綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
軽井沢とケヤキモールで別れた後、俺は生活用品を買うためにコンビニへと向かう。
「なあ、また明日なってフラグだと思うか?」
「何を言ってるの?それにしてもまたしても嫌な偶然ね。」
コンビニに入ったと同時に堀北と鉢合わせる。
こいつの嫌そうな顔は一日目にして、見飽きそうだ。
「本当に偶然だと思うのか?」
「平然と気持ち悪いことを言えるその神経だけは尊敬に値するわね。」
こいつに冗談は悪手らしい。蟻んこになりたい気分だった。
「冗談だ。堀北もコンビニに用事だったのか?」
「ええ、少しね。必要なものを買いに来たの。」
まあ、新生活初日だ。必要なもの多いだろう。
俺は手頃な商品を取って、疑問を堀北にぶつけることにした。
「なぁ、この商品の値段、相場的に見て高いと思うか?」
俺が手にしているのは何の変哲もない普通のシャンプー。
「…いえ、普通だと思うけど?何?」
値段は相場ということか。俺は1番安いシャンプーを取ってカゴに入れる。
すると別のコーナーが目に入った。
「じゃあ、あれはなんだと思う?」
「貴方ねぇ。さっきから質問ばっかで…」
堀北は俺への憎まれ口を閉じて思案する。
「そうね。ポイントを使い切った人への救済措置かしら?随分と甘い学校ね。」
そこには無料で提供されている日用品があった。
一人1ヶ月3点までと書いてある。
堀北の言う通り、ポイントを使い切った人への救済措置なのであれば、現在10万ポイントを抱えてる俺は買えるのだろうか?それが気になって俺は無料商品を次々にカゴに入れて、レジに向かった。
店員は通常通りと言った感じに対応してくれるようだ。
つまり、この無料商品はポイントに困っている人がターゲットではなく、全員が平等に受けれるサービスということ。
俺がコンビニを出ると、後ろから堀北も出てくる。
「貴方ねぇ。疑問を投げるだけ投げて、あとは無視なんていい度胸ね。会話の仕方を知らないの?」
会話の仕方は今日学んだばっかりなんだよ。
俺は堀北に買い物袋を見せることで返事とする。
「買えたのね。」
「ああ、少なくとも10万ポイントではな」
「なるほどね。例えばプライベートポイントを20万以上持ってる人は買えない仕組みの可能性もある。と」
「ああ、その件で少し試したいことがある。」
堀北は相槌は打たずに、言葉を待つ。
一応は付き合ってくれるようだ。
人の会話能力を馬鹿にできる立場か?こいつ。意思表示せんかい。
「スマホのポイントの画面に送金というものがある。これがどういうものか知りたい」
軽井沢が携帯の画期的な使い方をしていたことから学んで、俺もあの後少しスマホを操作していた時に見つけたものだ。
堀北は俺の話を聞いて驚いていた。
「よくこの早い段階で見つけたわね。」
「余計なことに気がつくことが長所なんだよ」
この前の意趣返しのように皮肉を込めたが、あいにく堀北には伝わらなかった。
「堀北、メールアドレスを教えてくれないか」
送金の過程でメールアドレスが必要になるようだ。
堀北は一瞬警戒を見せたが、それをすぐに理解する。
堀北が画面にメアドを表示して見せて来たため、それに一時的に発行されたトークンキーを送る。
堀北はそれを使って俺に送金リクエストを送り、俺は下限額ギリギリを堀北に送金した。
なるほど。
送金することによる利子などは無いか…。
いただき女子がスタンディングオベーションで喜ぶ無法地帯だな。贈与税が泣いている。
これなら、さっき議論していたポイントによる無料商品の配布の制限は無いとみていいだろう。
堀北はスマホの画面を確認して、今度は俺宛に送金リクエストが届いた。
「いや、別に最小額の10ptだ。付き合ってもらったし、お礼として受け取ってくれ」
「他人の施しを受ける理由も無いわ。はやく、送金リクエストを送りなさい。」
律儀な奴というより強情だなという感想。
彼女が引きそうにもなかったので、素直に10ptを受け取っておく。
「付き合ってもらって悪かったな」
「いいわ。私にも収穫があったもの」
それだけ残して堀北は帰って行った。
疑問を疑問のまま残さない。この大切さを堀北が学んだ瞬間だった。
