綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
#23 優先順位
みーちゃんと別れた俺は指定時刻ギリギリに所定場所に着く。何とか間に合うことができたな。。
「あっ、綾小路くんっ」
「清隆君、良かった。連絡しても反応しないから心配してたんだ」
「悪い。ちょっと立て込んでた。」
「では、所定時刻になったので始める」
俺が用意されてた席に座ってすぐ、真嶋先生はそう言った。
「Dクラスの綾小路、櫛田、平田だな。ではこれよりシンキング能力を問う特別試験の説明を行う。分からないことがあれば聞くように」
・1年全員を干支になぞらえた12のグループに分けて、そのグループ内で試験を行う。
・ここにいる3人は同じグループ。そして、他クラスで同じグループになるメンバーも同じ説明を受けている
・そのグループでの結果が試験結果。
「本試験は各グループに一人選ばれた『優待者』を基点としたものになる。本試験の結果は4通りしか存在しない。」
真嶋先生は淡々と説明を進めていく。
基本ルール。
・明日の午前8時に学校側からメールが送信されて、自分が優待者か優待者じゃないかの確認ができる。
・1日に2回、グループで集まり1時間の話し合いを行う。話し合いの内容は自由。
・試験の解答は試験終了後の30分間のみ、優待者が誰であったかの答えを答えられる。
・優待者は公平性を期し、厳正な調整の元、選ばれる。
4つの結果
結果1→試験終了後、グループ全員が優待者を当てる。
優待者が100万ポイント、その他全員が50万ポイントを獲得する。
結果2→優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や不正解がある。
優待者が50万ポイントを獲得する。
結果3→優待者以外の者が、試験終了を待たずに学校に正解のメールを送信する。
正解者が50万ポイントを獲得する。
正解したクラスが50クラスポイントを獲得する。
優待者を見抜かれたクラスはマイナス50クラスポイントのペナルティを受ける。
結果4→優待者以外の者が、試験終了を待たずに学校に不正解のメールを送信する。
答えを間違えたクラスはマイナス50クラスポイントのペナルティを受ける。
優待者は50万ポイントを獲得する。
優待者の所属クラスは50クラスポイントを獲得する。
禁止事項も事細かに書かれていた。
脅迫行為や他人の携帯を操作して答えを勝手に送信する事は無論、学校からのメールの改変やコピーも禁止されていた。
「君たちは明日の午後1時と午後8時に指定された部屋に向かえ。初回は自己紹介するように。それ以外は全て自由だ。」
平田は細かな部分まで真嶋先生に質問している。真嶋先生もそれに丁寧に答えている。真嶋先生は比較的まともな教員だな。。あれ、待てよ。。
「真嶋先生。この試験の説明、他クラスの生徒に対して、星之宮先生も説明されてるんですか?」
「試験に関係ないような質問に思えるが、まあそうだ。他クラスの生徒は別の担任教師が説明することになっている。」
マジか。あの人…。ほんの数時間前まで泥酔してたぞ。。
「すいません。変な質問で。茶柱先生じゃなく真嶋先生が僕達に説明してるのが気になったんです。答えてくれてありがとうございました。」
じゃあ、何故、茶柱先生じゃなく、星之宮先生のことを聞いたか。そう突っ込まれることは無かった。聞いたことだけに答えてくれるのは楽だな。
「構わん。他に質問はあるか?」
洋介と櫛田と見合わせる。もう、誰も質問はないようだ。まあ、この場でこれ以上有益な情報を得る事も出来ないだろう。
「では、説明を終了する。すぐに退室するように。」
