。」

「言っとくけど、命令は絶対だぞ。」

「しつこいわね。分かってるわよ」

伊吹はくどいと言わんばかりに俺にそう言う。

 

「なら、どっちに賭ける。」

伊吹は少し考える素振りを見せる。

 

「…私の意見は変わらない。履いてる方。」

 

「いいだろう。じゃあ俺は履いてない方だな。」

俺が再度バスタオルに手を掛けると、伊吹は顔を横に背けて横目に俺を見てくる。

 

「待て。伊吹。お前は履いてる方に賭けてるんだろ?なら目を逸らす必要はないはずだ。」

「はぁ!?」

「違うか?」

「…履いてたとしても真正面から見る必要ない。」

伊吹は赤面しながらもその言葉を吐き出した。

流石にそこは反論できるか。起点をきかす力が全く無いわけではなさそうだ。

 

俺はバスタオルにかけてた手に力込める。

「じゃあ、いくぞ」

 

伊吹は唾を飲み込み喉を鳴らした。

 

「はっ!」

俺は勢い良く声を上げる。

伊吹はその瞬間目を瞑るが、少しずつ俺を確認するように目を開け始める。

 

そこにはまだバスタオルに手を掛けた状態の俺がいた。

 

「あんたねぇっ‼︎ふざけてんの!?」

「いや、今のは伝え忘れてたことがあって、それを思い出した時の声だ」

「適当なことばっか言ってんじゃないわよ!」

「本当のことだ」

「じゃあ何!?忘れてたことって!」

俺は白々しく説明する。

 

「先に、命令の内容を伝えとこうと思ってな。」

「はぁ?」

「俺が勝った場合ってこの下に何も履いてなくて、伊吹に全裸を見られることになるよな?だから、俺が勝ったら、伊吹。俺も同じ事をお前に要求するつもりだ」

 

「……ぇ」

伊吹にしては小さな声だった。

 

「当然の要求だろう?対等な条件のはずだ」

遠回しな表現だが、伊吹にも流石に理解できただろう。

 

伊吹が固まってるのを他所に俺は態とらしく声を上げて事態を進める。

 

「よし。これで俺にも心残りがなくなった。言っとくが逃がさないからな。」

「…ちょ」

思考をフル回転してエンストを起こして固まってた伊吹が思考の泥沼から解放されて焦った声をあげる。

 

「じゃ、今度は本気で下ろす。」

俺がカウントダウンを始めた瞬間、伊吹は部屋から脱兎の如く逃げるように走って出て行った。

 

オートロックがかかる音が聞こえてバスタオルを外す。

 

そこには無論、パンツを履いた俺がいた。

 

俺は思いの外、伊吹への揶揄いが成功した事に満足して、服を着る。

憂鬱だった気分も完全に晴れたので、俺宛に来てたメッセージに返信していくことにした。

 

これは全く関係ないことだが、無邪気な子供と遊ぶ事は幸せ成分セロトニンを分泌する。それによって癒し効果が得られるらしい。全く関係のないことだが。

 

それに、伊吹は良くも悪くも素直な性格だ。

龍園に利用されやすい駒だろう。余り伊吹に餌を与えすぎるのは良くないだろう。

 

――――――――――――――――――――――――

 

俺の元に来てたメッセージの一人。

朝の10時。俺は佐倉に呼ばれて、人気の少ない船尾に向かった。佐倉からメッセージが来ることも増えたが、呼び出してくるのは初めてのことだったので、様子が気になって会うことにしたのだ。

 

「はぁっ……はぁーっ」

俺が落ち合わせ場所に着くともう佐倉は着いていた。

深呼吸をして必死に呼吸を整えている。

 

両手でその佐倉の目を塞ぐ。

 

「えっ!えっ!えええっ!」

佐倉はあからさまに動揺した。先程までの深呼吸は全くの意味を成さない。

 

「誰だと思う?」

俺は定番の台詞で問いかける。

 

「えっ…。綾小路君だよね!?」

まあ、人気の少ない所に呼び出されて、俺以外だと怖いわけだが。

 

「残念だが不正解だ。」

「えっ!嘘だよ。だって声が…」

俺は目配せする。

俺じゃない誰かが佐倉の背中に密着するように体を寄せる。

 