――――――――――――――――――――――――
家に帰り、スマホを確認すると大量のメッセージが来ていた。
女子達からのこれからよろしくメッセージに俺は当たり障りのない文章で、そして、間違っても同じ文章は送らないように気を遣って返信した。
男子に対してはAI生成の文章をコピペして返しておく。
軽井沢からはデザート食べたばかりの意には少し重いメッセージ。
取り乱してごめんという謝罪とこれから頼りにしているという話だった。
入学初日から、大変だな。こいつも。
だが、今日だけでも軽井沢という生徒の有用性は見えている。
細かな気遣いや観察眼。さらに、女子のリーダーシップを取れる点だ。
俺は敢えて淡白に『ああ』とだけ返事をしておいた。
彼女ののあの捨てられた子犬のような目を見て直感で分かった。
軽井沢は依存が強いタイプだと。この返事も彼女にはおそらく有効に働くだろう。
もしそうでなかったとしてもアフターケアで何とでもなる。
その返信を終えたタイミングで今度は櫛田からメッセージが届く。
どうやら、今日はクラスの人を何人か集めて、夜に親睦会を開くらしい。それのお誘いだった。
夜に特に予定は無かったため、俺は二つ返事で了承した。
LINEのアイコンに赤い数字が無くなったことに満足した俺は思案する。
そういえば、入学式の後の茶柱先生による施設の説明で気になっていた場所があった。
俺はさっきケーキをご馳走して貰ったのもあり、お昼は無くてもいいかと思い、早速出掛けることを決めた。
俺は制服のまま外に行き、校舎へ向かう。
向かったのは図書室だ。
さっきのケヤキモールとは雲泥の差でその内部は静寂に包まれていた。
ミステリーコーナーに足を運ぶと一人の女子生徒がいた。
懸命に腕を伸ばして、自分の背より高い本棚の本を取ろうとしている。
本の位置が絶妙で届きそうで届かない。見ていてむず痒い光景だ。
掴もうとしている本はエミリーブロンテの「嵐が丘」だった。あらすじはミステリーっぽいがジャンルは恋愛になるんじゃないか?
俺は横入りし、その本を掴んだ。
「余計な事かもしれないが」
彼女は勢い良く振り返る。
長い透き通ったような色の髪の毛は宙を舞い、俺の顔に打ち付けられる。
優しめで控えめな香りが俺の顔に残る。
振り返った彼女も事情を把握したようだ。
そして、焦ったようにお辞儀した。
「ありがとうございます!そして、ごめんなさい!」
1つのお辞儀で謝罪とお礼済ませるとは一石二鳥だな……。
見た目は品行方正な少女に見えるが、どこか抜けているような雰囲気だ。
「いや、全然気にしてないからそちらも気にしないでくれ。こっちが余計なお節介をやいた結果だしな。ほら、これ」
彼女に本を差しだす。
「ブロンテが好きなのか?」
「いえ、個人的には好きでも嫌いでもありません。ただジャンルが違う本が置かれていたので正しい位置に直そうと思ったんです。」
どうやら同じ感想を抱いていたようだ。
「なるほどな。君、1年だよな?敬語じゃなくてもいいんだぞ」
「私の事知っているんですか?」
「いや、知らない。だけど、今日は2.3年生は通常通り授業だ。今、この時間に図書室に入れる存在は1年生しかいないからな」
授業をサボって2.3年生が図書室に入るのを受付の司書は見逃さないだろう。
「なるほど。それは考えていませんでした。」
「でも、良かったです。最初に図書室に来た時は少し寂しかったんです。司書さん以外に人が見当たらなくて、もしかして人気がないのかと思ってしまいました。」
椎名は少し悲しい表情を見せる。
俺は何となくそれに耐えられなくて、自己紹介で間を繋ぐことにした。
「俺はDクラスの綾小路清隆だ。君は?」
「はい、私はCクラスの椎名ひよりです。あと、敬語なのはデフォルトなので気にしないでいただけると幸いです。」
沈んだ表情を引っ込めて、笑顔で挨拶を返す椎名。
そうか、タメ口が別に友達の証な訳でもないのか。
櫛田直伝のコミュニケーションスキルにも例外がある。
「いや、無理に強制するつもりもない」
「ありがとうございます」
「いや、お礼を言われることでもないんだけどな……」
そう言っても、椎名は微笑みを崩さずに意外にも話を広げてくる。
「それで、綾小路君はどんな本を読まれるんですか?」