俺達はその部屋を後にした。
「いやぁ〜。大変なグループに割り当てられちゃったね。。」
「うん。これは大変そうだね。」
「まあ、作為的なメンバーだな。」
俺達が所属するのは辰グループ。
各クラスの顔のようなメンバーが勢揃いしていた。
辰(龍)グループ
Aクラス 葛城康平 西川亮子 的場信二 矢野小春
Bクラス 安藤紗代 一之瀬帆波 神崎隆二
Cクラス 小田拓海 金田悟 椎名ひより 龍園翔
Dクラス 綾小路清隆 櫛田桔梗 平田洋介
俺は電源を切っていた携帯を取り出し、電源を入れた。
電源を入れた瞬間、堀北からの無数の着信履歴がホーム画面に表れた。
「あはは。綾小路。モテモテだね」
俺の携帯を覗き見て言う櫛田は、目も口も笑っているのに笑っているようには見えなかった。
器用な奴だな。櫛田は。
俺は櫛田と洋介に断りを入れて折り返す事にする。
1コールも鳴り切らずに堀北は出たが、何も反応がない。
電話越しにでも、納得してないという圧力を感じた。
「悪い。試験の説明を受けてたんだ。」
「…そう。生徒によって、時間が違うのね。」
俺の誤魔化しは何とか通ったようで、堀北は話し出した。
堀北に友達がいなくて良かった。。
俺は真嶋先生から聞いた説明を堀北にざっくり伝えた。
「ありがとう。参考にするわ。それにしても悪意の感じるメンバーの分け方ね。」
「ああ。お前もメンバーが分かったら教えてくれ。」
「ええ。」
「じゃあ、切るぞ。」
俺は用件は終わったと思い、電話を切ろうとすると堀北からストップがかかる。
「待って」
俺がまだ何かあるのかと待っていると暫くしてやっと言葉を発した。
「…やっぱり何でもないわ。」
「それは何かある奴の台詞なんだよ」
「それは、アンコンシャスバイアスよ。」
「何だそれ。聞いた事ない言葉だな。」
「貴方の勝手な妄想って事。もう切るわ。」
「ああ。またな。」
俺は堀北が切るのを待つ。…が、切らない。
俺が問いかける前に堀北は吐き捨てるように言った。
「…最後一つ。私の連絡には今後2コール以内で出て。出れない場合はこちらが納得できる理由じゃなければペナルティよ」
「何だ。ペナルティって。特別試験のやりすぎでおかしくなったんじゃないか」
「ペナルティの内容はその都度私が決める。」
「おい。」
俺の言葉を無視するように堀北は一方的に電話を切った。
「あはは。清隆君。堀北さんに好かれてるね」
「勘違いだろ。それは」
今の一連の流れを見て、洋介はそう言ってくる。
「そうかな。僕にはそうは思えなかったけど」
「当事者が感じる事が大体真実だ」
「そういうことにしとくよ。」
そういうことにしておいてくれと心の中で答えておく。
「それで、綾小路君っ。試験どうするの?」
櫛田は話題を変えるように試験の話に持っていく。
「優待者が決まる明日の8時まではそこまで打てる手はないぞ。でも、そうだな。優待者か優待者じゃないに関わらず、俺と櫛田と洋介に伝えてもらう。そして、それ以外には伝えないことを徹底してもらった方がいいな。」
この試験において、自分の情報を他人に伝えないのは当然のことだ。だけど、それが当然に出来ない奴がいる。
「そうだね。どこで情報が漏れるか分からないしね。」
「じゃあ、皆の説明が終わった後にそれ伝えとくね」
「僕もそうするよ。メンバーからメッセージも来てるから返す時に伝えておく。」
「ああ。助かる。」
俺も来てた大半のメッセージにその旨を伝えた。
情報を完璧に統制するのは不可能という事は中国の有り様が証明している。
なら、どうするのか。真実を嘘の中に埋めてしまえばいい。情報の信憑性を無くせば真相はもう闇の中だ。
――――――――――――――――――――――――
