綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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#24 嫌いの反対は大嫌い。

 

龍園はどうやって無人島でAクラスのリーダーを暴いたのか。密約を結んでいた葛城と接触することは出来ない。ならば、Aクラスの坂柳派がAクラスのリーダーを龍園にリークしたと考えるのが自然だ。

 

その事実で葛城を揺さぶる事も出来たはず、だが龍園は俺をダシにした。

自分の武器の温存をしつつ、自分の考察力の高さを誇示していく。

俺がBクラスにAクラスのリーダーをリークした事は俺と一之瀬以外は知らない。龍園はそれをこの場で暴いた。

それは、龍園の言う通り、葛城を貶めるに値するショーだった。

葛城は表情を隠すのが上手いが結局は隠すのが上手いだけ。隠していることを悟られる時点で負けている。

 

 

後は龍園にとって仕上げみたいなもの。Aクラスを揺さぶって割り出す遊び。

葛城の愚策を指摘された時、Aクラスは動揺した。

その後の葛城の落ち着けという言葉で落ち着くのはAクラスに優待者がいる証だ。

この試験は優待者がいるクラスはどうしたって防戦一方になる。

逆に優待者のいないクラスが積極的に取り組むなら攻める必要がある。

なら、葛城の消極的な作戦への信頼が地に落ちた今、葛城に従い続けるなんてことは不自然だった。

文字通り、Aクラスは龍園の手の上でショーをしていた。

 

後は詰めていくだけ。Aクラスの面々をとことん揺さぶって狼を炙り出すだけ。

葛城はまた、龍園に一本取られる形になった。

 

――――――――――――――――――――――――

 

龍園は俺の与えた情報と自クラスの情報と割り出した狼の葛城。優待者の情報を12分の7を得ていることになる。法則性を割り出すことも時間の問題だ。

 

まあ、俺にはもう関係ないことだが。

 

俺は決別の時に向けて、少しずつ舞台を整えていく。

 

俺が客室に戻るとルームメイトの洋介と高円寺。そして櫛田もいた。

「綾小路くんっ!どういうこと!?」

客室に入って開口一番に櫛田は聞いてくる。

 

「結果3だ。俺が正解の優待者を学校側に送信した」

「ええええええええっ」

「…どうして、そんなことができたの?」

うるさいくらいに驚く櫛田。洋介も疑問が晴れないようだ。

 

俺は龍園の策略を説明して、それを利用した事を話した。

 

「洋介。携帯を返しておく。」

俺は話し合いが始まる前に洋介と櫛田の携帯を預かっていた。もし、優待者じゃないことを証明する機会が来た時は俺がテーブルの下で携帯を渡したらその流れに乗るように、と指示していた。

 

「うん。でも、案外あっさり終わっちゃったねっ。」

「櫛田も助かった。ありがとう」

「私は何もしてないよっ。」

「それに俺達のグループは終わったが、試験は終わってない。他のグループのフォローは二人に頼んだ。」

「うん。それは元からやるつもりだよ」

「私も皆のために頑張るよ」

 

「はっはっは。いい話を聞いたね〜。このつまらない試験は苦痛で仕方なかったんだ。」

横のベットの上で体をほぐしている高円寺が俺達の話を聞いていたみたいだ。

「どういうこと?高円寺君。」

「平田ボーイ。簡単なことだよ。告発してしまえば試験の残り2日間は自由になる。ならばやることは一つだ」

高円寺は携帯を取り出し操作する。

 

『申(猿)グループの試験は終了いたしました。申(猿)グループの生徒の試験は終了となり、今後話し合いは行われません。他の生徒の邪魔をしないように行動してください』

 

高円寺は携帯をベットに投げて、立ち上がる。

「これで晴れて私も釈放だ。娑婆の空気を吸ってくるよ。アデュー。」

高円寺は鼻歌交じりに部屋を出ていった。

やはり規格外だな。この男は。

 

「あはは。流石だね‥。高円寺君。」

「うん。でも、高円寺君にも考えがあるかもしれない。責められないよ」

高円寺の洞察力や観察力は人並みはずれてる。だけど、それを今回発揮したかどうかは怪しいな。

 