図書室に来た2人目に1人目の椎名は親近感を覚えたのかも知れないな。
「そうだな、ミステリーならクリスティは読んだが、それ以外はまだ未読本ばかりだ。」
椎名は分かりやすく表情を明るくして
「それならば、ドロシー・L・サイヤーズをオススメします。イチオシは 『誰の死体?』です。ピーター興シリーズの1作目で1度読めば、シリーズを読みたくなること必至です!」
オタク特有の早口では無いのに、流れるようにハキハキとした声で流暢に語るそれは紛れもないオタクの顔付きだった。
「そ、そうだな。ドロシーは手をつける機会がなかったからな。これをきっかけに借りてみることにする」
「是非、感想を聞かせてくださいね!」
椎名は嬉しそうにそう言う。
そんな表情が心から出来るのは、天然故になのか。
椎名のことを観察するように俺が見ているのに気付いた椎名は顔を赤らめて、
「こ、こんなにも早く、読書友達が出来るなんて思ってなくて嬉しかったんです。そう。例えるなら、同士に巡り会えた瞬間といいますか……。」
「俺もそうだ。本が好きなやつに悪いやつはいない。」
俺が在り来りな持論を引用すると、椎名ははにかむように笑った。
その笑顔も、ぐぅぅと可愛らしいお腹の音で羞恥に染まっていく。
「もしかしてお昼まだ食べてないのか?」
時刻はもう1時半を回っている。
俺がそう聞くと、目を伏せ恥ずかしそうに答えた。
「はい。終わった後、一目散にここに来たので……。」
「俺もまだなんだ、良かったら一緒にどうだ?」
「え、 ?」
椎名は戸惑った声をあげる。
「あ、悪い。いきなり2人は気まずいかもしれないな。また、今度の機会に誘うことにする。」
「あ、いえ、ごめんなさい。そうじゃなくて」
椎名がしどろもどろになっている意味があまり理解出来ず、椎名の言葉をじっと待つ。
「私も綾小路君とまだお話したかったので、もしまだご飯食べてなかったら……って考えてました。でも、この時間だったので内心、諦めたんですけど……。だから、まさか、誘って頂けるなんて思ってなかったので……。」
「その、嬉しくて……。」
なるほど。まあ、この時間になれば昼食を取ってない人の方が珍しいだろう。正確に言うと軽井沢と2時間前に軽食は取ったのだが、正直夜まで持ちそうにはなかった。
「じゃあ、一緒に行くってことでいいか?」
「はい。不束者ですがご一緒させていただきます。」
その後、椎名からオススメされたドロシーの『誰の死体?』を受付で借りて一緒に校舎の外に出る。
椎名がお花を詰みに行くと言って離席したので、その間に手早くケヤキモールのレストランの予約を済ませる。
学校の食堂も行ってみたかったが、昼休み時間しか空いていないため生憎と時間外。今から取れる選択肢はケヤキモールか寮で作るかの2択しかなかったのだ。
椎名が戻ってきて、隣を並んでケヤキモールまでの道並みを歩く。
「椎名。その荷物俺が持とうか?」
椎名は学生鞄を持っていたが、見るからに重そうだ。
「いえ、そんな訳には行きません。私の荷物なので。」
「いや、気にしなくていい。」
「いえ、ほんとに大丈夫ですから。」
椎名の謙虚さが見て取れ、俺はそこにつけ込むことにした。
「さっきは素敵な本を教えてもらった側としては、何かお礼をしないと気が済まない。だから、その荷物俺に持たせてくれないか?」
これで頼む側と頼まれる側の立場が逆転する。
椎名は意を決したようにわかりましたと言い、俺に荷物を渡してくる。
「本当に、知りませんからね」
ずしりとした重みが肩にのしかかった。
一体何が入ってるんだ。4.5キロはありそうな重量だった。
「重いですか?」
「まあ、思ってたよりは。だけど、これくらいなら問題無い。」
椎名が心配そうに見てくるので話を変えることにする。
「そういや、椎名は何も借りなくて良かったのか?」
「はい。今日はこの学校の蔵書量をこの目で確かめに来ただけなので」
「なるほど。図書室をウィンドウショッピングしていたようなものだな。」
「言い得て妙な表現を使いますね。でも、言われてみたらそんな感じかもしれません。だけど、これが凄く楽しいのは綾小路君も知っているでしょう?」