卯(兎)グループ
Aクラス 飯田茂 町田浩二 森重卓郎
Bクラス 浜口哲也 別府良太 安倍仁美
Cクラス 伊吹澪 真鍋志保 薮菜々美 山下沙希
Dクラス 軽井沢恵 外村秀雄 堀北鈴音 幸村輝彦
その日の夜、堀北が見せてきたメンバーは知らない名前が多く並んでいた。他クラスで知っているのは伊吹くらいだ。
だが、幸村と堀北は似たようなタイプ。
グループ分けの人選に法則があるのか、はたまた適当なのかは分からないが、無視できない要素だ。
「ここ、寒いわね」
「寒いから、人が寄り付かないんだろうな」
俺達は今、バーのような店に来ている。
バーと言っても昼は喫茶店であり、お酒だけを取り扱っているというわけではない。
その店の室外にあるテーブル席には俺達以外、誰もいない。
室内の方にはそれなりに人がいた。
「試験の話だが、俺も堀北と一緒でほとんどのメンバーと面識がない。何とも言えないな。これは。」
「…役に立たないわね。」
「そう言われてもない袖は振れない。」
「使えない服ね。脱ぎ捨てたら?」
堀北は着信を結果的に無視し続けてしまったことをまだ根に持ってるのか、いつもより辛辣だ。
「まあ、クラスメイトと連携を取るのが無難だろうな。」
「手伝ってくれるのよね?」
「まさか、友達を作る橋渡し役になれと?」
「別に友達になるつもりはないわ。話を通してくれればいい。」
堀北は別にコミュニケーション能力が低い訳じゃない。
その上で話を通しにくい存在がいるということだろう。
「軽井沢には俺から言っておくからそれでいいだろ。面倒はごめんだ」
軽井沢は別に堀北を嫌いな訳じゃない。ヒエラルキー的に堀北より上にいるべきだと考えてるだけだ。
「何て言うつもり?」
「堀北の言う事に耳を貸すように言うだけだ。」
「どうかしら。聞くだけなら猿でもできるもの」
その毒さえなけりゃ、案外うまくいきそうな二人なんだがな。
少し軽井沢の情報を開示しておくことにした。
「軽井沢は優秀だぞ」
堀北は俺の口ぶりから何かを察したようだ。
「…それは、どういう基準で言ってるの?」
「俺の物差しで測った評価を明かす気はない。」
「さっきの話は無しだ。俺は今回、堀北にそっちは任せることにする」
「あなた、私との約束覚えてるんでしょうね?」
「ああ。だから保証する。俺のグループは俺たちが一番得をする結果を出すことを。」
「それに、堀北の目的なら俺のおこぼれでもらったようなAクラスに価値なんか見出せないだろ。」
「これくらい自分で乗り切って見せてくれ。」
「…ふんっ。まあいいわ。私は私でやる。それと貴方のさっきの宣言信じるから。」
堀北はもとより、この試験で別グループの俺の手が直接的に届かないことを察していた。
軽井沢の手を使って間接的に結果を出しに行くのは簡単だ。
だが、それをすることの意味はあまりないように思えた。
「ああ。お前は吉報を待ってるだけでいい。」
「大口たたくだけあって自信過剰ね。」
「失敗するつもりで挑むことは匙を投げてるのと変わらないからな。」
「…なら、賭ける?」
「元より、そういう契約だろう。俺が結果を出した分、お前は俺の要求に答える。」
「そうね。だけど、結果が振るわなかった時の具体的な話は無かった。」
失念してたな。。それは。
「悪い。結果が振るわなかった未来を想像していなかった。」
「だから、今賭ける。もし万が一があったら、俺は堀北の要求に答える」
「そう。ならいいわ。」
「明日も早いんだ。もう解散にしよう。」
「ええ。」
俺は席を立つ。堀北も俺の数秒後に立った。
一瞬名残惜しそうに見えたのには目をつぶっておく。
俺達は並んでその場を後にして、客室へと向かう。