「おい。どういうことだ」

龍園からメールが一件届く。

「警告した通りだ。高円寺が暴走した。結果が3か4かは分からない。文句なら本人に言ってくれ」

俺の言葉に既読はついたが返信は無い。ひとまずは納得したようだ。

 

俺は龍園に猿グループの試験をいちはやく終わらせるように進言していた。高円寺の暴走にある程度予測がついているからだと龍園には言ったが狙いは高円寺と同じ猿グループのみーちゃんを試験からいち早く解放すること。

 

予定よりも早いが必要なパーツを一つ手に入れることができた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

午前8時。私は客室で学校側からのメールで優待者ではなかったことを確認した。

午後一時からの兎グループとしての一回目の会合が始まる前に確認すべきことがある。

生憎、幸村君、外村君。そして軽井沢さんの連絡先を知らない。

私が彼らの情報を知るためには足で動くしかない。

 

「堀北さん。」

部屋を出ていこうとした時に同室の王さんに呼び止められる。

王さんから話しかけられるのは初めてのことだった。

王さんは学校からの優待者の有無のメールを確認するようにアナウンスがあったのに確認した様子はない。

 

「何かしら。急いでるの。手短にお願いするわ」

「…え、えっとー…、」

王さんの歯切れの悪い返事は私の貴重な時間を奪っていく。

 

「ごめんなさい。本当に時間がないの。後で聞くわ」

私が踵を返して部屋のドアノブに手をかけた。

 

「昨日の夜!清隆君と二人で何してたのっ?」

喉に詰まっていた言葉を勢い任せで聞いてきたのか、早口だった。

でも、真意を読み取ろうとするような真剣な顔つきだった。

 

今はクラスの未来を左右する特別試験の最中。

優待者のメールも確認せずに一心不乱に聞いてきたことは綾小路君と昨日会っていたこと?

私は腹立たしく感じてしまう。

私が重く受け止めていることを軽々しく扱っている王さんの態度とその原因であろう綾小路君に。

 

私にはこの煮えたぎる心中を隠して対応できなかったようだ。

いつもと同じ声を出したつもりなのに、少し怒気を含んだ自分の声が聞こえた。

「そんなことなら後にしてくれるかしら」

 

王さんと私が作り出す重い空気にもう一人のルームメイトの佐倉さんはおどおどしている。

「…っ。だ、だいじなことなのっ」

「あなたが誰に何を聞いたかは知らない。でもあなたには関係ないことでしょう?」

 

私の突き放したような言葉にも王さんは突っかかってくる。

私の知っている温厚な王さんじゃなかった。

「あ、あるよっ!関係っ!だ、だって…」

「わ、私はっ…」

 

王さんの言葉は止まって続かない。

どうして、その言葉が続かないのかが、昨日の綾小路君との話と繋がって見えてくる。

 

「別に、貴方、綾小路君の何者でもないんでしょう?」

「…っ!!」

吐くつもりのなかった毒が勝手に口を衝いて出た。

いや、正しくは口を衝いて出た言葉が王さんの表情を歪めた時に毒を吐いてしまったんだと気が付いた。

王さんは歯を食いしばって涙を必死にこらえているように見えた。

 

「堀北さんっ。そ、それは、、ひどいんじゃないかなぁ」

普段、私に関わろうとしてこない佐倉さんが王さんの側に立って助太刀してくる。

 

私は大きな溜息を吐いて、事実を押し付ける。

「本当に関係ないことよ。王さん。あなたには」

「だって、昨日綾小路君と話していたことは特別試験のことだから。」

 

私はそれだけを吐き捨てて部屋を出る。

"余計なこと"で時間を取るわけにはいかない。

 

――――――――――――――――――――――――

 

今は試験のことに集中しないと‥。

卒業まで特別試験が何回行われるかは分からない。チャンスを不意にする訳には行かない。

 

軽井沢さんがいる部屋である事を確認してノックする。

「はぁ〜い。ってあれ?堀北さん?どうしたの?」

呑気そうな佐藤さんが出てくる。

「試験のことで軽井沢さんのことで用事があるの。」

「バッドタイミングだね。軽井沢さんならついさっき出て行っちゃった。」

「行き先は分かるかしら?」

「ごめん。分かんないや」

 