俺は今まで与えられた本を命令されるがままにインプットしてきただけだった。自分で選んだことなど一度もない。だから、今日は自分で初めて読む本を選ぶために図書室に向かったのだ。まあ、そこでもまさか、人に勧められた本を手に取ることになった訳だが。
「そうだな。本を読んでる時間も勿論、有意義だが、選んだり、迷ってる時間も楽しいもんだ。」
「そうなんです。開けてみるまで中身の分からない宝箱達を前にしている気分なんです。」
共通の話題があるからこそ、話は止まることなく進んで行く。
「綾小路君はミステリー以外だと何を読まれるんですか?」
趣味嗜好の類を聞かれている。
俺は少し俺のことを垣間見せることにした、
「そうだな。さっき話題に上がったブロンテの『愛と憎しみは紙一重』だったり、ミラン・クンデラの『存在に耐えられない軽さ』辺りの恋愛小説は好みだったな」
俺はいくつか知っている恋愛小説をピックアップして伝える。
控えめで柔らかく表現してるものの性描写も含まれる作品だ。
しかも、内容は不倫だったり、多重恋愛のドロドロとした人間臭さの溢れる設定だ。
「そうなんですね。2つとも私も読んだことあります。感情移入してしまうと大きく揺さぶられて、掌の上で転がされてるような感覚のお話ですね。他国の文化の違いも実感できて、勉強になって良い作品だったなぁと思います」
今までの会話で椎名が本に対しての話題で否定することは無いと睨んでいた。
本好きからしたら自分の好きな本を否定されるのは辛いものだからだ。
だからと言って無理に好きですと言うのも失礼にあたり、作者への冒涜になることも椎名が理解していないはずがない。
俺があげた作品に肯定的なのも本心なのかもしれない。
俺は椎名についての情報を深くまで知りたいという好奇心に駆られてさらに踏み込む。
「ああ、今の俺には理解できない感情だからな。同時に別の人を好きになってしまった時、そこに優劣が付けれるか。そんなことを問われている作品は未知の領域を進んでる気がして面白いんだ。」
「私にも作中の人物の感情全てには共感できません。作中の人物の感情を理解出来た時、お話はもっと輝いて見えるんでしょうね。」
椎名は手を合わせて、思ったことをそのまま言ってるように見える。
なるほどな。
椎名は作品はあくまで作品として楽しんでいるタイプだ。
それが現実になるとは夢にも考えていないだろう。だから、全力で楽しめている。
多分、俺がやろうとしていることは違う。
それは紛れもない現実で、相手の気持ちや自分の感情がドロドロに混ざり合い、底無しの沼の中で相手の足を引っ張る事でしか解消出来ない。そんな衝動で相手を貶め合う。
そんな事態も有り得てしまう。
椎名がそれに直面した時、作品のように消化できるとは到底思えなかった。
その後も雑談を続けて歩くこと数分。本日二度目のケヤキモールに辿り着く。
「じゃあ、レストランに行こう。東側の棟の端にあるはずだ。」
「綾小路くん。来たことがあるんですか?」
「ああ、図書室に行く前に生活に必要な物を買い揃えに来たんだ」
「ああ、それで。」
「だから案内は任せてくれ。」
俺は椎名のゆっくりとした足並みに合わせつつも、半歩だけ先導するように歩く。
平日ということもあり、人もさほど多くない。すぐに目的地のレストランに着く。
「二名で予約してた綾小路です。」
店員に話しかけると店員はメモを確認して
「お待ちしておりました。奥にどうぞ」
俺が予約したのは個席に座るためだ。
今日は1年がそこら中を彷徨いている。椎名としても俺達ふたりがいる所を無闇に見られたくはないだろう。
レストランの奥に連れられて、設けられていた個席に2人して腰をかける。
「予約してくれたんですか?」
「ああ、昼時は過ぎたと言え、混雑してることも考えられなくはなかったからな。」
軽井沢がいなかったら、予約する発想は出てこなかったな。
「すいません。わざわざ。」
「ありがちなセリフだがこの場合はありがとうと言われる方が嬉しいらしいぞ」
俺の他人事のような言い回しがおかしかったのか、椎名は薄く笑いながら、ありがとうございますと零した。
生憎、メニューはひとつしか無かったので2人でメニューを見ることにした。
ちなみに、レストランに来たのも初めての経験である。
「綾小路くん、ドリンクバーありますよ」
ドリンクバー。あまり聞いたことがなかった。