堀北の足並みに揃えるように歩いているが、だいぶゆっくりだ。
「一つ、聞き忘れてたけれど、」
「何だ?」
「貴方、王さんに何かしたでしょう」
俺の目を見据えて聞いてくる。何かを探ろうとしている目だ。
確か、堀北と同室のメンバーは佐倉とみーちゃんだったか。
違和感に気づいても仕方ないだろうな。
「堀北に言うようなことは何もしてない」
「私に言えないような卑劣な行為に及んだのね。」
「どんな曲解だ。性格だけじゃなくて思考も捻くれたのか?」
堀北は溜息をついて、言う。
「そんなことはどうでもいいから、早く何とかして」
「俺もその気持ちは山々なんだけどな。今は時間が必要だ。」
「…まるで、更年期の夫婦喧嘩ね。」
リアリティの伴う例えはやめていただきたい。
「…付き合ってたの?貴方達。」
「堀北にしては大衆的な質問だな。興味があるのか?」
「…別に。ないわけじゃない」
堀北は俺から目を逸らして言う。
天邪鬼な堀北らしい回答だな。
「堀北は告白されたことがあるか?」
堀北は訝しむようなこちらを見てくる。
「…何?急に。」
「やっぱりそうか。」
堀北は眉を顰める。
「勝手に納得しないで。不愉快よ」
「でも、ないんだろ?」
「答える義務はないわね。」
「義務はなくても義理はあるだろ。俺にみーちゃんのことを聞くってのはそういうことだ」
「…貴方、みーちゃんのことをフったの?」
ここまで言えば流石の堀北でも察したんだろう。
思惑通りの的外れなことを聞いてくる。
「ある意味ではそうで、ある意味では逆かもな」
立場によって見方は変わるということ。
どういうこと?と堀北の鋭い目が問いかけてくる。
「お前は知らなくていい。俺とみーちゃんの問題だ。」
「それに、他人事に我関せずのお前が居心地が悪いなんて、冗談だろ。」
もう分かれ道に来た。俺はこの先を右に、堀北は左に行く必要がある。
「また明日な。堀北。おやすみ」
「…関係なくはない。」
俺のおやすみに、小さな声でそう返してくる。
俺が聞き返す前に俺の目を捉えて黙らせてくる。
「私にも関係ないことじゃない。」
次ははっきりと聞こえる声だった。
「それだけ覚えてて。おやすみなさい。」
先ほどまでのゆったりとした足並みが噓だったかのようにそそくさと去って行った。
――――――――――――――――――――――――
特別試験一日目の最初の話し合いがもうすぐ始まろうとしている。
俺は今朝のメールで発覚したクラスの優待者を全て知っている。
その内の一人は俺だけに伝えて来た。俺はそれを櫛田にも洋介にも伝えるのは辞めた。
集合時間の15分前に所定の部屋に洋介と櫛田と共に入室した。
「くくっ。久しぶりだな。ナンパ男。」
龍園は隣にいるひよりの反応を一瞬伺った。
だが、ひよりはポカンとしていた。ひよりにとって俺が無人島で接触したことをナンパとは思っていない。天然が役に立つ瞬間だな。
「意外に優等生だな。龍園。遅刻くらいしてくると思ってたが。」
「くくっ。緩いんだよ」
龍園は知ってる。話し合いはまだ始まっていないが、もう既に化かし合いは始まっていることを。
10分前になる頃、ぞろぞろと面々が揃い始める。
やはり、凄い面子だな。
この面子でプリクラを撮りに行けば謎メンどころの落書きでは済まないだろう。まあ、あり得ない話だが。
「綾小路だったな。無人島試験では暗躍してたようだな。」
俺の座ってる席の横に立って俺を見下ろしてくるように言ってくる。
「勝手に日陰者扱いするのは失礼だぞ。俺は表立って行動してた。」
「陰キャが無理して陽キャぶった結果だ。哀れだな。」
龍園は口を挟むように何処かで聞いたことのある比喩をしてくる。
「龍園。」
葛城のターゲットは俺から龍園に移る。
「くくっ。何か用か?」