「そう。なら、もし、部屋に帰ってきたら私に連絡して欲しいの。連絡先交換してもらえる?」

「全然いいよ〜。」

私は佐藤さんと連絡先を交換した。

 

私が持ってる連絡先はこれで実質2人目。

勉強を教えるために交換した須藤君のアドレスはまだ残っているけれど、もう意味はない。

私は戒めとしてこのアドレスを残している。

私に消す資格は無いと思ったから。

 

佐藤さんにお礼を言い、軽井沢さんを探す前に幸村君と外村君の方を先に確認することにして、すぐに幸村君の部屋に向かうことにした。

 

幸村君は部屋にいて、携帯のメールの画面を見せながら優待者では無い事を教えてくれた。そして、外村君も優待者じゃ無い事を教えてくれる。

これで兎グループのDクラスの生徒は軽井沢さん以外は優待者じゃ無いことが分かる。

幸村君と同室にいるはずの彼の姿は無かった。

 

「綾小路君は何処に行ったの?」

幸村君に尋ねてみることにした。

「さぁ。分からない。電話がかかってきて席を外した」

「そう。」

「何か用があったなら伝えておく」

「いえ、その必要はないわ。急いでることでもないから」

「そうか。…なぁ、堀北は今回の試験どう考える?」

 

幸村君は真剣に特別試験に取り組んでいる。

それが分かる質問だった。関わりの薄い私に話を聞いてくるくらいだから。

先程の苛立ちが少し和らいだ気がした。

 

「結果1は無理難題ね。軽井沢さんがもし、優待者なら結果2を目指す。そうじゃないなら、他クラスの優待者を当てに行く」

「そうだな。なら、まずは軽井沢の確認がマストだ。俺は軽井沢が苦手だ。もし任せれるなら任せたい。」

「元からそのつもりよ。私は軽井沢さんを探してくる。」

「ああ。ありがとう」

幸村君のお礼を背に軽井沢さんを再び探す。

だけど、軽井沢さんが向かう場所に心当たりもなければ、手掛かりもない。

 

だけど一つだけ気になる点はあった。

時間もない。私は彼に電話をかける。

 

綾小路君は私の言いつけを守っているのかすぐに出た。

「なんだ?」

ぶっきらぼうで平坦な声が耳元で響いた。

「今どこ?」

私の質問に綾小路君は時間をかけて答える。

「その様子だと、客室にいないことを確認してるな。」

 

彼の洞察力の高さはもう既に分かってること。私は素直に肯定する。

「ええ。」

「悪いが、その質問には答えられない」

「どうして?」

「端的に言えばやり方が気に入らないからだな。」

 

「それは相手に『今、暇?』って聞いた後に遊びに誘うやり方と一緒だ。先に要件を言え」

例えがいまいちピンと来なかったけど、綾小路君が退く気がないのを感じて、私は本題に入ることにした。

 

「軽井沢さんを知らない?」

「なるほどな。」

綾小路君は何か納得した返事だった。

そして数秒後に声が聞こえてきた声は予想通り軽井沢さんだった。

 

「堀北さん。何か用?」

「あなたが優待者かどうか教えてほしいの」

「えー?誰にも言わない?」

その言い方だと、もしかして…

「ええ。他言は一切しないわ。」

「そっか。なら言うね」

軽井沢さんの返事を大人しく待つ。

 

「やっぱ、やーめた。堀北さんのことまだ信用してないし~」

「…貴方ね、これは試験なのよ。同じ仲間なんだから教えるべきよ」

「だからこそじゃない?信用できない仲間には教えられなくない~?」

理屈は通っている。だけど、それでは試験に勝つことができない。

 

「そんなに隠そうとするってことは、貴方、もしかして優待者なの?」

「堀北さんがそう思うならそうじゃない?いいよ。それで~。」

「…綾小路君に代わって」

電話越しに交代している様子が伝わる。

 

 