「えっ。えっ。」

「これでも俺だと思うのか?」

「えっ!わ、分かんない。だ、誰?」

佐倉の動揺に少しずつ恐怖が帯び始める。

引き際だと判断して、佐倉の塞がれてた視界は解き放たれる。佐倉が振り返った先には…

 

「はーい。私でーす。」

意気揚々と挨拶する天真爛漫な椎名がそこにはいた。

椎名は俺に対して失敗した、この遊びが佐倉に対して成功した事もあり嬉しそうだ。

 

「椎名ちゃんっ」

佐倉も笑い、笑顔が共鳴した。無人島上陸する前に会ったばかりの二人はもうすでに仲良くなってるように見えた。

 

「ごめんなさい。佐倉さん。急に現れて、お邪魔じゃなかったら混ぜてくれませんか?」

 

〜ここに来る10分前〜

 

俺が佐倉の元に向かうべく、ルームキーを持って部屋を出た。

すると、この客室がある階層の廊下を徘徊してる椎名が見えた。

 

「椎名。こんな所で何をしてるんだ?」

「あ、綾小路君!丁度良いところに」

「丁度良いところ?」

「はい。綾小路君の部屋を探してたんですっ」

「俺を?」

椎名からのメッセージは来ていなかったはずだ。

 

「俺が部屋に居なかったら無駄足になるだろ。メッセージくれればいいのに。」

「ふふ。綾小路君はまだまだビギナーですね。全然分かってないです。」

椎名は指を立てて横に振って大仰にアピールする。

テンションも普段に比べてかなり高い様子だ。

 

「この感動を文字で表すなんて無粋です」

 

そうドヤ顔で言った椎名の手にはガルシア・マルケス『百年の孤独』だ。

独特の世界観で難解な表現も使われている上に、かなりのボリュームがある作品だ。椎名はもしかして…

 

「その無粋を承知で聞くが、リタイアした後の時間はそれに費やしたのか?」

「はいっ!纏まった時間があれば読もうと思って持ってきたんです!色々調べながら読み解かしていく時間は幸せでしたっ!」

読み解かした分、時間も溶かしたわけだが。

 

「綾小路君っ。この後時間ありますかっ!?」

この幸せ街道ど真ん中を横断中の椎名を無下にする選択肢は俺には取れなかった。

 

そして現在に至るというわけだ。

 

俺達は椎名に連れられて、軽食がとれるカフェのような場所にやってきた。

朝10時という朝というのか昼というのか微妙な時間帯な事もあり空いていた。

カウンター席に俺を挟むように二人が座った。

 

「まずは特別試験、お疲れ様でした!私の奢りですっ。何でも頼んでください。」

「気持ちはありがたいが、客船の施設は全部無料だろう」

「はっ。そうでしたっ。ずっと部屋に篭ってたので失念してました」

「ふふふ」

 

佐倉は相槌に微笑むような笑いを零す。

彼女も最初に比べてよく笑うようになった。良い傾向だろう。

 

俺達は適当に飲み物と軽い食べ物を頼む。

朝食を摂っていなかったので丁度良い。

 

「久しぶりに二人と会えて嬉しいですっ。豪華客船に戻ってもやる事は本を読む事くらいしかなかったので。」

「まあ、2日目にリタイアしたなら、6日も時間が出来るしな。俺だとしても暇になりそうだ」

「うん。私も…。」

話は試験の話になっていく流れを感じて、俺は話を変えることにする。

 

「それで、佐倉の話って何なんだ?」

俺は椎名のいる前だが、無遠慮に問いかける事にした。

 

「あ。うん。えーっと」

「私、席外しましょうか?」

椎名が気遣いから問いかけてくる。

 

「んーん!椎名ちゃんなら見せてもいいかなって思ってるから…。」

 

「見せても?」

俺はだいたいの察しがついたが聞いておく。

恐らく、あの時の約束を果たそうとしてるのだろう。

 

「うん。これ」

果たして、佐倉はデジカメを取り出した。

 

「見てもいいか?」

 