座ってるのは龍園。立ってる葛城が当然見下ろして絵になる。
だが、偉そうに座って平然と葛城を見下すように笑う龍園の方がデカく見えた。
「…っ。」
「ちょっと!ちょっと〜。空気悪いよ〜。仲良くしようよ〜。ねっ!」
一之瀬はここにも横槍を入れる。とことん勇気がある奴だな。一之瀬は。
葛城は悔しさを心の奥にしまうような表情で席に座った。
「おい。一之瀬。お前のせいで玩具が一つ減っただろうが。水差すんじゃねぇよ」
Aクラスのリーダーを玩具扱い。龍園はやりたい放題だな。
『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』
簡潔で短いアナウンスが煽り合戦で重かった空気を凍らせる。アイスブレイクを率先してする者はいない。
「はいっ!自己紹介した方がいいんじゃないかな。一応学校の指示だし。私は一之瀬帆波っ!今回の試験。よろしくね」
一之瀬の懸命な自己紹介にBクラスの面々が続いた。
櫛田と洋介もその流れに乗って、ひよりもそれに乗る。
ひよりの自己紹介が終わった瞬間にまた、沈黙が生まれる。
次に続く者はいない。これ、気まずいよなぁ。ひより。可哀想に。お前は悪くない。。
ひよりは助けを求めるように俺を見る。
そして、いつもならこの沈黙を破るはずの一之瀬はひよりが俺を眺めてる光景を見て固まってる。
それに周りが気付く前に俺は声を出す。
「えー……。綾小路清隆です。得意な事は特にありません。えー、よろしくお願いします。」
入学式初日の自己紹介を軽井沢に寒いと言われたことがトラウマとなって襲いかかった。
再び沈黙が訪れる前に、いつの間にか金縛りから解き放たれていた一之瀬が場を繋ぐ。
「ありがとう。綾小路君。じゃあ、次はAクラス。お願いできる?」
待っていても埒があかないと判断した一之瀬はAクラスを名指しした。
葛城達がこの場で自己紹介しないメリットはない。
葛城を始め、Aクラスも全員が自己紹介を終えた。
「龍園君、金田君。お願いできるかな」
龍園は金田に顎で促す。
「私は金田悟です。こちらは龍園さんです。よろしくお願いします」
確かに、自分で自己紹介しろとは言ってなかったけどな。他人が紹介したのを自己紹介と言えるのかは微妙なとこだ。
「最初に宣言させてもらう。俺達Aクラスはこの試験最初から最後まで沈黙を貫かせてもらう。全てのグループにおいて言えることだ」
一之瀬や洋介、櫛田は驚いたような反応を見せている。
「どうして、そんな考えに辿りついたか聞かせてもらってもいいかな」
「簡単なことだ。この試験を確実にプラスで終わらせる方法だからだ。」
「くくっ。葛城。それはお前の案か?」
「そうだ。」
「Aクラスは仲良しで何よりだ、お前の愚策のせいで無人島では苦汁を飲んだことを忘れたのか?」
葛城の周りにいる彼らも葛城派閥なんだろうか。悔しそうにしている。
「龍園。俺はお前の非道を許すつもりはない」
「おいおい。自分の失敗を他クラスに責任転嫁とか笑わせてくれるぜ。前回の試験、消極的に立ち回ってあの結果だ。今回、二の舞になった時、お前は同じように俺の非道を言い訳にするのか?」
龍園は嘲笑を交えて、とことん葛城を煽っていく。
「2度は言わない。話し合いを持ちたいなら他でやってくれ。俺達は端で時間が終わるのを待つ。」
葛城の隣にいた生徒がそう言って、Aクラスの面々はぞろぞろと立って部屋の隅に固まった。
「ねぇ、ねぇ、綾小路君。どういうこと?」
隣の席の櫛田がコソコソと聞いてくる。