「満足したか?」

「…貴方、軽井沢さんのこと知っているんでしょう?」

「悪いが、お前が知りたいそれは本当に知らないんだ」

優待者が発表されてすぐに会っている二人がその情報を話してないってのは無理があるように思えた。

 

「なら、聞き出して」

「軽井沢は俺にそれを教えるつもりはない。」

彼は即答する。聞こうとする素振りすら感じられない。

「貴方、少しは協力するべきじゃない?」

「いいのか?それで」

「私は私の使える武器は全部使う。それが私のやり方だから」

 

「自分で言うのもなんだが、今回の試験では俺は使えない武器だ。」

「…貴方、忘れてないわよね?私が貸したものを」

私があそこまでやったんだから、少しは協力してくれないと釣り合わない。

 

「あれぐらいでは無人島の俺の働きに対する対価としては足りないくらいなんだがな。」

「無人島での働きは契約前の話よ。私の貸しは契約後の話。分からないとは言わせない。」

「確かにな。…だが軽井沢の情報は言っとくが高いぞ。お前の貸しはこの情報で帳消しだ」

 

やはり、軽井沢さんの情報を掴んでいる。

私が元よりそれさえ手に入れば、それ以上綾小路君に手を借りる気はない。

 

「それでいい。教えて。」

すぐに軽井沢さんの声が聞こえた。

 

「幸村君や外村君には言わない約束なら言う」

「それで構わないわ」

幸村君には後で謝らなきゃいけないわね。

 

「私が優待者だよ。」

 

いつもと変わらない抑揚だったけど軽井沢さんの言葉は本当だろう。

 

「ありがとう。綾小路君にもう一度代わってもらえる?」

「うん。堀北さんも大変だね~」

「お互い様でしょう。」

綾小路君の指示一つで軽井沢さんの意見は180°変わった。

軽井沢さんが嘘をつくと言うことは綾小路君が嘘をついたことと同義。綾小路君がそれをするメリットはない。

 

…綾小路君と軽井沢さんとの間にも私と綾小路君と似たような何かがある。それだけは確かだ。

 

「満足したか?」

先程の再現のような台詞。

 

「概ねね。貴方、軽井沢さんとも何かあるの?」

「そうか。満足してるとこ悪いが、軽井沢の情報をお前が得たことはマイナス要素だぞ。」

私の探りを入れるような質問には答えず、私が満足してることに対して意味深な答えを返してくる。

 

「じゃあな。悪いが、俺も忙しい」

私が言葉の意味を思案している間に彼は電話を切った。

 

彼は私が見えていない部分まで見えている。

私の今の考えは今までの私と何が違う?

自問自答の先に答えはない。なら考える続けるしかない。

 

私が考えてた戦略は一度白紙に戻す。

 

私は一から試験について考え直すことにした。

 

――――――――――――――――――――――――

兎グループの特別試験一回目の会合が始まってすぐにAクラスはこの試験で沈黙することを宣言した。

そして残された3クラスも活発的に話し合いが行われる様子はない。

 

コソコソと仲間内で喋っているだけだ。

このままこの1会合は終わりそう。そう思ったとき、伊吹さんを除くCクラスの3名が立ち上がった。

無言で携帯を触ってる軽井沢さんに詰め寄っていく。

 

軽井沢さんもそれに気付いたようだ。

大きく溜息を吐いて面倒そうに3人を見上げる。

「なに?」

「軽井沢さんだよね?聞きたいことがあるんだけど」

3人の先頭にいる真鍋さんが軽井沢さんに話しかける。

軽井沢さんは言葉じゃなく、大仰に構えて待つことで先を促す。

 

「私の勘違いじゃ無かったらなんだけど、もしかしてリカと揉めた?」

「は?どゆこと?ってか誰それ?」

「私達と同じCクラスのお団子頭の眼鏡かけてる子なんだけど覚えてない?」

「知らない。別人でしょ」

軽井沢さんはその言葉で真鍋さん達に取り合う気はないと携帯に目を落とす。

 