「椎名はそれにするのか?」
「そうですね。単品で頼むのとドリンクバーで頼むのとでは余り値段は変わらなそうなので、ドリンクバーの方にします。」
「じゃあ、俺もそうしよう」
椎名は薄く笑い
「ふふ、綾小路君って案外流されやすいタイプですか?」
単にドリンクバーが何か分からないので、合わせただけだが、今思えば椎名には本のことと言い流さればかりだな。
「あまり流されないタイプなんだけどな。椎名の提案は魅力的に聞こえてくるんだよな」
「隣の芝は青く見えるって奴ですね。」
今まで、上下左右どこも白かっただけに、青は膨張して誇張的に見えてるのかも知れないな。
「じゃあ、私はこのパイナップルピザにします。綾小路くんはどうしますか?」
メニューの商品は食べたことの無いものばかりだったので悩むな…。
「じゃあ、俺はこのミートドリアにする」
メニューに1番人気と表示されてる物を選ぶことにした。
「王道ですね。私にも後で1口分けてくださいね」
それだけ言って返事は聞かないまま、椎名は店員を呼び、オーダーを伝える。
「では、料理が運ばれてくるまで、暫しの時間がありますので……」
そう言って椎名は、鞄の中から、ウィリアム・アイリッシュ、ローレンス・ブック、エラリー・クイーンと並べていく。何と言うか、趣向が分かりやすいチョイスだな。
そして、鞄が重い理由も明かされた。筋トレグッズとかじゃなくて良かった…。
文学少女の鏡の彼女がサイドチェストとか言ってたら解釈不一致にも程がある。
「綾小路くんはこの中のどれか、読んだことがありますか?」
「中々に良いチョイスだな」
「分かりますか?」
「俺もミステリーは結構好きなんだ」
「そうなんですかっ」
椎名は分かりやすく喜ぶ。
喜怒哀楽が分かりやすいくて助かる。
「これ、私物か?」
図書室の蔵書であればそれが分かるように記されている。だけど、これにはそれがない。
「はい、全て私物です。いつか似た趣味で話し合える人が現れた時に貸そうと思って持ち歩いているんです。こんなにもはやく出会えるとは思ってませんでしたが!」
「そうなのか」
「私達の間に遠慮はもういりません!どれでも持っていってください」
「じゃあ、読んだことがないエラリー・クイーンを」
「はい!是非感想を聞かせてくださいね。」
こうしてまた、積読本が一冊増えた。
「ああ、そうだ、返す時に連絡がしたいし、連絡先を聞いてもいいか?」
「是非!何なら、本の感想会とか今度やりましょう!」
「ああ、読み終わったら連絡する」
「待ってます。」
連絡先を交換し終えたタイミングで店員がパイナップルピザとドリアを持ってくる。
椎名はそれに慌てて、本を片付けて、店員さんが生暖かい目でそれを見る。分かる。分かるぞ。その気持ち。
多分、この子天然なんだ。許してやってくれ。
店員さんがパイナップルピザとドリアを置いてご注文以上ですか?と確認してからバックヤードに戻って行った。
「綾小路くん。それでは、食べましょう!」
「あ、ああ」
この場には1つ足りないものがあるのだが…。
「記念すべき読書友達1人目として乾杯しましょう!」
「ああ、出来たらいいな。」
椎名はその言葉で流石に気付いたようだ。
「ドリンクバー忘れてました。」
「ああ、そうだな。」
「綾小路くん。気づいてたなら言ってくださいよ」
俺もそうしたいのはやまやまだが、何せ、ドリンクバーを俺は知らないのだ。
「俺も椎名との話に夢中になって忘れてた」
こう言う他はなかった。
「そうだったんですか。では、今から一緒に取りに行きましょう!」
そう言って椎名は席を立ってドリンクバー(?)へと向かう。
俺は金魚の糞如くついて行くと、ドリンクバーが見えた。
椎名がコップをとって渡してくれたので、素直に受け取る。
「綾小路くんは何にしますか?」
「ああ、じゃあ、ピザに合いそうなコーラにする」
椎名の前に並んでた人がコーラを注いでいたのをを見た。
そのおかげ初ドリンクバーは無事にコーラを注ぐことに成功する。
なるほどこういう仕組みか。
「あ、いいですね。私もそうします。って。え?」
「ん?」
「綾小路くん、私のピザ食べる気満々じゃないですか」
ドリアを1口とか言ってたから、シェアし合うものだと認識していたが違うのか?