「葛城はこの試験の公平性のことを示唆してるんだ。この試験は優待者には莫大な優位性がある。学校側は各クラスに優待者を3名ずつの選定をしてないと平等な試験にならない。なら、だんまりを決め込めば、ほぼ確実に結果は優待者が得する結果となる。それは巨額のプライベートポイントとクラスポイントが得られる事を意味する。それは、全クラスに言えることだ。今回葛城はクラスに差が生まれないように立ち回る気なんだ。」
俺はわざと、皆に聞こえる声で説明する。
「なるほどね〜。」
「Aクラスならではの作戦ですね。」
櫛田より先に理解した、Bクラスの一之瀬とCクラスの金田が反応する。
「馬鹿に親切にしても得はないぞ。綾小路。」
龍園は葛城の宣言を聞いた瞬間に策略の全貌を見抜いていた。
「損もない。それに、俺も今さっき思い当たったばかりだ。間違っていないか確認したかった。」
「お前はどこまでも化かし合いがしたいらしいな。」
龍園はは何を思ったのか、立ち上がって部屋で隅っこ暮らししてる葛城に声をかける。
「おい。葛城。ちょっとこっちの席に戻って来いよ。面白い話を聞かせてやる」
「今、ここで話すなら聞いてやる。」
「無人島試験の種明かしだ。まさか、興味が無いとは言わないだろ?」
葛城の表情筋が動く。無言で立ち上がり、部屋の隅から戻って来た。
「くくっ。お利口さんだな。坂柳の犬になる準備は整ってるようだ」
「龍園。煽るために呼んだのならすぐに去るぞ」
「焦るなよ。ショーに前座は必要だろ?」
どうやら、龍園は本当に種明かしをするつもりらしい。
「一之瀬。文句はないだろ?どうせ、議論は進まねぇんだ。」
「私に異論はないよ。それに、私も気になってたことでもあるし」
「綾小路。お前も心の準備はいいのか?」
生憎と、俺に心は無いんだ。代わりに準備してくれ。
「櫛田。心を貸してくれないか。俺の心だけじゃ足りそうに無い。」
「とことん。ふざけた野郎だ。化けの皮剥がしてやるよ」
「そうだな。まずはAクラスの最終ポイントから種明かしだ。勘付いてる奴も多いがAクラスは全てのクラスからリーダーが当てられている。洞窟に立て篭っておいて哀れだな結果だなぁ。葛城。」
「……っ。」
葛城にとっては公開処刑だな。
「もし、Aクラスのリーダーを当てたことを非道だと言ってるなら緩いにも程があるぜ?だって、綾小路もAクラスのリーダーを見抜き、さらにその情報をBクラスに売った」
葛城は驚愕の表情で俺と一之瀬を見ている。
クラスメイトの神埼と安藤も驚いてるようだ。
やはり、龍園は無人島試験の全貌を正確に把握している。
「本当か?」
葛城は俺には問いかけてくる。
「ああ。龍園の言葉に嘘偽りはない」
俺は素直に龍園に乗っかる。
葛城以外のAクラスの生徒も驚きを隠せない様子だ。
「この上でもう一度聞くぜ。Aクラスの馬鹿ども。お前達の戦略は本当に試験終了まで沈黙を貫く。これでいいんだな?」
龍園はわざわざAクラスの失態から説明した。
それもこれも、この問いかけの為の布石。
Aクラスの生徒達の戦略はもう机上の空論。確実なプラスなんて有り得ない。
「悪い事は言わない。はやく、坂柳にその席を明け渡せ。お前じゃ力不足だ。」
龍園のその言葉はとどめ。確実にウィークポイントを突いて行くその様は連続殺人犯のように躊躇がない。
「龍園の言葉に躍らされるな。この試験で俺に文句があるのならこれ以上の戦略を提示してもらう」
龍園は聞かれてもないのに即答する。
「なら、提示してやるよ。俺が」
龍園はその言葉を待ってたと言わんばかりにニヤついている。
「お前の意見など聞いてない」
葛城の言葉は龍園には届かない。
龍園は金田に目配せする。
二人は携帯の優待者じゃないことを示したメールの画面を惜しみなく見せた。
「一人ずつ、優待者じゃない人間を見つけるのが手っ取り早いことは確かだ」
葛城は強張った顔で状況を無視するように傍観している。