「おかしくない?私達、確かに聞いたの。Dクラスの軽井沢さんにカフェで順番待ちしてた所を割り込まれて突き飛ばされたって。」

「…知らないって言ってるでしょ?いちゃもんつけないでくれる?」

「なら、リカに確認していい?軽井沢さんじゃないなら問題ないよね?」

 

真鍋さんは携帯を構えて、軽井沢さんに向ける。軽井沢それを勢いよく手で払い、真鍋さんの携帯は吹っ飛び床に滑りくるくると回る。

 

「なにすんのよ!!」

「それはこっちのセリフ。勝手に撮らないで。」

「壊れたらどうするつもり!!!?」

二人はヒートアップして、真鍋さんの口調もだんだん尖っていく。

 

そこで1回目の会合を終えるアナウンスが鳴った。

アナウンスが終わっても二人は言い合ってる。

Aクラスの人達もBクラスの人達も帰るに帰れない状況になっていて動けない。

 

「くっだらなっ!」

そこで口を挟むのは伊吹さんだった。それも、Cクラスの仲間を馬鹿にするような目で見ている。

「…伊吹さんには関係ないよね?リカちゃんと友達じゃないし」

「私には関係ない。けど、こんな場所でギャーギャー喚いてたら文句の一つも言いたくなる」

 

「同感ね。それに、自分勝手な理由で盗撮するのは立派な犯罪よ?軽井沢さんに理があるのは側からみても明らかね。それ以上騒ぐのはやめてもらえるかしら?」

「勝手に乗っからないで?それに私はどっちが悪いとか言ってない。どっちもくだらない」

伊吹さんは私が乗っかるように発言したのが気に入らないのか睨んでくる。

 

「…ったく。あいつなんで電話に出ないのよ」

軽井沢さんは私達の仲裁を見て、どこかに電話かけようとしたがあてが外れたらしい。

「軽井沢さんも余計な揉め事はやめて。クラスポイントに影響が出るかもしれないから」

「…何?堀北さん、私が悪いって言いたい訳?絡んできたのは向こうでしょ?」

「あなたの態度にも問題はあったわ。」

 

「くだんねぇ。俺達は帰るぜ」

Aクラスもようやく帰れる空気になって立ち上がった。

 

『辰(龍)グループの試験は終了いたしました。辰(龍)グループの生徒の試験は終了となり――』

 

龍グループは綾小路君の…

「お、おい。これ、葛城さんの」

「どういうことだ!?」

「帆波ちゃん‥‥」

「龍園…っ。」

その館内放送には全クラスが動揺していた。

 

軽井沢さんは隙を見つけたように皆より早く部屋から出ていった。

伊吹さんも同じように廊下を駆けるように走っていく。

 

私は迷った挙句、軽井沢さんを追うことにした。

「…っく。なんであいつ出ない訳っ!!」

軽井沢さんは持っている携帯に悪態をつきながら歩いていく。

「軽井沢さん。」

軽井沢さんは肩を跳ねさせて、振り向く。

「…堀北さんか。びっくりさせないで」

異様な驚き方に私は見えた。

 

「……で、何?私についてきて」

「綾小路君でしょう?出ないのは」

軽井沢さんは一瞬動揺するが、それも強気な態度で瞬時に上塗りされていく。

「…だから何?話が見えてこないんだけど」

「随分と彼に固執してるのね」

 

軽井沢さんは鼻を鳴らして分かりやすく煽ってくる。

「もしかして、堀北さん、嫉妬してる?」

「どうして、そんな考えに至るか分からないわね」

「私が綾小路君に連絡しようとしてて、それに対して嫉妬したから、わざわざ嫌いな私に話しかけてきたんでしょ?」

 

「それを言うなら貴方も変わらないわよ。綾小路君に言われて嫌いな私に情報を渡した」

煽ってニヤニヤしてた軽井沢さんの笑みは消える。

私が軽井沢さんと綾小路君との関係に勘付いてることは彼女も分かっていたこと。だけど、それを正面から指摘されるとは思っていなかったんでしょうね。

 

「そういう、相手に無遠慮に突っ込んでくるところが嫌いなんだよね。堀北さん。」

「私は別に貴方のこと嫌いじゃないわ。」

「そういうとこも嫌い。で、それで結局何?」

 