佐倉が控えめに差し出してきたデジカメを受け取り、フォルダーを開く。

見た事ない自撮りも沢山あり、ネットに上げてた写真はほんの一部のようだ。

椎名も佐倉に了承を取り、俺が見てるデジカメを覗き込むように見てくる。

椎名にはパーソナルスペースの概念は無いらしい。

 

「わっ!可愛いです!これ佐倉さんですよね」

今の佐倉は眼鏡をかけているが椎名もすぐに気付いたようだ。

 

「う、うん。」

 

椎名の確認のような問いかけに頷く。

俺の感想が気になるのか、佐倉が俺の方を見てくる。

俺が何を答えるべきか思案してると、椎名もそれに気付いたのかフォローのような事をしてきた。

 

「ほんと可愛いですね〜。綾小路君もそう思いますよね?」

こう問いかけられれば実質的一択だが。

 

「ああ。可愛いし、よく撮れてると思う。」

「あっ。ありがとう。綾小路君。」

佐倉は照れてお礼してくる。

椎名はしてやったりみたいな顔をしてるが、俺と密着しながらそんな笑顔を浮かべるのは悪女の立ち振る舞いそのものだった。

 

これを天然でやってるのがさらに悪女っぽい。

 

「ありがとう。見せてくれて。」

「んーん。私が見せたかっただけだから。」

そう言ってはにかむように笑った。あの時の事件からは完全に立ち直ってるな。

椎名がいるがこの話に触れても大丈夫だろう。

 

「正直に話すと、一部だけは知ってたんだ。あの事件があった後、事情聴取にも行ったしな。気になって調べた。凄いな。アイドルなんて」

佐倉は俺に知られていると思わなかったのか、驚いている。

 

「そっか…。そうだよね」

知られてたことが恥ずかしいのか目を逸らす。

 

「え!佐倉さん。アイドルだったんですか!?」

「うん。今は色々あってやめてるんだけどね。」

椎名は天然だが空気は読める。色々については深掘りしないだろう。

 

「いや、凄いですよ。アイドルやってたなんて!女の子の憧れの職業じゃないですか。」

「あ、ありがとう。椎名ちゃん」

「ああ。雑誌に載ったりするくらいには頑張って活動してたんだ。胸を張っていいし誇っていいと俺も思う」

 

そう言うと椎名は小声でアイドル名を聞いてきた。俺がそれを答えると携帯を取り出して調べ始めた。

横で「可愛いです〜」とか椎名が言い始めている。

 

「あ、綾小路君もありがとう。でも、よくそんな事まで調べたね。」

「ああ。気になったしな。もう、ファンくらいには知ってるかもしれない」 

大袈裟な表現に照れるように俯いた彼女はぼそりと呟く。

 

「…んーん。…もう、綾小路君はどんなに熱狂的なファンよりもずっと知ってるよ。…私の事」

小さい声で独り言のように零した佐倉の言葉は横ではしゃいでる椎名には聞こえていないだろう。

 

でも俺には確かに聞こえた。

 

「そうかもしれないな。」

俺も佐倉にだけ聞こえるように肯定しておく。

佐倉は聞かれたと思ってなかったのか、びっくりしていたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

 

アイドルの佐倉もいつもの弱弱しく自信なさげな佐倉も

無邪気に笑う佐倉も知っている。

でも、それだけじゃ足りないのも知っている。

 

 




橋本の動きは原作通りにしたけど、よくよく考えたらやばいことにしてるな。

後、龍園と葛城との契約もほぼ原作通りです。
原作でも葛城が龍園との契約に重きを置いていたのは200試験ポイントだったので。

(てか、初めは特別試験って分かってなかったのに、始まってすぐに契約書出せる龍園、用意周到すぎない?)

それにすぐ乗っかる葛城さんって本当に慎重な男なんだろうか。
いや、生徒会に落とされたこともあって葛城さんは冷静な判断が出来なかったんだ!!きっとそうに違いない!!!!


伊吹好きです

「はぁ…俺に地軸を動かすほどのパンチ力があればな…」
原作の台詞そのまま引用しましたが、個人的に好きな台詞だったからです。

次もイチャイチャ回のつもりです。
次の次は船上試験に入りそうです。
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