決定的だな。
俺もいち早く、龍園の策に乗っかる事を決める。
テーブルの下で櫛田にだけ分かる指示を出し、同じようにメールの画面を見せさせる。優待者じゃないことは龍園達と同じように確実に示されている。
「私も優待者じゃないよっ!」
瞬時の判断で櫛田に龍園の策に乗っからせる。
皆が櫛田に注目してる中、龍園は表情を変えない葛城を一瞬見て、薄く笑った。
やはり別格だな。龍園は。
「くくっ。ってのはウソだ。これが面白いショーだ」
龍園はポケットから1台さらにもう1台と携帯を取り出す。
取り出された携帯の数は8個にも及ぶ。
龍園の行動を理解できてない生徒も多い。
この試験が全容を明かされたのは昨日。
優待者が示されたのは今日の朝。
龍園は話し合いを始める前からもう優待者を絞り込むだけの策を握っていた。それが、一人に絞り込めたのは偶然だろう。恐らく、その偶然を必然に変える為の策はまだ何個か持っている。けど、それももう必要ない。
皆は理解できないまま、この1時間が終了した。
Aクラスの連中もそそくさと去っていく。俺も平田と櫛田を連れてすぐに退出する。
このグループは龍園によって破壊された。
なら、もう残された時間は無く、すぐに動くしかない。
俺は櫛田と洋介を先に客室に返す。
部屋からはBクラス。そしてその後にCクラスが出てきた。
俺は龍園の後を暫し尾行する。そして、人の気配が完全に無くなったところを確認して声をかける。
「龍園」
隣にいた金田はびっくりするような剽軽な声をあげる。
いつから尾行してたと目で睨み、問いかけてくる龍園。
「見事だった」
「あ?」
俺は葛城の名前を打ち込んだ、学校側に申告するメールを見せる。
俺は龍園のように試験で遊びたいわけじゃない。俺の指はトリガーにかけられている。
「くくっ。やはりお前は俺を楽しませてくれる。」
龍園は悔しがる素振りも見せずに早く送信しろよと言わんばかりに促してくる。
金田は理解できてない様子だ。孤軍奮闘が龍園のスタイルらしい。
周りの連中はあくまで駒でプレイヤーは龍園ただ一人だ。
「龍園。俺はクラスの優待者を全て把握している。この情報を一人100万プライベートポイントで売ってやる。どうだ?お前には必要な情報だろ?」
俺はその言葉と共に、迷わず葛城の名前を打ったメールを送信した。
『辰(龍)グループの試験は終了いたしました。辰(龍)グループの生徒の試験は終了となり、今後話し合いは行われません。他の生徒の邪魔をしないように行動してください』
「龍園さんっ!!!」
金田は衝撃のアナウンスに叫ぶ。
「やりやがったな。綾小路。」
「どうする龍園。俺が優待者の情報を取引するのは今だけだぞ。」
「一人80万。それなら出してやる。」
「その条件で飲もう」
「間違ってた場合は殺すぜ?」
龍園の目はそれを本気で言っている。
「葛城と同じように契約書くらい作ってくれて構わない」
葛城と龍園の間には同盟があった。葛城が契約書を用意してない龍園の口約束に乗るわけがない。なら詳細を知らなくても何があったか分かる。
「ついてこい」
俺は龍園にクラスの優待者の情報を全て売った。
龍園は俺が伝えた優待者をすぐに告発することはしなかった。
試験結果を楽しみにしてろ。
俺が楽しみにしているわけがないのに、それだけを言う。
俺のグループは俺が勝った。
茶柱先生に実力を示すだけの最低限の功績は作った。
なら、他はどうなってもいい。
試験の厳正なる調整も試験の法則も俺の問題じゃなくなった。
どんな難解な試験よりも、どんな法則も通用しない難問が俺の前には残されている。
それより大事な事なんて今の俺には無い。
本当にシンキング能力が問われるのはこれからだ。