「真鍋さん達のこと。綾小路君に相談するつもりなんでしょう?」

軽井沢さんは一つ大きく息を吐いて、自律神経を整える。

「……だったら何?」

「私に相談してみない?それ」

 

軽井沢さんは目を丸く見開く。予想外の言葉だったんだろう。

「マジで意味分かんないんだけど」

 

「私でも解決できる。もし、真鍋さん達が言ってる事が真実だとしても、真鍋さん達を丸め込むだけの自信はある。威圧的かつ高圧的に振る舞うのは貴方だけの専売特許じゃない。私はもっと上手く出来る。」

「…堀北さんにメリットある?それ」

「この試験。勝つのには貴方の協力が必要なの。綾小路君じゃなくて貴方の。」

 

「…助けるから、協力しろって事?マジで余計なお世話なんだけど」

「よく考えてみて欲しい。このグループに所属している以上、会合中は綾小路君ではどう頑張っても手が届かない。だけど私は違う。同じ部屋にいる以上、真鍋さん達に好きにはさせない」

軽井沢さんの携帯が鳴る。

彼女は一瞬目を携帯電話に向ける。

反応で分かる。綾小路君だ。

 

「本気で言ってるんだよね?堀北さん」

「私は嘘はつかない」

軽井沢さんの携帯は鳴り続ける。

「それ、嘘つく人の台詞なんだけどな。堀北さん、それを真剣に言うから笑っちゃうよ」

 

「ごめん。かけ間違えただけ。」

軽井沢さんは携帯に出て一言そう言って、電話を一方的に切る。

「今回は堀北さんを信じるよ。真鍋さん達が言ってた事は本当の事。それを踏まえた上で全てを丸く収めて」

普通に考えたら、軽井沢さんが100%悪い話。

 

「貴方。我儘ね。貴方が謝れば済んだ話じゃない。」

「私の箔が落ちるでしょ。そんなことしたら」

「その台詞はもう既に箔が落ちた人ね」

「はは。堀北さん、友達いないから楽だよ。どんだけ箔が落ちた私を見られても問題ない」

「それ、皮肉のつもり?幼稚ね。」

 

「幼稚で我儘なんだよ。でも、それが今の私だから。」

「開き直るのが早いわね。いっそのこと清々しくて気持ちいいわ。」

「そんなことはいい。それで、丸く収めること、出来るの?出来ないの?」

「出来ない理由を探す方が難しいわ。」

「自信過剰なとこはあいつに似てるね」

 

私と綾小路君は似ていない。

綾小路君は自信過剰じゃない。証明できる実績を持ってるからこその自信だからだ。

私にはそれがない。実績がない人の過剰っぷりほど空っぽに感じるものはないはずなのに。

では、なぜ軽井沢さんは話に乗ったのだろうか。綾小路君の影がチラつく。

 

「よく、私の話に乗ったわね。」

「…もしかして、綾小路君に私が何か言われたんだと思ってる?」

私の思考を読むように先取りしてくる軽井沢さん。

彼が軽井沢さんのことを優秀と言った意味が少しずつ理解できていく。

 

「…残念だけど違うよ。堀北さんには少し後ろめたさがあるからね。私、堀北さんのこと嫌いだけど、大嫌いじゃないから。」

 

軽井沢さんの言葉は意味深だった。

後ろめたさがあるの意味も分からない。

嫌いと大嫌いの違いも分からない。

 

けど、綾小路君の意思じゃなく、自分の意思で私の差し出した手を掴んでくれたことだけは分かった。

 

「ありがとう。軽井沢さん」

「やめて。お礼されることしてないから」

 

「…ほんとにしてないから」

 

懺悔するようなボソッと呟いた軽井沢さんの声は私には聞き取れなかった。




※後書き、何も書くことありませんでした※

いつもコメントくれる方ありがとうございます。励みになってます。
誤字報告してくれる方も助かってます。いかんせん文字数が多いこともあって見逃しも多いんです。大感謝。

みーちゃんとの決着は次か、次の次か。だと思います

堀北はゆっくりと成長していきます
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