「くれないのか?」
「いえ、元々あげる気でしたけど」
「じゃあ、なにも問題ないじゃないか。」
「そ、そうですね。何も問題ない。です」
「ああ、ここに溜まってても邪魔だし、戻ろう」
椎名は納得していない表情だったが、ここに滞在している訳にもいかない。
席に戻ると改めて乾杯をした。
椎名から、納得していないような表情は消えて、パイナップルピザを意気揚々と切り分けて、俺の取り皿に入れてくれる。俺も真似るようにドリアを深めの取り皿に取り分ける。
パイナップルピザ。正直、チーズケーキよりも衝撃的だ。
どんな味か皆目見当もつかない。俺は恐る恐る口に運ぶと、パイナップルとチーズの協奏曲が口の中で流れ始めた。そして、ドリアも口に運ぶ。人気ナンバー1なだけに大衆向けな味わいに仕上がっているように思えた。大衆向けの味知らないけど。
だけど一つだけ分かったことがある。
「椎名……。」
パイナップルピザ食べる一つ一つの所作も綺麗な椎名は口に入っていた物を飲み込んでから問い掛けてくる。
「どうしました?」
「チーズって最強なんだな」
「綾小路くん。初めて食べた人のリアクションみたいですよ」
そう言って笑う椎名は今日一の笑顔だった。
後から、綾小路くんにも子供っぽさが見れて嬉しかったんですとか言っていたが、俺にはその良さが分からなかった。
椎名はケヤキモールで買い物をして行くということで、レストランで別れることになった。
これは補足になるが、俺がドリンクバーは一定の料金を払えば、何杯でも飲めるということを聞いた時に大層驚いたことは言うまでもない。
――――――――――――――――――――――――
ケヤキモールで買い物して行くと言った椎名とレストランで別れて、俺は夜に備えて早めに帰ることにした。
櫛田から追加のメッセージで、19時から櫛田の部屋で鍋パをやるつもりらしい。参加者は6名だそうだ。
俺は差し入れ用のお菓子を500pt分くらい購入しておく。
これで今日のPt消費量は、日用品の200pt、椎名との食事を割り勘したので800pt 夜用に500pt で1500pt。さらに、鍋の材料費に250pt支払う予定となっている。
単純計算でこのままでは月に約5万ptは必要になってくる。
どう考えても使いすぎだ。茶柱先生はptで買えないものはないと言っていた。これからの生活、ポイントを節約していく必要があるな。
まあ、それよりも今は櫛田の部屋に行く。
それだけで緊張している。
何しろ女の子の部屋に行くのは初めてだ。制服で行くのも変だと思い、無難な私服に着替えておくことにした。
さて――行くか。桃源郷へ……。
まだ学校生活1日目であることにびっくりしてます。
なぜ、綾小路くんは初日からこんなにアクティブなんでしょうか。
ハーレムを築くために奔走してるからに決まってますよね 。
とりあえず、前情報通り、椎名は比較的チョロイン枠です。
てか、作中に出てくる、小説がドストエフスキーとかアイザック・アシモフとか難しい人ばっか出すのやめて貰っていいですか?
俺が通ってた学校ではレイモンド・チャンドラーのブームなんて来なかったんですが?